池袋最強とエデンの檻   作:超高校級の切望

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迷いの洞窟

 雪が流れてきた川の上流に向かって歩く一同。しかし途中で川は崖に遮られた。ここから何処まで距離があるのか解らないのに川の中を進むのは悪手だ。

 迂回することにした。

 

「暗くなってきたな。ミイナ、大丈夫か?」

「うん。平気………」

 

 日もだいぶ傾いてきた。危険な野生動物たちが蠢くこの島の夜は本来なら移動すべきではないのだが、アキラはどうも止まりそうにない。なら、出来る限り明るい内にその洞窟に近付いておきたい。と、その時──

 

「………あ?」

「な!?何だ、沈む!?」

 

 突然身体が地面に飲み込まれ始めた。まるで底なし沼だ。 

 

「か、陥没ドリーネか!?」

 

 真理谷が叫ぶ。陥没………つまり下が空洞と言うこと。静雄はミイナを掴むと地面から引っこ抜く。とはいえ、下に空洞がある以上この辺りにこれ一つとは限らないから投げるのは駄目だろう。胸に抱き寄せ背中をしたにする。視界が闇に包まれ、数秒後背中に軽い衝撃が走った。

 

「ミイナ、平気か?」

「う、うん……ありがとう」

 

 暗闇。

 サングラスを取った静雄は周囲を見回す。目が慣れてきた。どうやら皆無事らしい。

 下の砂がクッションになったのだろう。

 

「………ッ!?お、お兄ちゃんあれ!」

 

 周囲を見回していたミイナが不意に叫ぶ。その視線を追えば、そこには巨大な顔があった。

 本物ではない。岩にあいた穴がそう見えるのだ。

 

「ま…まさか、誰かが作ったの?こんな大きなものを?」

「バ、バカを言うな。こんな島に人工物など…自然に出来たものに決まっている!偶然……そう!偶然だ!」

 

 りおんの言葉に真理谷が否定する。人面石とでも名付けようか……その巨大な岩は確かに人工的に見えるがこれまで全く文明の気配が感じなかった島に忽然と現れたそれを真理谷は自然のものだと判断した。

 

「お、おい見ろよ!」

 

 ザジの叫びに全員なれてきた視線を周りに向ける。そこは、巨大な鍾乳洞だった。外と同じく妙な動物たちもいる。あれらも絶滅動物なのだろうか?

 

「あっ!?あそこ、誰か倒れてる!」

 

 りおんが倒れている人影に気づき駆け寄っていく。アキラが抱き上げようとして、固まる。

 死んでいた。りおんや雪と同じ制服。眼鏡をかけた黒髪のサイドアップの少女。目を見開き口から血を流し絶命していた。

 

「た…田村さん、そんな……私がいた時はまだ元気だったのに」

 

 

 

 改めて周囲を見回す。落ちてきた場所からはだいぶ高さがある。静雄はストレッチして跳ねてみるが穴の縁に掴まった瞬間崩れた。というかまだ穴に砂が詰まっていて、本格的に登るのは無理そうだ。雨でも降って砂を洗い流してくれると助かるのだが……。

 周囲には苔が大量に生えていた。後、発光する植物。これのおかげで少しは視界が利くようだ。

 

「ここに居る奴等は、上のとは違うな。あっちは哺乳類だったがこっちは恐竜みてーだ」

 

 と、感想を漏らす静雄にいや、と否定する真理谷。

 

「ここの奴等は三畳期………恐竜たちより前に滅んだ生物です」

「そりゃまた………ん?それっておかしくねぇか?」

 

 真理谷の言葉に静雄が顎に手を当てる。おかしい?と反応する一同。この島がおかしいのは解っていたことなのに何を今更、もしや何かに気付いたのだろうかと若干の期待が灯る。

 

「昔の地球ってのは暑かったんだろ?んで、此奴等はその環境に適応していたはずだ。なのにこんなちょっと肌寒いところで生き残れるもんなのか?」

 

 確か、弟が何時だったが主演した映画で恐竜がでるものがあった。そこでは古代に近い環境の赤道付近でタイムマシンで捕まえた恐竜を育て、的な会話があったような気がするのだが……。

 

「確かに………どうなんだ、真理谷」

「………そもそも生き残ってる時点でおかしいから、何とも言えない。だが生物とは進化する生き物だ。今の環境に適応できているからこそ生き残ったとしか」

「ま、そりゃそうか……」

 

 一応口ではそういいつつも、真理谷も考え込む。確かにその通りだ。生存競争や環境の変化で滅んだ生物は多くいる。この生存競争なら、まだ生き残れる可能性はある。しかし環境の変化は、まあこれもギリギリあるとして、だが地域どころか地球規模での温度変化による絶滅動物が生き残るなんて………。

 それに、道中見つけた馬の子孫。あれは絶滅動物だが種が途絶えたわけではなくより大きく足の速い、今の馬に進化しただけ。それが進化前の姿を保っている?

 

「…………」

 

 他にも気になることはある。だが、今はおいて置こう。それにしても、この人はよく気づく。本人は人を纏めるのも細かいことを考えるのも苦手だからと大人の男の静雄にリーダーの座を譲ろうとしたアキラの提案を断っていたが、着眼点は悪くない。

 恐らく余裕の差だろう。あれだけの力を持つ静雄にとっては、今は緊迫した状況じゃなく僅かな疑問を気に出来る状態だと言うこと。

 

「しかし、通路は三つか……」

 

 ここは開けた場所だ。そして、何処かに通じるであろう穴が三つに地底湖。静雄は考え込む。三つの穴、つまり分かれ道。そこにある大きな人面石。目印になりそうだ。静雄は首を傾げる。

 友人の首なしの彼女なら宇宙人の仕業だとか言ってたことだろう。

 

「男は俺、真理谷、千石、ザジ……ミイナは子供だとして、女は赤神に佐久間、アキコに大森か………男女ペアで何チームかに分かれるか?」

「いや、僕達はバーテンダーみたいに強くない。事を急ぐからチームを分けるのは賛成だが僕達とバーテンダーの2チームに分かれるべきだ」

「つっても俺はこんな見た目だしよ、警戒されないか?」

「あら、なら私がついて行こうか?子供と一緒なら警戒心も薄れるでしょ」

 

 ミイナの言葉にアキラは顎に手を当てる。静雄の強さは知っている。彼ならもし殺人鬼にあってもあっさり撃退するだろう。親友の有田幸平の安否が心配で、早く見つけたい。

 

「そうだな、それでいこう。静雄さん、お願いできますか」

「おう。で、取り敢えずどの穴に入れば良い」

 

 

 

 アキラ達と別れて歩く静雄とミイナ。途中崖などもあったが静雄の握力ならミイナを背負ったまま垂直な壁を渡ることも可能だ。こういう道が在るなら二人にしたのは正解だった。

 

「………ん?あれ、静雄お兄ちゃん、なんか聞こえない?」

「あん?どっちだ………?」

「あっちのほう………」

 

 ミイナの言葉に耳を澄ませる。ミイナが指さした方向に向かって歩き出した。殺人鬼の場合足音をたてたら逃げるかもしれないから、慎重に………。

 

 

 

 

 千石アキラ達と同じ学校の生徒、上野と中村。

 一度別れ、二人きりで話し込んでいた。中村が、犯人に心当たりがあるというのだ。それを慌てて聞き出そうとする上野。

 

「……幸平君よ」

「えっ!?ま、まさか!」

「わ……私見てたの。雪が居なくなったとき幸平君も居なかった。そして田村さんの時も……ね、怪しいでしょ」

「…………」

 

 その言葉にジットリと汗をかく上野。

 

「……なぁ、中村……お前、人を殺せるか?」

「……え?出来るわけ無いでしょ、人殺しなんて」

 

 いきなり何を言い出すんだと責めるように上野を睨みつけようとした瞬間、頭に激痛が走り悲鳴を上げ床を転がる。

 

「え!?え!?何!?」

 

 突然の激痛に混乱する中村。ドロリと血が流れ片目に入る。皮膚が切れている。石か何かで殴られたのだろう。

 

「ま、まさか……アンタが犯人!?」

 

 上野は中村の叫び答えず石を叩きつけようとして………

 ゴシャア、と蹴り飛ばされる。

 え?と、さらに混乱する中村は思わず飛んでいく上野を目で追う。2、3秒ほど飛び地底湖の壁にぶち当たりボチャンと落ちる。

 

「…………だ、誰?」

 

 人を簡単に吹っ飛ばした謎の人物。金髪に長身という威圧感を感じさせる見た目。バーテンダー服を着ている。ジ、と見つめられビクリと震える。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

「………え?」

 

 聞き間違いか?なんか、やけに可愛い声が聞こえたような。と、ますます混乱しているとバーテンダーの肩から女の子がひょっこり顔を出す。子供だ……少しだけ安心する。

 

「あ、あの……貴方は?」

「お前等と同じ学校のアキラと赤神、ザジの知り合いだよ。あ、後佐久間か」

「ゆ、雪の!?雪は無事なの!?」

「ああ。それよりあっちだが………」

 

 と、プカァと浮かぶ気絶した上野を指さすバーテンダー。先程殺されかけたのを思い出したのかひっ、と悲鳴を上げてバーテンダーの背に隠れる。バーテンダーは荷物からロープを取り出し石を巻き付ける。上野に向かってぶん投げると流石にからみつくなんて事はないが、大きめの石が引っかかり少しずつ寄ってくる。水深が低くなって止まった上野を片手で持ち上げる。

 

「どうする?縛って放置しとくか?それとも連れてくか?」

「あ、えっと……連れてきます。皆に、犯人捕まえたって言わなきゃ」

「………此奴犯人じゃねーと思うがな」

「……え?」

「此奴の目はちょっと前まで俺らといた奴等と同じ目だ。彼奴等が俺に殺されると思ってたな………ようは殺されないために誰かを殺すって考えた奴の目だ」

 

 それが殺人鬼に会い殺すように命じられたか、或いは疑心暗鬼になって疑わしい奴全員殺して自分の身を守ろうとしたかはわかんねーがなと呟くバーテンダー。子供は背中から降りて上野を縛ろうと近づく。と、その時……

 

「あ、危ない!」

「──うおおお!」

 

 水に落ちたことで目覚めていたのか上野が子供に迫る。人質にでもするつもりなのか、手は開いている。バーテンダーが子供の襟首を掴み引き寄せると舌打ちして石で殴りかかる。

 

「あ、ありがと……静雄お兄ちゃん」

「……………」

「静雄お兄ちゃん?」

「………俺の服」

 

 静雄と呼ばれたバーテンダーは服の袖を見る。少し裂けていた。彼の服を傷つけた石はわずかに欠けていた。何で欠けてるんだろうあの石……。

 

「弟から貰った、俺の服を………」

 

 ギシィ、と歯ぎしりの音がやけに鮮明に聞こえた。

 

「このやろぉぉぉぉっ!!」

 

 その咆哮に、洞窟内の絶滅動物達が恐慌状態になったとかならなかったとか。




感想お待ちしております

出来るだけ死亡キャラを生かしたいなぁ

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