「な、何だ!?」
「この声、静雄さん……?」
突如聞こえてきた声に狼狽えるアキラ達。アキコの声に、確かに静雄だと正体が解り落ち着きを取り戻す。
何かあったのだろうか?絶叫と言うより、咆哮だったが……まさか、殺人鬼に遭遇した?急いで声の聞こえた方向に走る。
「!?ア、アキラ君危ない!」
と、りおんが叫び慌てて足を止めるアキラ。その前方に大きな穴があった。あのまま走っていたら落ちていたことだろう。底は、見えない。落ちたらどうなっていたか………。
「だ、大丈夫これ………上野、生きてる?」
「………動いてるし、生きてるんじゃない」
壁にぶち当たり、崩れてきた瓦礫に少し埋まった上野。ピクピク時折痙攣しているから、どうやら生きてはいるようだ。静雄はガリガリと頭をかく。
「クソが。替えだって、無限じゃねーんだぞ。弟が金かけて買ってくれた服を………畜生」
「………あ、あの……後で、縫いましょうか?」
「そうか、助かる」「……いえ、こっちこそ、助かりました。その、ありがとうございます……」
「よせよせ。ガキは恩なんて直ぐ忘れる方がかわいげがあるんだよ………立てるか?」
頭を石で叩かれたのだ。中学生の力とはいえ医療の知識のない静雄でも、当たりどころが悪かったら、なんて言葉は知ってる。少女は足に力を入れる。
「あ、はい……何とか。あの……私は中村って言います。貴方は?」
「平和島静雄。こっちはミイナだ……」
「よろしくね、お姉ちゃん」
「う、うん……」
「んじゃ、行くぞ。取り敢えず、アキラ達と合流する」
静雄はそういうと上野を担ぐ。縛られた上野は、時折うめくが誰も気にしない。
「クソ、何だ彼奴は……人が飛んだぞ」
有田幸平は先程の光景を思い出す。仲間になるテストをしようと最初のテストを隠れてみていたら、人が吹っ飛ばされた。数メートルは蹴り飛ばされていた。どんな脚力だ。勝てる気がしない。だけど、もっと気になることがあった……
「………アキラ」
あの時、彼は確かにそういっていた。それに、りおんとも。間違いない、仙石アキラと赤神りおん。自分の親友と、その親友が思いを寄せる女。
偶然名が同じ、なんて事はないだろう。雪とも知り合いらしいし。
「……生きてたのか、彼奴………」
飛行機が不時着した時から、行方が知れず、そして奇妙な動物が跋扈するこの島だ。もう死んだかと思っていた。だけど、生きていた。知らずに笑みが浮かぶ。
「……く…くははは!そりゃーそうだよなー!彼奴がそんなに簡単に死ぬわけねーわなー!何だよ、ビックリさせやがって」
生きてて良かった。これで、また昔みたいに2人で………と、そこまで考え己の手を見る。もう何人も殺した手を……先程あの男が蹴り一つで人を十数メートル吹き飛ばすなんて離れ業を見せなければ、アキラの知り合いを刺そうとしていた手を……。
そうだ、自分はとっくに
「……なあアキラ、何でもっとはやく助けてくれなかったんだよ」
機長を刺したのは彼だ。その後、その事がばれたと思ってグループにいた女の子を殺した。その後何人も……。
「やるしか、ねぇか……」
取り敢えず、あのバーテンダーは避けよう。あれは強すぎる。
バーテンダー………?
「………あ」
そうだ、今バーテンダーは上野を捕まえていた。上野はグループの中で唯一自分が人殺しであることを知っている。もし目覚めて、バラされたら?いや、自分と上野の信用度は違う。濡れ衣を着せようとしただけだと思われるはず………だけど、それは確実か?
「くそ、どうすれば……!」
まずは仲間と合流して……駄目だ。まだ彼奴等を人殺しにしていない。どうする?どうすれば……!
と、頭を抱えていると叫び声が聞こえてきた。女の叫び声だ。誰だ?グループのメンバーか?それともりおんか雪?
りおん?
「───っ!」
りおんなら、アキラと離れるなんて選択はしないだろう。なら、りおんが叫ぶと言うことはアキラも危険な目にあって居ると言うことになる。
そう考えた瞬間、これまでのグチャグチャした思考全部すっ飛び駆け出す。
りおんと雪は用をたそうとアキラ達と一度別れ、しかし目印にしていたティッシュが動物に持って行かれるというアクシデントに狼狽えていると、穴に落ちた。下は水たまり。
幸い怪我はない。とはいえ、落ちてきた穴を登るのは無理そうだ。
「ど、どうしよう……」
と、その時──
「アキラ!」
「………え?」
人影が現れる。何事かと振り向けば、息を切らせた幸平が飛び足してくるところだった。
「幸平君!」
「………赤神?それに、雪も……ア、アキラは?」
「アキラ君?何で知って……あ、もしかして静雄さんに会った?」
「………静雄?」
「スッゴく背が高いバーテンダー姿の取り立て屋さん……」
「………ああ」
あの男か。取り立て屋なのか。バーテンダー姿なのに。
「アキラは一緒じゃないのか?」
「あ、うん……その、穴に落ちてはぐれちゃって」
「穴?ああ、あれか………」
りおん達の視線を追って上を見上げる。確かにあれは登れないだろう。はぁ、とため息を吐くと踵を返す。
「付いて来な」
「う、うん…」
「あ、待って……」
2人は素直について来る。
一応は怒りを諫めたものの、未だイライラしている静雄。
ミイナは距離をとる。爆弾に近づくほど愚かではないのだ。
「………この辺、結構動物がでたりするんだけどな」
「みーんな静雄お兄ちゃんが怖くて隠れてるんでしょ」
中村の言葉にミイナが適当に応える。
「貴方のお兄さん、何者なの?ヤクザ?」
「極めて合法的な借金の取り立て屋だって。それと、私とお兄ちゃんは兄
「え、違ったの?てっきり兄
同じ金髪だし、と金色の髪を見比べる中村。と、その時……
「う、うおおお!!」
「あ……?」
影から飛び出してきた影が持っていた石で静雄の頭を叩く。
「………あぁ?」
「ひっ!?」
石がひび割れボロリと崩れ、静雄が殴ってきた影をギロリと睨みつける。
「何だてめぇ、この眼鏡の仲間かあぁん?」
「そ、そうだ!上野を放せ!」
「そうか……悪いが放すわけにはいかねぇからよ。寝てろ…………」
「───ッ!!」
「へ、平和島さん待ってください!」
静雄が拳を振り抜こうとして、中村が叫ぶ。ギリギリで拳を止めたが、風圧がごぅ!と吹き荒れる。
「!?だべ、が……ぼば!?」
「パ、パンチの風圧で人が吹っ飛んだ………」
顔面に暴風を受けゴロゴロ転がる男子。起き上がり、ひぃ、と腰を抜かす。
「宮島君!い、生きてる?」
「う、中村……俺は、生きてる?あれ………」
「当たってないよ。あれでも………この人は平和島さん。人殺しじゃないよ」
「へ、でも……上野が………」
「上野くんは、私を襲ってきたの。平和島さんは助けてくれたのよ」
「え!?じゃ、じゃあ……上野が、犯人!?」
「それは……解らないけど…………とにかく、平和島さんは危ない人じゃないよ!」
「そ、そうだったのか………すいませんでした」
なるほどどうやら上野を抱えた静雄を見て殺人鬼と勘違いしたらしい。素直に謝ってきたのだからこれ以上何か言うつもりもない。はぁ、とため息を吐き頭をかく。
「おいお前等、大丈夫みたいだ。出て来いよ」
と、その言葉に物影から女子2人に男子一人が出て来た。
「よし、とりあえずアキラ達と合流するか。いくぞ。こっちだ……」
「あ、その前に有田と合流したいんで……」
「そうか。じゃあそいつのとこまで案内頼む………」
りおん、雪は幸平について行き開けた場所にでた。地底湖があり、時折何か動物が動く。
「幸平君、ここは……?」
「……雪、よく生きてたな。てっきり死んだとばかり」
「え?あ、うん……襲われて、川に落ちちゃったんだけど運良く地上に通じてたの」
「でもあそこ流れ速かったろ?よく無事だったな」
「流木に掴まってたか………あれ?幸平君、何で私があそこで襲われたの知ってるの?」
と、自然に尋ねられ反応に遅れた。幸平の言い方だと、自分が何処で襲われたか知っているかのようだ。いや、用を足しに行くと言ったのだから場所は解るか?でも、やけに確信を持って──
「そりゃ、お前を襲ったのは俺だからな」
「え?────っかぁ!」
思わず固まった瞬間、腹に衝撃が走る。何事かと視線を向ければ幸平の拳がめり込んでいた。
「佐久間さん!?有田君、何を──!?」
りおんが思わず叫ぶが幸平は答えず拳を振るう。ギリギリで回避するも、幸平はナイフを抜き構える。本気だ、殺される!
死の恐怖に思わず身体が固まり、しかし幸平のナイフはりおんに刺さることは無かった。横から飛び出してきた影が幸平を突き飛ばしたからだ。
「りおん、無事か!?雪も………!」
「ア、アキラ君!」
「────ッ!!」
現れたのは、アキラ。それを見てりおんは顔をほころばせ幸平は顔を隠し逃げようとする。しかしアキラが逃がさんとふたたびタックルを食らわせどちらも地面に倒れる。そして、お互いの顔が向き合った──
「!?え………こ、こーちゃん?」