早期完結いたします。
「やった!!」
電脳獣グレイガとの死闘を制したロックマンと俺。
グレイガは爆炎に包まれる。
「向こうも終わったみたいだね」
ロックマンの言ったと同時にもう一体の電脳獣であるファルザーが消え去った。
向こう側はアイリスとカーネルがやってくれたんだ。
これで世界に平和が……。
と思ったのもつかの間グレイガに違和感を感じる。
「……気をつけろロックマン!」
それと同時に身構えるロックマン。
そしてグレイガがけたたましい獣の咆哮をあげる。
「う、うわっーー!!」
ロックマンの悲鳴とともに電脳世界が光に包まれる。
「ロ、ロックマン……!?」
「グルルルルっ……」
視界が戻るとグレイガを取り込み獣化したロックマンが電脳世界に立っていた。
明らかに普段の獣化と違いコントロールを失っている。
「電脳獣が生きておる限りワシの野望は潰えはせん!」
「ワハハハハハハハ!!!」
高らかに笑うワイリー。
「そ、そんな……」
そんな現状にアイリスの口からぽつりとこぼれてしまった。
「ネットワーク社会を築いた科学者の孫の手によって、ネットワーク社会が壊滅させられるとは皮肉なものじゃのう!」
勝ち誇り高らかと語るワイリー。
「さあ、電脳獣よ!……いや、ロックマンよ!! 思うままに暴れまわるがいい!!」
「ロックマン!! 目を覚ましてくれよ!!……彩斗にいさん!!」
心の限りを尽くして叫ぶ。
「いくら呼びかけてもムダじゃ! ロックマンは、先のバトルで体力を使い切っておる 電脳獣に抵抗などできはせんわい!」
俺の心の叫びを一蹴される。
「ガルルルルッ!!」
ロックマンもグレイガと同じような獣の咆哮をあげる。
そして物凄いスピードでアイリスとカーネルがいる方へと飛び移った。
身構えるアイリスとカーネル。
「ロックマン!!」
俺は再び呼びかける。
だが意識は戻らない。
「アイリスもカーネルもさっきのバトルで傷ついているはずだ! 逃げろ!! アイリス、カーネル!!!」
二人に対して呼びかけるがプラグアウトしない。アイリスはコピーロイドに、カーネルはバレルさんのPETに戻れば助かるのに……。
まさか……。
「……光くん、ロックマンは私たちが助けるわ……」
思いついた最悪の答えが返ってくる。カーネルも引かないところを見るとアイリスと同じ気持ちのようだ。
「なにいってるんだ!! 今のロックマンは俺のオペレートすら受け付けないんだぞ!!」
「それにお前たちの体力だって……」
そうだ……。今の二人の状態ではロックマンを止められない。だから……。
「確かに我々も体力の限界だ」
それまで沈黙を貫いていたカーネルが重い口を開ける。
「体力の限界……それなら!!」
俺の言葉を無視してカーネルは話を続ける。
「ロックマンを救う方法がたった一つだけある……」
―――えっ。
「それってまさか……」
「私と兄さんが一つに戻って完全体になればロックマンから電脳獣を引き離せるかもしれない……」
絶望的だった状況に一縷の希望が見えた。
そんな時、口を開いたのは意外な人物だった。
「な、なにをバカな!!」
俺たちの敵ワイリーが口を開いた。電脳獣をデリートされるかもという焦りとは違った焦りが伝わってくる。
「お前たちが一つになればワシの仕込んだプログラムが発動して大爆発だぞ!! 無駄死にするつもりか!?」
嘘を言っているとは思えないワイリーの焦りを感じる。
「いいえ……決してムダではないわ。光くんは素晴らしい未来を築いてくれるはず……。ワイリー博士、憎しみと破壊からは何も生まれないわ……」
アイリスの覚悟に呆然と立ち尽くす俺とワイリー。
「兄さん!!」
「戦闘に明け暮れ、デリートすることばかり考えてきた俺が世界を救うために消える……。このような最期を迎えるとはな……。光熱斗、バレルに伝えておいてくれ『私は電脳獣とともに消える。しかし、これは運命などではなく私の意志だ』とな!」
遺言を残すカーネル。未だに困惑しているがその言葉だけは聞き届けた。
「ま、まて!!」
懇願するかのように二人に呼びかけるワイリー。
「アイリス! カーネル!!」
それを後目に俺も二人に呼びかける。止めたい一心で。
「ガルルルルッ!!」
そして二人とのにらみ合いで身をとどめていたロックマンが再び雄たけびをあげる。
一刻の猶予もないことを痛感させられる。でも……。
「…………」
「……どうした、アイリス。何か心残りがあるのか?」
兄妹だからこそわかるのだろうか。小さなアイリスの機微に気づくカーネル。
そして意を決したようにアイリスは俺の方を向く。
「光くん……私……」
だが言葉をそこで止めてしまう。
「アイリス……」
「ううん、いいの。私ネットナビだから……」
そう言って俺に背を再び向けロックマンに対峙するアイリス。
その背中からどこかアイリスの心残りのようなものを感じてしまう。
何か声をかけてやらないといけない気がする。
―――でも何て声をかければいいんだ。
思えば俺はアイリスの事、何も知らない。
セントラルシティに来てからであった女の子。
WWWの策略によって何度もピンチになった俺を助けてくれた女の子。
―――俺、助けられてばっかりだな。
そしてついさっきアイリスがネットナビだと知った。
だけどそれ以外何も知らない。友達だっていうのに。
好きなもの、どんな時に笑うのか。本当に何も知らない。
―――だけど……だから。
「アイリス!!!!!」
気づけば叫んでいた。
「俺たち友達だろ!! だけど俺もアイリスもお互いの事、まだまだ知らない!! だから自分の命を投げるのはやめろ!!!!」
まとまっていない心の中を吐き出すかのように叫ぶ。
アイリスに死んでほしくないという一心で。
「光くん……」
明らかに動揺が見て取れるアイリス。やはり心残りがあったのか。
「アイリス……後悔しないようにしておけ……時間は作ってやる」
カーネルはそうアイリスに言い残し電脳獣に支配されたロックマンに向かって走り出す。
時間稼ぎをするようだ。
「兄さん……わかったわ。 後悔したくないから……」
ロックマンと戦う兄の背中を見届けるアイリス。
そして意を決したように俺の方を再び向く。
「光くん……私…あなたのことが好き……」
「えっ?」
予想していなかっただけに素っ頓狂な声を出す俺。
そんな俺をみてほほ笑み、話を続けるアイリス。
「私はネットナビだけど……人間の光くんが好き……。おかしいかもしれないけど好き」
はっきりと俺の目を見て語るアイリス。
―――本当なんだ。
そう感じる強い瞳。
「光くんの優しいところが好き。初めて会った時、私を助けてくれた……」
「光くんの明るいところが好き。光くんがいるだけで私も周りのみんなも笑顔になる……」
「光くんの正義感にあふれているところが好き。どんなに絶望的な場面でも正義を貫ける……」
「光くんのかっこ悪いとこも好き。授業中に寝てロックマンや先生に怒られていた……」
「そんなすべてを含めて私は……光くんのことが好き……」
俺に対していっぱいの愛を語るアイリス。
そんなにまだ過ごした時間も長くないのにこんなにも想ってくれていたのか……。
返事を返さないと。
アイリスの後ろではカーネルとロックマンが戦っている。
時間はあまりなさそうだ。
―――気持ちをまとめる時間がないのが悔しい。
だけど心の思うままを言葉にする。
「……俺、急なことで言葉にするのは難しいけど、アイリスの事……好きだ!!」
俺の返答に対して目を見開くアイリス。
それを無視して続ける。
「でもこの好きは友達としてなのか、アイリスと同じものなのかはまだわからない。だからお互いのことを知りたい!! お互いにもっといいところも悪いところも知り合いたい!! だからアイリス!! 死ぬのはやめろ!!!」
力いっぱいに叫んだ。
俺と一緒に生きてほしい。
その一心で。
だけど、その言葉に対してアイリスは首を横に振った。
―――どうして。
そう考えているとアイリスが口を開く。
「光くん……私は光くんのことが好き。だけどそれ以上にこの世界が大好き。光くんの友達と過ごしてわかったの。みんな笑って、ネットナビの私にも優しくしてくれた。友達になってくれた。光くんのいるこの世界、優しい世界を守りたい。だから私の、私たちの死は無駄ではないわ……大好きな世界を守るためなのだから。ネットナビに生まれたけど優しい世界を知れてよかった。友達ができて良かった」
「ワイリー博士……博士の作ったコピーロイドのおかげでネットナビの私が光くんを好きになれて、友達ができて、この世界が好きになれました。ありがとうございます……」
ワイリーに向かってお辞儀をするアイリス。
「アイリス……」
ワイリーはぽつりと言葉を漏らした。
「ガルルルルッ!!」
ロックマンの咆哮が聞こえる。
カーネルも押され始めている。
時間はもうないようだ。
ロックマンからいったん距離をとるカーネル。
「アイリス……そろそろ限界だ……もう思い残すことはないか?」
「兄さん……はい、何もありません……」
憑き物が落ちたかのように清々しい表情を浮かべるアイリス。
「では……ゆくぞ!!」
「はい、兄さん!!」
ロックマンに対峙する二人。
「アイリスーーーーー!!! カーネルーーーーー!!!」
そんな二人に俺は叫び続けることしかできなかった。
誤字脱字の指摘、批評お待ちしています。