五等分の花嫁 三玖√   作:おとぎの

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#2 二乃と五月は隠密行動が下手過ぎる。

 ──関わり過ぎたかな……ま、いっか。

 

 どうせもう話すこともない相手だ。少し気になりはしたが……関わらないのが互いの為だろう。

 最後にウォーターサーバーの水をコップ一杯飲み、食堂の返却口に食器を置いたとき、持っていた携帯電話が鳴る。

 画面を見ると妹からメールがきていたようで、

 

 

 上杉らいは

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 Re:

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 今日も一人でご飯食

 べてる? 

 TEL下さい(´・ω・`)

 

 

 とのことだった。

 

 風太郎は教室に向かう前にトイレに入り、個室の中で電話をかけた。

 

『お兄ちゃん! お父さんから聞いた!?』

 

 数コールの後、突然携帯から聞こえたのはらいはの大声。理由は分からないが、興奮していることだけは分かる。

 

「ど、どうしたらいは。落ち着いて話してくれ」

『あ、ごめんね。うちの借金なくなるかもしれないよ』

「は?」

 

 突然のことに風太郎は何がなんだか分からなかった。

 ……借金が無くなる? 考えられるとすれば、親父が変なバイトでもしたとかか? 何のとは言わないが、海外を股にかけた運び屋とか。

 

『父さんがいいバイト見つけたんだ。最近引っ越してきたお金持ちのお家なんだけど、娘さんの家庭教師を探してるらしいんだ』

 

 ──家庭教師……? 

 

『アットホームで楽しい職場! 相場の五倍のお給料が貰えるって!』

「やっぱり!」

『え? やっぱりって……お父さんに聞いてたの?』

 

 家庭教師(裏の仕事)……予想通りじゃねぇか。親父、俺らの為にそんなことまで……。

 

「裏の仕事じゃねぇか……」

『人の腎臓って、片方無くなっても大丈夫らしいよ』

「売ったのか!? 親父が!?」

 

 ──確かに臓器って何百万で売れるとかって噂で聞いたことはあるが……。

 

『うそうそ。その人は、成績悪くて困ってるって言ってたよ。でもお兄ちゃんならできるって信じてる!』

 

 なんだよ。

 嘘ならいいんだが……ん? 俺を信じる? 

 

「ちょっと待て……俺はやるなんて一言も……」

 

 いきなりのことに風太郎は断ろうとするが、

 

「これでお腹いっぱい食べられるようになるね!」

 

 元来、お兄ちゃんというものは妹の頼みを断れないものであり、そもそもそんな嬉しそうな声で言われて断れる人間はなかなかいないだろう。

 らいはの声に反応したかのように、風太郎の腹がぐぅ、と鳴る。

 

「はあ……で、その娘ってどんな奴なんだ?」

「高校生の人だよ。お兄ちゃんの学校に転入するって言ってたし」

 

 ──転入? 

 

 風太郎はどこか引っ掛かりを覚えるが、気のせいだろうと無視をする。

 

『名前、なんて言ってたっけ……』

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「中野三玖です。よろしくお願いします」

 

 パチパチとまばらに拍手が起こる。

 クラスにやって来た転校生。高校二年のこの時期では珍しいので、昼休みからクラス中がその話題で持ちきりだったようだ。

 

「女子だ」

「普通にかわいい……」

「あの制服って、黒薔薇女子じゃない?」

 

 しかしその中で一人、風太郎は違うことを考えていた。

 

 ──この人知ってる! 

 

 転校生で苗字が中野ということは……。

 俺、あの子の家庭教師するのか!? 

 いやいや、というより! 

 食堂で話した子じゃねぇか! 

 

 あまりの偶然の出来事に、風太郎はらしくもなく冷静さを失うが、教室の拍手が静まった頃には心のなかで大きなため息をはいていた。

 

 

 すなわち、

 

 俺、嫌われてんじゃね? ──と。

 

 

 単語帳大好きなのは認めるが、中野さんは最後怒っていた気がする。……やっぱりたくあんなのか? 

 

 俺の勘違いならいいんだが……。

 

 何故か給料五倍の家庭教師。中途半端なことをすれば、雇い主のお金持ちに消されかねないだろう。なら、関係は良好に保っておきたい。

 

 風太郎は視線を上げ三玖の方を見ると、ちょうど自分にあてがわれた席に移動するところだった。

 そして……ばっちり目が合ってしまう。

 

「……どーも」

「……」

 

 そして……そのまま顔を背けて自分の席に座った。

 

 すまんらいは……お兄ちゃん、始まる前に終わったみたいだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 そのまま何事もなく授業は終わり、放課後の帰り道。

 

 風太郎は休み時間に話しかけようと試みたのだが、クラスのほとんどの連中がお金持ち美少女転校生の周りに集まり、それどころではなかった。その中に特攻する勇気などあるわけがない。

 

 ただ、隙間から見えた三玖の顔は……とても疲れているようだった。

 

 さて、どうするか。

 家庭教師は明日から。

 できれば今日のうちに話しておきたかったが、教室に三玖の姿はなく、風太郎自身帰路についているので明日に賭けるしかない。

 

 やはり、人間関係は難しい。

 今こそ話したいと意気込んでいる風太郎だが、しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 会話の中で、人間関係の中で起きた些細なミスは、消ゴムで消すように簡単には消せない。

 相手の正解と自分の正解が違う時なんてざらにある。

 まして自分の正解しか見てこなかった風太郎が、相手の正解などわかるはずがなかった。

 

 はぁ、とため息をつく。

 

 

 

 しかし、その機会は唐突に訪れた。

 

 

 

「ため……息、ばっかり……」

 

 

 

 背後から声をかけられた。

 

 三玖の右目にかかっていた前髪が風に煽られ、両目が露になる。

 

「帰ったんじゃなかったのか」

 

 振り向くと、顔を真っ赤にした三玖が、膝に手をついて呼吸を整えていた。

 

「はあ……はぁ……」

「えっと……」

 

 

 どうやら走って来たらしい。

 

 

 こういうときはどうすればいいのか。

 辺りを見渡すと、ちょうどいい公園があることに気が付く。風太郎はその中のベンチを指差した。

 

「少し休憩するか?」

 

 それを聞いた三玖はコクコク、と首を縦に振った。

 どうやら今回は間違えなかったみたいだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「み、三玖が男の人と一緒にいますよ!」

「慌てて走っていったと思えば……先を越されたわ……!」

「しー! ばれちゃいますよ」

「にしても三玖がねぇ。少し……ううん、結構意外かも」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「なんだか後ろが騒がしいんだが」

「ごめん、気にしないで」

「気にしないでって言ってもなぁ」

 

 呼吸を整えながら、三玖はばつの悪そうな顔をする。

 

 風太郎と三玖が座っているのはそこまで大きくない公園の端にあるベンチだ。目の前には滑り台やブランコなどのありきたりな遊具が設置されている。

 

 

 

 

「ちょっと聞こえないわね……もう少し近づくわよ」

「これ以上は危ない気がしますが……」

「何言ってんのよ。変な男だったらどうするつもり!?」

「だから声が大きいですって」

 

 

 

 

 

 

 プシュ、と缶のプルタブを開ける音が聞こえた。

 三玖の手には『抹茶ソーダ』とプリントされた缶が握られている。

 先程から無言が続いているので、意を決して風太郎が話しかけた。

 

「それ、美味しいのか?」

「うん。だけど、いじわるするフータローにはあげない」

「いや、要らないけどさ……やっぱ俺食堂の時何かしたか?」

「あ、えっと……それは」

 

 知らぬうちに自ら墓穴を掘ったことを後悔する三玖。

 歯切れの悪い三玖の返事に首を傾げる風太郎。

 コミュニケーション力が低い二人では、会話を繋ぐので精一杯だった。

 

「あー、ならなんで俺を追ってきたんだ?」

「それは……食堂のことを謝りたくて……その、ごめんなさい……」

「ああ、成る程」

 

 嫌われてないことが分かり、内心喜ぶ風太郎。

 即日解雇の可能性がなくなったので、らいはに謝らなくて済みそうだ。

 

「いや、俺もそういうのは得意じゃないからな、別に気にしてないし、お互い様だろ」

「うん、でも私を腹ぺこな女の子にしたのはダメだと思う」

「そこは否定しないのな……」

 

 三玖は抹茶ソーダを一口飲み、ふっと微笑を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、押さないでよ……あんた、また重くなったんじゃない?」

「あー! 言いましたね! ついに言っちゃいましたね!」

「あはは。これはもうバレてるかなー」

 

 

 

 

 

 

「なあ、あいつらは友達? なのか?」

「ううん、違うよ」

 

 チラリと横目で後ろの草むらを見る風太郎。

 三玖は、もはや隠す気がない様子に少し呆れていた。

 一度首を横に振り、答える。

 

「私の妹と姉」

「へぇ、仲いいんだな」

 

 大方知らない男についていくのが心配で着いてきた、ということだろう。

 自分にも妹がいたので、わかるぞ、その気持ち。と頷く。

 俺もらいはが男と二人で歩いているのを見たら、着いて行ってしまうだろうな。

 

「で、残りは?」

「え?」

「四人くらいいそうなんだが……なら、二人余るだろ?」

「余らないよ?」

 

 不思議そうに首を傾げ、続く三玖の言葉に風太郎は驚愕した。

 

「私達、五つ子だから」

「……マジで?」

「うん」

 

 

 

 三玖が頷いた、その時。

 

 

「ちょっと……危なっ……あ!」

 

 どしーん、と。

 

 三玖と風太郎が座ってるベンチのすぐ後ろの草むらから、重なりあった二人の女の子が出てきた。

 続いてその後ろから、ショートヘアーの女の子と、リボンをウサギの耳のように結んだ女の子が出て来る。

 

「ちょっと五月、私の上から退きなさいよ」

「私の体重が重いって、遠回しに言いました?」

「言ってないわよ!」

 

「あはは、ごめんねー」

「お、おう……」

 

 苦笑いをするショートヘアの女の子に謝罪の言葉を言われたとき、風太郎は生返事をするのがやっとだった。

 

 

 

 




どうも、フィヨルドです(´・ω・`)
いきなり最高評価来ていてびっくり。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
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