「それじゃあ兄さん、俺は先に帰るよ。ごめんね……」
「気にすんな。急な仕事が入ったんだろ?久し振りに兄弟水入らずで旅行いけて楽しかったよ」
平和島静雄。池袋では都市伝説の一つになる程有名な男は弟の幽を空港で見送る。
弟が引き当てたというグアムのペア旅行券。それで海外に来たは良いが羽島幽平という名で人気タレントをしていた弟に急用が入り、弟は先に帰ることになった。
「………海外か、ヴァローナの奴今頃どうしてかっな」
ふと一時期自分の後輩をしていた年下の女の顔を思い出し呟く静雄。まあ、生きてりゃ何時か会えるだろと思い出すのをやめる。
自分の便は明日だ。それまで何するか……。取り敢えず森羅やセルティ、トムや所長達に何かお土産でも買っておこう。と、その時何やら騒がしい声が聞こえる。見れば学ランを来た少年が軍人らしき男達に囲まれている。少年の前には男達の一人が肩を押さえ何かを叫び、周りの男達はニヤニヤ笑っている。あまり見ていて気分がいいものではない。
「………おい、アンタら。ガキ相手に恥ずかしくねぇのかよ………って、英語でなんていや良いんだこれ?」
幽がいれば通訳してくれるのだが、と頭をかく静雄。突然やって来た男にジロリと視線を向ける男達。何か指さしながら言ってるが、やはり解らない。
「なんだおっさん、引っ込んでろ」
「おっさんじゃねぇまだ二十代だ。こういうのは見てて気分が悪いからよ、俺の勝手だろ」
と、少年と言葉を交わす静雄。男達は無視されていると思ったのか静雄と少年の胸をつかみ叫ぶ。静雄の方の男はそのままナイフを取り出し静雄の首筋に当てた。
「…………おい、人にナイフ向けるってことはよぉ、そいつを殺そうとする意思があるって事だよなぁ」
静雄がプルプルと震え始めると恐怖で震えていると勘違いしたのか周りの男達が指さし笑い、目の前の男はペタペタ刃を当てる。静雄は己の胸ぐらを掴んだ腕を握り絞めた。
───ボキン
「…………WHAT?」
一瞬その音が何なのか理解できなかった男は、しかし直ぐに自分の腕がへし折れている事に気づき絶叫をあげる。
「だったら殺されても文句は言えねぇよなぁ!?」
そのまま男をぶん投げる。空高く飛んでいった男は街路樹に引っかかる。ちなみにこっから街路樹まで三十メートルぐらいある。男達は唖然と口を開け、少年も目を見開く。
「………おい坊主、此奴等の言葉解るか?」
「え?あ、はい……」
「じゃ、此奴等にとっとと失せろと伝えてくれ。俺は暴力は嫌いなんだよ」
思わず敬語になってしまった少年に、男達に立ち去れと伝えるように頼む。が、少年が翻訳しようとする前に仲間の仇だと言わんばかりに襲いかかってくる男達。静雄が舌打ちして正面の数人を蹴り飛ばし、背後から迫る男に裏拳を叩き込もうとした瞬間、少年が後ろの男を蹴り飛ばした。
「おお、助かったぜ坊主………」
「いや、あんたが俺を助けようとした結果だろ?礼を言うのはこっちだ」
「そうか……しかし、なんか増えたな」
「仲間呼んだんだろ。こういう連中は頭数そろえると勝った気になって逃げ出さねぇ」
「ああ、覚えがあるな………」
少年の言葉に何度か絡まれた過去を思い出し頭をかく。暴力は嫌いなんだが、無抵抗でやられるつもりはない。ゴキゴキと指を鳴らす。少年の方もキーホルダーに繋いだ鍵を指に挟みポケットから500円玉を取り出す。
少年は5人ほど気絶させ、やけに静かなのに気づく。もっといたと思うが、残りはどうしたのだろと振り返り目を見開く。
15人ほどが気絶していた。この男、恐ろしく強い。いや、それだけなら良い。単純に自分の三倍強いだけだろう。けど、手に持ってるのがどう見ても街灯なんだが………。
「………お、おいアンタ……」
「矢頼君!」
それどうやった、と聞こうとした瞬間少年──矢頼にとって聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「矢頼君!あなたが現地の人に絡まれたって───な、何これ!?」
担任の操栖モトコだ。彼女は周囲に転がった男達を見て悲鳴を上げる。
「まさか、あなたが?海外に来てまで喧嘩するなんて──」
殆どやったのはバーテン姿の男だが、そもそも彼は自分を助けようとして巻き込まれただけ。なら、責任は自分にあるだろう。おとなしく説教を受けようとした時だった……
「アンタ、此奴の先生か?」
「………え?あ……貴方は?」
「これやったの俺だ。そいつは巻き込んじまってな……制服だし修学旅行か?巻き込んで悪かったな坊主。そういうわけで、すんません。そいつを叱らないでやってくれませんか?」
「へ?えっと……」
「おい、あれは元々」
「実際ぶっ飛ばしまくったのは俺だろ。ガキはガキらしく修学旅行楽しめ。一生に一度だぞ」
静雄はそういうと歩き出した。矢頼が何か言おうとする前に、モトコが叫ぶ。
「あ、あの……!ありがとうございました!」
「………良い先生じゃねぇか、きちっと言うこと聞いとけよ」
「「………あ」」
翌日、飛行機の中で普通に再会した。
「昨日の先生か……」
「貴方もこの便だったんですね。すいません、遅れてるの、私の生徒が原因で」
「いや、そりゃ先生の責任じゃねーすっよ。休みもまだ少しあるし、仕事にも問題ないっすから気にしないでください」
「あはは、ありがとうございます」
本当に良い先生だ。自分もあんな担任だったら中学や高校をもう少し楽しめたのにな、と自分の席に戻りながら思う静雄。飛行機が発進し、安定飛行になると学生達が騒ぎ出した。
元気なものだ。まあ、自分も学生時代結構問題起こしてたけど………と、昔を懐かしんだその時だった。
「────!?」
突如機体が大きく揺れる。悲鳴が響き荷物が飛び散り人が倒れる。近くで尻餅つきそうになっていたCAを助け、揺れが収まるのを待つ。ふと窓の外を見ると、昼の筈なのに広がるのは闇。更に、身体を襲う浮遊感。飛行機が、落ちている。
(『良いか静雄、飛行機事故の大半はきっと宇宙人の仕業だ。お前は地球人として間違いなくレアケース。さらわれないように気をつけろ』)
ふと飛行機に乗って海外に行くと知人に伝えて居た時に友人の一人に言われた………書かれた言葉を思い出す。宇宙人?そんなの、居るのか?とりあえず、居たら絶対ぶん殴ろう。そう心に誓ったのだった。
皆さんは重機吹っ飛ばして脱臼ですむ静雄と絶滅動物どっちが強いと思います?まあ、仮に静雄が怪我したとしても静雄の肉体刃より強く復活しますが