でも染岡さんの方が好き
『さぁ──!! いよいよ始まります! あの帝国学園を相手に素晴らしい戦いを見せた雷門中と、倒した相手を呪うと噂の尾刈斗中の練習試合、まもなくキックオフです!!』
雷門イレブンと尾刈斗イレブンが対面して整列する中、お手製の実況テーブルで角馬圭太が声を張り上げる。
尾刈斗イレブンのまるで怪談や伝承がそのまま抜け出てきたかのような風貌に小心者の壁山はやや飲まれ気味だ。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「いえ、こちらこそ……」
ベンチではお互いの監督同士が挨拶を交わしていた。
ペコペコと頭を下げる冬海を見ながら、風丸は冷めた目で鼻を鳴らす。
「ふん、こんな時だけ監督ヅラして……」
「放っとけよ、あんな奴。それよりも試合に集中だ」
ぼやく風丸を窘めながら、染岡は円堂を握手を交わす目隠しをした相手チームのキャプテンを一瞥する。
目の意匠をあしらったバンダナで両目を覆う少年、幽谷博之。
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、円堂と握手を交わしている彼を染岡はじっと見つめている。
やがて苛立ったようにその刈り上げられたピンク色の髪を乱雑に掻きむしった。
(ダメだ! やっぱ思い出せねぇ…………)
なんとなく見覚えはあるものの、結局染岡が尾刈斗との試合内容を思い出すことは出来なかった。
気を切りかえて、試合へ向けて意識を集中する。
理事長の娘である雷門夏未によれば、この試合の結果によって雷門中が中学サッカーの祭典フットボールフロンティアに出場できるかどうか決まるのだ。迂闊な試合展開は許されない。
尾刈斗ボールで試合が始まる。
FWの月村からボールを受けた幽谷は、そのままドリブルで雷門ゴールへ切り込んだ。
「させないよ!」
すかさず止めに入ったマックスがボールを奪う。
予想よりも動きが速かったのか、幽谷はあっさりとボールを奪われてしまった。
「染岡!」
そのままマックスはパスを出す。それを受けた染岡は猛然と尾刈斗ゴールへ向けて駆け出した。
「まずい、止めるのです!」
焦りながらベンチで尾刈斗の監督 地木流が叫ぶ。
しかし帝国DFすら止めきれなかった染岡を止める術などある訳もなく、数秒後には尾刈斗中のゴールネットにボールが突き刺さっていた。
『ゴ──ール!! 雷門中のストライカー染岡! 早くも一点を決めた──!!』
1-0
角馬の実況が響き、観戦していた観客達から歓声が上がる。
試合再開のホイッスルが鳴り響くと同時に、今度は尾刈斗の武羅渡がドリブルで駆け上がった。
「行かせないよ……」
影野がボールを奪おうと武羅渡へ迫る。
武羅渡はそちらをチラリと見ると、上がってきた幽谷へパスを出した。
「止めてみなよ! 【ファントムシュート】!」
ダイレクトで幽谷が蹴りつけたボールは、無数の火の玉となって円堂が守るゴールへ迫る。
「入れさせるか! 【ゴッドハンド】!!」
幽谷の必殺シュートは円堂によってあっさりと止められる。
しかしそれを目の当たりにした尾刈斗の面々に悔しがる様子はない。
むしろこのくらい当然、とでも言うような態度だ。
(なんだ……?)
それを見て円堂は疑問を抱く、が考えても答えは出ない。
「風丸!」
「おう!」
DFの風丸へボールを投げ渡す、その瞬間、尾刈斗キャプテンの幽谷が叫んだ。
「監督! アレを使います!」
「いいでしょう……」
監督の地木流が頷く。
そして前髪をかきあげた途端、それまでの紳士的な態度を豹変させた。
「ひゃーははは! その目に焼き付けろ雷門! これが我々の必殺タクティクスだ!」
「必殺タクティクス?」
聞きなれない言葉と相手の監督の変化に風丸が思わず足を止める。
直後、フィールド中央に集結した尾刈斗のFWとMFが奇妙な動きで両手を動かし始めた。
「あぁ? 何してやがるこいつら…………」
怪訝そうな顔でそれを眺める染岡、その瞬間、ようやくかつての試合の内容が記憶に蘇る。
「まずっ…………」
「もう遅い! 必殺タクティクス!! 【ゴーストロック】!!」
高らかに叫ぶ幽谷。
直後、雷門イレブンの全員が一斉に動きを止めた。
「何……? 皆どうしたの!?」
ベンチで試合を見守っていた木野が困惑しながら呼び掛ける。
1番近くの栗松が慌てた様子でその声に応えた。
「う、動かないでやんすよ! 足が全く動かないでやんす!」
「ええ!?」
その返答に驚いてフィールドを見回せば、雷門イレブンは皆揃って足の裏が地面に張り付いてしまったかのように藻掻いていた。
染岡と豪炎寺ですら、無理やり足を動かそうと奮闘している。
「くくく…………」
そんな中、風丸の足元からボールを掠めとった幽谷はそのまま雷門ゴールまで駆け上がっていく。
「不味い、円堂────!!」
叫びながら風丸が視線を向ければ、円堂も両足が動かせ無くなっているのが見えた。
「喰らえ【ファントムシュート】!」
先程と同じシュート、しかし今度はしっかりとゴールネットが揺らされた。
『ゴ──ール!! なんと雷門中が全員動きを止める中、尾刈斗幽谷がゴールを決めた──ー!!』
1-1
円堂の目の前に転がるボールを、全員が呆然と眺める。
豪炎寺さえも苦虫を噛み潰したような顔で立ち尽くす中、染岡だけが頭をかきあげながら考え込んでいた。
(【ゴーストロック】……! 確か豪炎寺が破った技だよな……問題はどうやって破ったか、だが…………)
肝心な所が思い出せない。
悩み込む染岡を待つことなく、試合が再開する。
「くっ…………染岡! あの技を使われる前に速攻を掛けるぞ!」
「お、おお! 任せろ!」
豪炎寺と染岡のパス回しに翻弄され、尾刈斗はあっさりとDFラインまでの侵入を許す。
「ちっ……!」
ゴール前で染岡へパスを出そうとした豪炎寺は、尾刈斗DF陣が全員がかりで染岡をマークするのを見て舌打ちした。
そして頭上へボールを蹴り上げると自らも炎を纏いながら空中へ駆け上がる。
「【ファイアトルネード】!!」
豪炎寺の必殺シュート。尾刈斗ゴールを守るジェイソンマスクのGK 鉈は先程の幽谷達のように両手を妖しく動かす。
「【歪む空間】!」
ゴールへ向けて一直線へ進むボール、それは突然勢いを失ったかと思うと、吸い込まれるように鉈の両手の中へ収められた。
『と、止めた──────!! 尾刈斗GK鉈! 帝国のゴールすら奪った豪炎寺の必殺シュートを止めてみせた──ー!!!』
実況の角馬の興奮した声が響く。
完全に止められたボールを、豪炎寺は信じられないといった様子で見つめていた。
結局その後、雷門中は尾刈斗の必殺タクティクスに翻弄され続けた。
突破口すら見つからないまま、幽谷の必殺シュートでもう一点を奪われ前半を終えたのである。
「染岡」
雷門中の全員が沈んだ表情で休憩をとる中、水分補給していた染岡の元へ豪炎寺がやってくる。
「どうした?」
「お前に聞きたい、あのキーパー……どう思う?」
豪炎寺がちらりと視線を向ける先には、尾刈斗のGKの姿があった。
「……そうだな、言わせて貰えば…………帝国の源田程の実力があるとは思えねぇ」
「だが、現に俺のファイアトルネードは止められた」
帝国との練習試合で源田の【パワーシールド】を打ち破ったファイアトルネードがこうもあっさりと止められた事実に、豪炎寺自身も困惑しているようだ。
「何かタネがあるんじゃねえか? 例えばあの手の動きとか─────あ!」
そこまで言ったところで染岡は漸くかつての尾刈斗戦の記憶を完全に思い出す。
そしてそこまで聞いた豪炎寺もピンときたのか、少し驚いたような表情で染岡を見つめた。
「暗示、催眠術の類か…………」
「タネさえ思い出せ……分かればこっちのもんだな」
豪炎寺と染岡はニヤリと笑みを浮かべながら尾刈斗のベンチを一瞥する。
雷門 尾刈斗
1 2
後半戦、開始。
「行くぞ、皆!」
円堂が両拳を打ち合わせながら叫ぶ。
しかし壁山や栗松は落ち込んだ様子で返事をしない。
風丸やマックスも返事はしたもののその勢いは明らかに弱かった。
「相当効いてるなアイツら」
「原理が分からないんじゃ、対策のしようもないよね!」
雷門ボールでのキックオフ、それと同時に月村と幽谷がボールを持つ豪炎寺へ襲いかかる。
「渡すか! うおおおおお!!」
豪炎寺が雄叫びをあげる、それと同時にその全身を燃え盛る炎が包み込んだ。
「【ヒートタックル】!」
「なに!? うわぁぁぁっ!?」
炎のタックルで2人まとめて吹き飛ばし、豪炎寺はそのまま尾刈斗ゴールへと攻め込む。
「豪炎寺修也はいい、染岡竜吾だけは封じるのです!」
「「「おお!」」」
地木流の指示で動いた尾刈斗DF陣が染岡を取り囲む。
それによってノーマークとなった豪炎寺はそのままゴール前へ到達した。
先程の技に余程の自信があるのか、そんな状況でも鉈は慌てる素振りすら見せない。
「【ファイアトルネード】!」
炎を纏いながら飛び上がった豪炎寺が、空中のボールを蹴りつけようとする。
それを見た鉈は再び両手を激しく動かした。
「【歪む空間】!」
「今だ! 染岡!!」
その瞬間、豪炎寺は体をさらに半回転させるとゴールではなく後方で尾刈斗DFに包囲される染岡へ向けてシュートを放つ。
「待ってたぜ、豪炎寺!」
DFに囲まれる中、ずっと目を閉じていた染岡は豪炎寺の声に反応して開眼する。
そしてそのまま体を捻りながら真上へ跳躍した。
「うおおおらァ!! 【ドラゴンキャノン】!!」
後ろ回し蹴りがボールへ叩き込まれ、赤い竜の幻影と共に尾刈斗ゴールへ迫る。
再び必殺技を使う間もなく、染岡のシュートはゴールネットへ突き刺さった。
『ゴ────ール!! 雷門ストライカー、染岡竜吾が2点目を決めた────!!!』
2-2
「もう一度行くぞ」
「ああ、次は【ゴーストロック】も来るぞ」
ハイタッチを交わしながら、豪炎寺と染岡は尾刈斗イレブンの様子を伺う。
【歪む空間】が破られた事に慄いているのか、幽谷達からは先程までの余裕は失われていた。
恐らく次は出し惜しみはしないで攻めてくる筈だ。
「ま、マグレだ、行くぞ! 【ゴーストロック】!!」
キックオフと同時にフィールド中央に集結した尾刈斗メンバーが妖しい手の動きを始める。
それを目にした瞬間、豪炎寺が叫んだ。
「全員、目を閉じろ!」
「豪炎寺!?」
サッカー中にあるまじき指示に円堂や風丸は戸惑いを隠せない。
豪炎寺はそれを見てもう一度叫ぶ。
「奴らの手を見るな! 前半の金縛りの原因は……あの手の動きによる催眠術だ!」」
【ゴーストロック】の原理、豪炎寺の指摘が図星だったのか、尾刈斗の面々に明らかな動揺が走る。
しかし雷門側も困惑を隠せない。
「み、見るなって……ボール持ってる相手を見ないでどうやって守るっすか!?」
「そうでやんす! 見ないでサッカーするなんて無茶でやんす!」
騒ぐ壁山と栗松。その隣で風丸は顎に手をやり考え込んでいた。
(見ないで守る…………ボールを見ないで…………そうか!!)
「くっ……タネが分かったからってなんだ! 【ゴーストロック】がある限りお前たちは俺たちの方を見れないんだ!」
幽谷が身動きの取れない雷門メンバーの間を縫って勢いよく雷門ゴールへ攻め込む。
しかしそれを目を閉じたままの風丸が阻んだ。
「! こいつ、目を閉じたまま……」
「ボールの感覚を掴む……! そこだ!!」
疾風の如く加速した風丸が幽谷の足元からボールを掠め盗る。
呆気に取られる幽谷をよそに、風丸はそのスピードを保ったまま尾刈斗ゴールへと駆け上がった。
「これだ……! これが染岡の言っていた事か!」
「行かせるか!」
尾刈斗メンバーが周囲を囲む。
しかし風丸はそれを何の意にも介さず、まさに疾風の如く一瞬で全員を抜き去ってみせた。
「これが俺の……【疾風ダッシュ】だ! 行け、豪炎寺!」
そのまま、豪炎寺へパスが出される。
それを受け取った豪炎寺は向かってくる尾刈斗DFをあっさりと抜いて一対一で鉈と対峙した。
「行くぞ! 【ファイアトルネード】!」
「くっ……! 調子に乗るな……【キラーブレード】!」
豪炎寺が炎を纏いながら空中へ飛び上がる。
対する鉈は右手にエネルギーの刃を形成し、身構えた。
炎のシュートへ鉈のキラーブレードが振り下ろされる。
一瞬の拮抗。だが次の瞬間、鉈の刃は粉々に粉砕されていた。
『ゴ────────ール!! 雷門中、染岡と豪炎寺の連続ゴールで一気に逆転だ──────!!』
「ば、馬鹿な……雷門中は染岡竜吾と豪炎寺修也以外は雑魚の集まりの筈では…………」
得点板に刻まれた数字を見ながら、尾刈斗の監督は前髪をかきあげながらワナワナと身を震わせる。
「ふざけるなァァァァァァッ!! テメェら! 雷門の連中に地獄を見せてやれ!!!」
「言われなくても……このままじゃ終われない!」
監督の声援(?)を背中に受けながら、幽谷は月村と武羅渡との連携で雷門DFを突破していく。
「うおおおおおおおおお! 【ファントムシュート改】!」
月村からのパスを受けた幽谷は、そのままダイレクトでボレーシュートを放つ。
無数の火の玉へ分裂したボールは、先程よりも速いスピードで円堂が守るゴールへ襲いかかった。
(速い! ゴッドハンドじゃ間に合わない! なら……これだ!)
円堂の拳が炎を纏う。
迫り来る火の玉が眼前で一つになった瞬間、円堂はそこへ炎の拳を叩きつけた。
「【熱血パンチ】! だぁぁぁぁっ!」
「なっ……新技!?」
拮抗した後、円堂の拳がファントムシュートを突き破りボールを弾き飛ばす。
零れたボールを拾い上げた栗松はそのまま前線へと大きくパスを出した。
「染岡さん!」
「おお!」
DFの包囲を大跳躍で抜け出し、空中でパスを受け取った染岡はそのまま豪炎寺へ向けてボールを蹴り込む。
「豪炎寺ィッ!! 合わせろ! 【ドラゴンズテイル】!」
龍の尾のようにしなる染岡の足がボールを激しく蹴り付ける。
豪炎寺は頷くとタイミングを合わせながら炎を纏って飛び上がった。
「【ファイアトルネード】!」
シュートチェインによって威力が倍増したシュートが尾刈斗ゴールへ迫る。
その迫力に鉈は思わず身を逸らしてしまい、ボールは何の障害もなくゴールネットへ突き刺さった。
同時にホイッスルが鳴り響く。
『ゴ────────ール!! 最後は染岡と豪炎寺の連携シュートで決めた──ー!! 4-2で雷門の勝利だ──────!!! 』
「僕達が…………負けた」
呆然とする幽谷、そこへ円堂が駆け寄った。
円堂の顔を見た幽谷は悔しげに歯を食いしばると、雷門中イレブンへ指を突きつける。
「円堂守…………今度やる時は、絶対に勝ってみせる! 見ていろ雷門、次に戦う時はフットボールフロンティアだ!」
「ああ! 絶対にまたやろうぜ!」
円堂と幽谷がキャプテン同士固い握手を交わす。
お互いのチームが健闘を称え合う中、雷門の監督である冬海だけは忌々しげにその光景を見つめていた。
そして近くの木陰を一瞥する。
「へーぇ、アレが雷門中か」
木陰から試合を眺めていた青髪の長身痩躯の少年が冬海と視線を交わすと、口元に笑みを浮かべながらフィールドへ背を向けた。
「分かっていますね、君の役割は…………」
「はいはい…………染岡竜吾に豪炎寺修也、円堂守…………ねえ。ま、精々頑張ってもらおうかな 」
頭の後ろで手を組みながら、少年は鼻歌交じりでグラウンドから歩き去る。
その後ろ姿を見つめながら、冬海は額の汗をハンカチで拭いつつどこかへ電話を掛けるのだった。
【ドラゴンキャノン】
ドラゴンなので当然染岡さんも使える技。初出は2の漫遊寺の選手。
どう考えても染岡さんが自力習得するべき技。
1人ドラゴントルネードみたいな感じ
【ドラゴンズテイル】
ドラゴンなので当然染岡さんも使える技。ゲーム版だとケツからドラゴンの尻尾を生やす。
元はネタ技みたいな感じなのですがこの作品では勝手に内容を変えてます。