スゴロクガンダム戦記(旧潜水艦) 作:ハトメヒト(ヒットマン)
「もう少しだ」
マニピュレーターに機材も掴ませたまま、俺はコマンドガンダムを基地に向かって走らせた。
どこかに潜水艦が待機させてるはずだ。
こんな訳の分からない物騒な所なんて早く逃げ出そう。
未だに何処かで爆撃音が引っ切り無しになり、黒い煙が空を覆いつつあるが海の中に入れば関係ない。
「見えてきた!! 基地の港だ!!」
これで助かるぞ。
コマンドガンダムごと潜水艦に積み込めば戦力も増えるし、わざわざ降りる手間も省けるし一石二鳥だ。
でも俺はこの時に油断していた。
助かる、と心の底から感じてしまっていたせいで注意力が散漫になっていたんだ。
俺は右から猛スピードで突っ込んでくる敵モビルスーツに気が付くのが遅れてしまう。
『3時の方向、敵だ』
「何? うおおっ!?」
AIが指示してから動いていたのではもう既に遅く、俺のコマンドガンダムは右肘から先をバッサリと切断されていた。
衝撃で揺れるコクピットに俺は操縦桿に必死でしがみつくしか出来ない。
「敵!? 何なんだ?」
片腕だけになってしまった状態で戦うのは不利な事くらい、ド素人の俺にだってわかる。
だからマニピュレーターで運んでいた機材を投げ捨て、ツインレーザーマシンガンを握らせた。
そして突如現れた俺の敵は、ごついショットガンとヒートサーベルをを持つ青い鬼。
「イフリート、でも肩は赤くない。改良されていないノーマルタイプか」
そこからの相手の動きは早くて、俺なんかではまともに付いて行けない。
機体性能では勝っているかもしれないが、まともな射撃武装はもうないしパイロットとしての腕が圧倒的に劣っている。
目の前のイフリートはショットガンを構えて、俺目掛けてトリガーを引いて来た。
ペダルを踏み込みメインスラスターを吹かせる。
とにかくこのまま戦って、簡単に勝たせてくれるようなヤツじゃない。
『1時方向から来る。早いぞ』
「そんな事言ったって!!」
『マシンガンで牽制して距離を離せ。接近戦では分が悪い。こちらが有利になるように状況を変えて行け』
「いっぺんに全部出来るか!!」
AIに怒鳴りながらツインレーザーマシンガンの銃口をイフリートへ向ける。
すかさずトリガーを限界まで引き銃口からビームを発射せせるが、相手はそんな適当に撃った攻撃に当たってくれる程弱くはなかった。
一瞬で間合いを詰めてくると、右手にヒートサーベルを握りしめ装甲と装甲がぶつかるくらいまで迫って来る。
そしてヒートサーベルを振るうとツインレーザーマシンガンは呆気なく切断されてしまう。
『離れるんだ。誘爆するぞ』
「誘爆!?」
急いで壊されたマシンガンを手放し逃げようとするが、モニターに映る目と鼻の先に居る敵のイフリートの威圧感にビビッてしまって上手く操縦出来ない。
振り上げられたヒートサーベルが、コマンドガンダムの装甲を突き刺そうと俺に切っ先を向けて来る。
でもその瞬間に、捨てたマシンガンが誘爆し煙に包まれて前が見えなくなってしまう。
「今しかない!!」
爆発のお陰で隙が出来た俺はメインスラスターを点火させこの場から離脱する。
距離さえ離れてしまえば相手はまともな射撃武装を持たない相手、このまま逃げ切れる。
そう思っていた時期が俺にもあった。
『後ろから来る。上昇しろ』
「え? ぐぅっ!?」
『左脚部破損、間接がやられている』
攻撃されたせいで体制の崩れたコマンドガンダムは地面へと激突し、俺は舌を噛まないようにするので精一杯だ。
振り向かせるとそこには左手にショットガンを構えたイフリートが全速力で向かって来ていた。
「アレにやられたのか!?」
『コマンドナイフを抜け。武器はそれしかない』
「これか!!」
脇からコマンドナイフなるモノを残った左手に引き抜かせ、接近してくるイフリートのコクピットに突き刺そうとした。
でも素人の俺なんかとは違い、やはり相手のほうが動きが一枚上でそれよりも早くに振るわれたヒートサーベル。
『メインカメラ損傷。サブカメラに切り替えまで残り5秒』
「5秒も待って居られるか!!」
モニターが真っ暗になり前が何も見えなくなるが、俺は構わずに操縦桿を押し出し左手のナイフをイフリートに突き出した。
手ごたえはある!!
でも圧倒的不利なのは変わっていない。
ヒートサーベルが装甲を切断していく音がまだコクピットにまで響いてくる。
このままじゃ機体が破壊されて俺ごと爆発だ。
ならそれまでに相手のコクピットを潰すしかない。
もう1度やろうとナイフを引き抜こうとするが、何処からか負荷が掛かって抜けてくれない。
前が見えないからどうなってるのかわかんねぇけど、引き抜けないなら斬るだけだ。
操縦桿を両手に握りしめ、俺はありったけの力で引いた。
何処にどう刺さってるかはわからないが、このまま斜めに斬ってやる!!
「このおおおおぉぉぉっ!!」
『サブカメラ切り替え作業完了』
直ったモニターから見えてくるのは、コマンドガンダムの腕を掴むイフリートの左手と、頭に刺さったヒートサーベルがそのままコクピットに向かって進んで来ている事だ。
もう迷って居る暇なんてない。
ナイフが相手のコクピットに届かなかったら死ぬのは俺の方だ!!
「うおおおおぉぉぉ!!」
俺は叫んだ。
叫ぶ事しか出来なかった。
ヒートサーベルが近づいて来るにつれて激しくなる機体の振動に耐えて、操縦桿を握りしめるしか出来ない。
「届けええええぇぇぇ!!」
一瞬の攻防がものすごく長く感じられた。
1年なのか10年なのか、とにかく体験した事のない恐怖とでも言えばいいのか。
イフリートの動きは止まり、コマンドガンダムのナイフは胸の部分に斜めの切り込みを入れている。
「た……助かった」
『機――損――レべ――62パ――ント』
AIの機械音声が砂嵐のせいで全然聞こえない。
でもこれだけやられたらしょうがないか。
コマンドガンダムを修理している時間なんてないし、そもそも修理が出来る人が居るのかすら怪しい。
いつのまにか大量に流れていた額の汗を袖で拭い、もう戦えないコマンドガンダムのハッチを解放する。
自分の目で見る空は灰色に変わって居た。
それもこれもこんな所で戦争なんてするからなのだが、今は自分の身を守るのが第一に考えないと。
港までもうすぐそこだ。
これなら走れば行けるだろ。