この世界のチビとハゲは強い。だがチャオズだ   作:カモミール・レッセン

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第三話:高く遠い場所へ

「じゃあ、行ってくる」

「き、気をつけて……!」

「お前ならできる。応援している」

 

 ボラ親子の声援を受けて、俺はカリン塔への挑戦を開始した。

 みるみるうちに離れていく大地、驚嘆の声が聞こえたのはほんの数秒の事、数分後には地上の人が見えなくなるほどの高さまで登っていた。

 

 ──なんて、順調なスタートを切ったのは何時頃のことだろうか。

 思い起こされた風景は一瞬だけ見た夢の世界。

 落ちた太陽が再び登り始めたことに気が付いて、俺は力なく笑う。

 

 カリン塔に挑戦して、二十時間が経とうとしていた。もはや額に浮かぶ汗を拭う余力もなく、登る。ただ登る。

 干しぶどうやチョコレートなどの即効の栄養食を食べながらも、体力はもはや限界という所まで来ている。

 ……これを、桃白白と戦った直後に踏破した悟空はやはり凄い。

 どこか他人事の様な思考に、自嘲的な笑みが漏れてくる。

 もう暫く、上を見ることもしていない。それらは完全に現実逃避だった。

 

 ……やっぱり、俺ではダメだったのだろうか。

 ネガティブな思考が霧のようにまとわりついて離れない。

 これは恐らく、薄い空気のせいもある。典型的な、高さによるダメージ──高山病の現れだ。

 加えてもはや戻る体力も無いという、死という現実が、苦悩の無限回廊を生み出していた。

 

 けど、それで良い訳がない。

 そもそも、これは俺だけの身体じゃない。

 チャオズの身体を使っておいて弱音を吐くのは、なぜだかとてつもない卑怯者である気がした。

 ヤムチャだってチャオズだって、馬鹿にされるが彼らもまた強くあらんとして実際にそこらの一般人なんか及びもつかないほど強く在った、武闘家だ。

 そんなチャオズを俺の自惚れ一つで失わせるというのは、自分自身が格好悪くてやっていられなかった。

 

 前へと、上へと進むんだ。

 この世界に来てから、何回唱えたかわからない言葉を心中で刻みつける。

 一瞬でも悟空たちと肩を並べようとしたのだから、こんなところで諦めていては恥ずかしい。

 上昇志向を表すように、上を見る。

 するとそこには──

 

「あ……あった……! あった……!」

 

 待ち望んだゴールが、カリン塔の頂上が見えた。

 もうとっくにマイナスまで突き抜けていたと思っていた体力が、気力が湧いてくる。

 あの時の悟空もそんな感じだったのかなと思いながら、俺は塔を登る手足を早め、そして辿り着いたゴールに転がり込んで、倒れた。

 

 大したもんじゃのう、チビのくせに。だいぶギリギリだったようだがな。

 

 仰向けの身体に、どこからともなく声がかけられる。

 その声が待ち望んだものであると理解するのに、きっと一秒もかからなかった。

 俺は、やったんだ。カリン塔はやがて一飛に追い越されていく、神様の神殿への通り道になる。だが、それでも今は悟空でさえ登り切ることができない、はるかな高みだ。

 そこにチャオズが、ずっと早く到達してみせた。

 凄まじい達成感に身を包まれながら、俺は意識を失った。

 

 ◆

 

「なるほど。心が読めんのはそういうわけか」

 

 カリン塔に到着して一休みした俺は、カリンさまに今までのことのあらましを説明していた。

 どうにも、カリンさまが言うには俺の心の大部分は読むことができないという。特に、未来に関わる事は殆ど読み取れないようだった。

 仙猫としての力でカリンさまが読み取ることができたのは、俺の人となり。憧れるヒーローと肩を並べるためにただただ強くならんとする、その上昇志向だけだった。

 

「よろしければ、未来の事もお話ししますが」

「いや、よい。心が読めんと言うことは、恐らく読まんほうがいいのじゃろう。先がわかっては退屈もするだろうしな」

 

 一方で──カリンさまはそれほど、その『読めない』部分については知ろうと思っていないようだった。

 あるいはその感じ方も『読まないほうが良い』と判断したなにか大いなる意思の力なのかとも思ったが、現状でいるかどうかわからないものを考えても意味はないだろう。

 それよりも、だ。

 

「超聖水の事も知っておるようだし、おまえはわしに修行をつけてもらいたいということでよいのか」

「はい。お願いします」

 

 大切なのは、これでようやく本格的に強くなるための修行が始められる、ということだった。

 今いる場所の中央に飾られた超聖水は、超神水とは違いただの水だ。超聖水は、それを手にしようとするのを邪魔するカリンさまから水を奪う力をつけさせるためだけのモノなのである。

 それがわかっている俺には、超聖水はもとより必要のないものだ。ならば直接カリンさまから手ほどきを受けたほうが早い。

 

「苦しい修行になるぞ。それもわかっておるようじゃがな」

「……はい!」

 

 カリンさまもたった一人、地上から遠く離れたこの場所で退屈をしているのだろうか。

 超聖水ではない『弟子入り』を希望してやってきた俺を見て、柔和な曲線を描く眼が鋭く笑みを作る。

 こうして、俺の修行が始まった。

 カリンさまほどの方を師匠につけられたのだ、中途半端は許されないな。

 ……未来、実力をつけることができたら背中に『猫』の文字を背負うのも良いかもしれない。カリンさまはそれを許してくれるだろうか。

 武者震いをごまかす様に、俺は笑みを作ってみせた。

 

 




現在の戦闘力

チャオズ:110
カリンさま:190

カリン塔踏破により肉体面が強化された。
カリンさまの戦闘力はジャンプの付録データより。
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