頭の中に流れたイメージ。それを中山に話したが、笑われた。当然だ、彼女は自分がインチキ占い師だと知っている。いや、彼女こそが自分をインチキ占い師に仕立て上げたのだから。
だけど、今回のイメージは何時もより鮮明で、自分が予知能力者になった始まり、火事の予知の時のような不安感がある。
「ああ、ここにいたか」
「──へ?」
と、その声に振り向くと静雄が居た。ここにいたか、とはつまり自分を捜していたのだろうか?しかし、いったい何故?
「あ、あの、何か?」
「さっきなんか言いたそうにしてたからな………あー、つーか、何か助けて欲しそうにしてたから」
静雄は元々面倒見が良い性格だ。兄だからだろうか?
後輩には出来る限りのことは教えようとするしダラーズがきな臭くなれば知り合いの少年に辞めるように勧めたりもする。性根が嫌いではない奴ならわざわざ知り合いの闇医者の下まで運んだりする。
そして、今はこんな状況だ。子供が何か抱えていそうなら取り敢えず相談には乗ってみようとする。
「─────」
とはいえ真実はそんな静雄の面倒見の良さを知らない。言ったところで馬鹿にされるだけではないかという不安もあるし、中山と違い殆ど他人の静雄にその事を言うと、他でもない自分が自分の死んだ未来を認めてしまったような気がして、怖い。
「まあ言いたくねぇなら良いけどよ」
「───す、すいません………」
「謝んな。ま、あれだ……頼り無い大人で悪かったな」
そんな事はない。自分のグループの大人たちより、ずっと親身になってくれているし、心配してくれるだけで嬉しい。
「本当に、ごめんな───きゃうん!?」
「あやまんなつったろ」
「す、すいませ──いえ、ありがとうございます。え、今の、デコピン?」
ジンジンと痛むおでこを押さえながら静雄の手の形を涙目で見て驚く真実。デコピン?今のが?凄い音したけど……。でも実は手加減されてたりする。
「……あの、どうして、相談に乗ろうとしてくれたんですか?私は、赤の他人なのに」
「………俺は小学のガキの頃、よく怪我しててな」
「へ?」
「自分も周りも全部壊して、そんな俺に優しく声をかけてくれたのが大人だった。んで、中学にあがると小学の噂が広まって、背が高いのもあって喧嘩売られまくった。助言してくれたのは先輩で、卒業後も就職の世話になったし、そこの社長にゃよく助けてもらった。後、セルティもか、彼奴年上だし」
「えっと、あの………」
「まあ、何だ。年上に助けられたりばかりの俺だからよ、その人達見習って、年下の力になれる大人になりてぇだけだ。余計なお世話かもしれねぇが、頼ってもらえるとありがたい」
この人は、違う。少なくとも、自分のグループの大人達とは。だって、こんなに頼りになる大人は、自分のグループに居なかった。
「………助けて、ください」
「おう。で、俺は何をすりゃ良い?」
「──────信じてくれるんですか?」
「嘘吐いてる奴は何となく解る。嘘吐かずに人を騙そうとするクソ野郎を良く追いかけてたからな、その辺りは解る」
信じてくれるらしい。先程の中山の態度を思い出し、その差に胸が温かくなる。そして同時に、その事を話し、恐怖を覚える。
「わ、私……見たんです。中山さんや、村松さん……皆さんが、鰐に襲われて、食べられるところを──!中山さん達だけじゃない!平和島さん達のグループも!そして、最後に───」
自分。鰐にかまれ、血が吹き出た自分の姿を思い出し顔を青くして震える真実を見て、静雄は落ち着かせるように頭に手を置く。大きな手だ。皮膚も厚くて、硬い。自分の手とは違ったその感触に手を伸ばし、ふぅ、と息を吐く。
「私も、食べられてました。その光景が、今までよりはっきりしてて、怖くて──でも、中山さんは信じてくれなくて」
「鰐──プリ──プリン──?まあ、彼奴等がこの辺りを彷徨いている可能性はあるか」
「でも、高台に登ってこれないって」
「どうだろうな、例えば倒木とか落石とかで道が出来てる可能性もある。うし、俺はちょっとみてくる。アキラ達に伝えてきてくれ」
「え、あ──で、でも、聞いて貰えないかも──」
「そん時はでけぇ声で叫べ」
静雄はそういうと森の奥へ走っていった。でかい声で叫ぶ?何で?
あれ、まさか聞いてもらえないって、話を聞いて貰えないとかじゃなくて声が小さくて聞こえなかったらって意味だと思われている?
訂正しようにも静雄はもう行ってしまった。
「──よ、よし!がんばろう!」
前向きに考えよう。静雄は、話さえ聞いてくれたら皆も信じてくれると思うほど、自分の言葉を信じてくれたのだ。それに答えよう。
「良くもやってくれたなあんた──」
「───ッ!」
アキラの言葉に縛られた村松は憎々しげな表情を浮かべる。自分達を疑っている様子だった真理谷とアキコを森の中で襲おうとして、待ち伏せしていた真夜にやられたのだ。中山も居たがザジが弱いせいで逃げられた。
「こいつが昨日静雄さんに岩落としたのか!」
「静雄さんだから良かったようなものの、静雄さんじゃなかったら死んでたぞ!」
「静雄さんじゃなくて俺らに当たってたらどうすんだ!」
と、キレるアキラグループ達。静雄に岩を当てられたことを純粋にキレる者はあまり居ない。その程度で静雄がどうにかなるとは思えない。逆にミイナなどはかなりキレている。
「おい!こっちも連れてきたぜ!」
ザジが汚名返上とばかりに連れてきたのは中山グループの残りのメンバー。ただし真実だけがいない。
「な、なんだよお前等!ボクらが何したって言うんだ!」
「とぼけんな!お前等が嘘の予知を実行してるのは解ってんだよ!」
と、後藤が叫ぶ。
「な、何のことだ、私は何も───!」
「ま、真実ちゃんの予知が嘘なわけあるかぁ!」
「そうだそうだ!雨で底なし沼がでるなんて、予知でもしなきゃ分かる訳ないだろ!」
内村は狼狽え池田と向井が反論してくる。後藤も後藤で熱くなり今にも殴りかかりそうだ。
「──は、は──い、居た、皆さん!」
と、タイミングが悪いことに真実がやってきた。走ってきたのか、息を切らせている。
「み、皆さん川に───!」
「来たな!さあ説明してもらうぞ!あんたの予知が全部嘘っぱちをな!」
「え?えっと──そうじゃなくて、鰐が、来るから、逃げて──」
「また嘘の予知かよ、いい加減にしろよ!」
「お、おい落ち着け後藤!」
「仙石、だけど──!」
「あ、あの──!」
「落ち着けって、中山っておばさん捕まえて、話はそれから──!」
「あの──」
ざわざわと騒がしくなるアキラグループ。話は、聞いてくれそうにない。真実の逃げてと言う言葉をそっちのけて中山を探そうとするアキラグループ。
──そん時はでけぇ声で叫べ
人の注目を集めるのは怖い。変なものが見えるようになってから、余計臆病になっていた。だけど、今は頼らせてくれる人がいる───
「───わっ!」
大きく息を吸い、叫ぶ。
その大声に全員ビクッと震え、喧騒がピタリと止まる。キョトンとする一同に、真実は集まる視線に脅えながらも、胸の前で手を組む。先程重ねていた静雄の手の感触を思い出す。
「鰐がきます。川に逃げてください!」
「───ふ、ふざけんな!どうせ適当なこと言って逃げる気だろ!」
「逃げません……静雄さんが今、周りをみています。何もないならそれで、それが良いんです……お願いします。川に」
「──足に自信がある奴は残って、それ以外は川の方に向かってくれ」
「し、信じるのかよ!?」
「備えて損はない。どうせあのおばさんだけじゃ何も出来ないんだからな」
アキラの言葉に女子達を始め川に向かう。足に自信がある者は残って中山を探す。と、奥に向かった者達が慌てて戻ってくる。
「た、大変だ!出た、奴等が出たぁ!」
「うわぁぁぁ!」
その後ろには、プリスティカンプススの群。アキラ達も慌てて逃げ出す。幸いにも人数が少ない、走るのに邪魔になる者はいない。
「お、おい!お前等、待てよ!」
村松は縛られたままだ。このままでは鰐に食われる、と顔を青くしていると誰かが縄を切る。中山だ。
礼を言うとその場から逃げようとして、中山は逃げようとしていた真実の手を掴む。
「ほら、行くわよ真実!」
「ま、待ってください!マネージャーも、川に──!」
「馬鹿言わないで、彼奴等と一緒にいたらなにされるか!」
「し、静雄さんはどこに───!」
「カァ──!!」
「ちぃ!うざってぇ!」
襲ってきた顎を避け、尻尾を掴み振り回す。前方の三匹が吹き飛び背後から近づいてきた顎を避け頭を踏みつぶす。
「あのババァ!見つけたらぶっ殺してやらぁ!」
静雄がちょうど中山を見つけた時には既に倒木が立て掛けられ、プリスティカンプススは直ぐに登ってきた。静雄がそいつ等の相手をしていると逃げていったが暫くすると倒木を登らずプリスティカンプススが数匹現れた。恐らく別の場所にも橋を立てかけたのだろう。
一匹が静雄の腕に噛みつき、跳ねる。
突然だが鰐の首は可動範囲が狭い。平たい体に加え、大きく開く顎。首の骨はまず捻るなど不可能だ。鰐の習性であるデスロールなどは体の筋肉で行う。
「?なんだ此奴、いきなり自分の首の骨折って───」
まあ、だから静雄に噛みついて勢いよく跳ねれば首の骨は捻れて折れる。
「──────」
プリスティカンプスス達はその光景を見て固まる。野生動物は無益なことはしない。自分の武器が効かないと相手に喧嘩を売るようなことはしない。
ましてや、静雄はその強さに対して体は細い。もし仮に殺せたとしても、労力に対して得られる肉が少なすぎる。
「───あ?」
逃げ出したプリスティカンプスス達をみて首を傾げる静雄。何故突然………疑問に思う静雄だったが取り敢えず橋を落としておく。とはいえもう相当数登ってきただろう。静雄はアキラ達の下に向かうために走り出した。
中山が食われた。内村と村松は様子を見てくるといって帰ってこない。恐らく見捨てられたのだろう。
「ね…ねぇ、真実ちゃん…ボク、死ぬ前にお願いがあるんだ……」
はぁはぁと息を上げた向井が真実を押し倒す。池田が何を、と叫ぶと死ぬ前に真実を犯したいと大声で叫ぶ向井。
「───えい!」
「あぽぁ!?」
その向井の玉を蹴りつける。股間を押さえる向井の下から抜け出し駆け出そうとすると、池田が足を掴む。
「ま、真実ちゃん!ボク、真実ちゃんに生えているかどーか気になって──」
「えい!」
「うご!?」
その顔を蹴りつける。腕がゆるみ慌てた逃げる。
「ま、まて、おい早く立て!」
「さ、先にやるのボクだからな!」
向井達も後を追おうと走りたそうとした時、茂みが動きプリスティカンプススが飛び出してくる。
「───ひっ!」
その光景は先程見た光景と同じ。予知の通りになった。なら、次は──
「──あ、や──助、助けて──誰か………へ、平和島さん」
「─────!」
「───ッ!!」
向井達を食っていたプリスティカンプススが大口を開けて迫る。思わず目を閉じ──
「おらぁ!」
「───へ?」
叫び声が聞こえ、目を開くと吹き飛んでいくプリスティカンプスス。振り向くと、静雄が立っていた。
「あ、あの──その背中の」
「ああ、今夜の飯」
「………そうですか」
たぶん群のボスであろう4メートル級のプリスティカンプスス。首辺りが捻れて死んでいる。その死体をみて、プリスティカンプスス達は逃げ出していった。
「意外と美味いなこれ」
「指先とかプリプリね」
ボスプリスティカンプススの腕を食いながら味の感想を言う静雄。隣に座ったミイナもモグモグと口を動かす。
「あ、あの……へい──静雄さん」
「ん?ああ、神楽か……どうした?」
「その、お礼を言いたくて。さっきはありがとうございました」
「気にすんな。言ったろ?ガキの面倒みんのは大人の役目だ」
「は、はい……でも、やっぱり嬉しくて……」
「そうか……んじゃ、どういたしまして」
「はい!」
「……………」
嬉しそうに返事する真実。その光景を不機嫌そうに眺め鰐肉をブチリと食いちぎるコトミ。
「……あ、美味しい」