スゴロクガンダム戦記(旧潜水艦) 作:ハトメヒト(ヒットマン)
女医さんと別れると独房に向かって歩いていくが、俺自身の足取りは鉛のように重かった。またも殴られるかもしれないと思うと怖気づいてしまいそうになる。しかしそんなことは言っていられない、何としても三願の礼を為さなければならない。
とある人も言っていたが「熱い魂を持ったファイターが、その拳を合わせて分かり合う」それこそガンダムファイターだと、何べん殴られようとも相手の痛みを知らなければ、自分の思いさえも伝わりはしない。
痛みを知らないからこそ、人が人を殺してしまうし、加減も知らない。ジオンのブリティッシュ作戦もそうなのかもしれない。大勢の人が死ぬ痛みさえ分からないから、コロニーに毒ガスを流し込み弾丸に見立ててジャブローに落とそうとした。
ジオンが少ない国力で短期決戦を行うための作戦だったとしても、民衆の理解を得られなければ意味はない。しかしそれでも実行したのだ。その結果はシドニー湾と多くの犠牲者だ。
スペースノイドの大半は連邦からの自治独立を目指していたし、愚行にも目に余るだろう。そうだとしても民衆を扇動したザビ家の罪は重いものだ。だからこそ勝たなければならない。
レビル将軍は『ジオンに兵無し』と言ってはいたが、最後まで気は抜けないのだ。なぜなら
「大佐殿、また御用でありますか?」
そんな長考をしている間にその一言で独房に着いたことが分かった。声と俺が大佐だと分かっている事を考えると前回と同じ曹長が歩哨に立っていた。その事を確認すると、また説明しなくて良いと思い内心ホッとした。
「ああ、面会をお願いしたい」
そう俺が言い放つと、歩哨の兵士は目を見開いていた。おいおい頭がおかしいのかと言いたそうな顔だな、予想は当たっているがよ。
「失礼ですありますが、大佐殿は正気でありますか!?」
「俺は至って正気だぞ! 頭のネジなんか吹っ飛んじゃいない」
「はぁ……そうでありますか」
歩哨の兵士はあきれてはてたのか、ビックリしたのか分からないが、口をあんぐり開けて俺を見ていた。たぶん歩哨の兵士はこう思っているのだろうドM大佐だと、なら一言突いてやろう。
「言っておくが俺はドMじゃないぞ! 勘違いしないで欲しいものだな」
「え、はっ! そ、そんなこと思っていないのであります!」
あわてて敬礼しだす曹長を尻目に本当にそう思っていたのかとガッカリする。しかし今までの事を考えてみると、何となく俺は窓際扱いのように思う。そんなに俺って威厳が無いのか――
「そんなに俺って威厳が無いのか――」
どうやら俺は先ほどの心境を無意識の内に口に出してしまったようだ。その心の内を聞いた曹長は、何事も無かったかのように顔を慌ててうつむかせた。
「い、いえそんな事は……」
などととっさに言ったがすぐに押し黙ってしまったの見て、今の俺の心境はわびしさや、悲しさしかないとしか言いようがない。
「いや良いんだよ別に……だけどそれを言ったからには上官不敬で軍法――」
曹長が軍法という言葉を聞いて、顔が一気に真っ青になって、体がガタガタ震え始めたのが目に見えて分かったが、俺はそんな事はしたくはない。そう思ってしまうということは、俺自身が未だに非情になる事が出来ない大甘なんだろうかと考えさせられる。
「冗談だ。俺は大甘の甘ちゃんだからな、その上戦場で死なず軍法会議で死にましたなんて、死にきれないだろ?」
その言葉を曹長が聞いた時、顔には青さと心の中の極寒から来る様な震えは消えていた様に思えた。
「それに曹長にだって家族がいるんだろう?」
「は、はい妻と娘が居ます。この恩は忘れません」
よく見ると泣いている。これ俺が泣き落とした様見えるんじゃないか?
「おいおい止してくれ、はたからみたら俺が泣かしたようにしか見えないぞ」
周りに誰もいないから良いようなものだ。しかしこれを見られでもしたらなんだ一体、と思うだろう。さらに総長はヒートアップする。
「申し訳ェェグフゥ! 申し訳ございませェェン!」
なんと、土下座をしたのだ。聞いているこっちが惨めだ。泣き方を聞いていると、だんだんふざけている感じに聞こえイライラしてきた。このままだと精神衛生上、無慈悲に殴り飛ばす事になるかもしれない。
「もう良いから独房を早く開けてくれ!」
曹長は顔を上げると、鼻水を垂れ流し泣きながら独房を開けた。
「よう、何の用だクソ野郎! と言いたい所だが、一体曹長に何をしやがった?」
「冗談を言ったら泣き叫びだした。それだけさ……」
依然として部屋は暗かった。トムはそっぽを向いて座ったまま殴っては来なかった。予想を裏切られたが兆候としては良い事なのだろうか? 俺としては、殴られると思い身構えていた。
「クハハハ傑作だな、クソ野郎が一泡吹かせたって訳か! あの歩哨は俺を何べんも死ぬほど殴って、心をズタボロに引き裂きやがったんだよ。スカッとしたぜ!」
「それで殴らないのか? 憎いんだろ!?」
ジョンに問いかける。体がこわばり殴られる体勢を維持した。しかし依然として殴って来なかった。
「憎かったさ、でももうスッキリしたし、それに頭が冷えた。憎しみを持っていても兄貴は喜ぶ訳じゃねぇし、帰って来る訳じゃねえからな……」
薄暗く良く見えなかったが、ジョンの顔には憑き物が落ちたようにも思えた。それならと思い切り出すことにした。
「そうか、ならジョン・マーベリック少尉、君の亡き兄トム・マーベリック少尉のために一緒に戦ってくれるかい?」
「ああ良いぜ! よろしくな大佐いや隊長」
こうして俺の予想(殴り合い)を裏切られた三願の礼は幕を閉じた。
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