シンとしたリビングの中。
風太郎の前にU字型にテーブルを囲んだ五つ子の様子は様々だった。
眠そうに突っ伏す一花。
ツムツムをする二乃。
真剣な表情でテストの裏を睨む三玖と四葉。
そしてお馴染み、肉まんを食べる五月。
いや、ヤバイな。
まだ解いてもらってすらいないのに何故か三名ほどヤバイのがいることが分かる。家庭教師歴二分の俺でも分かる。一体何故なんだ。
現実逃避しかける頭で「いやなに、まだこれからだ。多分」と、さらに現実逃避を重ねる風太郎。
あれだ。テスト前に余裕ぶっこいて高得点とれるような奴。テスト後に「お前勉強してないくせに何でだよ!」みたいな猿声がよく聞こえるだろ? それだよ。
つまりこの姉妹は、いきなり高得点を出して俺をびっくりさせようとしているわけだ。
昨日の公園でのやり取りも今日のテストへの布石。
『私ほどじゃないですけど、全員赤点なのは変わりません! みんな一緒です! 何故なら……私たちは五つ子ですからー!!』
そうだ、きっとそうに違いない。
頭に反響する四葉の声は嘘に違いない。
「じゃあ、始めてくれ」
にやりと口を歪ませると、風太郎は一つ咳払いをし、テストを始めるよう告げた。
それを聞いた五つ子たちは……途端に目の色を変えた。
その変化に思わず風太郎は目を見開く。五月も肉まんを口に詰め込む。
彼女たちのテストを解く表情は様々だった。
あれだけの啖呵を切っていた二乃も、さすがと言うべきか、ときに笑顔を浮かべながら空欄を埋めていく。
五月に至っては眼鏡をかけていた。果たしてそれは『眼鏡をかけると頭が良くなるからです!』なのか単純に目が悪いのか。風太郎が解を得る術はない。
だが、それでも分かることはある。
五つ子全員が一度も手をとめずに、一切の空欄も無くペンを走らせているのだ。
──これはまさか……俺の期待以上に……っ!
カリカリとペンが机を打ち鳴らす音がリビングを満たす中、風太郎はどこか安堵に似たような表情でテストを解き終わるその時を待った。
これならいけるかもしれない、と。
◇◇◇
百点だ。
まさかここまでとはな。正直見くびってたぜ。
丸つけをした五つ子の答案を見て、素直にそう思った。
『ふーん……あんまりアタシを侮らない方がいいわよ』
ああ見くびってたし侮ってもいた。
だが違った。結果は俺が予想していた遥か先を行っていた。
……そうだな、一つ言うとすれば。
初めて見るオートロックに興奮していた三十分前の俺を殴りたい。
お前ら、もはや名前を呼ぶことすらおこがましいわ。
「何か、申し開きは?」
五つ子全員が風太郎と目を合わせまいとそっぽを向く中、一つの悪目立ちしたリボンがおずおずと口を開いた。
「わ、私は昨日ちゃんと言いましたよ! 全員赤点だって」
「待って。それはいただけない」
しかしヘッドフォンがすぐさま口を挟む。
じっと目を細めながらリボンを見詰め……途端に満足げな表情に変わった。
「私は三十二点。この中で……私だけ赤点じゃない!」
「一学年前のテストで、よくもまあそんなこと言えるなおい」
「うーん、でも、私たちはこんなもんだよ?」
「勉強はしておいたのですが……」
「……」
はぁ……断崖絶壁から突き落とされた気分だ。
ヘッドフォンが昨日言っていた「ため息ばっかり」ってのも案外的を射ているな。
まあ、言った本人が原因作ったんだけどね。
一花 12点
二乃 20点
三玖 32点
四葉 8点
五月 28点
はは、と風太郎は思わず自嘲気味に笑う。
……おっと、あまりの絶望感に肝心なことを忘れるところだったぜ。
「『ふーん……あんまりアタシを侮らない方がいいわよ』だっけか?」
ビクッ と自分のテストを見る二乃の肩が震えた。
「あの自信満々な顔、恥ずかしいなぁ。意地張んないで素直にみんなで勉強しようぜ? な?」
「うっさいわね! アタシはこんなんじゃ認めないんだから!」
勢いよく顔を上げた二乃。若干目が潤んでるように見えるのはきのせいか。
そのまま勢いよく立ち上がり、上にある五つの部屋の一つに入ってしまった。部屋の数から察するに、あれが五つ子の部屋なのだろう。
バタン、と勢いよくドアが閉じられる。
「あー。フータローが二乃をいじめた」
「ダメだよ風太郎君、女の子には優しくしなきゃ」
「上杉さんならできます!」
「肉まん食べると、落ち着きますよ?」
「お前ら覚悟しておけよ……」
二乃が部屋に籠ってしまったのを見届けると、まるで自分はなにも関係がないとでもいうように風太郎に文句を言う三玖たち。まさか自分のとった点数を忘れているのか?
二乃がいなくなってしまったのは痛いが、まあ後で誰かに連れて来てもらえばいいだろう。いつか二乃の機嫌もとらなければならないが、それも後でいい。案外すぐに出て来るかもしれないしな。
時計を見ると、時刻は四時三十分。帰るまでまだたっぷりと時間が残されている。
「自分たちは関係ないとでも思ったか?」
風太郎が放つ謎の圧に、今度は四人が肩を震わせた。
「この点数……もちろん今から勉強だぞ」
こうなったら無理にでも机に座らして、まずは勉強する癖をつけなければならない。
そう思う風太郎だった……が。
オール馬鹿のこの五つ子に、風太郎の常識など通用しない。
◇◇◇
「限界……お姉さん少し寝るね……」
「あっ、おい!」
ふらふらと自室に向かう一花に、風太郎の声は届かない。
勉強開始十五分後、一花脱落。
◇◇◇
「もうダメ……です。お腹がすいて力が出ません……」
五月のその呟きを聞いて、先程からどこか虚空を見詰めていた四葉の目に輝きが戻る。
「あ! はい! じゃあ私が肉まん買って来ますね! ダッシュで!」
そう言うが否や、四葉は部屋から出ていってしまった。
あいつ、抜け出しやがったな。
ソファー横に置いてある、財布が入っているであろう四葉のエナメルのカバンには触れもせずに出ていった。つまり。
もう奴は戻ってこないだろう。もちろん肉まんも届かない。
「おい五月、起きろ。 まだ始まったばかりじゃねぇか」
「ダメです……いつもなら二乃がお菓子を作ってくれるのですが……す、すいません……」
勉強開始三十分後、四葉、五月脱落。
◇◇◇
「フータロ……少しお願いがあるんだけど……」
「おおなんだ。何でも言ってくれ! 勉強のためなら何でもサポートするぞ!」
開始三十分にして、五つ子は三玖以外脱落の壊滅状態。
何がなんでも家庭教師の初回を一時間もせずに終わらせたくない風太郎は、先程から普段より数倍暗い目をしている三玖に、どんなフォローでもしてやろうと意気込む。
……が。
その『お願い』は風太郎の期待しているようなものではなかった。
「もし私が死んだら……私のパソコンの中身は……見ないで壊して……ね?」
「死ぬのか!? そんなに苦痛なのか!? まだ一時間もたってねぇだろ!」
「お願い……だよ?」
三玖はそれだけ言い残し、
「……すー、……すー」
机に突っ伏し……死んだように眠った。
いやいやいや。
三玖のパソコンに何があるのかとか気になることはたくさんあるけども! いまはそんなことどうだっていい。
確かに俺も勉強を始めたガキの頃は、字の羅列を見ただけですぐに眠くなったものだが……ここまでひどいか!?
勉強嫌いにも程があるだろ!
勉強開始四十五分後、三玖脱落。
そしてリビングには、目が死んでいる風太郎だけが残された。
どうも、フィヨルドです(´・ω・`)
【反省会】
Qなんで投稿が遅れたんですか。
Aワンダーランドウォーズっていうゲームにハマってました。暇さえあればやってました。
いや、投稿遅れて申し訳ないです。ホント。
サボってるうちに赤バー2メモリ目、お気に入り130、日間17位。ありがとうございます。
次回はなるべく早く書きます……。