五等分の花嫁 by Strawberry   作:はちゃメチャ

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はい、お待たせしました
花火大会編
ちょっと長いかな


#5 揃える

花火祭りの中盤

 

観客も次第に増え、より賑やかさが増した頃

 

俺は生徒である一花と抱きしめ合っている

 

違う

 

決して下心はない

 

祭りの雰囲気に浮かれてはしゃいでるわけでもない

 

この状況を説明するには、数十分前。祭りに来た直後まで時を遡らなければならない

 

——————

———

 

 

 

「アンタ達、遅いわよ」

 

先頭を我先にと進み、後ろに続く残りのメンバーを催促するニ乃を先頭に

 

四葉、一花、五月がそれに続く

 

「あいつ何であんな張り切ってんだ」

 

そこから少し離れた所に、祭りといった人が密集するイベントがあまり好きでないためにイマイチ気乗りしない俺と

 

「二乃は毎年あんな感じ」

 

五つ子随一のインドア派、三玖がしんがり

 

てっきりニ乃のポジションには四葉が来ると踏んでたから意外だ

 

ニ乃とは対照的に、祭りに来てるというのに一切表情が明るくならない三女

 

まぁ人のことは言えないが

 

ふと周りを見渡す

 

人が集まってきたがまだ歩くのに不自由するほどじゃない

 

もし人混みによって五人全員逸れでもしたら、収拾がつかない———というか、想像すら遠慮するレベルの重労働になるのは目に見えている

 

それだけは何としてでも避けたいが、かといって全員で手でも繋がせるか?新手のバリケードでもあるまい

 

やがて屋台が並んでいるエリアにさしかかり姉妹は一旦足を止めた

 

何やら買いたいものがあるらしい

 

特に五月は檻から放たれた肉食獣が如く

 

「祭りと言えば」

 

「アレしかありません」

 

「アレ買わなきゃ始まらないよね」

 

アレとは

 

姉妹に共通する好物がこの祭りにあるらしい

 

個性の強い五つ子だが、こういった好みは一致するのかと、らしくもなく好奇心が引き摺り出された

 

五人ほぼ同時に口を開き

 

 

 

「焼き人チりば飴氷ナナ焼き」

 

聞いたこともない言葉だった

 

 

結局全員の目的のものを買いに行き、俺は荷物持ちに任命された。二乃に

 

「扱いが雑じゃねぇか?」

 

「文句言わないで歩きなさい。女の荷物持つのは男の仕事よ」

 

何度も言うけど俺先輩だからな

先輩敬うのは後輩の仕事だからな

 

「これもお願いします」

 

といっても、ニ乃本人は殆ど自分の手で持っている

 

両手が完全に塞がるまで荷物を持たせる主犯というのは———

 

「見てください!金魚がこんなに!あ、荷物持ちよろしくです」

 

他の姉妹の好物まで買い漁ってる五月と

小・中学生に混じって次々と屋台のゲームを回っている四葉である

 

こうして俺の両手は大量の食べ物と四葉の戦利品で埋まっていった

 

一花と三玖は元々食が細く、それぞれ片手に一つずつ飲食物を持っているだけで、当たり前の事だが俺に荷物は持たせてない

 

三玖に至ってはいつの間にか、頭にひょっとこのお面をつけている

 

末っ子ほど遠慮がないと言う新たな説がこの短時間で生まれた

 

歩きながら食べ物を消費していく五月はまだいいものの、四葉の戦利品はずっと持ち運ばなければならない

 

今度は輪投げで当てたらしい駄菓子セットを押し付けてきた

 

やがて両手の指一本一本で一個の袋を提げるようになり、最後に四葉から受け取った駄菓子盛り合わせによって左手の中指が悲鳴を上げ始めた頃、ふと疑問が湧く

 

「そういや、花火を見る場所はとってあるのか?」

 

手前を歩く二乃に愚問を問う

 

張り切っているコイツらのことだ

きっと何日も前に絶好のスポットを予約してるのだろう

 

「お店の屋上を貸し切りにしてるわ」

 

「そ、そうか」

 

そういえば、コイツらはお嬢様だったな

気に入ってるイベントともなれば尚更羽振りが良くなるだろう

 

とにかくこの頭がおかしい量の荷物を置けるのなら助かる

 

貸し切りと言うのなら見張り番も必要ないだろうし、見事なマッチポンプだ

 

「で、それどこにあんだ?......うぐっ」

 

たった今五月が掛けたメガ盛り焼きそばのせいで、更に右手の親指までもがSOSを発し始める

 

最早新手の拷問である

 

「あ、教え忘れてたわ」

 

取り敢えず、まず俺を案内してくれ

 

指もげるから

 

 

 

 

————————————

 

二乃が貸し切りにしたのはカフェレストランの屋上だったようで、全員腰をおろせるだけの椅子とテーブルが並んでいた

 

件の屋上に着き、荷物を降ろし一息つけるかと安堵したのも束の間

 

また新たなアクシデントだ

 

「一花と四葉が失踪とな.......」

 

ひたすらに二乃の背を追いかけてたお陰で背後への注意が散漫になってた

 

最後に到着した五月を区切りに、その後いくら待っても飲み物の注文を取りに来た店員を除いて誰も屋上に上がってくることはなかった

 

しかし、四葉はまだしも一花まで逸れるとは正直全く想定してなかった

 

隣を歩いていた三玖も気が付けば一花は居なくなっていたらしい

 

ただ逸れたのなら携帯電話を使い簡単に合流できそうだが、あの二人はこの集合場所を聞かされてない

 

それに加えてさっきよりもずっと人混みが激しさを増してきている

 

ただ単に電話で二人を呼び出して合流を促すというのは少しばかり酷だろう

 

仕方ないか

 

少し赤くなってまだ痺れている両手をギュッと握り締める

 

「俺が連れてくるから、お前らはここにいてくれ」

 

三玖と二乃が何かを言いかけてたが、敢えて黙殺し背を向けて駆け出す

 

五月はさっきから一花に電話をかけてるが一向に繋がらないらしく、珍しく焦りの表情を見せる

 

建物を出てみると、より一層祭りの混雑具合が明確に伝わってきた

 

それでもまだ歩くのに然程不自由はなく花火開始まで時間があるためもあって、道行く人々も慌てた様子は見えない

 

それでもチンタラしてれば探し出すのは困難になっていくだろう

 

取り敢えずは来た道を周辺に目をやりながら戻る

 

戻る

 

戻る———が

 

俺たちの通った入り口まで戻っても二人の姿は見えない

 

完全にアテが外れて気力を無くす———暇もなく再度引き返そうとするも足を止める

 

この花火大会の会場は上から見ると殆ど正方形であり、五つ子が貸し切りにしている建物はその一角にあたる

 

そして今いる場所はそこから右に一直線に進んだもう一角

 

つまり時計で例えるなら貸し切りビルが3時

この入り口が12時の位置となる

 

効率的に探すには道を引き返すのではなくこのまま会場を一周する方が合理的と言えるだろう

 

その判断は正しかった

 

次の角を曲がるかというところで四葉の後ろ姿を捉えた

 

 

正確には屋台のゲームに夢中になってる後ろ姿だが

 

既視感のある浴衣もそうだが何よりあの悪目立ちのリボン

 

なるほど、大方予想してた通りだ

恐らくゲームに熱中するがあまり姉妹と逸れたことにすら、気付いてないのだろう

 

大人気なく初対面であろう小学生達とムキになって張り合ってるのを見ると、最早感動すら覚える

 

「四葉」

 

「ちょっと待ってくださいね、今集中を............って黒崎さん?」

 

「何してんだよお前」

 

「射的ですよ、射的」

 

「んなもん見りゃ分かるっての。姉妹と逸れてまで何羽伸ばしまくってんだって意味だ」

 

首を傾げこれでもかと何を言ってるか分からないという表情を見せる四葉

 

「すいません、おっしゃってる意味が.......あ、もしかして黒崎さんもやりたいんですか?」

 

いっそのこと実弾でこいつのリボンを撃ち抜いてやろうかと思ったが、何とか抑える

 

「私どうもこれは苦手みたいで」

 

「聞いてねぇよ。ほら、行くぞ」

 

「おじさん、もう一回」

 

「聞けよ」

 

四葉を連れてくるだけの簡単な仕事かと思えば、すっかりペースに流されている

 

俺に構わず再び銃を構え発砲するも、どの景品にも掠りもしない

 

何せ四葉が狙っているのは客側から見て一番遠くにあるラクダのぬいぐるみ

 

.........いや、ラクダて

 

普通ウサギとか犬じゃねぇのか

 

遂には年下の少年達はおろか、屋台のおっさんにまで励まされる四葉の悲惨な後ろ姿

 

果たしてこの屋台だけでいくら使ってるんだろうか

これは取れるまで離れないパターンだろうな

 

「........貸してみろ」

 

店主に一回分の料金を支払い四葉から銃を掻っ攫う

 

といっても自分自身、射的の経験はほぼ皆無

 

最悪俺も四葉に続いて、負のループに閉じ込められ周囲から生暖かい視線を浴びるまである というかその可能性の方が大きい

 

弾は5発

 

取り敢えず弾道と弾が当たった際の手応えを見るため、まずは様子見で1発撃った

 

ラクダが落ちた

 

そりゃあもう綺麗に落ちた

 

店主と少年達もそうだが四葉の驚きようたるや、家庭教師の生徒が五つ子の姉妹だと判明した時の俺もこんな風に固まっていたのだろう

 

何せ俺本人が目を見開いて数秒固まったのだから

 

盛り上がるギャラリーに比べ隣の四葉は静止

 

弾は4発残っていたので、四葉の耳元で発砲する

 

3発目で四葉は我に帰った

 

「黒崎さん.......スナイパーだったんですか!?」

 

「違うっての。ほれ」

 

店主から受け取った景品のラクダをそのまま差し出す

 

「........くれるんですか?」

 

「俺が持っててもしょうがねぇだろ」

 

「ありがとうございます!大事にしますね!」

 

先ほどの世界の終わりのような絶望顔から一変、いつもの四葉らしい無邪気なものとなった

 

「因みにラクダは英語で?」

 

今日やった課題にもあった問題だ

 

「えっと........スコーピオン?」

 

最後の1発は四葉が大事そうに抱えてるラクダのぬいぐるみに撃ち込んだ。ゼロ距離で

 

 

—————————————

 

「酷いじゃないですか!」

 

「お前の頭がな」

 

態々ワンツーマンでついさっき教えてやった単語だというのに

 

しかもお気に入りの動物なら尚更頭にはいるだろうに

 

射的の屋台を後にした今、他の姉妹が待ってる屋上に向かっている

 

ブーブー文句を垂れる四葉を窘めながらも、まずは一人を回収し終わったことを改めて確認する

 

「楽しそうだね」

 

「楽しかねぇよ........ん?」

 

突如四葉とは逆サイドから声がかかる

 

丁度目的地の屋上が見えてきた頃だった

 

姉妹一表情豊かな四葉とは逆に、姉妹一表情に変化のない三女

 

「何してんだ三玖」

 

いつのまにか隣を歩いていたのか、じっとこちらを見つめてた

 

「四葉ならまたどこかの屋台で夢中になってるかもってアドバイスしようとしたら、すぐ行っちゃうんだもん」

 

なるほど、事実そうだった

 

姉妹の勘........というほどでもなく、先程の行動を見てればそう推察するのは然程難しくない

 

それにしてもそれを伝える為だけに自分も降りてくるとは中々律儀だ

 

まぁ、四葉は既に回収済みなので無駄足となったが

 

となると、残りは

 

「一花ですか?私も見てないですね」

 

四葉なら何か......と少し望みを抱いてたがあっけなく一蹴され、いよいよ手掛かりがない

 

困った時は一花お姉さんに相談するんだぞ、とか言っておいて自分が困らせてるんじゃ世話がない

 

「一旦屋上にラムちゃん置いてきますね、少し待ってて下さい」

 

ラムちゃん........ぬいぐるみの名前だろうか

 

「いや、屋上にいてくれ。一花探すのは俺一人でいい」

 

正直四葉には悪いが一花を探してる最中にまた別のゲームを始めかねない

 

流石にそこまで頭が残念だとは思わないが、念には念だ

 

これ以上面倒ごとは勘弁だ

 

「でも」

 

「それにその格好じゃ歩き回るのも一苦労だろ。ただでさえ混んできてんだ」

 

「.......分かりました、ではお願いします」

 

そう言い残し、店の中へと消えていく後ろ姿を見て、物分りだけは良いのだから助かるという感想が込み上げる

 

「イチゴ」

 

「三玖、お前も四葉達と一緒に———」

 

「付き合って欲しいところがあるんだけど」

 

何故か四葉の後を追わない三玖に屋上に戻るよう頼もうとすれば

 

答えはイェスでもノーでもなく、逆にこちらが頼まれる形に

 

「付き合うって、どこに?」

 

「それは着いてからのお楽しみ」

 

「今じゃなきゃダメなのか?」

 

「いけない?」

 

チラリと時計に目をやる

確かに花火が始まるまで時間は随分あるが

 

問題は———

 

「一花なら大丈夫。さっき電話繋がったから」

 

思考を先読みされた感覚に少し歯痒さを感じる

 

「一人でいるみたいだけど、平気だって。二乃達が居る場所も教えたし」

 

「ならいいんだけどよ......」

 

「何か他に問題が?」

 

首を傾げ話を戻す三玖

 

「......ねぇよ」

 

「じゃあついてきて」

 

正直なところ、一花もさっさと回収してひと段落つきたかったのだが

 

言われるがままに歩幅の小さい三玖の後を追う

 

今来た道を引き返し、四葉のいた射的屋を通り過ぎる

 

この辺りは出店が減り、花火を見る人が集まる土手に隣接している

 

レジャーシートを敷いて花火を今か今かとと待ちわびてる人もいれば、缶ビールで乾杯し、屋台で購入した食べ物を堪能している大人達も少なからず

 

人の出入りが激しい為、道は混雑し、思うがままに進めない

 

目の前の三玖を一瞬見失うも、すぐにまた発見し追いつく

これを数回繰り返し、人混みを抜けた

 

「あった、あそこだよ」

 

少し息が切れている三玖が指差す先には

 

 

「さっき四葉とイチゴを探してる最中に見つけたんだ」

 

「.......占い?」

 

祭りの屋台に出すにはミスマッチ感が否めない雰囲気の看板

 

そして何より

 

「占い興味あんのな」

 

聞けば、姉妹の中で朝のテレビや雑誌などで占いを欠かさずチェックするのは三玖だけだとか

 

言ってはなんだが、姉妹で最も占いに興味がなさそうなんですが

 

どちらかといえば、二乃や四葉辺りが食いつきそうなものだが意外なところで三玖の好みが分かるとは

 

「並ぼ」

 

すっかり息が整った様子の三玖は列の最後尾にそそくさと移動

 

普段滅多に自分の感情や興味を表に出さない三玖がやけに目に熱を込めている

 

占いがそもそも主に女性......特に三玖のような十代の女子から常に一定の需要があることくらいは知っていたが、いざ目の当たりにすると少しその熱に息を呑む

 

一瞬止まった足をまた動かし、三玖の隣へ

そうして列の前方へと意識を向ける

 

俺たちを除いて、列には人数は10人とまずまずの人数だが、違和感が頭を過ぎった

 

列の人間が悉くパートナー連れであるということ

つまり並んでいるのは男女10人ではなく、カップル5組だ

 

そんな共通点を持った人々が並んでいる点から推測されるのは......

 

「これってまさか......」

 

「うん、相性占い」

 

耳を疑う

 

次に目を疑う

 

今聞いた言葉が聞き違いであるのではと

 

今見ている光景が夢か幻ではないのかと

 

歳が近いとはいえ、単なる雇われた家庭教師——しかも、出会って1週間も経っていないとうのに

 

そしてこんなにも大胆な言動を見せてるのが他でもない三玖なのだ

 

姉妹の中でもこのような行動力と豪胆さから最もかけ離れているイメージのある三玖がだ

 

三玖の真意が分からないまま時は進み、前にいた男女は全員満足そうにこの場を後にした

 

横目でチラリと三玖を見る

 

照れるとも緊張してるともかけ離れ

 

いつものポーカーフェイスは微動だにしていない

 

いっそ頭につけたお面が嘲笑っているようだった

 

まさかコイツは顔に出さないだけで想像を絶する策略をその頭の中で——

 

「次の方」

 

「呼ばれた。行こう」

 

「お、おう」

 

紫紺のテントのような外観の店の隙間から声が響き、入り口の暖簾をめくって中へ入る

 

中は意外とスペースがあり、3人分の座席とテーブル一つが置いてあってもまだ余裕があった

 

そして客とは対面側に座る存在、占い師はフードを深く被り顔の全体は伺わせていないが

、その雰囲気と先程の声色からして40半ばといったところか

 

テーブルの上にはこれまた暗めの色のテーブルクロス、必要最低限の明かりの細長い蝋燭が端に一本ずつ

そして中央には占い師の相棒とも呼べるであろうキーアイテム、水晶が蝋燭の明かりを反射し煌びやかに座していた

 

占いといっても、大方手相やカードを使った物だと高を括っていたためいざ水晶を目前にすると自然と表情が強張る

 

「失礼ですが、お二人の関係をお伺いしても?」

 

「新しいパートナーです」

 

「誤解生むってのその言い方。家庭教師と生徒です」

 

「では今日は何を占いましょうか?」

 

「私達のこれからを」

 

「だから誤解されるっての」

 

意図的なのか天然なのか知らないが、どっちにしろ頭が残念な子なのには変わりない

 

だがこんな祭りの日に男女2人きりで相性占いをしにきておいて、誤解するなという方がどだい無理な話か

 

一方で、占い師は俺たち2人のやり取りに目立ったリアクションを見せるでもなく、顔を合わせた瞬間から眉ひとつ動かさない

 

要するに、三玖の話はこうだった

 

家庭教師として雇われたものの俺たちはお互いのことをまるで知らない

 

この先良好な関係を築き、卒業までこぎつけられるのかどうか、を占ってもらおうということだった

 

というより、一回水晶を使って占われたいだけだったらしい

 

実際のところ後半は生徒のお前達次第なんだがな

 

と、声に出そうとしたのを押し殺す

 

三玖の要求を聞いた占い師は見たことある仕草———水晶に両手をかざし瞑目する

 

待っている間隣の三玖は心なしか目を輝かせているような.......恐らく気のせいだ

 

数秒間の沈黙......体感では随分と長く感じたが

 

やがてその目を開き

 

「貴方......」

 

三玖の方を向いてゆっくりと口を開く

 

「姉妹がいますね?それも複数」

 

三玖は勿論、俺もその発言に目を見開いた

 

「3人.....いえ、4人ですね。それも全員同い年」

 

正直話半分に聞く腹積もりだったが、その一言で一気に意識が釘付けとなった

 

確かに三玖は占って欲しい内容を説明するときに『私達』と言ったが、そこに他の人間の存在が含まれる可能性を看破することなど不可能なはずだ

 

「そちらの貴方は.......」

 

今度は俺の方に向き直る

 

無意識に背筋が伸び、身体が身構える

 

「今は落ち着きましたが、実に多難な日々を送ってこられましたね」

 

先程に比べて随分と具体性に欠けているように思えるが、それだけでも俺の胸は締め付けられた

 

ある程度の人間にも当てはまりそうな言葉に聞こえるだろうが、嫌になるほど自分自身がそれを最も肯定してしまう

 

多難......そんな一言で片付けられて欲しくはないが、彼女なりの気遣いか、それ以上踏み込んだ発言は溢さなかった

 

気が沈んだように見えたのか三玖が気に掛けてきたが、問題ないと振り払う

 

占い師が今見せたのは自分の言葉の信憑性を上げるための前座といったところか

 

そして本題へと移る

 

「さて、貴方達の未来ですが.....」

 

薄い唇を軽く舐め、俺達2人をジッと見据えてくる

 

今の『貴方達』という言葉に含まれる人間が気になるところだが

 

 

 

 

「決して穏やかな道ではありませんね」

 

「————」

 

「これから先、いくつもの壁が貴方達を待ち受けています」

 

壁.......果たしてそれがテストや試験勉強だけなのか........いや、恐らく

 

「一つ一つが堅固で強大です。乗り越えるのは至難でしょう」

 

予想外の宣告ではなかった

只でさえ赤点候補の問題児5名だ

 

「ですが全てを乗り越えた時、貴方達は今とは比べ物にならないくらい成長していることでしょう」

 

隣の三玖の顔は殆ど変わらずも、これまでに見られない程熱心に耳を傾けている

 

最後に占い師は口角を上げ

 

「それにここから先、お互いから学ぶことも少なくありませんよ」

 

フードの隙間から覗いた目が、俺1人に語りかけている気がした

 

それは予想外だった

今の言い方では俺がポンコツ姉妹から多くを学ぶことになる

 

この場にいる三玖を含め、姉妹が俺に教えられること———

 

勉学関係......天地がひっくり返っても、ありえない

 

次女のメイク術やファッション関係........ノーセンキューだ

 

掃除してから半日で汚部屋に戻す長女による錬金術.......どこで活かせと

 

今の時点では何も思い当たらない

 

そしてこれからもそれは変わらないだろう

 

やはり占いとやらは当てになりそうにない

 

そう頭では考えているのに、胸の奥でさっきの宣告が引っかかった

 

只でさえ俺と五つ子の間には生徒と家庭教師の他にも、浅からぬ因縁があるのだから

 

いつか必ず、向き合わなければならない日は来るはずだ

 

胸を押さえ息を整える

 

心臓がいつもよりうるさいが、やがて落ち着く

 

だけど今はもう少し、運命の流れの速さに甘えさせてくれ

 

「大丈夫です」

 

ふと声がかかる

 

顔を上げると表情は全て見えないが、占い師が俺に優しく微笑みかけ

 

「1人でどうしようも出来ない時は、周りの人間を頼ればいいんです」

 

まるでこちらの思考を読まれたかのような感覚だが、不思議と気味悪さは感じなかった

 

1人.......そういえば、今まで打ちのめされた時は決まって1人だった

 

1人で泣き、1人で背負い込み、1人で立ち上がった

 

何日も

 

何週間もかけて

 

その重荷は人に分けていいんだ

 

肩に手を置かせてもらい、少しずつでも確実にゆっくりでも一緒に立ち上がればいいんだ

 

言葉を発することなく俺はただ頷き、目で語りかけた

 

それで満足したのか、占い師はもう一度口角を上げ、2人を送り出す

 

「戻るぞ、三玖」

 

「え、もういいの?」

 

席を立ち軽く身体を伸ばす

 

「聞きたいことは聞けたろ」

 

「ちょ、待ってよ」

 

 

後半は三玖は殆ど置いてけぼりのような気がしないでもないが、あまり自分の未来を知り過ぎるというのも考えものだろう

 

少し強引だが、割と早い段階で引き剝がさせてもらう

 

占いの続きが気にならないといえば嘘になるが、仄暗い独特の空間から別れを告げ、忘れかけていた人探しを再開しなければならない

 

出口に向かう俺と少し遅れて追う三玖

 

やや2人の間には距離が生まれたが、すぐに埋まる

 

何故なら先頭を歩いていた方の足が止まったからだ

 

正確に言えば、止められた

 

暖簾を押し上げ、再び砂場でコインを見つけ出すような地道な作業に取り掛かる事に少し憂鬱だったが、それは杞憂に終わる

 

理由は簡単

 

探す必要がなくなった

 

もっと言えば、コインの方から姿を現した

 

「一花.....!」

 

「やぁ、お二人さん」

 

いつもの見慣れた無邪気な子供のような笑顔を貼り付けたターゲット......もとい、中野一花は占いのテントから出てすぐそばに立っていた

 

「何でここに.....」

 

俺の脇から三玖がひょこっと頭を出し、失踪していた姉に疑問を投げかける

 

「それはこっちの台詞でしょ〜」

 

少年のような笑顔から一変して、今度は悪戯好きの魔女を思わせる

 

次の客の邪魔にならないよう少しテントから離れてから会話を続ける

 

聞けば、俺と三玖がテントに入るのを目撃し待ち伏せていたと

 

「遂に三玖にも春が来たんだね」

 

先程の魔性の笑みのまま、からかいの矛を自らの妹に向け魔女はにじり寄る

 

「そんなんじゃないから」

 

三玖はからかいがいがないと判断したのか、今度は矛を俺に向けてきた

 

「ズバリ、キッカケは何だったんですか?」

 

三玖と俺の間に割り込み歩いている一花は、マイクを持ったポーズなのか握り拳を俺の口元に持ってきて最早躊躇いがない

 

分かっててこのような言動を取るのだからタチが悪い

 

この間も二乃が言ってたっけ

 

私なんかより一花の方がよっぽど性格悪いわよ、とな

 

納得である

 

「いつまでやるんだよコレ」

 

「ノリが悪いなぁ」

 

約1名が良すぎるだけだが

 

「というか、今までどこいたんだよお前。二乃達心配してたぞ」

 

「あはは、悪いことしたね。急に電話かかってきちゃって」

 

「誰から?」

 

「内緒」

 

「......ったく」

 

兎にも角にも、まずは2人を連れて行って五つ子を揃える

 

話はそれからだ

 

確かに今俺に話したところで、後から他の姉妹にも詰られ同じ説明を強要されるのだろうが

 

気がかりが一つある

 

横目で一花を見やる

 

姉妹達と逸れてまで出なければならない電話

 

それも毎年来ている花火大会でだ

 

いつも通りに振る舞う一花だが

 

言葉では表現できない違和感が思考を支配する

 

「あ、あれでしょ、集合場所」

 

ふと一花が遠くを指差す先には、ご名答、今日だけでどれだけ建物の全貌を見てるか分からなくなってきたが、四葉を連れ戻した以来の貸切ビル

 

今頃五月は買った屋台の食い物を全部胃に収めただろうか

 

二乃の矛先が俺に向くかが心配だが......十中八九向くなこりゃ

 

入り口まであと数歩のところで急に腕を引かれる

 

「三玖、ちょっと先生借りていくね」

 

「分かった」

 

デジャヴ

 

さっき見たぞこんな展開

 

それとそんなあっさり『分かった』て

 

四葉から三玖へ、そして三玖から一花へ

 

いつの間にか始まっていた五つ子のバトンリレー

 

バトン役である俺には走者達は一切意志を聞かずに、話を進める

 

一番足を動かしてるのはバトンの方なのだが

 

三玖はというと、そのまま黙って建物の中へ姿を消す

 

多分1秒でも早く座って休みたいんだろう

 

「お前まで占い行きたいとか言うんじゃないだろうな」

 

「私?私は占いそんな見ないかな」

 

そろそろ屋台巡りも飽きてきたのだが

 

「じゃあ何に付き合わされんだ俺」

 

「いいからほら、行くよ」

 

と言うや否や、強引に腕を引き歩き始める

 

「ちょっ、おい!」

 

やはり少しおかしい

 

姉妹の中でも三玖とは違った意味で読めないのがこの長女

 

三玖の感情の発露の少なさから顔を覆った兜を身につけた騎士と例えるなら、一花は大方心情を悟らせない道化師といったところか

 

そんな道化師が今日はえらく焦った様子を見せている

 

いつもの余裕な態度が崩れて、強引さが目立つ

 

「うーん、この辺でいいかな」

 

歩を止めると今度は狭く暗い裏路地に連れ込んで行く

 

祭りの賑やかさからはどんどん遠のくばかりだ

 

「おい、何なんだよ」

 

「静かに」

 

俺を掴んでいた腕を離したかと思えば、次は同じ腕を突き出し、俺の顔の横を通り抜け後方の壁に打ち付ける

 

つまり壁ドン

 

「お願いがあるんだ」

 

「は?」

 

「アナタにしか頼めなくて」

 

思わず息がつまる

 

顔は笑っているが、目の前にいる少女の目

 

俺をからかってるでも、ふざけてるのでもない真剣味を帯びた目だ

 

「私今夜......皆んなと花火見られない......あの子達に伝えておいてくれるかな?」

 

「...........さっきの電話が関係あんのか?」

 

「話が早いね......そう、仕事先のね」

 

「仕事.......バイトか?」

 

「ううん、バイトじゃなくて.........待った!」

 

真面目な話を始めたかと思えば、今度は急に

俺の体にしがみついてきた

 

さっきから話についていけず頭が混乱へ向かう一方だ

 

息を押し殺し、少し身を屈めてまるで何かから自分を隠してるような

 

一花と反対の方向、祭りの会場の方を見れば

何ら変哲のない

さっきまでいた人混みとそれを彩る煌びやかな照明のみ

 

「おい、何なんだよ」

 

「ごめんごめん、仕事仲間が今通って」

 

「何で隠れる必要が.......ってまさか」

 

祭りという場に仕事仲間に偶然出会ったのなら最低限一言挨拶を交わすのがマナーというやつだろう

 

それをしないということは

 

「.........仕事、放棄してきたのか?」

 

「.......間違ってないけどその言い方は酷いな」

 

確かに今日は毎年姉妹揃って花火を見る大事な日のはず

 

そこに急用の仕事が入れば、内心穏やかではいられないだろう

 

だとすれば

 

「頼みってのは.......何なんだ?」

 

「うん、あの子達に伝えて欲しいんだ」

 

あの子達とは一花を除いた残りの4人の姉妹だろうか

 

「私は今年.......花火を、一緒に見れない」

 

「........は?」

 

一瞬頭の回転が止まった

 

てっきりコイツは仕事より家族の約束を取るとふんでいた

 

そして頼みは仕事仲間を共に説得........しないまでも交渉するといった推測だったが

 

「いいのかよ.....そんなことして」

 

「皆は......特に二乃は怒るかもね。だから謝ってたって伝えて」

 

そう言い踵を返し背を向ける一花

 

「おい、待てって!」

 

路地裏を出た一花に追いつき、肩に手を置く

 

「ほら、あの人」

 

一花が指差す先には、髭を鼻の下に伸ばした中肉中背の男性が忙しなく周囲を見渡していた

 

「さっき言ってた仕事仲間か」

 

「うん......あ、こっちにきた」

 

「っ......こっち来い!」

 

「わわっ!ちょっと!」

 

少し強引に一花の手を引き再び裏路地に入るも早歩きの足音はすぐそこに迫っていた

 

少し先にある角を曲がれられたら完全に身を隠せるが、間に合わない

 

そして髭の男は彼らのいる裏路地に目をつけ覗き込んだ

 

.......そこにいたのは固く抱きしめ合う一組の男女

 

咄嗟の判断で一花の顔を隠すにはこれしかないと自分でも大胆なことをした

 

だが作戦の拙さと比べて効果は覿面

 

男は突如目に入った光景に驚き、すぐさま人の渦へと戻っていった

 

その気配を感じ取り、即席の抱擁作戦は終了させる

 

「どさくさに紛れて何してるのかな〜?」

 

「仕方ねぇだろ。まだ聞きてぇことが山ほどあんだからよ」

 

それは仕事の内容、始めた時期、そしてそれが家族との約束を蔑ろにするほどの価値があるのか

 

どれから答えるのかは一花の自由だが

 

「.........意地だよ」

 

「意地?」

 

「うん、私達は歳は同じだけど一応私が長女だからね。姉として胸を張れる何かが欲しかった」

 

「そのせいでジレンマ抱えてるようじゃ世話ねぇっての」

 

「あはは.....手厳しいな」

 

今言ったことに嘘偽りはないだろう

だがプライドだとか意地だとか

そういうものからは縁遠い雰囲気がある一花.......いや、自分の偏見を押し付けるなって話か

 

「仕事を始めたのは半年前。さっきの人に誘われてね」

 

「何であいつらには言わないんだ?」

 

「言ったでしょ?意地だよ......長女としての。一人前になるまではあの子達には言わないって決めたの」

 

「意地......ねぇ」

 

「今までは小さな仕事だったんだけど、やっと大きな仕事を貰えそうなの........だから———」

 

「苦渋の決断ってやつか」

 

「勿論あの子達には後で自分で謝る。でも今は——」

 

「........分かった」

 

「えっ?」

 

正直まだ納得していない部分はあるが、手が震えるほど悩み抜いて出した答えなら無碍にはできまい

 

それに———

 

「頼まれてやるよ。行ってこい」

 

「......いいの?損な役を押し付けるわけだけど.......」

 

「損かどうかはお前次第だ」

 

「?........どういう......」

 

「その急用.......何時に終わる?」

 

「そんなに時間はかからないはずだけど......花火には多分間に合わないかな」

 

「........十分だ」

 

花火開始まであと1時間と20分

 

「さっきの人と電話したら、合流地点と仕事場の住所すぐ送ってくれ」

 

「えっ?どこ行くの?」

 

「準備があんだよ。ほら、手動かせ」

 

言い残し、再び祭りの中へ身を投じる

 

忙しい夜になりそうだ

 

 

—————————

—————

——

 

 

「一花」

 

あれから10分ほど経ち、祭りからは一旦抜け出した

 

ラインで送られてきた合流場所であるバス停に駆けつけると先程まで話していた1人の少女

 

「あの人は?」

 

既に合流し、2人で待ってるものだと思ったが

 

「車取りに行ってるとこ」

 

「そうか......ほれ」

 

手にしていた袋を差し出すと、不思議そうな顔をした一花が受け取る

 

「これは?」

 

「ただの緑茶とチョコだ。リラックス効果に定評あるな」

 

「何だかお母さんみたい」

 

「........うっせぇな」

 

そう言い破顔する一花は正面から見つめてくる

 

「それで.......肝心な職業名なんだけど....」

 

今更ここにきて一花は後ろめたそうにに言い淀む

言い辛いことは言わなくても————などと言うはずもなく

 

 

 

 

 

 

「あぁ、女優なんだろ?」

 

「...................」

 

「....................」

 

「...................へっ?」

 

 

時間もないので容赦なく引っぺがす

 

長い沈黙が明けるや、気の抜けた反応

 

「な、何で.....」

 

「まず、さっきの髭のオッサンは仕事仲間というよりは、雇い主だろ?歳離れ過ぎだ」

 

「————!」

 

そして姉妹に胸を張れる程の仕事

オフだったはずの日に急に仕事が入る不定期さ

小さな仕事しか任されなかった新人が突然大きな仕事を一任される不自然さ

 

 

極め付けは、たった数時間で終わる今夜の業務と、その大きな仕事というのはまだ可能性の範囲

 

これらから推測するに、今日急で入った仕事というのは、映画かテレビの主要オーディションといったところか

 

多少勘に頼ったが、昔から勘には自信があった

 

「............怖」

 

一花とはというと、少し引いてた

 

だから半分勘だっての

 

「ドラマか?それとも映画か?」

 

「......映画。ヒロイン役のね......そんな驚かないんだね」

 

「そりゃ恩師の娘の五つ子との対面の方がよっぽど衝撃だったっての」

 

あれを超えるショック.......殆ど恐怖は、簡単には現れないだろう

 

「にしてもあのオッサンおせーな」

 

「まだかかりそう。そうだ、練習付き合ってよ」

 

携帯の画面を見てた一花は、先程送られてきたのか、台本と思われるものを表示した端末を差し出してきた

 

本当は胃液が逆流しそうなくらい嫌だが

 

「.......どの台詞だ?」

 

「意外だね。付き合ってくれるんだ?」

 

「........乗りかかった船だ。最後まで面倒見てやるよ」

 

その言葉を聞いた一花は満足そうに鼻を鳴らし、とあるページへと端末を操作し

 

「ここからここまで。これが今夜のオーディションで演じるシーン」

 

「......俺は.....主人公の役か。よし、憶えた」

 

「じゃあ、いくよ」

 

その瞬間、一花の纏う空気が一変した

 

集中力を帯びた目に一切の曇りがない

 

普段はっちゃけている姿からは想像もできない

 

『卒業......おめでとう』

 

『先生......今までありがとう

 

アナタが先生で良かった.......アナタの生徒で良かった』

 

この映画は所謂禁断の愛をテーマとした一作だろうか。

今の短い台詞とタイトルだけで、2人の男女が教師と生徒以上の関係に発展していることがうかがえる

 

そしてその女生徒にかける教師の言葉というと.........

 

 

「一花ちゃんお待たせ!乗って!」

 

黒い車と共に、現れた一花の雇用主........後から聞けば、芸能事務所の社長が舞台の幕を下ろす

 

本音を言えば、今の場面で割り込んでくれて助かった

 

小っ恥ずかしい長台詞を演技とは言え他人にかけるなど素人にはハードルが高過ぎる

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「おう」

 

車の助手席に乗り込み、シートベルトを着用する横顔を見て

 

「アイツらの事なら心配すんな。俺に考えがある」

 

「うん、任せるね」

 

「それに......アイツらには一緒に謝ってやるよ」

 

「........うん」

 

そのやり取りを最後に、一花は完全に祭りから姿を消す

 

「........うし、こっからだな」

 

これからの作業の量に目眩がしてきそうだが、携帯電話を取り出し、来た道を戻りながら電話をかける

 

「もしもし、五月か?お前らに向かって欲しいとこがあるんだ」

 

まずは残った4人の説得か

 

—————————

——————

———

 

 

「では最後......中野一花さん」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

面接官が5人、オーディションを受けている女優がその倍といったところか

 

浴衣から洋服に着替えた一花は席を立ち、真ん中に座る面接官を見やる

 

この面接の場では、その男が主人公の台詞を読む

 

「卒業おめでとう」

 

「先生.....今までありがとう」

 

思い浮かべるは4人の顔

 

全員自慢の妹だ

 

その姉として、やっと誇れる何かを掴めるところまで来た

 

そしてもう1つ浮かぶ顔

 

突然現れた家庭教師の青年

 

目つきは悪く、口調も優しさとは程遠い

 

それでも何故か、惹きつけられる何かを持っている

 

想像する

 

もし本当に彼が..........この映画の主役ならば

 

 

 

「アナタが先生で良かった

 

アナタの生徒で良かった」

 

きっと今みたいに

 

心の底から、笑っていられる気がする

 

 

面接会場から、感嘆の声が響いた

 

 

 

—————————————————

 

「あんな表情を出せるようになっていたとはね、一花ちゃん」

 

面接は終わり、各々帰路へ着く頃

 

「見てたんですか?」

 

「当然さ。では、家まで送ろう」

 

面接の手応えは上々......それ以上

 

実際一花自身は、自分のパフォーマンスにそれ程の変化を自覚していた

 

今までの演技には例外なく頭の中を無にし、もう1人の自分を作り出し臨んでいた

 

しかし、今日はハッキリと頭の中で思い描いた

 

成長した自分を見て欲しい人達を

 

背中を押してくれた、不器用ながらも優しい人を

 

身体は軽く、口もよく滑らかに動いた

 

強張っていた肩の力が抜けて、体全体が軽くなったように

 

その不思議な解放感がどこから来たのかは分からないが

 

「よぉ、終わったみてぇだな」

 

その声は突然背後からやってきた

 

反射的に振り向くと、さっき背中を押してくれた人影

 

「え、何でいるの?」

 

「そりゃあ、お前に用があるからだよ」

 

「君はさっきの.......」

 

すっかり暗くなった駐車場にて、外灯の明かりのみを頼りに互いの顔を見やる

 

「一花ちゃんのあの表情を作り出してくれたのはひょっとして君かな?どうだろう、ぜひ君も我がプロダクションに———」

 

「一花借りてきますね」

 

勝手に盛り上がってるところ恐縮だが、いかんせん時間がない

 

「ちょっ!」

 

隣の一花の腕を引き、面接会場から背を向け歩き出す

 

「ど、どこ向かうの?」

 

「決まってんだろ、花火見に行くんだっての」

 

「でも.....」

 

チラリと携帯の時間を見る

 

確かに花火大会はまだ終わってないが、今から会場に戻っても間に合わないのは自明の理だ

 

「もう無理だよ....」

 

腕を払い、曇った顔を見せる一花は今にも泣き喚きそうな幼子のよう

 

「確かに間に合わねぇな........けど、いいから早く乗れって」

 

「えっ?」

 

親指で示した方を見るとそこには一台のミニバン

 

呆気に取られている内に運転席でエンジンをかける来訪者

 

「車......持ってたんだ」

 

「親父が新車買った時に譲り受けたんだ」

 

一花は助手席に入り込み中を一望する

 

「ほれ、シートベルト」

 

「あ、うん。........にしても、随分大きい車だね」

 

「親父が町医者でな.......家から遠くない患者は自分の車で迎えに言ってたんだと」

 

「すごいお父さんだね」

 

「..........あぁ」

 

いつもは喧しくて敵わん親父だが、お袋が死んだ時は俺達家族が暗くならないようにいつも明るく振る舞った

 

一番辛いのは自分のはずなのに

 

「よし、出すぞ」

 

今はそんな事に浸ってる暇はない

 

人通りのない道路を一台の車が駆け抜ける

 

———————————

 

時刻は午後8時ジャスト

 

毎年恒例の花火大会は今完全に終わりを迎えた

 

隣の一花はばつが悪そうにこちらを見て

 

「ねぇ、まだ会場に戻るの?これ以上は———」

 

「だったら家で他の4人が帰ってくるのをじっと待つか?そっちの方が居心地悪いぞ」

 

「それは....」

 

「いいから、黙って乗ってろ」

 

現在車は高速道路を走ってだいぶ経つが、会場に戻るまではまだ数分かかるだろう

 

その間にもあの4人は一花を信じてどこかで待っている事だろう

 

ただ今日は姉妹で花火を見るだけのはずだった

女優の仕事は完全にオフにして、五つ子の1人の少女として来たはずだった

 

それがどういうわけか、運命は牙を剥いた

 

残酷な程の選択肢を一花に突きつけ今も尚、その心を蝕む

 

元々女優業は自分から志願して進んだ道ではなく、さっきまで共にいた社長にスカウトされ足を踏み入れた世界

 

その原動力は他でもなく、妹達にとって自慢の姉となるため

 

その仕事が皮肉にも姉妹との天秤にかけられた

 

オーディションの開催日を決めた映画の担当者が悪いのか

 

映画の仕事を持ってきた社長が悪いのか

 

ジレンマの原因となっている姉妹が悪いのか

 

........どれも誤りだ

 

全員が己の責務を全うし、自分達の日常をいつも通り過ごしただけ

 

その歯車を壊したのは他でもない——、一花本人だ

 

それでも考えずにはいられない

 

何故今日でなければならなかったのか

 

何故あと数時間早くオーディションを受けさせてくれなかったのか

 

自分を責め続けるには、まだ心は未熟な1人の少女

 

「........うっ.......!」

 

助手席で上半身を屈め、頭を抱える一花

 

今になって自分のやったことを思い知らされる

 

姉妹に誇れる姉になるため?建前だ

 

確かにその考えもあったが、結局のところは自分の志した夢を、自分可愛さに選んだのだ

 

今まで培ってきた姉妹との絆をかなぐり捨ててまで

 

頬を生暖かい雫が伝う

 

零れ落ちて膝に落ち、さらに脚を伝う

 

最低だ

 

姉失格だ

 

そしてこの姉妹のいざこざに巻き込んでしまった青年

 

只の家庭教師として父が雇ってるに過ぎない彼に

 

「........ごめん......!!」

 

「.........謝るのは早ぇし、相手もちげぇよ」

 

「........でも」

 

「でもじゃねぇ、ほら、着いたぞ」

 

気がつくと、車は止まっていた

 

駐車場ではなく、道路の端に

 

「ここは........?」

 

見覚えのない場所に連れて来られ状況について行けず

 

「いいから降りろっての」

 

半ば強引に車から降ろされたため、少しバランスを崩す

 

それに文句を言おうとしかけ、それを止める

 

聞き慣れた爆音が辺りに響き渡ったからだ

 

音は遥か後方......それも上空

 

天高く駆け上り、色鮮やかに散っていくその様、まさに芸術

 

その正体を彼女はよく知ってる

 

「........花火?」

 

「間に合ったようだな」

 

「........どうなってんの?ここは?」

 

「確かにアッチの花火は今年はもう見れねぇ。けど、こっちも負けず劣らずだろ?」

 

辺りを見回すと、そこは土手でもなく人混みで溢れる祭り会場でもない

 

「そうだけど.....じゃなくて」

 

「あっちは20時に終わるけど、こっちは20時スタートの21時までだ」

 

時刻は午後8時22分

 

車で移動すること約30分

 

打開策とは実に単純明快

 

オーディション会場から別の花火祭りに向かっただけのこと

 

「昔連れて来られたんだよ。絶好の穴場だってな」

 

事実そこから見える景色は絶景をもって他にない

 

彼等の足場——砂浜を前方で覆い尽くすは夜の大海原

 

それが花火を反射し、まるで映し鏡のように幻想的な景色を生み出す

 

「連れて来られてって........家族に?」

 

「いや.......違う人だ」

 

「じゃあ......もしかして———」

 

家族以外の人で花火に連れて行く人物

 

それもこんなスポットを知っている花火好きとなると———

 

 

 

 

 

 

 

「おーーい!一花ーーー!」

 

「こっちですよー!」

 

ふと彼等2人へぶつかる声

 

手を振りこちらに呼びかける4人の音

夜の暗い海辺でよく見えずとも、その声を聞き違えるはずもない

 

一花を会場から見送った直後、五月達に話したのは大雑把な現況と打開策

 

一花の職業を伏せながらの説得は中々難儀だったものだが、終いにはこうして応じてくれる素直さが唯一今夜は助けられたと言うべきか

 

「皆.......!」

 

少なくとも姉妹の表情からは一花へ攻撃的な姿勢を見せる者は1人もいない

 

それどころか、自分勝手に抜け出した一花を待ちわび、歓迎してるようだった

 

「何で......」

 

有り難い......胸のつっかえが取り除かれる感覚を味わいながらも疑問が湧く

 

姉妹の優しが今は痛かった

 

裏切りとも取れる行動をした自分に何故ここまで———

 

「本当に分からねぇか?」

 

ふと顔を上げると彼が顔を覗き込んでいた

やや呆れ顔でだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「家族の事が大好きなのは、お前1人じゃねえってことだ」

 

「———っ」

 

「とにかく、早く行け.....一年に一回なんだろ」

 

「......うん」

 

砂を蹴り、走りにくい足場を半ば飛び跳ねて進む一花

 

目に涙が溜まるも、溢れぬよう踏ん張り走り続ける

 

そして

 

「.......お待たせ」

 

「遅いわよ」

 

「お帰り一花」

 

「花火一緒に見るよ」

 

「綺麗ですよ」

 

距離が遠くて彼女達の声は微かにしか聞こえなくなった

 

それでも花火で照らされる5人の表情ですぐに心配は吹き飛ぶ

 

体にどっと疲れが走り、その場で座り込みしばしの休息

 

直ぐに5人で綺麗に横一列になって花火を見る後ろ姿に、胸を駆け巡る何かがある

 

自然と口元が緩んできた

 

「やっと揃ったな.......5人全員」

 

短いようで長かったが、今日の仕事はひと段落ついただろう

 

あとは行きみたいに、アイツらにはタクシーでも呼んで勝手に帰ってもらうとするか

 

今すぐ帰ってベッドに横になるのもアリだが、それでまたアイツらにギャーギャー言われそうだ

 

それに今は........久し振りの花火も.....悪くないか

 

ふと気づく

 

花火の方向........その真下

 

ゆらゆら揺れる何か

 

目を凝らして見るも暗くて特定できず

 

次の花火で辺りがほんの一瞬明るさを増す

 

目を凝らした先には

 

五月が花火からそっぽ向き、こちらに向けて手を振ってるのが分かった

 

否、手を振ってるのではなく、こっちに来いと手招きしてる風だった

 

正直今は折角の姉妹水入らずの時間を堪能してもらいたい限りだが

 

まさか用意した舞台にご不満だろうか

 

それとも人数分の食いもん飲みもんを買って来いとのお達しでせうか

 

気だるげに体を起こし、今年に入って一番働かせた脚を最後の仕事だと言い聞かす

 

左端の五月の更に左隣.......何となくその半歩手前で止まり、五月に用を訪ねる

 

「まずは一花のこと......ありがとうございました」

 

「気にすんな........それより、いつもの会場から場所変えて悪かったな。落ちつかねぇだろ?」

 

「いえ、いつもとは違ったものを見させて頂き再度感謝します」

 

「そっか、ならよかった」

 

「昔お母さんも言ってました」

 

思わず『お母さん』と言う単語に、肩が一瞬震える

 

「大事なのはどこにいるかではなく、5人でいることなんです」

 

成る程.......あの人が言いそうなセリフだ

 

間も無く花火も終盤だ

 

この先、この5人が一緒に花火を見れる機会も限られてくるだろう

 

一花1人だからよかったものの、全員が就職、あるいは家庭を持てば話はガラリと変わってくる

 

5人揃って、というのは厳しくなってくるだろう

 

それでも俺の手が届くうちは、なるべく叶えてやりたい

 

そう思わせる何かが、コイツらにはある気がする

 

「ところで」

 

不意に五月が口を開く

 

ゆっくりとこちらへ振り返るその姿に既視感を覚える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『花火は......好きですか?』

 

一際大きな花火が打ち上がり、五月の顔がそれに彩られる

 

その姿が.......その光景が、かつての他の人物と重なる

 

場所も、花火の音も、何もかもがあの人と酷似する

 

「嫌いじゃ......なくなった」

 

そのデジャヴから目を逸らすように俺は五月から背を向けてから答えた

 

同時に過去を切り捨てられない己の女々しさに反吐が出る

 

その年の花火大会は幕を閉じた

 

 

—————————————

 

「全員乗ったな?行くぞ」

 

「キツイ.......一花、席変わんなさいよ」

 

「ゴメンね〜、ここは私の特等席」

 

その後花火終わりの砂浜では、一花の謝罪やら姉妹達の俺への労いの言葉の贈呈などもう一悶着あったが

 

現在はというと

 

タクシーを呼んでやるという厚意を踏みにじり、五つ子全員が愛車へと乗り込んできた

 

元々5人乗りの所を、運転席と助手席は先刻と変化ないものの、4人で後列に無理やりぎゅうぎゅう詰めになってる滑稽な姿に先ほどの感動の家族愛が嘘のようである

 

始めは行きのようにタクシーを使い帰宅する案に賛成していたが、俺の車を見るや

 

「黒崎さんの車......乗りたいです!」

 

と四葉を筆頭に他の3人も食い気味に6人で一台シェア案を推してきた

 

早速文句を言ってるが

 

高速に乗る頃には、後ろの4人は狭いスペースながらも互いの体に身を預け熟睡してしまった

 

助手席の一花は妹達を見て

 

「皆お疲れだね」

 

まるで我が子を寝かしつけた母親のような様子

 

「お前は寝ないのか?」

 

いつも一番居眠りしているコイツがだ

 

明日は早めの初雪だろうか

 

「まぁね、眠くないし」

 

「そうかい」

 

高速を抜け、見覚えのある街へ入った

 

後ろの4人を起こすにもまた一苦労かかるのだろう

 

そういう意味では起こすのが大変らしい一花は起きてくれてやはり正解だったか

 

「今度は......私達の番だね」

 

「うん?」

 

「今日は助けてもらっちゃった。ありがと」

 

お礼を言うために1人我慢して起きてたと

律儀な側面も長女らしいか

 

さっきから寝まいと横腹を抓っているのは丸わかりだが

 

「只の家庭教師のアナタが、ここまでしてくれたんだもん」

 

全くその通りだ

 

臨時ボーナスを弾んで貰わねば、不当である

 

「だから.....今度は私達の番」

 

「———」

 

「中間テスト......期待しといてね」

 

「あぁ、しないどく」

 

やはりこの仕事は割に合わな過ぎるから

 

 

 

 

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