スゴロクガンダム戦記(旧潜水艦)   作:ハトメヒト(ヒットマン)

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今回は実質執筆期間は四日間で約8800です。遅くなり申し訳ないです。


第34話 Unlucky or Lucky?

 おめでとう――そう、それは甘美な言葉。特に祝い事においては、常用される言葉。

 誕生日やら結婚式など、幅広く使われる言葉である。しかし使い方によっては糾弾されることもしばしばある。例えば、人の不幸に対して“おめでとう”なんぞ使った場合には、袋叩きに遭って当然襲われる。

 

「おめでとうか……」

 

 なんだか良くも分からない難題を振り掛けられて困っていた。

 某カンフー映画では、分からない事は考えるな感じろと言っていた気がする。

 しかしそれが通用するなら、今頃この事について分かっているはずだろう。

 それに加えて、不確定要素の高いコイツ(すごろく)に振り回されている気がしなくもない。

 今まではどういう事が起こるのか、ある程度予想が出来た。だが今回は分からない。

 

『訳が分からないよ!』

 

 そう白い奴が叫んでしまうのは、ある意味そういう事か――ならこの場合は逃げという選択しかないのか。

 俺はもう一度カードを手に取る。なにか漏れが無いか確認する為だ。

 裏や表をよく観察すると、表の一番下に見えるか見えないか程度の小さな文字を発見した。

 

「なになに……このカードはひとつだけ願いを叶える事が出来ます。どんな願いも叶えるカードです」

 

 おいおい、某7つの龍球じゃないんだからって思うがな。でもこれはチャンスと捉えるべきだろうな。この先、何が起こるか分からない。温存するに越したことはないだろうな……。

 そう思った。しかしせっかくだから試してみたいことをすることにした。

 

「願い事を4つにしてくれ! ただしパンドラと叫んだときだけ使用できるように!」

 

 そう叫ぶとカードから選択画面のようなものが表示された。

 内容はYesかNoの表示だったが俺は迷わずYesを選択した。

 すると「その願い聞き届けた」と某龍の声が響いた。

 カードの表示が『おめでとう』から『4』へと変わった。

 

 すなわち後4回願いを叶える事が出来る。ある意味チートじみている様に思うがこんなのは使い方しだいだ。

 ちなみに、なぜパンドラと叫んだ時に使用できるようにしたのかは、一種の保険だ。

 誤って使うこともないだろうし、パンドラの箱の逸話からもじっている。パンドラの箱の中身は絶望と共に希望も入っていた。この希望の部分は4つの願いだ。それに対しての絶望は、これから来るかもしれない災難や不運だ。

 

 俺は悩みから開放されると、この後のことを考えていた。

 この後は、ア・バオア・クー陥落で連邦の勝利なんだろうけど、なんか引っかかるんだよなぁ~

 ずっと気になっていたことだった。デギン・ザビと和平調印出来たのかが思い出せないのだ。

 

「何か嫌な予感がしてるんだがな。うーん、ここで使うわけには……」

 

 ここは重要な場面じゃない。ここで使ってしまっては後々の選択肢に響くことだろう。

 ここはおとなしく待つことにした。そんなおり、レビル将軍が演説放送が聞こえてきた。

 だが俺は聞き流すことにした。もっぱら偉い人の演説なぞ聞いても戦場に向かうのだから気が重くならないようにするためだ。

 

「演説は聞き流すに限る。どう鼓舞したところで技量が無ければ死ぬんだからな……」

 

 そんな事を一人ぼやく。やはりここで思うのは、最後に楽しかったのはレビル将軍が乗るマゼランで生演説を聞けたことでした。なんぞで俺が死んでも浮かばれるかどうか……ということだ。

 そんな事を思っても、考えても仕方がない。

 何もする事がなくなった俺は、暇だったのでMS格納庫に向かいMS部隊の隊員連中に挨拶をすることにした。

 

 杖を突いてMS格納庫に向かうと、ジムやらジムコマンド、ボールが配備されているのが見て取れた。

 中にはまだ整備中の機体もある。周りを見渡すと、整備技術者たちが慌てていた。

 和平になるかもしれないが、戦闘になる事だってあり得るのだ。気が抜けないのは確かだろう。

 でもこれで終わりだ。これが片付けばどうにかなる。そんなぼやっとしていた時だった。

 

「あ、あの……隊長さんですよね……?」

 

 不意に後ろからかわいらしい声が聞こえてきた。

 少しびっくりしたが後ろを振り返ると、顔だちもスタイルも良いパイロットスーツを着込んだ17歳ぐらいの少女が立っていた。

 

「ああ、多分辞令だとそうなんだろうけど、君は? もしかして新手の生命保険の勧誘ですか!?」

「え、えっ!? ち、ち、違いますよ! ミシェル・ディアス少尉……です。た、大佐にお会いできて……こ、光栄です」

「ああ、そうなのか……へー」

 

 正直不安だった。最初に合った奴が階級がペーペーで俺マニアのミニック・レオン上等兵で、次に会ったのがモジモジしてて戦闘が出来そうにないように見えるあどけない少女。MS部隊だし、デッキの方を見ると数が合わないから、まだ部隊員がいるんだと思うが……不安だ。

 

「へーって私がMSに乗って戦えないと思ってるんでひゅか……?」

 

 ひゅかって噛んだな。モジモジしてて噛むなんて、こいつはドジっ娘の匂いがぷんぷんしやがるぜ。

 

「そんな事無いだろうけど、大丈夫なの?」

「たぶん大丈夫です、よ。ここに来る前は戦術オペレーターだったんですけどね。人手が足りないからって、いきなりMSパイロットに転属になりました」

「は、え……!?」

 

 おいおい、ズブの素人ってことじゃないかよ。お偉いさん方は、俺を殺したいのかよ。

 俺、この戦争で死にたくない。こんなMS戦闘初心者の(もし)ドジっ娘なら、戦闘でアタフタして誤って殺されちゃう。

 

『た、弾が出ません! あわわ、隊長どうしたら!?』とか『MSの動かし方が……ま、マニュアル通り上手く行かないよ~! あ、隊長に撃っちゃった』なんてなってしまったら指揮系統が途切れた部隊は全滅。みんな地獄へバイバイだよ! そんなの誰が望むんだよ。

 あれか、ドジっ娘好きの奴らが望むのか!? そんなのまっぴら御免だよ。

 

 俺はそんな奴らの、趣向のはけ口じゃない。そんな死に方したら後世まで笑い物だよ。

 遺影の前に立たれたら皆は多分笑う、いや……絶対に笑うだろうよ。

 だがこんな事で願い事をするべきじゃない。 

 

「……さん! 隊長さん聞いてますか!?」

「ハッ、すまない考え事をしていた。それで何の話だったかな?」

「はい、ちょうど隊長がいらっしゃったので、部隊の人達を紹介しようかと」

 

 ふむ、俺ファンからドジっ娘と来て、次はどんな奴が来るのか気になるところだな。

 やはりここに来るのはアンラッキーな奴か、はみ出し者ぐらいだろうな……。

 そんな予想を立てつつドジっ娘と共に、俺の部隊員が居るであろう場所に下りて行った。

 

 

 その一方でレビル将軍旗艦マゼランのブリッジでは、ア・バオア・クーへと発進していた。

 

「将軍、約2時間ほどで戦闘宙域です。ご命令を……」

「うむ、この戦いを終わらせるためにも、和平は成さねばならん! 諸君らの健闘を祈る」

 

 そうレビル将軍が言い放った時だった。いきなり慌ただしく、レビル将軍の元に諜報部からの暗号電文が届いた。

 オペレーターが内容を報告する。内容は相手がソーラーレイの発射準備に入っているということだった。

 

「将軍……いかが致しましょうか? この和平、罠の可能性がありますが――」

「構わんよ、ここは乗るしかあるまい。たとえ罠だとしてもそれをうまく利用するしかあるまい」

 

 レビル将軍は考えていた。これが例え罠であったとしても、避けられない戦いだと。

 避けて通れない道ならば突き進むしかあるまいと……。

 

「全回線を開け、グレート・デギンにも緊急回避を通達! ここで終わるわけにはいかない。私はこの戦いを制する」

 

 ここにレビル将軍の次なる戦いが始まったのだ。

 この先に待つのは天国か地獄か……雌雄を決するときは来た。

 果たしてこの戦いはどうなるのか?

 

 

 ――MS格納庫――

 

 前世の俺なら、MSを間近でまじまじと見ることなんて無いだろうと思っていた。

 コマンドガンダムに乗ったことはあるが、あれは非常時でもあり、戦闘に集中していた為に細部まで細かく見ることなんて出来なかった。

 並ぶ機体はそれぞれあった。ジム・コマンドや量産型ガンキャノン、ジムスナイパーカスタム。他には、ジムや有名なセリフもある――最弱――ボール。

 この時、俺は隊長なんだから搭乗機体はジム・コマンドなんだと歩きながら確信していた。

 

「着きましたよ。皆さん隊長さんが来ましたよ~!」

「ようやく来たかよハゲ野郎! ここで会ったが百年目、ぶっ殺してやる!」

「はい!? え、えーっ!」

 

 そう言って、いきなり男が殴りかかってきた。そして、俺の右頬にクリーンヒットした。

 その上、勢いが強く後ろに吹っ飛ばされたが、体が覚えていたのか衝撃を逃すことができた。

 次に来たのは暴力野郎か、おいおい勘弁してくれよ。

 

「イテテ……クソが、お前! いきなり殴りかかるってどういう事だよ!」

 

 俺は殴りかかってきた男に激怒した。

 よく見ると血走った眼をしている。

 その上戦死したトムに似ている気がした。

 

「ジョン! いきなり挨拶で殴るなんてな、仮にも大佐だぞ、これは軍法会議は免れないぞ!」

「うるせぇ! 俺は、このハゲ野郎が憎くて憎くてたまらねぇんだよ!」

 

 殴りかかってきた男(ジョンという奴)の横にいた。壮年の男がたしなめるが効果がなかった。

 俺、なんか憎まれることなんてしただろうか? あまり心当たりがないのだが……。

 考える暇もなく、またもジョンは殴り掛かってこようとした。

 しかし整備班の連中やレオン上等兵などが取り押さえにかかっていた為に難を逃れた。

 

「落ち着けよ。ジョン!」

「離せよクソ野郎! あいつは、俺のたった一人の肉親だった弟を殺したんだ!」

 

 弟? うーんやっぱり分からない。なぜ殴られなければならないのだろうか?

 戦争なのに死ぬことが分かっているはずだろう。

 それを“無関係な”俺を殴るなんて、精神がいかれているんじゃないのか……。

 俺は、殴られた頬をさすりながらそう思った。

 

「隊長さん、大丈夫……ですか?」

 

 心配してくれたのか、ディアス少尉が優しく声をかけてくれた。

 俺はそれだけで殴られたことを忘れ、癒された。

 

「大丈夫だ、伊達に鍛えてはいないさ。ああ、そこにある杖を渡してくれないかい」

「ああ、これですね。やっぱり足の調子が悪いんですか?」

「そうだよ。まぁ、うちの潜水艦の女医さんが手術をしたんだが、足と片目が治っていなくてね――」

 

 そういえば女医さんはどこにいるんだろうな。

 やっぱり、どっかでスパスパ電子煙草でも吸いながらやっているのだろうか。

 

「あ、さっき殴りかかっていたあの人の名前はジョン・()()()()()()少尉だそうですよ。弟さんが居たなんて初耳でしたけど……」

 

 あの陽気なトムに兄貴が居たなんて、そんな話は聞いていない。

 でも、本当にトムの兄貴だったら、悪い事をしてしまったのかもしれない。

 何が恨まれることがないだ。何が心当たりがないだよ。全然無関係な訳ないじゃないかよ。

 今まさに自分自身を恥じていた。

 

「なぁトム……俺はどうしたら良いんだろうな」

 

 周りに聞こえないように小さい声でそうつぶやいた。

 ここにきて相手の怨恨や悲しみを受け入れなければならない。

 そんな責任が出てきたと思うと戦争は辛く悲しいものだと思わせる。

 

『遊びでやってんじゃないんだよ!』

 

 Zガンダムの主人公であるカミーユがヤザンに向けて放った言葉だ。

 まぁジョンから見ると俺はヤザンか……まぁもっとも俺自身は、ヤザンほど酷い奴じゃないだろうがな。

 

「隊長、大丈夫ですか?」

「ああ大丈夫だ。隊員の紹介はまた後にしてくれ、俺はジョンの所に行く。多分、独房だな?」

「はい、そうだと思います。もしよければ……案内しまひょうか?」

 

 心配してくれたのか、そういってくれたが俺は断ることに決めた。

 ここは一人で行った方が良いと思ったからだ。

 それに加えて、余計な手を煩わせるわけにもいかなかったからだった。

 

「付いて来なくても平気だよ。これは自分で解決しなければならない問題だから」

「だけど、フラフラじゃないですか……」

 

 そうだ実際フラフラだ。殴られた衝撃がここにきて響いてきた。

 だけど、絶対に一人で行きたかった。

 

「フラフラでもあいつには殴り足りないだろう。あいつが失ったものは大きかったはずなんだ。唯一の肉親だった弟を失う悲しみなんて普通分かりっこない」

「なら、何で行くんですか!? 大佐一人で行くなんておかしいです! おかしすぎますよぉ~!」

「そうか、おかしいかい? でも男には、時にやらなければならない時があるんだ。今がその時だと俺は思うんだ。向かってくる怨恨は受け止めなければならない。でも死なない程度にね」

 

 俺らしくもなく臭いセリフだと思う。こんなセリフ一生吐くことなんて夢にも思わなかった。

 でも今は、そんな事はどうでも良い。あいつの元へ話し合いをする為に歩き出した。

 そんな時、何か小さな声で『……あんな奴どうだって良いのに』と後ろから聞こえた気がした。

 

 後ろを振り返るがディアス大尉は笑っていた。

 さっき聞いたあの言葉は単なる空耳だと決めつけた。

 あんなもじもじして稀に噛んじゃうドジッ娘(多分)が、そんな事を言うはずがないのだから……。

 

「隊長さんどうしたんですか……やっぱり一緒に行きましょうか?」

「あ、ああ。本当に大、大丈夫だから気にしないで」

 

 そう言い残し、俺は杖を突きながら歩き出した。

 そして艦内の案内図を頼りに独房に向かっていく。

 しばらく歩いていると、向こうの方からジョンの横にいた壮年の男が、俺に気が付いた様でこちら近づいてきた。

 

「おい、大丈夫かよ。さっきは災難だったな、俺の名はイワン・ビアロフ中尉だ。ポジションはスナイパー、隊長殿よろしく頼む」

 

 そういって俺の背中をばしばし叩いてきた。はっきり言って痛い。

 そういえば、潜水艦のクルーはどうなったかと考えてしまう。

 

「大丈夫……とは言えないですけどって、スナイパーって事はあのジム・スナイパーカスタムは、ビアロフ中尉の機体なんですか!?」

「いかにもそうだが、まぁあれは俺専用にチョイとしたチューンが施されているがな! ああそうそう俺のことは気軽にイワンと呼んでくれて構わない」

 

 聞かれた事が嬉しかったのか、笑いながらまた背中をバシバシ叩いてきた。

 いい加減やめてほしいが、初対面の人にやめてくれなんて言えない(助けてくれた恩もあるし)。

 

「そ、そうですか……それじゃあこれから独房まで行ってきますよ。仲間になるんですからケリを付けに行って来ますよ」

「気をつけろよ隊長殿。ジョンの野郎は相当憎んでやがるみたいだからな……ま、でも隊長殿なら良くも悪くもやってくれるだろうからな。これは俺のちょっとした勘なんだけどな」

 

 そう言ってまた笑いながらバシバシ背中を叩いてきた。

 多分、彼なりのスキンシップなんだろうがやっぱり痛い。

 

「それじゃまた後で」

「ああ頑張ってこいよ」

 

 その声を聞いて、俺は独房へと向かっていった。

 独房に向かうと、歩哨の兵士が一人立っていた。

 兵士は俺の顔を見ると、敬礼と共に話しかけてきた。

 

「これは大佐殿。要件は何でありますか!」

「ジョン・マーベリック少尉に面会をしたいのだが、良いかな……?」

「はぁ……良いかな? などと申されましても、大佐殿ご自身を殴るという軍規違反を犯した者ですよ。それでもよろしいので?」

 

 そう言われても、俺の腹は決まっていた。受け止めてやる。

 アイツの悲しみや憎しみも全部受け止めてやると――。

 どんなに殴られたって良い。どんなに傷つけられても良い。俺が決めた決意なんだから。

 

「構わない。ジョン・マーベリック少尉は、俺の仲間であり部下だからだ!」

「そうですか……ならば、致し方ありませんね。危なくなったら直ぐにでも呼んでください」

「ありがとう。ところで名前は?」

「ハッ! 自分はジェイソン・レイヤー曹長であります!」

「そうか……レイヤー曹長、本当にありがとう。それじゃあ行ってくるよ」

 

 そう俺は言って、独房を開けてもらう。中を覗くと真っ暗だった。

 独房の中は静寂が包み込んでいた。暗く悲しみを背負った宇宙の様だ。

 俺はジョンを探すと奥の方で毛布で頭を隠して包まっていたのが見えた。

 

「このハゲ野郎! 何しに来やがったんだ!」

「君を連れ戻しに来た。というより話し合いをしに来たと言えば良いかな……(俺はハゲ野郎じゃない)。」

 

 俺は独房の中の電気をつけた。よく見ると、辺りには暴れた跡が見て取れた。イスは投げたのか別の場所に無造作に置かれていた。それに壁を殴ったのか血が付いていた。

 

「お偉い人殺しの大佐さんが、何しにここに来たんだかと思えば、殴った俺と話し合いだと? ハッ、笑わせるじゃねぇかよ! そんな偽善者ぶったハゲ野郎と、話すことなんか何もねぇ! とっとと他の野郎とイチャコラしてやがれ」

「違う、そうじゃない確認したいんだ。トム・マーベリック中尉は君の弟さんかい?」

「てめぇ! その名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!」

 

 胸ぐらをつかまれ、一発殴られる。

 足が悪いせいでマウントを取られて力任せにボコボコに殴られる。

 

「気づいたなら、どうして、最初に謝らねぇんだ、よ!」

 

 ジョンの泣いている声が聞こえたが、ボコボコに殴られているせいか意識が遠のくのを感じた。

 どれぐらいたっただろうか感覚的に意識が覚醒していく。

 目を覚ますと横にはイワンさんやディアス大尉、それにレオン上等兵がいた。

 

「良かった。無事で……」

 

 ディアス大尉は少し泣きながらそう言っていた。

 

「ここは、どこ……なんだ? それよりジョン・マー……ベリック少尉は?」

「あいつは今頃。独房で痛めつけられているかもな、でも隊長殿が無事で良かったよ」

 

 イワンさんは安心していたようだ。それとは別にレオン上等兵は「大佐が生きていたよぉ~!」などと泣き喚いていた。

 だが、しばらくすると安心したのか帰って行った。もっとも無事が確認出来たのだから当たり前なのだろうが……。

 

「艦長、調子はどうだい? まぁ(やわ)なほどに手術した訳じゃないんだ。ここでくたばられても困る」

 

 不意に懐かしい声が聞こえた。俺の事を艦長と呼ぶ奴は一人しかいない。

 女医さんだ。どこかにいると思っていた。

 まぁでもスパスパ電子タバコを、どっかで吸っていると思っていたがそんなことは無かった。

 やはり女医さんは、医務室に居ないと始まらない。

 

「調子は……まぁまぁだよ。それより女医さんどこに行ってたんだ?」

「ハハハ……気にするな、艦長が知ることじゃない。だが、一つ言えることがあるとすれば危ない事案を潰しに行ってきたってだけは言えるな」

「それは良かった」

「良い訳あるか! ってある意味ではそうなのかもしれないな。何せ、戦局に関わる事案だった訳だ」

 

 そう言いつつ、女医さんはイスに座りながら電子タバコのスイッチを入れる。

 電子タバコ特有のメンソールの香りが辺りに漂ってくる。

 フィルター部分から出る煙を、肺一杯に吸い込んで一気に吐き出すとこう呟いた。

 

「それより艦長。自ら殴られに行くなんて艦長って本当はドMなのかい?」

「結果的にそうなったけど。そんな性的趣向のために、独房まで行った訳じゃないよ」

「ハハハ、そりゃそうか。艦長はやっぱり面白いな……それでこの後はどうするんだい? また行くつもりなんだろ?」

「ああそうさ、ジョンが許してくれるまで俺は独房に行く!」

「ハハハ、こりゃ傑作だ! おかしいな艦長は笑い袋アハハハハみたいでウヒヒヒ」

「おかしいかよ!?」

 

 そう俺が言うと女医さんは笑いをピタッとやめてこんな事を言った。

 

「そうじゃない。“三顧の礼”に似ていると思ってな。まぁ旧世紀の中国の故事成語の一つなんだが……昔、黄巾の乱というのがあってな。いわゆる時代で言っても三国志なんだが、三国志は知ってるかい?」

「知っているよ。黄巾の乱は、黄巾党の張角の話だろでも“三顧の礼”は知らないけど」

 

 もちろん知っている。

 某無双ゲーにはお世話になったこともある。

 一番好きなのは呂布とか関羽とかだな――。

 

「まぁ知っているなら話は早い。その戦いにおいて天下に名を揚げていた劉備に対して、諸葛亮はまだ一部の人にしか名前を知られていなかった。しかも当時の年齢差は劉備は40代になっているのに対し、諸葛亮はまだ20代。一般的に上下関係があるにもかかわらず、常識外れの応対をしたというのが“三顧の礼”の話さ――」

 

 確かに似ている気がする。気にもしていなかったが、言われてみるとそう感じた。

 上下関係の例もそうだし、俺は良くも悪くも名前が知られている。

 違うのは、向こうが憎んでいるって事ぐらいだ。

 

「どうだい艦長。ためになっただろ? まぁここで止めても行くんだろうけどな」

「行くさ、相手が許してくれるまでな……」

「そうか、この戦争もそうなのかもな艦長。そうそう、言い忘れていたがこの艦隊に向けてソーラ・レイが発射されたよ」

 

 そ、ソーラ・レイだって、思い出した。引っかかっていたものはソーラ・レイだ。

 確か地球連邦軍の星一号作戦が実施された際に、来襲する連邦軍の艦隊を迎撃するジオン公国の最終兵器ソーラ・レイだったな。サイド3のマハルと呼ばれるスペースコロニーを改装した巨大レーザー砲。

 だけど、なんで無事なんだ? 俺も死んでいるはずなんじゃ?

 

「発射されたっていうけどどうなってるの? なんで生きているの?」

「落ち着け、それは私が子飼いにしている諜報部の連中がこの旗艦に教えてくれただけだよ」

 

 そういって女医さんはエッヘンとしていた。

 自慢なのだろうがそう感じさせないなんてな。

 続けて女医さんはこんなことも言っていた。

 

「まぁ全艦隊の一割ほどは壊滅したが、この艦は無事だしデギン公王との和平は成ったし良かったな艦長」

「ああ、そうなんだがしっくりこないな~」

「言うじゃないか……まぁでもギレンは徹底抗戦の構えだがな……でも戦闘まで時間はあるが急げよ。“三顧の礼”を必ず成功させろよ艦長」

「ああ、行ってくるよ」

 

 俺はそう言い残すと俺は杖を突きながらまたも独房へと向かっていったのだった。




終盤に向けいよいよ佳境に入ってまいりました。
こちらの予想だと後10話ぐらいを目安にやっていこうかなと思っております。
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