コロニーを燃やし、移動することにした一同の最初の目的地は見える範囲で一番高い山。
高いところから脱出できそうな海岸線と他の生き残りを捜すためだ。何度か休憩を挟み山へと向かう。山の上から海岸線を見つけられればこの島から脱出できるんじゃないかと一同の顔が明るくなる。
山にたどり着くと、思った以上の険しさに足を止める。頂上は霧のせいで全く見えないが、かなり高いのは確かだ。
「……………」
「ミイナ?どうした、最近たまによくボーッとしてるが」
「え?あ……ううん、何でもないよお兄ちゃん」
「………そうか。悪いな、気を使わせてるみてぇだ。疲れたら言えよ?おぶってやるから」
「………うん」
明らかに体調が悪そうなのだが、それを表に出したくないようだ。たぶん、皆が今すぐ登るぞ、と決意を固めた空気を壊したくないのだろう。と、その時、上から何かが転がってきた。
ズドン!と大きな音を立て茂みの向こうに落ちる。何事かと向かってみれば、それは人だった。人
かなり高所から転がってきたのだろう。落下の衝撃で完全につぶれた、人の死体。直視してしまった者の中に吐く者までいた。
人が落ちてきた。或いは落とされたかもしれないしれないという事実にザワザワと不安げな気配が辺りに漂う。
単なる事故なら良い。誰かと言い争いになった?それも、まあまだ良い。動物に襲われた?だとしたら、危険な動物が居ることになる。
あれ?静雄いるから平気じゃね?
というわけで登ることにした。最初は早い者から先に行っていたがトオルの登山知識を聞き体力のない女子を前にすることにした。動物を警戒しなくてはいけない静雄と知識のあるトオルは先頭だ。
静雄の腕にはコトミがくっついている。以前岩山の崖で落ち掛けた時のことでも思い出しているのかその顔は青い。トオルは、何とも言えない顔をしていた。
途中、最初に降ってきたであろう人間の仲間と思われる者が落ちてきて息を引き取ったと言う報告も来た。それを報告しに来た時、アキラの様子が何やらおかしかったが何かあったのだろうか。
「と、崖?そうか、降りてこなかった理由はこれか」
暫く進んでいるとまるで崖のような急斜面が現れた。上からロープを垂らさなきゃ登れそうにない、とトオルがアキラを呼んで貰おうとするが、ヒョイヒョイ登っていく。
全員が登り切る。また暫く歩けそうな道だ。アキラが休むかどうかと提案するがザジが冗談言うなよ、と笑う。女子達も地上になっていた実を見つけて食料なら余裕があるとアピールし宮内が大丈夫そうだ、と笑う。
山口も生徒会長の自分がへこたれるわけにはいかないと気合いを入れる。夏奈子やアキコは大人なのだから中学生達が頑張っているのに頑張らないわけにはいかないときっと霧の向こうの頂上を見る。
「………休む」
「………へ?」
全員が一致団結して登るぞ!と気合いを入れ直した中、否定の声が挙がる。この空気の中でだ。責めるような視線の先にいたのは、静雄。皆あれ?と固まる。
何せ静雄だ。あの静雄だ。自分達がまだ動けるのに、静雄が休みたがるなど思えない。実際息は上がっていない。
「し、静雄さん?その、何で休むんですか?」
「疲れた」
絶対嘘だ。とはいえ、一人が休むと言ったことで自分も休みたいといって良いのでは?と思い始める。結果、その日はそこで休むことになった。
「………………」
「眠らないんですか?」
岩に腰掛け煙草を吸う静雄に声をかけるアキコ。静雄は振り返り生徒達を見る。
「動物が襲ってくるかもしれねぇからな。眠れつったのは俺だし」
「………急に休もうとしたのって、皆のためですよね?」
「ああ、なんつーかな………あの時の空気が、例えは悪いが似てたんだよ。あの暇なやろう共に……」
静雄が思い出すのは中高時代によく喧嘩を売ってきた奴ら。数がそろえば大丈夫。全員で挑めば何とかなると思っている目。
「休める時には休んだ方が良いだろ。人間、誰だって体力に限界はある。それは責められることじゃねーよ………ん?」
「どうしました?あ、あれは仙石くん?」
静雄の視線を追うとフラフラ歩いていくアキラが見えた。この辺の地形は解らず危険だ。トイレ、といった様子にも見えない。静雄は近づいて肩をたたく。
「おいアキラ、どうした?」
「………え?あれ、こーちゃんは?」
「こーちゃん?」
「た、確かに居たんです……」
「ここには俺たち以外にゃ誰も居なかったぞ?」
「お、おかしいな……確かに───」
と、その時──
「いやあぁぁぁ!!」
「うああ!来るな、来るなぁ!」
「うぅ──、ううぅ!!」
あちら此方から悲鳴が聞こえてきた。見れば何名かが見えない何かに襲われたかのように苦しんでいた。そうじゃないものも、何名かは立ち上がろうとしてその場に倒れる。額に手を当ててみると熱があった。吐いている者も居る。
「トオル!これ、どういう状況だ!」
「………これは、急性高山病だ!」
急性高山病。2500m程の高地に急激に昇った時に起きる症状だ。高所による酸素不足が原因で、睡眠をとると悪化する。
主な症状は発熱、嘔吐、酷いときは肺や脳に異常をきたし死に至ることもある。
「症状の差はあるけど、動けそうなのも何人か居るのは救いだな。静雄さんが止めていなかったら、皆なってたかもしれない」
「それで、叫んでいる奴等は?」
「たぶん、幻覚か何かを見ているんだろう。高山病で見ることがあると聞いた。それにしても、こんな大勢がなるなんて………」
何か理由があるのだろう。それにしたって、この状況、どうするべきか……。
幻覚なら安全じゃないかと言う鈴木だったが真理谷が幻覚でも人が死ぬことがあると説明。しかも、幻覚だから自分達が何かしてやることは出来ない。
「取り敢えず動ける奴等は皆を集めてくれ!崖に近づけないように!」
「あ、ああ……!」
「うん!」
無事な者達が直ぐに幻覚を見ている者達を一カ所に集める。と、そこでトオルが気付く。
「レイは?レイは何処だ!?」
「ミイナも居ねぇぞ!」
レイとミイナが居なかった。慌てて聞き込むとフラフラと歩いていったミイナを追いかけたらしい。
恐らくミイナも何か幻覚を見ていたのだろう。レイも体調が悪そうだったらしいが、何人か見ていた光景と同じ光景を見ていたということは幻覚は見ていない。
「レイ!」
「俺はあっちを捜す、お前も、任せた!」
そういって静雄とトオルはレイ達を探して走り出した。
レイはミイナを抱えて崖を登る。
ミイナの後を追い、崖に落ちた彼の下に降りて、今は上を目指す。道中弟の話をしながら。
似てるのだ、彼は弟に。子供のくせに強がって、自分で何でも解決しようとするところが。弟を守ってやることは出来なかった。彼が虐められているのに、彼が歩道橋の手すりを歩かされ落ちたと聞いて初めて知った。
だから、今度こそ絶対に助けると決めた。
もう直ぐでつく。一際力を入れて登ろうとしたが、それが悪かったのだろう。レイとミイナの体重を受けた崖の一部が崩れる。
「────!!」
伸ばした手が空を切る。しかし、その手は掴まれる。
「危なっかしいな、お前は──」
「トオルぅ──!」
トオルだった。とはいえ、多少鍛えているとは言え二人分はきつそうで、早く登ってくれと頼む。何とか崖の上に上がったレイはミイナを抱えて距離をとる。
「レイ、無事で良かったよ」
「トオル!」
「うお!」
レイはトオルに飛びつく。成人女性に抱きつかれそのまま押し倒す。あ、と気付いたレイが赤くなって離れた。
途中で休憩したのが功を奏したのか皆症状が落ち着いてきた。ミイナはここ最近目の調子が悪かったらしいので、取り敢えず山では静雄におぶさって進むことに決めた。
と、そんな丁度良いタイミングで霧が晴れ、頂上が姿を現す。皆の体調に気を使いながら頂上へと向かった。
「へぇ、広い島だな……」
見渡す限りの地平線。小さな入江も見える。
「バカな、あり得ない!地図に載らないほど小さな島じゃなかったのか!?これでは、150キロ近くあることになるぞ。まるで大陸だ───!」
と、難しいことは解らず単純な感想を言う静雄と異なり山口や真理谷は驚き、その言葉に他の者達も驚いた。
と、周りを見回っていた者が変わった物を見つけたと報告。言ってみると、石が積まれた石塔があった。そこには布が石と石の間に挟まっていた。
その布、シャツには何かが書かれていた。英語だ。真理谷の翻訳によると『俺達は帰れない。ここは俺達の世界じゃない』だそうだ。
帰れないという単語にザワザワと不安が広がる。その不安気な皆を見て、アキラは立ち上がった。
「行こう。真理谷、ルートを決めてくれ」
「………川が見えるだろ?そこから行こう。水は必需品、エイケンだってそちらに向かった可能性が高い」
ちなみにエイケンと言うのはあのメッセージを残したと思われるアキラ達の同級生だ。ズーム機能の付いたカメラを持っていて、山の上から何かを見てあのメッセージを残したのではと思われる。
「………ん?」
山を下りようとする一同だったが、不意に静雄が立ち止まる。石の下敷きになった白い何かを見つけた。紙だ。
描かれているのは───
「俺?」
しかも電柱を振り回している姿。つまり、池袋での姿。の、はずだが何故かスミロドンを始めとした大型の古代生物達と戦っている。一体誰がこんな絵を?首を傾げながらも、アキラ達の後を追って歩き出した……
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