スゴロクガンダム戦記(旧潜水艦) 作:ハトメヒト(ヒットマン)
ラックスに睨みを利かされたまま俺はブリッジの艦長シートに座らされた。
部屋のデスクに置きっぱなしにしてきたすごろくについてラックスとサバスに問い詰められている。
一難去ってまた一難、ここを乗り来なければ今度は味方にやられてしまう。
コーナーに追い込まれてボッコボコだよ。
どこからどう見てもただのオモチャにしか見えないコイツに、なんとか付加価値を付けて相手を納得させないと!
どうする?どうする!?どうする!
体からまた汗が吹き出てくる。
体温が下がってきて足が震えてきた。
膝の上に手を置いてバレないように震えを押さえつけて、ラックスを視点がぶれまくる目で見る。
視界はぼやけてどっちがラックスなのかもわからないが、ここでミスればコーナーだ。
無理のある言い訳を一か八かに賭けてみる。
「い……妹の、形見なんだ……」
「大佐殿の妹?」
「あ、あぁ……誕生日プレゼントに買って上げたんだが、渡すことが出来なくなってしまった」
言ってしまった、もう後には引けない。
ラックスを見るのが怖くなってきて顔が俯いてしまうが最後まで突き抜けるしか方法はない……と思う。
妹なんて俺に居ないが勝手な想像で喋っていくしかない。
「あんまり家に居てやれなかったから、お詫びも込めて買って上げたんだ」
ここまで言ってしまって気が付いたが何で妹って言ってしまったんだ。
女がすごろくで遊んだりするか?いいや、しないな。
弟に言い換えるか?ダメだダメだ、もっとダメだ!
ウソってバレたらそれこそコーナーだ、リンチだ、ボッコボコだ。
押し通すしかない!
「一緒に遊べるすごろくを買ったんだけど、地球に戻ってきた来た時にはもう遅かった」
「それはジオンに?」
どうしよう!?どうやって死んだ事にする?
流れに任せるか?でも詳しい事を聞かれたら答えようがない。
架空の妹を勝手に作った上に殺して、しかもそれをジオンのせいに勝手にしてもいいのか!?
俺の家族の事なんてちょっと調べればすぐにわかるぞ。
1回死んだから本当の家族にはもう会えないけれど。
そう言えば今頃どうしてるんだろう、みんな……
「大佐殿!!」
「ひっ!?」
しまった!?
現実逃避して結局思いつかなかった!
まずい、不味い、マズイ!
もう無理だ、なんにも考えつかない。
終わった、コーナーに追い込まれて終わるんだぁ~!!
「自分は感服致しました!!」
「へ?」
「自分は大佐殿に付いて行きます。必ずやジオンをこの地球から追い出しましょう!」
訳の分からない事を言うラックスは俺の腕を強引に引っ掴んで引っ張って行く。
膝の上から両手が離れて汗ばんだ両手を握りしめた。
ズボンの上が汗で濡れてシミになっているが、そんなのを気にしていられる程俺の心に余裕は残されていない。
うまくいったのか……大丈夫なのか?
目の前で目尻に涙を浮かべているラックスの言っていた事が頭に入ってないから、どうなったのかがイマイチ理解出来ないが成功したって事でいいのか?
「妹君のご無念を晴らしましょう!」
「そうだな……うん。そうだ!」
ラックスは何とか誤魔化せた。
心臓がバクバクだよ、冷汗がまだ止まらない。
もう嫌だ、早く部屋に帰らせてくれ頼むから。
「ら……ラックス」
「ハッ!!何でありましょう大佐殿!」
「キミは予定通り艦を進めてくれ。俺は一旦部屋に戻る」
「わかりました!必ずやジオンの拠点を叩いてみせましょう!」
「頼む」
震える声で後を任せた俺は早歩きでブリッジから出て行った。
これから先に何もなければアイツラに任せておけば大丈夫な筈だ。
ただの一般人の俺に潜水艦を動かすなんてそもそも無理なんだよ。
空調の効いていない肌寒い廊下を歩いて、俺はようやく自分の部屋に戻れた。
ふかふかのソファーに座った俺は深い溜息を吐いてようやく肩の力を抜く。
デスクの上のすごろくをぼんやりと眺めて、邪魔なソイツをデスクの引き出しにしまい込む。
そして俺は2回目の溜息をつく。
「はぁ~、何とかなった。でもこれからは注意しないとな。それにしても、これからどうすればいいんだ?このままだと敵の基地に付いちまう。潜水艦を遅くしろなんて言ったらまた疑われる。今度こそコーナーだ。諦めるしかないのか?」
ジオンの地上基地まで迫ってきていると言うのに戦う決心も覚悟も決まらない。
痛いのは嫌だ、死にたくはないと俺は現実から逃げた。
でも今の俺には逃げる場所すらない。
刻一刻と迫る時間の中で俺に出来る事とは何なのか。
少しでも戦術論を勉強すればいいのか?いいや、間に合わない。
なら少しでもモビルスーツの情報を伝えるか?それも無理だ。
アニメで適当にしか見ていない俺にモビルスーツの詳しい設定なんてわからない。
『ザクの弱点って何?』って聞かれても、そんな簡単な事もわからないようでは笑われるのが落ちだ。
結局なんにも出来ない俺はソファーに座ったまま少し眠りに付いた。