池袋最強とエデンの檻   作:超高校級の切望

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欲望の代償

 拠点を作ってから五日ほどたった。ジャングルに入り、10日。

 ロープで屋根をつった簡単なテントやハンモックなどを作り、昼は木の実などを集め夜は交代で火の番。今の所動物がくる気配はない。静雄は、これまでと同じく動物を狩ってくる。

 周囲には出ないため少し離れて。その間、ミイナの面倒はアキコ、護衛はヤクザ達が行っている。そんな感じではや五日。

 今日も肉を穫ってきた静雄は拠点に運びながらチラリと後ろに振り返る。

 

「………カロロロ」

 

 パキパキと小枝を踏みつぶし現れたのは巨大なヒョウのような肉食獣。この辺りでは見かけなかった生物。現れ始めたのは、まあ餌となりそうな動物が現れ始めたからだろう。つまり人間だ。

 

「………失せろ」

「───!?」

 

 ビクッと身体を震わせるヒョウ。踵を返して慌てて森の奥へと消えていく。

 静雄ははぁ、とため息を吐く。水源が近くにあり、木の実もとれる。理想的な拠点だったがもう駄目だろう。説明して移動の準備をさせなくては──

 

 

 その頃拠点では、集めた木の実を配っていた。静雄のように狩りに行けない者達は簡単な家造りと木の実など食料となる植物を集めていた。ヤクザ達は仕事などせず暴力で奪おうとしてくるが、静雄の名をちらつかせれば全部奪おうなどとはしない。

 

「十和さん、これここに置いとくぜ」

 

 と、狩野が採ってきた木の実を置く。それに対して礼を言うアキコ。ミイナは狩野から距離を取るようにアキコの後ろに隠れる。

 ミイナは基本的にアキコと共にいる。静雄が帰ってくれば彼の近くへ。護衛を申し出たヤクザ達はそれを遠巻きに眺める。それがここ最近の日常の風景だ。

 

「あれ、いいのこんなにたくさん……」

「ああ、今日は大量だったからよ」

「十和さんかわいいからサービスサービス!」

 

 女一人で残りは男。十和本人も美人で人当たりよくこのグループの中では中心人物になっていた。

 

「静雄お兄ちゃんも喜びそう」

「そうね、静雄さん食いしん坊だもの」

 

 ミイナの言葉にアキコが同意すると周りの男達が露骨に動揺する。男達にとって静雄は出来れば触れたくない存在なのだろう。単純に、恐ろしいほど強いから。

 ちなみに静雄は基本的に名前で呼ばれることが多いからと名前で呼んでくれるように頼んでいた。弟も居るし、だそうだ。

 

「さて、私は静雄さん帰ってくる前に水浴びしてくるけど、ミイナちゃんはどうする?たまには一緒にはいる?」

「う、ううん。私は後ではいる」

「そ、女の子なんだから後できちんと身体きれいにするのよ」

 

 そういって水辺に向かっていくアキコ。その背中を視線で追う男達。ミイナは知っていた。彼等が覗きを行うことを。

 こんな状況だ、ストレスがたまるのは解るが、優しくしてくれるアキコが此奴等の好きにされるのは、流石にもう見過ごせそうにない。こっそり男達の後をついて行く。良いところでわっ!と脅かしてやろうと思っていた。

 

 

 

 身体を清める行為とはいえ石鹸も垢すりもない。だから適当に濯いで終わりだ。水気を祓い、服に着替えたアキコ。と、人影が現れる。

 

「……え?」

 

 一人二人ではない。ミイナの護衛を買って出つつも拠点では3人でだらけているヤクザ達や狩りに出かけている静雄以外の大人全員。

 彼等は毎日覗いていた。それである程度満足していたが、たまったストレスがとうとう限界を迎えたのだろう。

 

「な、何!?やめて!」

「おい押さえろ!」

「あの洞窟に運べ!」

「いやあああ!」

 

 男達の情欲に染まった視線に嫌悪感を覚え必死に抵抗する。黙らせようと口を押さえた狩野の手の甲を爪で抉ると狩野の瞳に怒りが宿り、首を絞められる。

 

「か──あ………ッ!」

 

 息が出来ない。血液が脳に向かわず、意識が薄れていく。視界が黒く染まっていき、腕を剥がそうと狩野の手首をつかんだ手から力が抜ける。元々狩野は警察官で一般人より筋力がある、それ以前に男と女だ。引き剥がせるはずがない。が、放れる。

 ドゴォ!という音と共に首から手が離れた。

 

「けほ、えほ……!ごほ!」

 

 舌先にピリピリ痺れるような感覚が走る。せき込みながら呼吸を整え顔を上げればそこには静雄が立っていた。よく見れば狩野の他何名かも吹っ飛んでいた。音は一つ。つまり、一撃で?

 

「女相手に何してやがんだてめぇら!」

「ひっ!?」

「へ、平和島静雄……!!」

 

 ビリビリと大気を揺する怒号に腰をぬかす者も数名。吹っ飛ばされた狩野は何とか立ち上がり慌てて弁明を始めた。

 

「ま、待ってくれ違うんだ!こ、これはその………つい、魔が差して。ほら、お前も男なら解るだろ?た、たまってんだよ!発散しなくちゃ………」

「………たまってる?発散?ああ、なるほど………まあ理解できる」

「そ、そうだろ!?な、なんならアンタが最初に………」

「だからよぉ……」

 

 静雄の言葉に笑みを浮かべる狩野だったが、静雄は無視して近くの岩に手を置く。

 

「俺がたまったストレスアンタらで発散しても、文句は言わねえよなぁ!?」

「「「───ッ!!」」」

 

 そのまま片手で己の倍はある巨岩を持ち上げる。あんなものを叩きつけられれば、象でも死ぬ。顔を青くして逃げ出そうとする男達の眼前に岩が投げられる。地面が大きく揺れ何名かは倒れ、中には失禁する者もいる。

 

「し、静雄さん待ってください!」

 

 誰もが死を覚悟した中、静雄の前に立つ者がいた。何処の命知らずかと振り返れば先ほど自分達が犯そうとしていた十和アキコ本人だった。

 

「………何のつもりだ?」

「こ、殺すのは駄目です!」

「………………まあ、お前が許すってんなら、俺に何か言えた義理じゃねぇけどよ………良いのか?」

「はい……この事は、日本に帰って、日本の法律に任せます」

「…………そうか」

 

 と、静雄は新たに投げようとしていた岩を捨てる。ホッとした十和。人が死ぬのはやはり見たくないし、何より静雄が自分のために人殺しになるなんて以ての外。止まってくれて良かった。しかし、その対応に納得しない者達も居たようだ。

 

「ま、待ってくれよ法律って!わ、悪かったって………謝ったろ!?お、俺には妻も子供もいるんだ!」

「わ、私も息子が……」

「私だって、出張が終わったら結婚する約束をしていた恋人が………!」

 

 自分達を見逃せと、そう宣う男達に静雄がピキピキと怒りを募らせ地面を蹴りつける。岩が落下した時以上に地面が揺れ、鳥達が逃げ出す。

 

「おいお前等、今人殺そうとしてたよな?女相手に寄ってたかって、押し倒して犯そうとしてたよなぁ?それだけのことやっといて、魔が差しただけだから普通の生活を続けたい?そいつは筋が通らねぇだろうが!」

 

 再びズン!と先ほどより強く揺れる大地。男達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す。静雄は追いかけようとして、アキコの存在を思い出す。今離れるべきでは無いだろう。と、その時茂みがガサガサ揺れる。アキコが静雄の後ろに隠れ静雄が睨みつけると、出て来たのはミイナだった。

 

「十和ねーちゃん………良かった、無事で……ごめんなさい、助けなきゃって思っても……怖くて」

「ミイナちゃん………ううん。ミイナちゃんが来てたら、もっと酷いことになってたと思う。無事で良かった」

 

 なにせ子供とはいえミイナも女だ。欲望が暴発した彼等が、何をするか解ったものじゃない。

 

「ま、男とはいえミイナも子供だ。怖いことから逃げたって、誰も文句言えねぇよ」

「そうそう………ん?あれ……静雄さん今変なこと言いませんでした?」

「あ?そうか……?」

「はい、ミイナちゃんが男の子って」

「?ミイナは男だろ?何で女のかっこしてるか知らねーけど」

 

 え?とミイナを見ればミイナの顔は驚愕に彩られていた。

 

「な、何で俺が男だって……何時から………」

「運んだ時。あれだけ強く抱きつかれりゃな………」

 

 と、その時だった。突然悲鳴が聞こえてきた。

 

「──!?こ、今度は何!?」

「チッ、まさかもう来やがったのか!?」

「静雄お兄ちゃん、何か知ってるの!?」

「さっきこの辺りじゃ見かけなかったでけぇ動物見つけた。たぶん俺らっつー餌を見つけたんだ。拠点を移そう、って言おうとしてたんだがな……」

 

 舌打ちして走り出す静雄。が、ミイナとアキコが遅れたのでミイナを背負いアキコを抱え簡易テントを目指す。そこでは………

 

「お、おい居たか!?」

「駄目だ、いねぇ!どうすんだ、このままじゃ静雄に殺されちまう!」

「は、早く探せ!彼奴人質にすりゃ静雄だって手が出せねえ筈だ!」

「…………あぁ?」

 

 ヤクザ達三人が殺され、ミイナや十和達用の女子テントに入り叫ぶ男達。静雄の額に青筋が浮かぶ。どうやら彼等は目撃者である静雄を殺すためにミイナを人質にしようとしてたらしい。そのために、護衛だったヤクザ達を殺して。

 静雄だけではないだろう。被害者のアキコも殺すだろうし、人質として使う予定だったミイナだって目撃する事になるのだから殺すつもりに違いない。よし、ぶち殺そう───!

 

「ひ、ひぃ!静雄だ!」

「なんてこった、石動のガキと一緒だ……さ、最悪だ!」

「く、くそ!俺は、俺は家族のところに帰るんだぁぁ!」

「最悪なのはてめぇらの方だ────あ?」

 

 果敢にも石斧を持って襲いかかってきた男を返り討ちにしようと自由な方の手の指をゴキゴキ鳴らす静雄。その石斧を持った男が、巨大なヒョウに喰われた。

 

「ガロオオオオオッ!!」

「此奴、さっきの!?今度こそ来やがった!」

「ガロ………」

 

 静雄が叫ぶとヒョウが振り返る。咥えていた男を放り捨て静雄に向かってくる。

 

「ミイナ、しっかり掴まってろ!」

 

 その牙をかわし、上に飛ぶ静雄。一足で数メートルは跳び木の上に着地し下を見る。ヒョウは、どうやら一匹だけではないようだ。

 

「此奴等、こんなに居たのか……」

「で、でも何で一気にこんな数………それに、なんかこっちに気づいてないみたいだし」

「…………血の匂い、かも」

 

 ミイナが疑問を口にするとアキコが予想を言う。成る程、血の匂いか。確かにヤクザ達を殺してその血を浴びた者達が優先的に襲われている気がする。

 静雄という脅威を取り除くためにミイナを人質にしようと人を殺し、その結果別の脅威を呼び寄せたわけだ。

 流石にこの数を相手に二人を守るのはキツそうだ。

 

「お、おい!助けて、助けく───げぇ!」

 

 静雄に助けを求めた男がヒョウに噛まれ顎の骨がむき出しになる。静雄は舌打ちして背を向ける。地上にはヒョウの群。木の上を渡るか、と足に力を込める。

 

「え?うわ!」

「きゃあ!」

 

 枝を跳ね、或いは片手で枝をつかみ三人ぶんの体重を支え、更に腕の力だけで次の木まで跳ぶ。人間業じゃない、というか木の上で生活する猿でも出来ないであろう移動法。あっという間に悲鳴は遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 ヒョウに襲われほとんどのメンバーが死んだ中、狩野信造は生きていた。

 

「へ、へへ………ここまでくりゃ……」

 

 ちょうど良かった。秘密を知った奴らが喰われてくれた。もし罪悪感で日本に帰った後自首でもされていたら自分にまで罪が及んだことだろう。問題は平和島静雄達。あの化け物なら、きっと生きてることだろう。

 

「くそ、化け物の分際で人間ぶりやがって!日本に戻ったら、暴行罪で豚箱にぶち込んでやる!」

 

 自分は警察。静雄は、お世辞にも見た目が善良な一般人には見えない。アキコとミイナさえ殺せれば罪を押しつけることが出来るはず。しかし、だいぶ走った───と、頭を拭うとヌルリとする。見れば、血が出ていた。先ほどアキコに引っかかれた傷だ………

 

「ガロオ……」

 

 その血の臭いを感じ取って付いてきたのか、一匹のヒョウが現れる。

 

「あ、あの女!ま、待て来るな!やめ───ぎゃああああッ!!」

 

 

 

「ここまでくりゃ、大丈夫だろ。ミイナ、腕平気か?」

「後少ししたらヤバかったかも」

 

 拠点からある程度離れた。ミイナは地面に降りると腕をプラプラ振るい、アキコはその場で吐き出す。静雄が上下左右に激しく移動していたのもあるだろうが、あの光景を見たのもあるだろう。

 

「取りあえず、明日また移動するぞ。今日は休む……また別の拠点見つけねぇとな」

 

 そして、その日は休むことにした。流石にあの光景を見た後女子供だけで居るのは怖いのか、静雄に縋るように抱きついて眠るアキコとミイナ。静雄は先程の出来事を思い出す。

 追い詰められた人間はどんな行動に出るか解らない。自分は強いから、この状況もどこか楽観していたのかもしれない。

 

「………敵は人にもいるかもしれねぇ、か……おかしな奴らが増える前に、救助がくりゃ良いんだがな……」

 

 

 

「今日はこの辺で休むぞ。明日こそ、拠点になりそうな川でもあれば良いんだがな」

 

 あの後、血だらけの拠点に戻り役立ちそうな物を見繕い次の拠点を探しに移動することにした静雄達。今日は見つからなかった。

 

「見つけても、また化け物が来るかもよ」

「来るだろうな。柵でも作れりゃ話は変わるが、この人数じゃな……どっか大きなグループと接触するまでは動き回ってた方が安全だろ………ん?」

 

 と、不意に砂煙が見える。何かが走ってきているのだろう。目を凝らすと、砂煙の前に五つの人の影も見える。砂煙は彼等より後ろだが、近づいていって居るのは間違いない。暫くして見えてきた。巨大な豚だ。狩野に似ている。

 狙いは五人組ではないのかほぼ素通りだが1トンはありそうな巨体が周囲を駆け抜けるのが危険には変わりない。

 おまけに、彼等に気づいた個体が足を止める。

 

「逃げるぞりお───!」

 

 一人の少年がCA姿の女の手を掴み駆け出しそうとした瞬間、静雄が大口を開けていた豚を蹴りつける。

 

「………え?」

「バファ!?」

「バフォ!バフバフ!」

「バフォォォ!!」

 

 少年が混乱し、豚達は突如現れ自分の仲間を蹴り飛ばした相手に警戒心をむき出しにする。

 

「や、矢頼!?じゃ、ない………誰だ!?」

「バフォ!」

「あ、危ない!」

 

 少年が誰かと勘違いしたのか少し前に出会った少年と同じ名を呟き戸惑っていると豚の一匹が突っ込んでくる。CAが叫び、静雄は片手を前に突き出す。豚の頭部が静雄の掌に当たる。普通なら腕は砕け身体を吹き飛ばされる。だというのに、吹っ飛んだのは豚の方。

 静雄の足下地面が少し削れたが豚はまるで巨大な岩に体当たりしたかのように吹き飛ばされた。

 

「バファァ!」

 

 と、今度は一匹が静雄の腕に噛みつく。

 

「い、いかん!エンテロドンは獲物を骨まで食い尽くす強靱な顎を───!」

「離せごらぁ!」

 

 眼鏡の少年が何やら叫んでいたが気にせずその豚を別の豚に投げつける静雄。骨が折れたのかその場から動けなくなる豚と、恐らく肋が内臓に刺さったのか血を吐く豚。残りの豚達はなおも襲おうとする。静雄は蹴りつけ首を折り、頭を掴み膝を打ち付け顎を脳ごと潰す。

 あっという間に、その場に生きている豚は居なくなった。

 

「………夏奈子?」

 

 少年達が唖然とする中追いついてきたアキコがCAを見て目を見開く。そういえば彼女もCAだ。知り合いなのは当然か。

 

「……せ、センパイ?」

「夏奈子!良かった、無事だったのね!不時着してから一度も見かけなかったし、もう駄目かと……!」

「センパイ!生きてたんですね!」

 

 と、その場でお互いの存在が幻ではなく本物であることを確かめるように抱きしめあう二人。静雄はボリボリ頭をかいて少年達に向き直る。

 

「取りあえず、自己紹介でもしとくか?」




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