伝説のドラゴンストライカー   作:リス岡さん

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実際中学レベルでアレならプロの超次元サッカーは音の壁を突破するとか平気でやりそうな気がするの


1.帝国の襲来

「…………か! ……おか! 染岡!」

「んぁ?」

 

 勢い良く肩を揺さぶられて目を開ける。

 すると目の前にあった顔がホッとしたような表情を浮かべた。

 中学、高校、そして日本代表と、同じチームで戦ったGK、円堂守である。

 

「どうしちゃったんだよ染岡、いきなり立ち止まったと思ったらボーッとしてさ」

「あ? 円堂じゃねえか、お前いつからこっちに…………!?」

 

 当然のように浮かんだ疑問を口にしようとして、染岡は強烈な違和感を感じた。

 違う、何かがおかしい。

 その正体を探るべく、染岡は円堂の体をジロジロと眺め回す。

 

「…………円堂、お前なんか縮んでねえか?」

「なーに言ってんだよ! もうすぐ帝国との試合だっていうのに、寝ぼけてるのか? あっ! もしかしてお前も楽しみで眠れなかったんだろ!」

 

 真剣な染岡に対し、円堂は揶揄うように笑うと「行こうぜ!」と走って行ってしまう。

 その後ろ姿を眺めていた染岡は、そこでようやく違和感の正体に気がついた。

 円堂が着ていたのは雷門中のジャージだ。

 それに今自分たちがいるのも今となっては懐かしい雷門中の廊下。

 それらの情報と、脳裏に甦った暴漢に刺されてしまったという記憶。

 この2つから、染岡はひとつの結論を出す。

 

(戻ったのか? 中学の頃に…………)

 

 自分の体に視線を落とすと、やはり円堂同様に雷門中のジャージを身にまとっていた。

 現実的に考えて有り得ないが─────と、そこまで考えてから染岡は頭を振ってその思考を打ち消す。

「有り得ないという事は有り得ない」。

 つい先日、染岡の教え子である錦龍馬のチームメイト達が本当に宇宙へ行って宇宙人達とサッカーをしてきたと聞いたばかりなのだ。

 自分たちの想像を越える物などこの世には幾らでも存在する。ならば、自分が今体験しているこの状況もそういった物の1つに違いない。

 となればあれこれ悩んでも仕方がない。これが現実ならばいくら思考したところで状況は変わらないのだから。

 

(もうすぐ帝国との試合…………ってことは今頃は壁山が逃亡してる頃か)

 

 遠い昔の記憶を掘り起こしていく。

 壁山塀吾郎、染岡達雷門イレブンの守備の要を務めた巨漢だ。

 日本代表で久しぶりに共にプレーした時も、その硬い守りは健在だったのを覚えている。

 しかしこの頃はまだ臆病で、何かあるとすぐに逃げ出してしまうという悪癖があった。

 

(アイツも自信さえ見につければ凄い奴なんだがなぁ)

 

 苦笑いを浮かべながら、染岡は壁山がこの時隠れていた廊下へ足を向ける。

 到着してみれば、先に駆けつけていた円堂達が大柄な少年たちと何やら揉めている所だった。

 その奥にはガタガタと振動するロッカーが佇んでいる。

 

「おい、どうした?」

「あ、染岡! コイツらが壁山を相撲部に入れるって言い張っててさ……」

 

 中学生とは思えない極道面の登場に、上級生であろう相撲部の面々は思わずたじろぐ。

 しかし向こうも下級生相手に引く訳にはいかないのか、語気を強めて円堂に詰め寄った。

 

「それならそっちのルールで戦ってやるでごわす。おいどんらのディフェンスを抜いて壁山くんのロッカーにボールを当てたらあんたらの勝ち、おいどんらがボールを奪えばこっちの勝ちで壁山くんはおいどんらと一緒に来てもらう。それでどうでごわすか?」

「おもしれぇ。そっちがその気なら乗ってやるぜ」

「染岡!?」

 

 相撲部と円堂の間に割り込み、染岡が提案に応じる。

 壁山の意志を無視した条件に円堂は難色を示すが、染岡は不敵な笑みを浮かべた。

 

「安心しろよ円堂、俺に任せとけ。それに……壁山はちょっとビビっちまってるだけだ」

「…………わかった、頼むぞ!」

 

 頷いた円堂は染岡へボールを手渡す。それを足元へ転がした染岡はロッカーの前に並ぶ相撲部へ好戦的な笑みを向けた。

 まるで格好のカモを見つけたヤクザのようなその顔に、相撲部達は完全に気圧されてしまう。

 

「さてと、それじゃあ始めるか」

 

 爪先で軽くボールを小突く。コロコロと転がり出すボールが合図かのように、相撲部達は一斉に染岡へ襲いかかった。

 

「遅せぇ! 『疾風ダッシュ』!!」

 

 対する染岡は一瞬で加速し、相撲部達を全員ごぼう抜きにしてみせる。

 そして再び足元のボールを小突くと、転がったボールはゆっくりとロッカーに当たった。

 

(どうやら……俺が覚えていた技は使えるみてぇだな)

 

 度肝を抜かれる相撲部達には目もくれず、染岡は自分の体の各所を見回す。

 プロに入ってから習得した技だが、どうやら問題なく使用できるようだ。取り敢えずはホッと息をつく。

 そうして振り返ろうとした時、円堂が狂喜乱舞しながら染岡へと飛びついた。

 

「すっ……すげー!! すげーよ染岡!! お前いつの間にあんなに上手くなったんだ!?」

「へっ……隠れて特訓してたんだよ!」

 

 特徴的なピンク色の坊主頭をワシャワシャと撫で回されながら、染岡は相撲部へ顔を向ける。

 突然の事に何が起きたのかも分からないまま、相撲部達は呆然とロッカーの付近に転がるボールを眺めていた。

 

「な……何が起きたでごわすか…………いきなり消えて…………」

「勝負は俺の勝ちだな。お望みならもう1回やってやるぞ?」

 

 染岡の言葉に、相撲部達は悲鳴をあげながら逃げていく。

 ドスドスと廊下を揺らしながら走り去るその背中を見送ってから、染岡は揺れるロッカーへ呆れ顔を向け、大きく息を吸い込んだ。

 

「──────ゴルルァァッ!! 壁山ァァッ!!!」

「ヒィ────ーッ!!?」

 

 ヤクザ顔負けの怒声に、ロッカーの中から壁山が慌てて転がり出てくる。

 涙目の壁山を見下ろしながら、染岡はニッと笑うと手を差し出した。

 

「ったく、ホレ。立てるか?」

「そ、染岡さん…………」

 

 壁山がおずおずと手を握り返すと、染岡はそのまま自分の倍はある巨体を引き起こす。

 

「お、怒らないんスか?」

「あ? 怒らねぇよ、帝国にビビる気持ちは分かるからな」

 

 俺だってそうだった。口にはしないが、心の中で呟く。

 あの試合のことは覚えている。

 何も出来ずに一方的に蹂躙され、目の前で仲間達が傷付いていく。

 その光景に、染岡は確かに恐怖を抱いてしまっていた。

 だからこそ───あの時、1人で立ち上がった円堂を尊敬し、1人で対抗した豪炎寺に敵対心を抱いてしまったのだ。

 

「けどよ、俺たちが逃げちまったらコイツは……円堂は1人でも帝国に向かっていっちまうだろ。きっと円堂はボコボコにされたって立ち上がっちまう。そうさせねえ為には、俺たちの力が必要なんだよ。だから…………お前ら、力を貸してくれ!」

 

 染岡の言葉に、壁山だけでなくその場にいた少林や栗松ら後輩、影野やマックス達新入り達も心打たれたように頷く。

 特に傍らの円堂は、染岡の言葉を聞いて嬉しそうに笑った。

 

「よっしゃー! 皆、円陣だー!!」

 

 廊下の真ん中で、全員で円陣を組む。

 周囲の視線を集めながら、円堂は思い切り叫んだ。

 

「帝国に……絶対勝つぞ!!」

「「「「おう!!!!」」」」

 

 

 

 

 

「鬼道さん、なんでこんな学校へ? 大会に出ていない所か、サッカー部すら出来たばかりじゃないですか」

 

 帝国学園側のベンチで準備をしながら、水色の長髪に眼帯をつけた少年 佐久間次郎が隣のキャプテンに尋ねる。

 後ろに束ねたドレッドヘアにゴーグルという、中学生らしからぬ奇抜な外見の少年 鬼道有人は表情を変えないまま短く答えた。

 

「総帥の指令だ。それに、この学園にはあの男がいる」

「豪炎寺修也……炎のストライカーですか」

 

 ああ、と頷いて、鬼道は雷門中のベンチへ視線を向ける。

 釣られて視線を向けた佐久間は、しかしあれ? と拍子抜けしたような声を漏らした。

 

「……鬼道さん。いませんけど、豪炎寺」

「……なんだと?」

 

 佐久間の言葉に、鬼道はゴーグル奥の目を細めて雷門ベンチを確認する。

 確かに、事前より監督である影山から貰っていた資料にある顔は見当たらなかった。

 精々とても中学生とは思えない、極道のような男が座っているぐらいだ。

 影山とは別ベクトルの恐ろしさを纏う男に、鬼道は思わず隣の佐久間と顔を見合わせる。

 

「……どういうことだ?」

「……さあ?」

 

 2人で首を傾げていると、整列の笛が鳴る。

 佐久間は対面に立つ先程の極道の気迫に、思わず目を逸らしてしまった。

 その隣で鬼道と円堂がキャプテン同士で握手を交わす。

 

「今日は宜しく頼む。……ところで、豪炎寺はいないのか?」

「豪炎寺? アイツ……なんか今はサッカーを出来ない事情があるらしくてさ」

「……そうか。取り敢えず、お互いに頑張ろう」

 

 やや落胆した様子を見せながら、鬼道は自分のポジションへ向かう。

 苦笑いを浮かべながらそれを見送る円堂の肩を、染岡が叩いた。

 

「なぁに、アイツが思わずサッカーやりたくなるような試合をしてやればいいんだよ! 行こうぜ円堂!」

「染岡…………! そうだ、そうだよな! よーし! 行くぞ皆──!」

 

 円堂が拳を突き上げると、ピッチの皆も応じるように歓声を上げる。

 帝国側は、それを冷めた表情で眺めていた。

 

「豪炎寺が出ないんじゃ、あんな弱小校とやる意味なんてねぇじゃねえか」

「仕方ないだろう。それに、まだ可能性はゼロじゃない」

 

 文句をいうストライカー 寺門へ、鬼道はニィと口元に笑みを浮かべる。

 それを見て、マスクをつけた少年 咲山とお面のような顔の小柄な少年 洞面が同情するような表情を浮かべた。

 

「あーあ。雷門側は地獄だねこりゃ」

「ご愁傷さま」

 

 自分たちの有利を信じて疑わない帝国イレブン。

 その自信は、試合開始直後に粉々に砕かれることになる。

 

 

 

 ピ──ッ! と試合開始の笛が鳴る。

 キックオフは雷門。目金欠流がボールを蹴ると同時に帝国のFW、佐久間と寺門が飛び出した。

 

「へっ……」

 

 ボールを受け取った染岡は不敵な笑みを浮かべると、両足でボールを挟んでそのまま跳躍する。

 

「なに!?」

 

 予想外の動きに不意をつかれた佐久間の頭上を、染岡の体が飛び越える。

 着地し、そのまま駆け出す染岡の進路を帝国のMF咲山と鬼道が塞いだ。

 

「『キラースライド』!!」

「喰らうかよ、マックス!」

 

 もう一度跳躍し、咲山の高速スライディングを回避した染岡は上がってきていたマックスへとパスを出す。

 それを受け取り、攻め込もうとしたマックスの前に洞面が立ちはだかった。

 

「『キラースライド』!!」

「うわぁっ!?」

 

 洞面は先程の咲山と同じ技を放ち、マックスを吹き飛ばす。

 零れたボールを拾った洞面は、そのまま前方の寺門へパスを出した。

 

「オラァッ!!」

「なぁっ!?」

 

 しかし宙を舞う染岡がパスをカットする。

 寺門と染岡、2人の強面の視線が空中でぶつかり合う。

 しかしそれは一瞬のことで、着地した染岡はすぐに全線へ向けて走り去ってしまった。

 

「待ちやがれ!!」

「寺門、落ち着け!」

 

 自陣のゴール前まで攻め込む染岡を追いかけようとする寺門を、もう1人のFWである佐久間が押し留める。

 しかし内心では、佐久間も平静ではいられなかった。

 

(最初のあのプレー、反応できなかった……!)

 

 最強のチームである帝国学園、そのレギュラーを務める自分の上を行くプレイヤーの存在。

 もしかしたら、あの男は、この中学は自分たちが考えているよりも遥かに恐ろしい存在なのでは? 

 佐久間を不安が襲う。

 しかし駆け上がる染岡の前に鬼道が飛び出した。

 

「まさかお前のような選手がいたとはな、予想外だよ」

「鬼道か!」

 

 唯一染岡の動きに反応していた鬼道に、佐久間は拳を握り締める。

 そうだ、自分たちにはこの男がいるのだ。

 天才ゲームメイカー鬼道 有人。

 彼がいる限り、帝国の敗北はありえない。

 さらに染岡の両サイドを五条、大野のDF陣が囲む。

 見たところ帝国の動きに着いてこれるのはあの中学生極道1人だけ。ならば彼1人を徹底マークすれば済む話だ。

 

「………………へっ」

 

 3対1の圧倒的不利な状況で、しかし染岡は不敵な笑みを浮かべていた。

 

(プロの世界じゃ、数による有利不利なんて存在しなかったぜ)

 

 思い出されるのはイタリアでプロサッカー選手として活躍した日々。

 プロの世界というのはそれまで経験してきた中学、高校のサッカーとは文字通りの別次元であった。

 高速移動、分身なんて日常茶飯事。槍の雨どころか隕石のシャワーが降ってくるなんて特に珍しくもない光景だった。

 光の速さを越えて衝撃波を巻き起こしたり、次元を切り裂いて自軍のゴール前から相手のゴール内へ直接ボールをねじ込む奴なんていて当然。

 キーパーに至っては超握力でブラックホールを生み出すような奴もいた。それでも染岡の知る円堂の方がセーブ率は高かったが。

 

 そういう世界で、染岡は何度もへし折られながらも“ドラゴンストライカー”の称号を得るまで戦い抜いてきたのだ。

 だからこそ。この程度の状況では染岡にとって不利になり得ない。

 

「上がガラ空きだぜ!」

 

 上空へ向けてボールを蹴りあげた染岡は、そのまま自身も跳躍する。

 

「借りるぜ錦……『アクロバットキープ』!」

 

 空中で身を捻り、ボールをキープしたまま鬼道達の頭上を飛び越える。

 染岡の教え子、錦龍馬の技だ。

 慌てて鬼道が振り返れば、すでに染岡は帝国のDFラインを突破し終えていた。

 

「止めろ源田────ーッ!!」

 

 普段冷静な鬼道が、感情を露わにして叫ぶ。

 ゴール前で染岡を睨めつけていたGK 源田幸次郎はその叫びに頷いて返すと、両拳にエネルギーを集めた。

 そしてそのまま跳躍する。

 

「『パワー……シー」

「遅せぇよ! 『ドラゴンクラッシュ』!!」

 

 しかし源田の技が発動しきるよりも早く、染岡が勢い良くボールを蹴り付ける。

 その次の瞬間には、ボールは源田の後方でゴールのネットへ突き刺さっていた。

 ぶわっ、と。着地した源田の全身から冷や汗が噴き出す。

 

 見えなかった。あの強面がボールを蹴ったかと思ったら、既にゴールを決められていたのだ。

 世代最強GK、キングオブゴールキーパー、自分が積み上げてきた栄冠にヒビが入るのを感じる。

 

 ワナワナと震える手から、集中させたまま放てなかったエネルギーが霧散していく。

 

 帝国イレブンも、点を入れた側である雷門イレブンも、グラウンドを取り囲んでいた観客達も、そして、木陰で様子を伺っていた豪炎寺も。

 誰一人として声を発する事も動く事も出来なくなっている。

 静寂に包まれるコート、その中で、染岡竜吾だけがゆっくりと拳を天へ向けて突き上げた。

 




【疾風ダッシュ】
一瞬で加速し、相手を抜き去るドリブル技。
イタリアではこの技の習得がプロ入りの最低条件とされ、全員が常時発動可能。
トッププレイヤーにもなれば更に速い【ライトニングアクセル】を常時発動したりする。
中学生に戻った染岡さんも発動可能だが、プロの時程の速度は出せていない。
それでも一般人からすればほぼ瞬間移動レベルの速度は出せているが。

【アクロバットキープ】
染岡さんの教え子である錦龍馬が得意とする技。
ボールをキープしながら相手の頭上を飛び越えるという物。
シンプル故に高い基礎体力とキープ力を求められる技。

【ドラゴンクラッシュ】
染岡さんの代名詞とも言える必殺技。
勢い良く蹴り、青いドラゴンと共にシュートを放つ。
シンプルだが破壊力が高い。
中学時代、レベルの高い全国大会では通用しなくなってしまった技だがそれでも染岡さんが諦めずに磨き続けた結果、プロ相手でも点を取れるまでに成長した。
ボールの速度が高すぎてキーパー視点だとほぼ何も見えていない。
観客にも染岡さんが足を振ったらゴールが決まってたくらいにしか見えていないが、その時ドラゴンの鳴き声のような物が響き渡る事から“ドラゴンストライカー”の称号がつく切っ掛けとなった。

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