この世界のチビとハゲは強い。だがチャオズだ 作:カモミール・レッセン
「へえーっ! じゃあおまえもカリン塔に登ったのか! あっ、じゃあおまえだろ! オラの前にカリン塔に登ったチビがいるって、カリンさま言ってたぞ!」
「ああ、それはたぶん僕のことだろうね」
悟空との邂逅を果たした僕は、本来の目的も忘れて、共通の苦労を味わった仲間として会話に花を咲かせていた。
自分では怪しい登場だと思っていたのだが、悟空から感じる友好の感情はとても大きい。同じ筋斗雲を持ち、同じくカリン塔で修行をしたという共通点を持つ者を見つけて嬉しいのだろうと思う。
僕もまた、原作ではたった一度もなかったチャオズと悟空の会話──それが弾んでいることが、非常に嬉しく思えた。それだけではない、悟空の生来の快活さが、話していてなんとも小気味良い。
「そういえば、紹介が遅れた。僕の名前はチャオズだ。カリンさまの弟子で、今は仙人の見習いをしてる」
「オラ孫悟空だ! 仙人っていうと、亀仙人のじっちゃんみたいになるのか?」
「うん。君のお師匠様は、僕も尊敬しているからね。ゆくゆくはあの人みたく弟子を取ってみたいとも思ってるよ」
ストレートな好意と好奇心をぶつけてくる悟空との会話は、きっと何時まで続けていても飽きないだろうと思える素晴らしい時間だった。
が、こうしてばかりもいられない。少しずつだが史実を変えている者の責任は取らなければいけない。
「それで、本題なんだけど、いいかな」
「うん? いいぞ」
ここへ来た目的、それはドラゴンボールをどうするかだ。
正直まだ手段は決めかねているが、ボラを生き返らせる必要がなくなった今、暫くの間ドラゴンボールは使用不可能の状態にあると安心できてよい。
原作通り使ってしまえば一番『ブレ』がなくなるだろうか。あるいはボールを一つでも僕が預かっていれば、そう簡単に揃えられる事はないと思っていた。
「今、悟空はドラゴンボールを集めているだろ?」
「よくわかったなー。ああ、ちょうど全部揃ったところだぞ!」
どうやら悟空は既にドラゴンボールを集め終えていたようだ。
今手元に揃った状態であるということは、やはり叶える願いがないのだろう。
そういえば、よくみてみると服装が黒い忍者風のものになっている。この服はピラフ一味の──名前は忘れたけど、犬のキャラクターのものだろう。確か原作では焼かれた服の代わりに、体格の近い彼の服を拝借することになっていたはずだ。
ボラの存在がなくとも、おそらくは占いババの力でボールのありかを探し、史実通りにピラフ一味と戦ったようだ。
……尻尾がないのは、孫悟飯とも戦った後だからだろう。まるで歴史がそうあるべきと動いているようだ。
「それは凄い。……で、ここからが本題なんだけど、君には今なにか叶えたい願いがあるか?」
「え? んー……オラには特にねえかな。ひょっとしたらブルマのやつがなにかあるかもしれないけど、それがどうした?」
そして、予定通りドラゴンボールは全て集めたが、願い事は無いという。
やはり考えていた通りの結果になったようだ。
悟空自身にくだらない願いでもあればそれを叶えてもらうのが一番だったが、ある意味ではブルマの願いも歴史を大きく変えうる危険なものになるだろう。
今はヤムチャと交際しているはずなのでその危険は無いと思うが──仮に、良い結婚相手なんかを神龍に願ったら、物語の上で非常に重要なキャラクターが生まれない事になってしまう。そうなったら最悪の未来が訪れる可能性は低くない。
となると。僕は顎に手を添え、考える素振りを見せた。
考えはまとまっているが、これから喋ることのあまりの図々しさに、自分で辟易したからだ。
「じゃあ、ドラゴンボールを僕に使わせてくれないか。それがダメならどれか一つくれるだけでも良い」
せっかく揃えたドラゴンボールをよこせとは、なんと面の皮が厚いことだと思う。
だが、僕がこれを言いたくなかったのは単に図々しいからというだけではない。
「いいぞ!」
悟空がこう言う可能性も低くはないと思っていたからだ。
……なんというか、価値のわかっていない子供からレアカードを巻き上げるかのような罪悪感だ。しかも、その対価まで払わないと言うのだから質が悪い。
「……頼んでおいて失礼だけどもっとこう、なにか無いのか? せっかく集めたんだろう?」
「えー、でもオラじいちゃんの形見の四星球があれば、他はどうでもよかったんだけど。必要なら使えばいいじゃねえか」
「必要かどうかっていうと僕も微妙な所なんだ。要するに悪い奴にドラゴンボールを使わせたくないってだけだからね」
「お? そうなんか」
この調子である。
悪用はしないと自分でわかってはいても、こうだからこそ安心ができないというのも正直なところだ。
これが悟空の良さというのもあるので複雑な気持ちだが。
けれどこうもあっさり通ってしまうとどうしたものか。結局悩んでしまうな。
「あ! じゃあ代わりにオラと戦ってくれよ! カリンさまのところで修行したってことは、おまえも強いんだろ?」
だが、その迷いは思わぬところで解決することになった。
ボールの対価として、自分と戦ってはくれないか。悟空の方から、条件を提示してきたのだ。
「元々ドラゴンボールを探してたのも、もっと強くなりてえって修行のためなんだ。強いやつと戦えんなら、それが一番ありがたいぞ!」
「ん、なるほど。悟空がそう言ってくれるなら、僕も気兼ねなくていい」
その条件は、正直に言えば僕にとっても魅力的だった。
……原作を大きく変えてしまう危険性を考えても、今までに積み重ねた力を試す最初の相手があの『孫悟空』だと言うのはあまりに魅力的すぎる。
知らず、口角が上がった。抑えていた気が一気に膨れ上がる。
「……へへ、やっぱりだ。おまえ、一度天下一武道会ですれ違ったろ」
「覚えててくれたのか。嬉しいよ」
一瞬で構え、警戒状態に入った悟空が、冷や汗を流しながらも不敵に笑う。
ああ、なんと嬉しいことだろう。長いドラゴンボールの物語の中では序盤と言える今とはいえ、チャオズとしてここまで強キャラっぽく立ち回っているのは、狂おしいほど嬉しい。
不遇だったキャラクターにスポットがあたっているというだけではない、悟空に警戒させるほど強くなった自分が誇らしかった。
拳を抱え、礼をする。
「改めて名乗ろう。僕の名はチャオズ。カリンさまの下で修行を積んだ仙人見習い──『仙猫流』のチャオズだ」
「へへへ、おまえもじいちゃんみたいにするんだな。……オラワクワクしてきたぞ!」
そういえば、この直前に孫悟飯と戦っているんだっけ。
僕に習うまでもなく礼をする悟空。やはり、彼は主人公だ。幾つもの出会いで成長していくんだなと思う。
原作における初の出番よりも先に、僕にとってのドリームマッチが今幕を開ける。
といっても、原作でこのカードが組まれたとしても、きっとチャオズでは勝てなかっただろう。
だからこそこの一戦に意味がある。
──おそらくは今の僕の方が、悟空よりも強いだろうという推測はある。だが、油断はない。僕の今までを、全力でぶつける。
格上にして挑戦者とはなんとも燃えるじゃあないか。
内なる気を体中に巡らせると同時、悟空が跳ねた。