伝説のドラゴンストライカー   作:リス岡さん

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序盤、染岡さんをdisりまくってた宍戸が染岡さんのドラクラリスペクトみたいな技編み出すのほんと好き。
それ見て喜ぶ染岡さんもっと好き。


4.宍戸の悩み

 帝国との試合から数日後、豪炎寺と染岡の活躍に充てられたように、雷門イレブンの面々は必殺技の特訓に明け暮れていた。

 

「必殺技もいいけどよ、お前ら基礎練習も怠るんじゃねえぞ。最終的にモノを言うのはやっぱり体力だからな」

 

 練習に打ち込む後輩たちへ声を掛けてから、染岡は足元のボールを蹴り上げる。

 それを胸でトラップしながら、風丸が周囲を見回しながら染岡へ声を掛けた。

 

「染岡、豪炎寺と円堂は?」

「豪炎寺なら用事があって遅れるってよ。円堂はマネージャーと冬海のトコだ」

「冬海か、そう言えばアイツ俺たちが帝国と引き分けたって聞いて青ざめてたらしいぜ」

 

 風丸のパスを受け止め、リフティングしながら染岡は興味無さそうに相槌を打つ。

 実際のところ、あんな小物に構っている暇は無いのだ。

 染岡が本当に警戒しているのは、冬海の背後にいる影山である。

 勝つためならバスへの細工や鉄骨落とし等を平気でするような外道だ、先日の試合で明確にこちらを脅威として認識している状態では何を仕掛けてくるか分かったものでは無い。

 下手をすれば、手段を選ばずこちらを直接始末しに来ることすら有り得るだろう。

 それに世宇子中、エイリア学園。対策しなくてはならない存在は沢山ある。

 特にエイリア学園との戦いでは最初に雷門イレブンの大半が負傷されられてしまうのだ、染岡としてはそれだけは回避したかった。

 

「どうした? 染岡、悩み事でもあるのか?」

「いいや、何でもねぇよ。……そうだ風丸、お前『疾風ダッシュ』を練習してみねえか?」

 

 考え込む染岡の顔を風丸が不思議そうに覗き込む。

 誤魔化すように染岡は話題を変えるが、その内容は魅力的だったらしく風丸は食い付いてきた。

 

「『疾風ダッシュ』って、お前が相撲部に使ってたアレか?」

「あぁ、お前のスピードは大したモンだしな。俺が教えられそうな技の中でで最大限に速さを活かせる技っつうとコレだ」

 

 そのまま染岡は踏み込む時の足の角度や体勢のコツなどを教えていく。

 ふと視線を感じて染岡が後ろを向くと、楽しそうな笑みを浮かべながらマックスが2人のやり取りを覗き込んでいた。

 

「へぇ~風丸だけ狡いなぁ~……おーい皆ー! 染岡が必殺技を教えてくれるってさ~!」

「あっ! マックス、お前!」

「本当でやんすか!」「本当っすか!」

 

 悪戯っぽく笑いながらマックスが呼び掛けると、聞きつけた栗松達が染岡の元へ殺到する。

 最初は困惑していた染岡も、帝国との試合まではやる気を失っていた後輩たちがここまで熱心に練習に取り組んでいるのが嬉しいのか、結局一人一人に必殺技の指導をしていく。

 練習試合の段取りを終えて円堂達が戻って来た時には、それぞれの必殺技の練習に取り込む面々とその間でぐったりとしている染岡という構図が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

「尾刈斗中?」

「あぁ、帝国との試合以来色んな所から練習試合の申し込みがあったんだけどさ。中でもここが1番熱心に申し込んできたんだってさ」

 

 狭い部室の中で思い思いの場所に腰掛けながら、染岡たちは円堂の説明に耳を傾けていた。

 聞き覚えのないということは、そこまでの強豪校では無いのだろう。

 栗松たちがホッと胸を撫で下ろす中、染岡は朧気な記憶を必死で掘り起こしていた。

 

(尾刈斗……尾刈斗……ダメだ! 名前は思い出せてもどういう連中だったかは思い出せねぇ!)

 

 元々頭脳労働が得意ではない染岡は早々に思い出すのを諦める。

 少しでも情報を集めようと円堂へ視線を向けると、円堂もバツが悪そうに頬をかいた。

 

「実は尾刈斗中の情報が全然ないんだ! 試合のビデオとかも無いし、練習試合前に偵察なんて向こうも許してくれないし」

「情報ですか……ならばここは僕の出番のようですね!」

 

 円堂の言葉に、どこから現れたのか目金が胸を張る。

 

「あっ! 帝国戦で逃げたくせに何いばってるでやんすか!」

「そうだそうだ!」

 

 栗松の突っ込みに同調する宍戸。

 目金は一瞬うぐっと怯んだものの、誤魔化すように咳払いするとその目元を覆うメガネをキラリと光らせた。

 

「フフ、僕はこう見えて情報集めが得意でしてね!」

「残念だがその役は間に合っているようだぞ」

 

 目金の言葉を遮るように立て付けの悪い扉を開けて、豪炎寺が部室に入ってくる。

 そして皆の中心に置かれた机へ持っていた丸めた紙を放り投げた。

 

「遅いぞ豪炎寺! ……で、コレなんだ?」

「昇降口に貼られていた新聞だ」

 

 円堂が代表して紙を広げてみれば、そこには雷門中と尾刈斗中の試合が行われるという記事が載せられていた。

 円堂達が顧問の冬海から対戦相手の旨を伝えられたのがつい先程の事だというのに。

 

「ええ!? 俺たちよりも先に尾刈斗中のことを知ってたヤツがいるのか?」

「そう言えば聞いたことあるでやんす! 俺達の学年にすごく耳の早い新聞部がいるって! その人に頼めば尾刈斗中の事も調べられるんじゃないでやんすか?」

 

 目金の事を完全に放置し、思い出したように両手を打ち合わせる栗松。

 その言葉を聞いた豪炎寺は身を引くと、後方に待機させていた人物を部室の中に招き入れた。

 眼鏡を額にかけた活発そうな少女が一礼して部室へ入ってくる。

 

「どうも円堂センパイ! こないだの試合はお見事でした! そちらの記事は読んでいただけましたか? 良く書けてるでしょう?」

 

 元気良く挨拶をする少女。

 円堂は手元の新聞と目の前の少女の顔を何度も見比べる。

 

「え? ってことはこの記事を書いたのは……」

「はい、私です! 部員よりも早く情報を得るなんて中々でしょう?」

 

 えへん! と胸を張る少女に、栗松が「あ!」と声を出すと指を突きつけた。

 

「キャプテン、キャプテン! さっき俺が言った新聞部の1年生ってきっとこの人でやんすよ!」

「あら? どうやら私の事をご存知のようで。では改めて自己紹介を! 雷門中1年生、音無春奈! 雷門中サッカー部のマネージャー志望です!」

 

 

 

 

「呪いだってぇ!?」

 

 音無から尾刈斗についての噂を聞いた円堂が思わず素っ頓狂な声を漏らす。

 壁山が怯えている以外は、皆信じている様子はない。

 音無はしかしそんな反応に構わず話を続けた。

 

「はい、尾刈斗と練習試合をした相手は試合中に突然足が動かなくなったとか、腹痛で倒れたとか、色んな原因で試合を棄権しているんです!」

「それって単なるウワサなんじゃないの?」

 

 部室内に積まれた古タイヤの上に腰掛けていたマックスが揶揄うように笑う。

 音無はそれにムッとした表情を浮かべた。

 そんなやり取りを傍から眺めながら、壁に背中を預ける豪炎寺は隣の染岡へ尋ねる。

 

「……どう思う? 染岡」

「どうもこうも、呪いなんてねぇだろ……豪炎寺お前もしかして、ちょっと信じてるのか?」

「……」

 

 染岡が苦笑混じりの視線を向けると豪炎寺はそっぽを向いてしまう。

 最後はキャプテンの円堂が両手を打ち鳴らして締めた。

 

「呪いだろうと何だろうとどんな相手だって、皆で全力でぶつかれば絶対に勝てるさ! よーし、そうと決まれば練習再開だ!」

 

 

 

 

「行くぞ、鬼道! 佐久間!」

「よし、今だ!」

 

 

帝国のサッカーコートでは、鬼道を中心とするサッカー部の面々が練習に励んでいた。 

鬼道の掛け声に合わせて、源田が蹴ったボールへ向かって佐久間が跳躍する。

 

「鬼道さん!」

 

 空中で体を前転させ、踵落としの形でボールを下へ蹴り落とす佐久間、その落下地点へ向けて鬼道が疾走した。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 そのまま落下してきたボールへハイキック────しかし直後、ボールは叩きつけられた鬼道の爪先を弾き返して、あらぬ方向へ吹き飛んだ。

 

「ぐあっ!?」

 

 反動で吹き飛ばされた鬼道が人工芝を転がる。

 慌てて駆け寄る源田と佐久間を手で制しながら、鬼道はヨロヨロと立ち上がった。

 

「タイミングがズレていたか……もう一度だ!」

 

 ダメージに構わず、再び走り出す鬼道。

 その背中を見ながら、佐久間が呟いた。

 

「あんなに必死な鬼道さんは初めてみるな……」

「あぁ。俺もアイツとの付き合いはそれなりに長いが…………それ程までに雷門との試合は応えたんだろう」

「それはお前もだろ、源田」

 

 佐久間が源田の手に嵌められたグローブを強引に引き抜く。

 その下から現れた手は、潰れた血豆や痣でボロボロになっていた。

 バツが悪そうにしながら源田は自嘲するように笑う。

 

「……まぁな、だが次は負けん。帝国のゴールを預かる者として、キングオブゴールキーパーの名にかけて、豪炎寺と染岡を必ず止めてみせる!」

 

 拳を握り締め、力強く誓う源田。

 そこへ、鬼道がボールを催促して呼び掛ける。

 

「行くぞ、佐久間。まずはこの技を完成させるんだ。【デスゾーン】、そして【皇帝ペンギン2号】を越える俺達帝国の新たな技を…………!!」

 

 

 

 

 

「行きますよキャプテン! それっ!!」

 

 宍戸が足元のボールを蹴りつける。

 カーブを描いてゴールの隅につき刺さらんと迫ったそのシュートは、しかし円堂のパンチであっさりと弾かれた。

 

「よーし、宍戸! もう1回だ!」

「は、はい!」

 

 円堂が再びゴール前で身構える。

 宍戸はそれを見届けると、再びゴールへ向けてシュートを放った。

 今度は一直線に進んだそれは、円堂の手の中にあっさりと収められる。

 

「どうした、宍戸! さっきよりもシュートが弱いぞ!」

「す、すいません!」

「宍戸! 力みすぎだ、もっとリラックスしろ!」

 

 円堂とシュート練習に勤しむ宍戸へ、染岡は離れた場所から大声でアドバイスを送る。

 

「絶好調だな、染岡コーチ」

「よせよ、俺はコーチなんてガラじゃねえ」

 

 風丸が揶揄うように笑いかけると、染岡は照れ隠しか苦笑いを浮かべる。

 自分を含むチーム全員へ必殺技の指導をしながらどの口が言うのか、と内心ツッコミを入れながら風丸は【疾風ダッシュ】の練習へ取り組んだ。

 

「そこだ! 加速する直前で思い切り踏み込め!」

「ああ!」

 

 走りながら、言われた通りに風丸は思い切り右足で踏み込む。

 途端、体が風のように軽くなり────気づけば、風丸は猛スピードでグラウンドを駆け抜けていた。

 

「できた! 出来ぞ、染岡!」

「あぁ、加速はバッチリだ。だが問題はここからだぜ?」

 

 染岡は意地の悪い笑みを浮かべながら持っていたボールを風丸へ蹴り渡す。

 

「【疾風ダッシュ】ってのはドリブル技だ。お前にはドリブルをしながら今のスピードを出せるようになってもらうう」

「よし、任せろ!」

 

 威勢よく答え、ドリブルをしながら加速していく風丸。

 そして肝心の加速のタイミングで、ボールが踏み込む足に当たって弾かれてしまった。

 

「しまった! ……くそ、もう1回だ!」

「あぁ」

 

 染岡は予備のボールを風丸へ蹴り渡す。

 受け取って再び走り出すも、今度は踏み込む足に当たらないよう意識し過ぎたのか、加速が上手くいかずに終わった。

 

「上手くいかないな……」

「言っただろ? 基礎練習は怠るな……こないだまで陸上部だったお前にゃ酷だが……要するにボールの感覚を掴みきれてねぇんだよ」

「ボールの……感覚?」

 

 ピンとこなかったのか、風丸が首を傾げる。

 染岡はニッと笑うとタオルを自分の目元へ巻き付けた。

 目隠しの状態になった染岡はそのまま足元のボールを蹴り上げると、その場でリフティングを始める。

 

「おうよ、それを掴めればこういうのも出来るようになる」

 

 喋りながら器用にリフティングを続ける染岡。やがて一際高くボールを蹴り上げると、ゴールで豪炎寺とキャッチの練習をしている円堂へ向けてボレーシュートを放った。

 

「ん? どわーっ!?」

 

 不意に飛んできたシュートに円堂の悲鳴が響く。

 それを尻目に目元のタオルを外した染岡は再度風丸へボールを渡した。

 

「1回目はお前はボールを意識できていなかった、2回目は逆に意識しすぎだ。いいか、ボールは目で見るもんじゃねえ…………心で感じるもんなんだ!」

「心で感じる…………目で見る物じゃない…………か」

 

 足元のボールをじっと見つめる風丸。

 やがて染岡を真似てタオルで目隠しをすると、ゆっくりとボールを蹴って歩き始めた。

 

「ボールを感じる…………なるほどな、上手く言えないけど確かに分かるよ。この感覚を自分の物にすればいいんだな!」

 

 よちよちと、拙い動きで少しずつ進んでいく風丸。

 それを見ながら染岡は笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

 

 

「……あれ? 宍戸は?」

 

 辺りも暗くなり練習を切り上げて部室で着替える中、円堂がふと呟いた。

 染岡もそれに反応して部室内を見回すが、円堂の言う通り宍戸の姿だけが見当たらない。

 

「先に帰ったんじゃないのか?」

「いや、片付けの時ゴールでシュート練習してたのを見たぞ」

 

 隣で自分のジャージをロッカーから取り出す風丸と、ユニフォームを脱ぎ掛けの豪炎寺が会話に参加する。

 それを聞いて染岡は脱ごうとしていたユニフォームを着直すと、ちょっと様子を見てくると言ってグラウンドへ向かった。

 近くまでたどり着いた染岡は、そのガラの悪い両目を大きく見開く。

 

「…………! 宍戸ォッ!!」

 

 大声を出しながら染岡は駆け出す。

 その視線の先にはゴール前で倒れ込む宍戸佐吉の姿があった。

 

「おい! 宍戸!! おい!!!」

「は…………はれ……? 染岡さん……」

 

 慌てて揺り起こすと、宍戸は困惑しながらも目を覚ます。

 染岡はホッとしながらも、声を荒らげて宍戸を怒鳴りつけた。

 

「馬鹿野郎! もうすぐ試合だってのに、倒れるまで練習する奴がいるか!」

 

 染岡の怒声に宍戸は一瞬びくりと身を竦ませたが、次の瞬間歯を食いしばると染岡の襟を掴んだ。

 

「だって…………! 俺、このままじゃダメなんですよ! 染岡さんは急に上手くなっちゃって、豪炎寺さんっていうストライカーも入ってきて…………栗松も、壁山も……皆自分の必殺技を見つけ始めてる! このままじゃ、俺だけ皆に置いてかれちゃうじゃないですか!」

 

 目元から涙を流しながら、宍戸は絞り出すように叫ぶ。

 予想外の反応に染岡は面食らうが、やがてその脳裏にかつての記憶が蘇る。

 

 豪炎寺に対抗してムキになる自分、そしてそれに対していつも不満を漏らしていた宍戸。

 いつの間にか無くなっていた構図だったが、今の宍戸の叫びを聞いた染岡は腑に落ちたような感覚を覚えていた。

 思えば染岡がサッカーへの情熱を無くして毎日部室で遊んで過ごしていた頃は、宍戸と良く連んでいた。

 宍戸からすればそんな先輩が突然やる気を出し始めて鬱陶しかったのか、豪炎寺のサッカーに嫉妬して危機感を抱いていた染岡がなりふり構わなくなるにつれて、宍戸も染岡に対して突っかかるようになっていた。

 あれは恐らく嫌悪感というより焦燥感からの物だったのだろう。詰まる所、染岡と宍戸が抱いていた感情は似たような物だったのだ。

 

 

「へっ………………」

 

 後輩に襟を掴まれているというのに、染岡は思わず笑みを零していた。本来の彼ならば、宍戸は今頃宙を舞っていたかもしれない。

 

「宍戸ォ…………」

「ひぃっ!?」

 

 染岡の出した低い声に、宍戸は自分がやっている事をようやく自覚したのか、顔を青ざめさせて飛び退いた。

 しかし染岡は怒るどころか顔を綻ばせると、宍戸の腕を引いて立ち上がらせる。

 

「気持ちは分かるけどよ……それで体壊したら結局本末転倒だろうが。オラ! 今日の練習は終わりだ、着替えてさっさと行くぞ!」

「行くって……何処へですか?」

 

 キョトンとする宍戸へ、染岡はニッと笑って見せた。

 

「決まってるだろうが。ラーメンだよ、ラーメン!」

 

 

 

 

 

 

 

「はいよ、ラーメン2人前だ」

「ありがとうございます。ひび……!」

 

 雷々軒、かつてのイナズマイレブンメンバーであり、染岡達雷門中の監督を務めた響木正剛の構えるラーメン屋である。

 しかし現段階ではただのラーメン屋の親父であり、現雷門中とは何の関わりもない。

 うっかり癖で響木監督と呼び掛けた染岡は、慌てて口を押える。隣の宍戸はその様子に首を傾げるが、響木は気にした様子も無く厨房内の椅子に腰掛けると新聞を広げた。

 しばし無言でラーメンを啜る。

 その内、沈黙に耐えきれなかったのか宍戸が口を開いた。

 

「俺……怖かったんです。皆、先に進んでるのに、俺だけ置いてかれちゃうような気がして」

「あぁ……」

 

 それは染岡もかつて感じていた物だった。

 自分と同じポジションでありながら、自分を遥かに上回る豪炎寺の加入、それによって皆自分を置いて豪炎寺と共に進んで行ってしまうのではないかという恐怖と焦燥。

 しかし─────

 

「そんな事しねぇよ。俺たちはチームだ、1人2人増えたからって、仲間を捨てたりしねぇ」

 

 染岡は宍戸の背中を優しく叩く。

 

「そんなに不安なら…………お前はお前のサッカーを見つけろ!」

「俺の……?」

 

 顔を上げる宍戸に、染岡は力強く頷いてみせる。

 それは、かつて豪炎寺へ対抗心を燃やす余り空回りする染岡へ円堂が送った言葉だった。

 

「そうだ。俺でも、豪炎寺でも、円堂でもねぇ…お前のサッカーを見つけるんだ。他の誰でもねぇ、宍戸佐吉だけのサッカーを!」

「俺の……俺だけのサッカー……?」

「ああ、他の奴なんて気にする必要はねぇ。お前は───宍戸佐吉っつう、俺たちの仲間なんだからな」

 

呆然としながら染岡の言葉を聞いていた宍戸、その表情が見る見るうちに明るくなった。

 

「染岡さん───分かりました!俺……見つけてやりますよ!俺自身のサッカーを!」

 

 元気よく返事をする宍戸、それに染岡は笑みを浮かべて応えた。

 

「お前ら、雷門中か」

 

 不意に、新聞を読んでいた響木が顔を上げる。

 染岡が肯定すると、響木はその髭を生やした口元にどこか懐かしむような笑みを浮かべて見せた。

 しかしそれを直ぐに消して、それきり口を開くことも無く響木は新聞へと顔を戻してしまう。

 

(俺は何にもしないぜ、円堂。この人を説得するのはお前の役目だからな)

 

 完食したラーメンの丼を置いて、染岡は不敵な笑みを浮かべる。

 その後、染岡と宍戸が退店するまで響木が新聞から顔を上げることは無かった。

 

 

 

 




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