五等分の花嫁 by Strawberry   作:はちゃメチャ

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第2話となります


#2 交わる

 

 

「その........さっきは悪かったな」

 

 

 

「いえ........もう落ち着いたようですね」

 

 

顔を合わせてからというもの、平常心を取り戻すまでやけに時間をかけた

 

 

涼しい室内へと通され、出された麦茶を飲み干してもどうも喉が乾いた

 

鼓動も騒がしく、周りの音が一切流れ込んでこない

 

 

中野さん.......つまり、俺の雇い主はこの間に仕事に戻るため退席

 

 

目の前に腰掛ける少女–––中野五月

 

 

顔立ちは当然だが、あの人と比べるとまだ幼い

 

だがどうしても、あの人が重なる

 

 

苗字も同じ中野.......本当に偶然か?

 

 

 

 

.......それにしても悪いことをしちまった

 

 

人の顔を見て固まるなど

 

 

変な奴だと思われても仕方ねぇか

 

 

心を入れ替え

 

 

目の前のテーブルに広げられた資料–––中野さんが去り際に俺に手渡した物–––に目を通し始める

 

生徒.....つまり五月の学業に関する情報を予めまとめておいてくれたもののようだった

 

在籍高校, 得意科目、所属部、直近の定期テストの結果などを全て細やかにレポート化しておいたと中野さんは言っていた

 

 

......それを差し引いてもやけに分厚過ぎやしねぇか?

 

 

中野五月......高校二年生、高校は家から徒歩で間に合う距離

 

得意科目、理科

 

部活動–––現在未所属

 

 

そして家庭教師(するかはまだ決めてないが)の立場からして最も気になる現状の学力

 

 

丁寧に答案用紙も一緒に同梱されるは、5教科のスコアが一覧になったページ

 

 

........ん?

 

 

俺は一度天井を見上げ、目を擦った

 

 

見間違いだ そうに決まってる

 

 

視線を資料に戻す

 

 

しかし俺の視界が捉えたのは数秒前と全く同じ光景だった

 

 

「......なぁこれって.......何点満点だ.....?」

 

 

「.......100です」

 

 

「........50じゃなくて?」

 

 

「........100です」

 

 

オッケー、もう聞かねぇ

 

 

 

........50点満点でも笑える点数じゃないんだが

 

得意教科–––のはずの理科の点数も見れたもんじゃない

 

よく見ると目の前の五月の肩がプルプルと震えていた

 

「昔から勉学はからっきしでして.....」

 

 

「俺も中学の時の成績はお粗末なもんだったがここまで酷くなかったぞ...」

 

 

「うぅ......!」

 

 

遂には呻き声まであげる五月

 

 

あげたいのはこっちだというのに

 

 

「......てことは、最初から勉強できたわけではないのですね?」

 

 

いい質問だが......聞いてほしくはなかった

 

 

「まぁ.....そうだな......色々あってな」

 

 

本当に色々あった時期だ

 

 

「確か全国模試で2位になったこともあると父が」

 

 

「.....昔のことだ」

 

 

やはり名指しで家庭教師を依頼するくらいだ

 

俺のことを大分調べ上げたようだ

 

 

「急に勉強に励んでみたら、案外才能あったってだけだ」

 

 

空のコップに再び注がれたお茶を口に運ぶ

 

 

「謙遜しないのですね.......まぁするなという方が無理でしょう」

 

 

「でも気になります....どうしてそこまで学業に打ち込むようになったのか」

 

 

「......言ったろ、色々あったんだ」

 

 

話すほどのことじゃない、と付け加え五月の顔を見ると、少々憮然気味ながらも納得した様子

 

 

「にしても、少し安心した」

 

 

「何がですか?」

 

 

「俺はてっきり娘を一流大学に入れてやってくれなんて頼まれるのかと思ってた。まさか卒業だけでいいなんてな」

 

 

彼女の言ってる高校の赤点は30点

 

 

つまり俺の仕事は何とか全教科30点以上取らせればいい

 

 

それなら–––

 

 

「けど、そうなると分からねぇのがこの給料だ、些か弾み過ぎやしねぇか?」

 

 

五月がキョトンとした顔を見せてるが何かおかしなことを言っただろうか

 

 

「何ならこれの5分の1とかでもいいぞ」

 

 

五月の表情は尚些少も変わらず

 

 

「いえ、相応の額だと思いますが?」

 

 

「え?」

 

 

何とも乾いた間抜けな声が出てしまった

 

 

いくら絶望的な現状の成績とはいえ生徒1人の赤点回避などで、この突き抜けた給与額

 

ちょっと待て

 

 

やはりおかしい.......このバイト.......まだ何か裏が.......

 

 

「もしかして.....」

 

 

五月が何か言おうとしてたが

 

 

 

答えは向こうからやってきた

 

 

「あ!家庭教師の方もう着いてたんですね!」

 

 

背後から活発な声がした

 

 

反射的に振り向くとそこには–––

 

 

「五月ちゃん、ごめん遅れちゃって」

 

 

「.......へぇー、悪くないじゃない」

 

 

「遅れたのは四葉が先生の手伝い始めちゃったからだけど」

 

 

 

 

五月が更に4人いた

 

 

約1名ジロジロと人の顔を見る不躾な五月が混ざってたが

 

 

 

 

点と点が繋がった感覚

 

 

分厚い資料、相場からかけ離れた破格の給料

 

 

これで謎が解けた.......というよりかは勝手に謎の方から蒸発した

 

 

資料を読み進めると生徒1人の情報の1セット––それが5セットあった

 

まとめられた情報は五月と概ね同じ

 

つまり簡単にこの仕事を要約すると

 

 

「要するに赤点候補の五つ子をそれぞれ赤点回避できるまで鍛えろ......と」

 

 

「そうなるねー」

 

 

今この家のリビングには俺と五つ子の6人がテーブルを挟み会合している

 

 

俺の隣に座ったショートカットの長女–– 一花は五月とは対照的な、如何にもな典型的な女子高生といった感じ

 

 

「何かあるなとは思ったけど、こりゃねえって.....」

 

 

因みに他の姉妹のテスト結果はまだ見ていない.....いや、恐ろしくて見れない

 

 

「只でさえ人に教えたことがない俺が、5人に教鞭取る上に......」

 

 

今手に握られるは穴が空くほど見た五月の点数一覧

 

 

もし他の姉妹が[コレ]と同等レベルだったら......いや、もう直観的にわかっていたが

 

 

「五月は私達の中では成績良い方だけどね」

 

 

はい、追い討ち止めてください、胃が変な音たてはじめたもの

 

 

五月が出来る方?イツキガデキルホウ?

 

 

何かの呪文か何かか

 

 

事実呪文のように俺を現在進行形で蝕んでいるんだが

 

 

呪文を唱えた主––ソファの上で何故か体育座りの3女–– 三玖

 

 

他の姉妹と比べて明らかに何かが違う雰囲気

 

埒が開かないので五つ子全員のテスト結果をテーブル上にまとめる

 

資料を見てみると三玖の得意科目の社会......その点数は姉妹の中でも断トツ

 

 

それでもまだ褒められた点数じゃないが

 

 

その隣、次女の二乃は足を汲み携帯をいじっている

 

 

一花とはまた別の意味で女子高生のお手本のような振る舞い

 

 

「ってか今日から勉強させる気?」

 

 

やっと携帯から目を離したと思えば随分勉強を毛嫌いしてるご様子で

 

 

そして、姉妹の中でも目つきが随一鋭い

 

 

 

「いいや、今日はあくまで仕事を引き受けるかどうかの決断だけ。勉強道具も勉強内容も何も用意してないからな」

 

 

「えー?てっきり今日から教えてくれるものだと」

 

 

 

「実際、まだ依頼を受けるかも決めてなくてな」

 

 

 

正面にテーブルに手をつき立ち上がった四女–– 四葉

 

 

姉妹の中で、最も落第に近い(正直、ドングリの背比べだが)四葉は時に複数の部活の助っ人を掛け持ちするだとか

 

 

コイツの場合はまず勉強する時間を確保させることからか

 

 

気が遠くなる思いだ

 

 

そこで俺はふと気付く

 

 

内心断ろうかと思っていたこの仕事

 

 

いつの間にか、引き受ける前提で頭の中で物事を考えていた

 

 

いつの間にか、この5人に勉強を教えたいと、力になりたいと思っていた

 

 

凄惨なテストを見たから?

 

 

個性豊かな五つ子を見捨てられないから?

 

 

 

違う......いや違くないが、もっとハッキリした何かが

 

 

「どうしました?黙り込んで」

 

 

すると俺の顔を覗き込む五月と目が合う

 

 

その瞬間

 

 

 

 

“誰かの為に自分を捧げられる人間になりなさい”

 

 

 

自分を変えるキッカケをくれたあの言葉

 

 

それをくれたあの人のことを思い出していた

 

 

ずっと気掛かりだった

 

 

 

勉強に明け暮れ自分を磨き続けたのはいいものの、この数年間、誰かの役にそれを活かせただろうか

 

 

 

その疑問を打ち払うように始めた大学の便利屋–––雑用じみた活動内容で本当に自分を捧げられてるんだろうか

 

 

 

......いや、もう自分でも分かってるはずだ

 

 

 

今目の前にあるのは、あの人の言葉を今の俺が最大限に実行するまたとないチャンスだ

 

 

どん底の生徒を卒業まで導く

 

 

御誂え向きじゃねぇか

 

 

出来すぎてて気味わるいくらいだ

 

 

決まったな

 

 

俺の答えは

 

 

 

 

「.......受けるよ」

 

 

「え?」

 

 

姉妹の誰かが微弱な声をだす

 

 

「受けてやるよ、家庭教師。大船に乗ったつもりでいいぞ」

 

 

やけに口からスラスラ言葉が出た気がする

 

 

体もやけに軽い

 

 

「ありがとうございます」

 

 

五月、四葉は目に見えて表情が明るくなるも、一花、二乃、三玖は然程表情が動かない

 

当面の目標は勉強への意欲からかもな

 

 

けど、さっきまでなら抱えてたであろう不満もない

 

 

むしろ–––

 

 

教え子が5人も?

 

 

全員赤点候補?

 

 

落第の危機?

 

 

 

上等じゃねぇか

 

 

 

それだけゴールと距離があれば、完走した時清々しいだろう

 

 

 

それだけ距離があれば、俺も自分を捧げられるというもの

 

 

 

そうだろ?........零奈さん

 

 

 

 

「授業は明後日からな、各自直近の疑問点や聞きたいこと、まとめといてくれ」

 

 

 

「了解しました!」

 

 

威勢のいい返しをする四葉も、イマイチ歓迎ムードのない3人も、2日後の授業に向け早速気を張る五月も

 

 

全員まとめて並んでゴールテープを切らせてやる

 

 

ここからだ

 

 

俺の中の何かが動きはじめた気がした

 

 

 

 

 

 

 

「家庭教師、決まって良かったね」

 

 

「私はやるって言ってないけどね」

 

 

「二乃、いい加減諦めて」

 

 

客人をエントランスまで送り届けた姉妹

 

部屋へと戻る際

 

その中で

 

 

「五月?どうしたのよ」

 

 

5女は何か思いつめた様子、それに疑問を抱き歩を止める他の姉妹

 

 

「あ、もしかして気になるのアイツが?

生徒と先生の禁断の関係ってやつ?」

 

 

意地悪な表情で軽口を叩く次女だが、五月は表情を崩さず残りの姉妹に告げる

 

 

「実は......」

 

 

「ん?」

 

 

「さっきあの人......私の顔を見て、零奈と口にしたんです」

 

 

零奈......亡くなった母の名を聞き、五つ子は程度の差はあれど、目を見開き言葉を失う




因みに三玖推しです
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