スゴロクガンダム戦記(旧潜水艦) 作:ハトメヒト(ヒットマン)
操縦桿を握った俺はがむしゃらに前に倒した。
操縦の仕方なんて一切知らないが、取り敢えずこれで動くはず。
俺の操作に応えてくれたコマンドガンダムはゆっくりとその1歩を踏み出してくれた。
何トンもある機体を支える脚部が動き、HLVから出るコマンドガンダム。
アニメで見ていた時はただカッコイイなと思っていただけの俺が、まさか本当にモビルスーツに乗る事になるなんて夢にも思わなかった。
アムロは説明書をちょっと読んだだけでザクを倒したもんな。
ファーストガンダムより性能の良いコイツなら、俺にでも出来るかもしれない!!
「待ってろジオンめ!! 俺が全部倒してやる!!」
って威勢良く言ったはいいが、説明書って何処にあるんだ?
こんな一杯あるボタンやレバー操作なんてわかんねぇぞ。
ガシャンガシャンと足音を立てて歩くガンダムの音がここまで響いて来る。
「どこだ? 何どこにある?」
シートの下とか隙間を探してみたけどそれらしいモノは見つからない。
歩かせるしか出来ないド素人の俺が戦いに行った所で的になるのが落ちだ。
イコール戦死。
折角ガンダムに乗れたのに、何も出来ないでザクにやられて戦死なんで冗談じゃねぇぞ!?
でも操縦方法がわからないのは事実、テキトウにやれで出来るもんなのか?
説明書がないせいでコクピットの中で惨めに1人アタフタとしていた俺、そのせいで全然廻りが見えていなかった。
目の前の戦闘画面には、もうすぐ病院の屋上から転落してしまう距離まで歩いてしまっている。
「えぇ!? ちょっとまっ!!」
歩かせたのはいいが止め方がわからん!!
どうすればいいんだ!?
とにかく、両手の操縦桿を手前に力一杯引き込んだ。
テンパってる上にりきんでいたせいで足元のペダルごと踏み込んでしまう。
このペダルがどんな動きをするのかはもちろん知らない。
前に進んでいたと思っていたコマンドガンダムが急停止し、慣性で体ごと投げ飛ばされて画面にぶつかってしまう。
「痛てぇ!!」
叩き付けられて顔と胸の辺りが凄く痛い。
でもこれでようやく止まった。
屋上から真っ逆さまに落ちるなんてマヌケな事にならなくてすむと、この時は思っていたんだ。
でもコマンドガンダムは止まっただけじゃなくて、今度は後ろに向かって全力で飛んでいく。
俺がペダルを踏んだせいなのか操縦桿を引いたせいなのかはわからないが、背中のランドセルからバーニアを吹いて今来た道を引き返す。
そのせいで俺の体は、シートに引っ張られるように叩き付けられる。
モビルスーツのコクピットのシートなんてそんな材質の良いモノな訳がなく、衝撃が吸収されずに今度は背中が痛くなった。
どんどん加速するコマンドガンダムに、俺に掛かるGは増幅して目も開けられない。
外がどうなっているのかもわからず、音すらも耳に入ってこなかった。
全開で飛び続ける事5秒ぐらい、あくまでも感覚なのでもっと短かったかもしれないが。
コマンドガンダムは元居たHLVに戻り豪快に激突した。
「痛てててて。唇噛んじゃった」
どうにかこれで本当に止まった。
ぶつかった衝撃のせいで唇が切れて血が出ているけども。
ちょっと痛い。
画面から見える外の背景は、HLVに格納されていた武器が大量に散乱していた。
ミサイルランチャーやバズーカやシュツルムファウストやら。
見える限りでもこれだけのモノがガンダムの装甲の上に散らばっている。
「にしても、格納庫みたいに一杯あるな。こんな量どうやって使い切るんだ」
動きが止まってくれたお陰で取り敢えず冷静になり状況を把握する。
敵の侵攻はまだここまで来ていないから焦らなくても大丈夫。
盛大に激突したが壊れた所もなさそうだ。
「大丈夫そうだな。でも、こんな状態じゃまともに動かせないな。やっぱり説明書はいるぞ。どこにある?」
ゲームやアニメみたいに初めから上手くはいかないものだ。
ここは堅実に説明書を読もう。
そう思ってもう1度コクピットを探す俺は、そこでようやく気が付いた。
右足のペダルを踏みっぱなしだって事に。
見渡す限り爆発物ばかりが集まっているこんな場所で。
武器を下敷きに転がっているこんな場所で。
血の気が引いた。
一瞬で場の空気が凍り付いたみたいに、寒気すら感じてくる。
俺はゆっくりと右足をペダルから離す。
筋肉と骨の音が聞こえるんじゃないかと思うくらいにゆっくりと。
でも、もう遅かった。
コマンドガンダムのバーニアが何かの弾薬を爆発させてしまう。
その瞬間、コクピットから見える背景は炎に包まれた。
結論から言うと、俺はケガもなくまだしぶとく生きている。
ただ折角引き当てたコマンドガンダムはスクラップに変わってしまった。
爆発が爆発を呼びHLVも大破、コマンドガンダムも両手足がなくなりカメラも壊れて何も見えない。
「あ~ぁ~」
俺は炎を上げて燃えるガンダムを遠目から見るしか出来ない。
でもこうしている間にも敵の侵攻は進んでいる。
今の俺に出来る事、それは――
「全力で逃げる!!」