と思ったけどベータちゃんがおったわ
「フットボールフロンティアだぁーーーーー!!」
「「「おおーーー!!」」」
「絶対に勝つぞーーーーー!!」
「「「おおーーー!!」」」
部室の中央に立つ円堂の呼び掛けに合わせて、栗松達が声を張りながら拳を突き上げる。
尾刈斗との試合に勝利した事でフットボールフロンティアへの参加権を手にしたことで、連日この調子である。
風丸や豪炎寺、それに染岡といった比較的冷静な面子はその様子を苦笑混じりに眺めていた。
「いつまでやってるんだアイツら…………」
「まあ、喜ぶ気持ちは分からなくも無いけどな」
「貴方達、何やってるのよ…………」
呆れ顔で入ってきたのはこの雷門中の理事長の代理であり、その娘である雷門夏未だ。
サッカー部を嫌っており度々廃部にしようとしてきた人物だが、染岡の知る未来ではその嫌いなサッカー部のキャプテンである円堂と結ばれているのだから恋心とは複雑怪奇である。
「お、夏未!約束どおり、俺たちフットボールフロンティアに出れるんだよな!」
「ええ、勿論。約束は守るわ。でも1回戦敗退なんて惨めな結果は許さないわよ」
「わーかってるって!」
グッとサムズアップしながら、満面の笑みを浮かべる円堂。
それに冷めた表情を返しながら、雷門夏未はヒラヒラと手を振って部室を出ていってしまった。
「……何しに来たんだ?アイツ」
「大会頑張れ……って感じじゃないよな?」
豪炎寺と風丸が不思議そうに首を傾げる。
そこへ、夏未と入れ替わりで冬海が部室へ入ってきた。
「円堂くん、入部希望者を連れてきたのですが」
「え!?冬海先生!本当ですか!?」
冬海の言葉に円堂が思わず詰め寄る。
その勢いに押されながら、冬海は部室の外の人物を招き入れた。
青髪の長身痩躯の少年がウィンクしながら挨拶する。
「チーっス、俺、土門飛鳥。DF志望でヨロシク」
「おおーー!俺、円堂守!!一緒にフットボールフロンティア優勝目指して頑張ろーぜ!!」
軽薄そうな態度の土門の手を取り、ブンブンと振り回す円堂。
されるがままの土門を庇うように割って入った冬海は「転校の手続がある」と告げると彼を連れて部室を出ていってしまった。
「あ、そうそう…………1回戦の相手が決まりましたよ。相手は野生中という所だそうです」
去り際にそう言い残すと、冬海は部室のドアを閉めて行ってしまう。
「野生中?聞いたことないな……」
「去年の地区予選準優勝校だ」
首を傾げる円堂へ豪炎寺が告げる。
それを聞いた円堂がええ!?と思わず声を上げた。
「って事は地区予選じゃ帝国の次に強いってことか!?」
「そうは限らねぇだろ。俺たちみたいに今年からってチームもあるし、去年より強くなってるチームだってある筈だぜ」
円堂の言葉を窘めながら、染岡は何か情報はないか?と豪炎寺を一瞥する。
顎に手をやり考え込む豪炎寺、やがてその口が開かれる瞬間、部室のドアが勢い良く開いて音無が飛び込んできた。
「ハイハイハーーイ!野生中の情報はバッチリですよー!!」
「音無!」
手帳を開いた音無はそこに記された野生中の情報を読み上げていく。
「野生中は自然に囲まれた環境が特徴の学校で、サッカー部も高い身体能力が持ち味のチームになってます!そしてなんと言っても……」
「奴らは空中戦が強い。帝国でさえも奴らとの試合では空中戦は挑まなかった程だ」
先程の意趣返しと言わんばかりに、豪炎寺が音無の台詞を奪う。
頬を膨らませて抗議の視線を向ける音無へ澄まし顔で返しながら、豪炎寺は話を続けた。
「俺の【ファイアトルネード】は正直言ってアイツらとは相性が悪い。染岡なら破れる筈だが、尾刈斗戦みたいに徹底マークされればこっちはかなり分が悪いな」
「確かに……2人がダメなら得点できないでやんす」
栗松が落ち込んだように肩を落とす。
それを見た壁山も眉を八の字にして溜息をついた。
「……帝国と引き分けたのも尾刈斗に勝てたのも……染岡さんと豪炎寺さんがいたからっす。その2人が通用しないんじゃ……」
「馬鹿野郎!やる前から諦める奴がいるか!」
落ち込む部室の空気を打ち破るように、染岡が一喝する。
そして丸まる壁山の背中を思い切り叩いた。
「連中が空中戦が得意だっつぅなら、こっちはそれよりも高い所からシュートを打ち込んでやりゃあいいんだろうが!」
「でもそんなのどうやってやるっすか……」
「それを皆で考えんだよ!」
自身が知る事は口にせず、後輩たちを励ますように染岡は声を張る。
聞いていた円堂は頷くと拳を頭上へ突き上げた。
「染岡の言う通り!よし、今日の練習は野生中対策だ!」
「くぅーーー!やっぱ練習後のラーメンは美味いぜ!」
「しかし高い位置からのシュートか……中々上手くいかないな」
円堂、風丸、豪炎寺、染岡の4人が雷々軒のカウンターに並んでラーメンを啜る。
響木は相変わらずラーメンを提供した後はカウンターの内側で新聞を広げていた。
「円堂、確かゴッドハンドはお前の爺さんのノートにあった技なんだよな?他の技とかは無いのか?」
風丸が隣で丼を傾ける円堂へ尋ねる。
その言葉に引っかかったのか、響木は新聞から顔を上げると円堂をジッと見つめた。
スープを飲み干し、視線に気がついた円堂はどう反応していいのか分からないのかアタフタしている。
「ゴッドハンド……それにそのバンダナ…………おい、お前……名前は?」
「え?円堂……円堂守だけど」
円堂、その名を耳にした瞬間響木はサングラスの奥の目を大きく丸くした。
そして次の瞬間、大口を開けて笑い出す。
「そうか、そうか!お前、大介さんの孫か!」
「え!?おじさん、爺ちゃんの事知ってるのか!?」
思いもよらない反応に、円堂は目を輝かせながらカウンターに身を乗り出す。
その目と鼻の先にお玉を突きつけて、響木はニィと笑ってみせた。
「大介さんは色んな技を秘伝書として残していた。例えばお前の持っているという【ゴッドハンド】のノートもその1つだ」
「秘伝書……!?」
「今も雷門中には大介さんの秘伝書がある筈だ。お前たちの求める物もその中にある……だが覚えておけよ、大介さんの秘伝書は、いつかお前たちに災いを呼ぶぞ」
災いを呼ぶ、響木のその物言いに豪炎寺と風丸が眉を顰める。
しかし円堂はそれを気にする様子もなく、はしゃいだ様子で豪炎寺達の背中を叩いた。
「よーーし!そうと決まれば明日から秘伝書探しだ!おじさん!ご馳走様!」
代金をカウンターに置くと、円堂はそのまま店を飛び出して行ってしまう。
呆れ顔でそれを見送った風丸と豪炎寺は、ヒソヒソ声で話し始めた。
「…………どう思う?」
「……なんとも言えん。そもそもなんでラーメン屋のオヤジが円堂の爺さんのノートについて知ってるんだ?」
風丸と豪炎寺が疑うような目をカウンターの中へ向ける。
響木は円堂を見送ると再び新聞を広げてしまっていた。
そこへラーメンのスープを飲み干した染岡が話に参加する。
「考えたって仕方ねぇだろ、俺らだけじゃ限界もあるし真偽は兎も角、試してみる価値はあるじゃねえか」
「染岡…………そうだな」
その言葉に風丸と豪炎寺は頷く。
染岡はニッと笑いかけると響木へ声を掛けた。
「それじゃあ響木さん、ありがとうございました」
「………………」
ラーメンの代金をカウンターへ置く染岡、豪炎寺と風丸も真似てカウンターへ自分の代金を置いた。
響木は染岡に名前を呼ばれた瞬間、1度だけピクリと反応したがそれきり口を開くことは無かった。
「…………で、その秘伝書を探すって?」
今日が練習初参加である土門は、雷門中の理事長室の前に屯するサッカー部の面々を眺め回して呆れ顔を見せた。
本人たちは物陰に身を隠しているつもりなのだろうが、如何せん人数が多すぎて全く隠せていない。壁山に至っては隠れる気すら無いようだ。
「もしかして、いつもこんな感じ?」
「まさか。今日だけだろ」
不安そうにする土門に返しながら、風丸も呆れ顔で円堂を眺める。
「……よし、理事長はいないみたいだ。他の所は探し尽くしたし、後はここだけだ!今のうちに行くぞ!」
円堂が素早くドアを開けて、理事長室の内側へ身を滑り込ませる。
栗松や宍戸がそれに続く。
続いてそれを真似をした壁山が飛び込むとドア枠にその巨体を詰まらせてしまった。
「う、動けないっす〜!助けて〜!」
「何やってんだバカ、そぉら!」
見かねた染岡が足をばたつかせる壁山の尻へタックルする。
超次元サッカーの現役プロのフィジカルを宿す染岡の肉体から放たれたタックルは、中学生離れした体格の壁山を軽々と吹き飛ばした。
ただし、嵌っていたドア枠ごとだ。
「……………………」
「「「………………」」」
円堂達も、破壊した張本人の染岡も絶句しながら引っこ抜かれたドア枠の跡を眺める。
壁山だけが腹を金属製の長方形にはめ込んだまま、臀部をさすりつつよろよろと立ち上がった。
「あいたたた……酷いっすよ染岡さん!手加減くらいしてくれても…………」
呑気に抗議する壁山を他所に、染岡達は顔を青ざめさせる。
ドア枠が破壊された余波で、理事長室の装飾が施された綺麗な壁には無残な亀裂が走っていた。
「お、おい、染岡…………」
「ああ、やべぇな……」
ダラダラと嫌な汗を流す染岡、直後その表情が凍りつく。
「本当に何やってるのよ貴方達…………」
廊下に立ち塞がる理事長室の主、雷門夏未は心底呆れた表情でサッカー部の面々を見回していた。
「この壁の損傷……修繕費は壁山君と染岡君の2人で割ってもかなりの額になるわね」
壁の損傷部を撫でながら発せられた夏美の言葉に染岡と壁山は顔を青くした。
プロとして活躍していた時なら兎も角、今の自分はごく一般家庭の中学生。壁山も同様だ。
富豪の夏美ですら「かなりの金額」と表現する程の額をポンと用意できるとはとても思えない。
「夏美、壁を壊したのは謝る!何とかならないか?」
懇願する円堂、それに続くように栗松達や、風丸も夏美へ頭を下げる。
はぁ、とため息をついた夏美は腕を組んで彼らを見回した。
「…………いいでしょう、修繕費については不問とします。生徒を路頭に迷わせるのは私としても不本意だもの」
「本当っすか!?よ、良かったっす〜「ただし!」!?」
安堵の息を漏らす壁山へ、夏美がビシッと指を突きつける。
「フットボールフロンティアで必ず優勝する事。もし負けたりしたら請求書が貴方達の自宅に届く事になるわよ。それにサッカー部も廃部にするわ」
「望むところだ!やったな、壁山!染岡!」
壁山と夏美の間に割り込んだ円堂がニッと笑う。
安堵の息をつく染岡とは対照的に、壁山は不安そうに目を伏せた。
「……それで、貴方達ここに何しに来たの?まさかドアを壊しに来ただけってわけじゃないわよね?」
「あ、そうだ!夏美!俺のじいちゃんの秘伝書って何か知らないか!?それを探しにここへ来たんだ」
秘伝書?と夏美が首を傾げる。そして何か思い出したように理事長室へ入ると窓際に置かれた机の引き出しから1冊のノートを取り出した。
「もしかしてこれの事かしら?理事長室の金庫の中にあったものだけど、秘伝書というよりは子供の落書きノートよ?てっきりお父様の私物かと…………」
「それ、それだ!本当にあったのか!」
ノートを受け取った円堂は内容を確認して狂喜乱舞する。
パラパラとめくっていき、やがてとあるページを皆へ見せつけた。
「これだ!雷々軒のおじさんが言ってたのは!【イナズマ落とし】!」
そこに書かれていたのは乱雑に引かれた線と、踏まれてのたうち回る死にかけのミミズのようにぐちゃぐちゃに乱れた文字のような何かだった。
「…………何だ、これは」
クールな豪炎寺でさえも、困惑を隠しきれない。
とても常人には解読不能な内容に、皆困惑する。
「ほら、言ったでしょう?子供の落書きノートみたいだって」
「?何言ってるんだ?読めるだろ。ほらココに【イナズマ落とし】って書いてあるじゃないか」
キョトンとしながら言う円堂に全員が目を剥く。
円堂が指し示す辺りにはやはり死にかけのミミズのようにぐにゃぐにゃした線しか書かれていなかった。
「なんていうか……凄い字だな」
「円堂だけにしか読み解けない暗号って訳か……もし他校のスパイがいてもこれなら安心だな」
冗談めかして言う風丸。その言葉に土門がビクリと体を震わせるのを染岡は見逃さなかった。
(やっぱし警戒はされてるか…………)
土門は元々帝国学園から雷門中へ派遣されたスパイである。
染岡の知る過去では最終的に雷門中を守る為に同じスパイである顧問の冬海を告発し、正式に雷門イレブンの仲間となったのだが…………
(影山も俺たちの事は前以上に警戒してるだろうしな、下手したら土門が裏切れねぇように何か手を打ってるかもしれねぇ。…………いざとなったら俺がやるしかねぇか)
一人静かに決意する染岡を他所に、夏美を含む他の皆は円堂の持つ秘伝書に見入っていた。
「それで、その【イナズマ落とし】はどうやってやるんだ?」
「ええっと……まず1人がピョンと跳ぶ!もう1人がその上でバーンってなって、クルッてなって、そしてズバーン!だ」
「「「「………………」」」」
円堂の口から飛び出てきた説明に全員思わず黙り込む。
文字も超次元なら内容も超次元だ。
呆れを隠しきれず、風丸がポンと円堂の肩を叩いた。
「円堂……お前のじいさん、国語の成績良かったのか?」
「いやあ、サッカー一筋な人だったらしいし……」
苦笑いを浮かべる円堂は、誤魔化すように兎に角!と声を張り上げた。
「この技を完成させれば野生中が相手でも点を決めれる筈だ!よーし、特訓だ!」
「特訓って……今の説明でどんな特訓をするでやんすか!?」
「全力でやれば、きっと何かが見つかるさ!行くぞ!!」
栗松の肩を掴んだ円堂は、そのまま栗松ごと部室を飛び出していってしまう。
目を丸くしたまま顔を見合わせた染岡と豪炎寺は、やがて小さく噴き出すと唖然としている皆を連れて円堂の後を追いかけるのだった。
色々あって更新遅れそうです
アイスボーンやプロスピ新作よりも先にアレスの天秤が出る、そんな風に考えていた時期が俺にもありました。