真理谷の推測によれば、ここはりおん達を飲み込んだトラップが塔を中心に円を描くように設置されている可能性が高いとのこと。
他は近くの川が氾濫した時流れてきた土砂に埋まったと推測される。だからこそ、掘り起こした一つだけが作動したのだろう。
「だったらいっそ、全部掘り起こしてバリケード代わりに使えねえか?」
「それも一つの手だが、今は一先ず柵を建てる方が先だ。発掘など時間がかかるしな」
と真理谷の言葉で一同は柵やテントを建てることになった。塔を中心に居住区を作るのだ。
そして、そんな力作業などしたくないと森厳が言い出した。自分は医療の心得があるからそちらをやる、とも。なお、医者ならなぜ飛行機不時着時に名乗り出なかったのかとアキコが問えば面倒事はゴメンだから、と言い切った。
「とはいえこうして拠点が出来、役割で別れたならば私も私の仕事をしよう。肉体労働など御免こうむるからね」
「おう、デは私森厳さんのお手伝いするデスね」
ただいまナースなのデス、と森厳を手伝う気マンマンのエミリアと共に仮設診療所に勝手にしたテントに引きこもった森厳。実際医者がいれば助かることも多いので森厳の主張は通った。
「じゃあ、俺は肉になりそうなのを探してくる。悪いな、あんま手伝えなくて」
「い、いえ助かりました!」
大量の木材を運んで来た静雄に頭を下げる男子生徒。
現在柵を作る仕事は男子、あまり力を使わなくても済む発掘作業は女性達と別れていた。そんな中、野生動物を気にせず活動出来る静雄は狩りに出ていた。とはいえ痩せた地では植物も少なく、草食獣を餌にする肉食獣もなくここ最近は巨大魚ばかりだが。
「やっぱ、飯になる動物いねえなあ………」
猛獣の姿もなく、これなら学生達でも釣りが出切るだろう。完成を急ぐ柵作りか、最近人の頭や腕の彫刻を見つけたという発掘作業を自分も手伝うべきだろうか?
「ん?」
と、不意に静雄は立ち止まり耳を澄ませる。何か、人の声が聞こえたような気がしたのだ。
「………ケテ………タ………テー………」
「っ!」
助けて、そう聞こえた。すぐに駆け出す静雄。木々の疎らに生い茂る茂みに飛び込み……
「タスケテー………」
「…………あ?」
変な鳥と出会った。手のある、二足歩行の鳥だ。ダチョウやキウイなどのような、飛べない鳥。ただし、めちゃくちゃデカイ。まるで恐竜。
その巨大な嘴で、静雄に噛み付く。
「ギィ!?」
そして、その首がゴギャリと圧し折られる。
「変わった鳴き声の鳥だな」
もちろん、タスケテーと言うのが鳴き声の鳥ではない。鳥には声帯がなく鳴管と呼ばれる器官があり、そこが独特な進化をしたオウムやカラスなどは他の生物の鳴き声を出せるのだ。つまり、この鳥達は人を襲った事がある。
熊が一度人を襲うとまた襲うようになるのは、狩りやすい弱い生き物で、足も遅く、それでいて肉が多いと学ぶからだ。この鳥達も二足歩行の毛が少なく、変なのを身に纏った生き物は弱いと覚えた。もとより鳥類は頭が良いのだ。だから、静雄を襲った。勝てると思って。その結果、仲間の首が折られた。あっさりと……
「タスケテー!」
「タスケテータスケテー!」
「キャアアア!イヤアアア!」
「ダレカアアア!!」
嘗て襲った獲物達が上げていた鳴き声を真似する。同族の叫びを聞けば、大抵の動物は動揺するからだ。静雄もぎょっ、と固まりその隙きに駆け出す。
飛行能力では無く、地上で狩りをすることを選んだ鳥。その足は速い。
「っ!そっちはベースの………待てコラァ!」
が、静雄の規格外の筋力は全身に及ぶ。その脚が生み出す力も、それによって前に進む静雄の速度もかなりのものだ。鳥達は全力で走るが、足が長く、前屈姿勢故に足下が死角となり、一匹が転ぶ。
「うお!?」
倒れた個体に躓いた静雄は鳥達と距離が離れる。転んだ鳥がヤケになったのか襲ってきたので首の骨を蹴りで圧し折り直ぐに再び駆け出す。
「………ん?」
ベースが、既に騒がしい?
見れば、スミドロンと巨大なカンガルーが作りかけの柵の中で暴れていた。
「チィ!」
舌打ちした静雄に、鳥達は更に恐怖を感じたのか速度をあげる。前を見る事すら忘れスミドロンやカンガルーとぶつかった。
「ゴアアアア!」
「ペッペッ!」
「ゲエエエエ!」
獲物の横取りかとスミドロンとカンガルーが叫び逃げ出したい鳥は邪魔だとばかりに叫ぶ。
「うわああ!また新しいのが!」
「ティタニスだ!ディアトリマなどと同じ恐鳥と呼ばれるグループでも最大の種!」
「だけど、コイツ等喧嘩してる!今のうちに!」
アキラの言葉に全員が距離を取ろうとする。それでも漏れた何匹かは人間に襲いかかる。
「ペエ!」
「うお!?」
巨大カンガルーが静雄を蹴りつける。不意の一撃でバランスを崩した静雄を踏みつけようと飛んだカンガルーだったが、大したダメージはなく静雄はその尻尾を掴む。
「オォラァ!」
それをミイナ達とミイナ達をかばっていた夏奈子を襲おうとしたスミドロンに向かって投げ飛ばす。
「ぺぺッ!」
「ガアアア!」
その2匹は静雄の脅威に気付いたのか及び腰になるが、乱戦状態で興奮して、止まらない獣の方が多い。
一々対処していては手が回らないが、それでもやらぬ訳には行かない。
「し、静雄さん! 皆、静雄さんが戻ってきた!」
松下の叫びに全員の顔に安堵が宿る。
「……………」
これは、少し不味いかもしれない。静雄はふとそんな考えを頭に過ぎらせた。
別段人を守る事に不快感はない。彼等は自分と違い腕力がない。だから頼られるなら頼らせるが、静雄は自分で思う以上に頼り甲斐があり過ぎた。その安堵から、反応に遅れる者が現れ始める。
「くそ!」
手頃な石を投げるがこの状況では大した力も込められず動きを阻害するか、当たりどころが良ければ逃げ出させる程度。と………
「ん?」
不意に充満する煙。見れば小屋が燃えていた。
「皆、こっちだ!こっちに集まれー!みんなー!」
アキラの言葉に煙の発生源である小屋に向かう一同。逆に、息苦しくなる火に近づく野生動物など居ない。
煙に隠れた獲物を襲えず、煙に巻かれそうになり逃げて行く。
「や、やったぜ………助かった!」
「…………助かった、か?」
結構な怪我人が出た。更に言えば、数が多い。
熊もどきの時はダイアウルフが味方してくれたし、アルゲンタビスの時は一度で引いてくれた。
しかし今回の敵は静雄が来る前に、人間は簡単に狩ることが出来ると覚えた筈だ。それも復数の群れが。ティタニスは一応静雄を驚異と学んだろうが、ハイエナなんかは雄ライオンが居ない間にライオンの子供を殺したりするらしい。強い奴が居ない時に襲えば勝てるとは、野生動物でも知ってる事だ。
「お、おいお前!」
「なんすか?」
と、静雄に叫んで来たのは五十嵐だ。
「なんすかやない!何処ほっつき歩いとったんや!お前がおらんせいでこんな目にあったんやぞ!きちんと儂等を守らんかい!」
「…………ああ?」
ギロリと静雄が睨めば五十嵐はビクリと震え腰を抜かす。
「な、なんやその目!お前が悪いんやろ!?なあ、皆やって何処で何してたって思うやろ!?」
五十嵐の言葉に、口にこそしないものの、静雄が早く戻ってきていればと言いたげな視線が何名かから飛ぶ。想い人なのか、一人の男子生徒に寄り添う女子生徒のが特に強い。
「皆、どうしたんだよ!?」
それに困惑するのはアキラだ。正剛などはやはりか、と言いたげな顔をした。
「強すぎるんだよ、彼は。皆心の何処かで、彼が居れば自分達は安全だと思っていた。こんな過酷な状況じゃ、仕方ないかもしれない。だけど、肥大化した信頼はその人本人を見るのを止めてしまう」
そしてそういうものだと認識し、いざ自分達のピンチに現れなければその責任を求める。
「………別に、お前等を守るのが嫌な訳じゃねえんだ。俺は腕力ばっか強いし、お前等を守ってやらなきゃとは思う………だがよお、だからって何もかもやれなんて言われるのは、ちげえよなあ!?」
静雄の言葉に震える五十嵐に、目を逸らす生徒達。
「み、皆いくらなんでもあんまりよ……」
と、そんな中声を発したのはコトミだった。
「静雄さんだって人間なの、神様じゃないのよ?何でも出来るって勝手に頼って、してくれない事を責めるなんて間違ってる………」
男子人気が意外にも、というかやはり高いコトミの言葉に男子達が気まずげな顔をする。天然だと思っている彼女の珍しい非難に罪悪感を覚えたらしい。
「そうだ皆!元々俺達が頼りすぎてたんだ、こんな危ない動物だらけの島で、たった一人に全部任せてた方がどうかしてたんだよ!」
「その通りだ。今回の件は、バーテンダーの怠慢ではなく僕達の油断が招いた事だ。いや、そもそもここなら猛獣が居ないと油断させてしまった僕にこそ責任があるだろうな」
アキラと真理谷の言葉に空気が変わっていく。静雄ははぁ、と頭をかくと静雄が暴れる前に味方ヅラする為に寄ってきた森厳に話しかける。
「俺は、甘やかしすぎてたんすかね」
「勝手に甘えられただけさ。まあこんな状況ではねえ……君が彼等の成長の機会を奪っていたのもまた事実だろう」
「そっすか……」
「とはいえそれは君の責任ではない。この島で他者に依存していてはいずれ限界が来る。いいきっかけになったと思いなさい。どうせ、あんな事があった今でも君は彼等を見捨てれないのだから」
「まあ、やっぱ俺は大人で、彼奴等はガキですからね」
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