ギガントピテクス達の森を抜け、エイケンが残したであろう石塔を目印に進む一同。今日も今日とて静雄が狩ってきた肉にありつく。
「しかしこうして思うと、エイケン達ってよく生きてたよな」
「え、何が?」
「この島ってやばい動物ばっかだろ?俺達は静雄さんがいたけど、さすがに静雄さんみたいにクソ強い人が何人もいるとは思えないし」
「逆にいや、お前等だって俺の助けが無くたって生き延びれたって事だ。だからそう感謝するな。俺は別に恩を売りたくてやってる訳じゃねーんだから」
どうだろうか?
確かに、生き残ることだけなら出来るかもしれない。でも、この人数だ。普通に考えれば動きにくく、ひょっとしたら死者が相当数出たかもしれない。ダニに関しては静雄でなければ死んでいたろうし。
食事を終え、再び歩き出す。焚き火の跡を見つけた。砂を被っておらず、それほど時は経っていないだろう。つまりエイケン達にだいぶ近付いた。
人に会える、と言うことで、それも知り合いと言うことで歩く速度が上がる。
「良し、この辺で休もう」
アキラの言葉に一同がふぅ、と一息ついてその場に腰を落とす者もちらほらと。桐野は一人グループから離れた。
トイレだろう。それを見ていた鈴木がこっそり後をついて行く。
静雄は焚き火の近くに何かないかと探していると再びスケッチブックの切れ端を見つける。焚き火の燃料にしたのだろう。また自分の絵だ。自販機を持ち上げている。
しかし、描いた人間が誰だか知らないが雑な扱い方をされるのは何とも言えない気分だ。
「………ん?」
しかし良く描けているなと眺めていると後ろにも何かがかかれているのに気づきひっくり返す。
「うっきょおおおおおおおお!!」
「───あ?」
不意に悲鳴が聞こえた。男の声だ。次に「来てください!」と女の声が聞こえてくる。
人工物らしき物が見つかった。見つけたのは鈴木。どうやら先ほどの悲鳴はそれらしく、次に聞こえたのは桐野の声だったようだ。トイレのために離れていた彼女が鈴木の一番近くにいたらしい。何故鈴木がそこにいたのかは、人工物の発見に喜び誰も気にしなかった。
「な、なんだこれ!?」
「でかい!」
「それに、ずいぶん古そうだ……」
たどりつくと全貌がはっきりする。どうやら巨大な石の柱のようだ。頂点が三つに分かれている。十字架、ではないだろう。縦に長い四角垂型で、横の二本は斜め上に向かって延びているし、その二本も先端が鋭く尖っている。
何かのモニュメントのようだと言う真理谷もその正体は解らなそうだ。
そのまま周囲を探しているとまた人工物が見つかる。
「まるで手みたい、気味が悪いね」
「やっぱこれも人工物?」
「そうだろうな……彫刻か何かか?」
その近くには穴が掘られた後がある。何かが埋まっていたのだろうか?と、穴のそこを見る。
「………ん?」
「いや、なんかここの土、ちょっと段差になってるような」
静雄の言うとおり穴のそこで僅かな段差が出来ていた。両方向から掘ったとして、対面する者達の掘る速度が違ったとしてもやけに真っ直ぐ差が出来ている。
「………お、動く」
力を入れて押せば地面が僅かに沈む。どうも回転式のようで、静雄が押した結果反対が持ち上がり何人かが動いた地面に驚きバランスを崩す。
「これは、まさか───回転式のトラップか!?」
「トラップ?」
「ああ、おそらく上に通った動物を捕らえる、或いは殺すためのトラップだ」
その言葉に慌てて動いた地面から飛び退く数人。真理谷は大丈夫だろう、と落ち着かせる。さっきまで作動していなかったことを考えるとおそらくは大型動物用のトラップ。人間ならそれなりの数が乗らないと作動しないはずだ。静雄は片手で押してたけど。
「静雄さん、これ、持ち上げられますか?」
「ん?おお」
真理谷の言葉にヒョイ、とトラップを持ち上げる静雄。もっとあけた方が良いよな、トラップを持ち上げながら立ち上がり回転式のトラップの中央に近づいていく。トラップが完全に直角になると足を止め自らものぞき込む。そこそこ深そうだ。
「おお、開いたぞ!誰かいるのか!?ロープか何かないか!?」
「おっさんの声?誰か落ちてたのか?」
「ロープを!」
アキラの言葉に神那と雪がロープを持ってくる。下に垂らしたロープがすぐに張る。誰かが、上ってきた。
残念ながらロープを引っ張ることは出来ない。このロープでは擦り切れてしまうか。
「手を貸してくれ」
「ああ!」
穴の縁から手が覗き、アキラが駆け寄る。生徒たちの反応からして、この声の主は知り合いのようだ。
「……やあ」
「──い…生きてたのかよこのやろー!エイケンだよエイケン!本物だ!」
目が前髪に隠れるほど伸ばした小太りの少年。アキラ達と同じ制服に身を包んだ彼はやはり知り合いらしく、学校でも友達が多いのか多くの者達が反応している。
彼は自分も上れたのだからと下の者に呼びかけると次々上ってきた。まずは女の子をおぶった目つきの鋭いりおん達と同じ制服の女子。次に小太りしたおっさん。坊主。
「おーい、岸谷夫妻、お二人もおはやく!」
「………岸谷?」
その単語にピクリと反応する静雄。対してロープはピクリとも反応しない。
「おぅい!そこのトラップを片手で支えている君ぃ!静雄君だろう!?そんな事できるのは君しかいないだろうからなぁ!私は年なんだ、エミリアもか弱いインドア派。ロープに捕まるから引っ張り上げてはくれまいか!?」
「………この声、やっぱ新羅のおやっさんか………すまん、誰かロープ持ってきてくれ」
「お、おい、いくら何でも、片手が塞がっているのに………え、ていうか何でその巨大な石の板片手で支えてるの?」
と、坊主が戸惑いながら静雄に無理をするなと言うがアキラ達は躊躇うことなく静雄にロープを渡す。静雄が腕を回転させ巻き付けるとクイクイ引っ張られる。
「────ふっ!」
「うぉぉ!」
「ワオ!」
そのまま腕を振り上げるとロープを身体に巻き付けた男女が静雄の頭上を通り抜け地面をごろごろ転がる。
「いたた、もう少し優しく持ち上げてくれたまえ」
「びっくりドッキリな体験デシた。おかげで助かったデスマス」
「あんたは、確か新羅の──」
「はいな。新しいマミーデス。森厳さんとの新婚旅行およびお仕事で飛行機に乗っていたら飛行機事故にあい驚き桃の木だったデス」
腰をさするのは白衣の男。顔を白いガスマスクで隠すという圧倒的不審者で、女性のほうはたれ目の白人の美女。彼女も頭の上に白いガスマスクをつけていた。
「いやしかし静雄君がいるのは僥倖だ。これでこの島も安全というわけだな。よし、では静雄君いくぞ!かつて絶滅して骨しか残っていない絶滅動物達を徹底解剖するのだ!」
「え、やですけど」
「なに!?絶滅動物だぞ、図鑑に似すぎていていくら何でも可笑しい、ひょっとしたら人造生物かもしれない動物がごまんといるのに、それを解剖しないなんて君は正気かね!?」
割ととんでもないことを良いながら静雄に詰め寄るガスマスクの男。静雄がデコピンの構えをとるとあっという間におとなしくなった。
トラップから見つかった人物はアキラ達と同じ学校のエイケンこと森田真に常磐あや。坊主の小見山正剛、小日本印刷の専務の五十嵐英夫、静雄の知り合いで研究者らしい岸谷森厳とその妻エミリア。そして、ミイナが演じていた本物の石動ミイナ。どうやら彼女は記憶を失っているらしいのだが───
「────不思議」
「何がだ?つか、離れろ」
この場所をベースにしようと言う話になり、塀を造るための木を運んでいる静雄の腕にプラプラぶら下がるミイナ(真)はジッと静雄の腕を見る。
「こんなに細いのに、どうしてそんなに力が出せるの?おかしい、生物として、有り得ない」
「わははは。相変わらずだねミイナ君。あり得ない?今、そうして君が見ているのにか?自分の知ってる常識のみを信じその骨格から生きていた頃を推測するという是非とも解剖したい脳を持っていようと所詮は子供というわけだ。しかし静雄君、この前より力が上がってないかな?いや、この前もおそらく本気ではなかったんだろうが………ううむ、手持ちの機材では折れるだろうし………静雄君、この島から無事脱出できた暁には是非とも解剖させてくれたまえ!」
「殴りますよ?」
「冗談だ冗談!君に殴られたら死んでしまう。勘弁してくれ」
「森厳さん死んでしまうデスか?そんなの私困るです。後妻業になってしまうデスヨ」
「安心したまえエミリア、君を残して死んだりはしないさ!」
なる程、やっぱりこの人達は新羅の血の繋がった父で、血は繋がらずとも新羅の母だ、とその二人を見て思う静雄であった。
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