輝ける者たちへ   作:tubaki7

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プロローグ

 輝くって、どういうことだろう。いつしか、そんな問いかけを自分にするようになっていた。きっかけ・・・多分、あの子の言葉だと思う。誰だったか・・・・。

 

 ―――わたしね、――君のそれ、だいすきだよ。だって、キラキラ光ってて、きれいだから!それに、――君もね、キラキラしてるから!

 

 そうだ・・・その時だった。気まぐれで、時間つぶしの合間的な、そんなふとした感じ。そこからだったんだ。俺の、夢のスタートラインは。

 

  だけど、夢は夢のままで。目の前にあるのは、とてつもなく大きな壁。それは、決して超えることのない大きくて頑丈で・・・でも、諦めきれなくて。条件付きで貰えたチャンス。絶対に物にする・・・・そうしたら、きっと。その日が来たら、きっと俺も胸を張ってもう一度会えると思うんだ。

 

  そう、思ってた。―――あの瞬間までは。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 耳元で鳴るうるさいアラームと、じとっとした気持ち悪さで目を覚ます。春だっていうのに、この気温。海が近くなんだからもっと涼しくてもいいじゃんか・・・そんな愚痴を内心零しながらも上半身を起こす。イヤな汗をかいた・・・とりあえず、シャワー入ろう。

 

 自分の部屋を出るために襖を空ける。それまで障子とカーテンで遮られていた日光が部屋の中に入り、朝だという事をイヤになるほど知らしめる。低血圧だとか、寝起きが悪い・・・・のは、あるか。でも朝が苦手ってわけじゃない。単に暑いのが苦手なんだ。どうして夏なんて季節があるんだか。春秋冬でいいじゃないか。何が楽しくてあんな熱気の中外出したりしなきゃいけないんだ。それに引き換え春はいい。暑くもなく、かといって身が凍えるほどの寒さもない。

 

 まあ、今は寝汗をかくほど暑いんだけど。代謝が良くなったのか?最近じゃバイトもして体を動かしてる時間が多いし。やっぱ体力仕事は性に合ってる気がする。・・・・仕事仲間、というか。職場の人間に少し難がある点を除けば、そこそこイイとは思う。そんなバイト先も今日は定休日。今日は・・・

 

「・・・始業式か」

 

 振り返って視界に入った制服を見て、そう零した。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 身支度を整えてから、朝食をとる。男の子なんだからと、朝からもの凄い量の・・・コメを食わさるのがもう日課になりつつある。最初ほぼ丼に近いものを渡された時はこんなに食えるないと言おうとしたけど、ニコニコとした顔を前にしたら言うに言いづらくなってそのままに。でも不思議なことに、これが気づけば平らげてしまうほどに美味いときた。和食でああも美味くできるんだから、ホント天才だと作ってくれた女性に感謝する。

 

「行ってきます」

「あれ・・・?今日は早いのね」

 

 鞄を持って出て行こうとする姿を見てそう言われた。

 

「今日は始業式なんで。・・・流石に、あの空間に知り合いが一人しかいないのはどうも辛いんで。あとは・・・・周りからの視線が」

 

 苦笑を浮かべる程度には、今の環境には慣れたつもりだ。でも、やっぱりアレだけの空間に放り出されて何時間も拘束されるのはどう足掻いても慣れるもんじゃない。だからこそ、一人でいるのがイヤだから・・・・だから、一緒に登校したい人がいるんだけど・・・・。

 

「あの子、まだ寝てるの?起こしてこようか」

 

 暖簾をくぐって台所に入ってきたもう一人の女性にそう言われた。でもそれに首を振る。

 

「まだ時間もありますし、大丈夫ッスよ。・・・多分」

 

 今度は二人が苦笑い。いってらっしゃいの言葉を受けて、〝家〟を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 学校までは、バスで約20分。学校専用の通学するための自家用車という訳ではなく、完全な市営のバスを使っている為、一般の乗客も乗っている。仕事に向かう為のサラリーマン、朝の散歩に出かけた老夫婦、観光客にフリーターなどなど。乗客の人数はさほどいないから楽々席に座れる。いつものバス停を出発して、しばらく走ればトンネルが。そこを抜ければ、丘の上にある校舎が見える。バスから降りれば、あとは徒歩。少し長い坂道を登って校門をくぐれば、もう既にクラス分けが発表されていた。

 

「あら・・・早いんですのね」

 

 後ろから声をかけられて振りむく。春風に靡く、腰まである黒髪を右手で抑えるその姿は、まさに大和撫子。舞い散る桜の花びらも相まってさらにその印象が引き立てられている。

 

「ダイヤ」

 

 黒澤ダイヤ。この学校の生徒会長で・・・クラスメイト。そして、俺の幼馴染。

 

「普段は朝が弱いのに、よく来ましたわね」

「いい加減、アイツと登校するのもやめないとと思ってな。ヘンな噂もたってるみたいだし・・・それに、三年生だからな」

「見上げた志ですわね。・・・ですが、その姿勢をもっと早く示して欲しかったものですわ」

「その言い方だと、まるで俺が普段からだらしないみたいな言い方だな」

「そう言ってるんです」

「・・・ホンっトいい性格してるよなお前」

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

 

 朝から嫌味を言ってもこうやって返してくれるあたり、流石幼馴染ってだけはあるなと思う。でもコイツ、昔はもっとおとなしくなかったか?いつからこんな極悪な性格に・・・

 

「貴方のせいです。というか、極悪とはなんですか極悪とは」

「ナチュラルに思考読むのやめろよ・・・けど、これで俺は今年の春からはお前のそのお節介ともおさらばできるな」

「ムッ・・・急に転校してきて、右も左もわからない貴方をこの学校の生徒として、導いてあげたのはどこのどなたでしたっけ?」

「そんな覚えはないな。・・・さて、俺のクラスは・・・・」

「・・・・どうやら、今年もこの腐れ縁は続くようですわね」

 

 黒澤ダイヤ、その名前の隣に見つけてしまう。自分の名前・・・・高城 葵の文字を。

 

「陰謀だ・・・」

「公平ですわ。・・・というか、そこまで露骨に反応されると多少なりとも傷つくのですが」

「この学校に転校して1年あまり。紹介された学校に入ったと思ったらそこは女子高で、しかも幼馴染とはいえ、生徒会長のダイヤと同じクラス・・・監視されてるんじゃないかと疑いたくもなるって」

 

 別にダイヤの事を嫌ってるわけじゃない。彼女の性格を一言で表すなら、生真面目。だから些細な服装の乱れも見逃さないし、常に生徒手帳を持ち歩いているくらいの真面目っぷりだ。だからこそ生徒会長なんて役職についているんだろうけど、立場がそうさせるのか、はたまたダイヤの性格がそうさせるのか、何かと俺に目を光らせてくるのは正直息がつまる。

 

  でも、この知り合いの少ない学校で唯一・・・とまではいかないが、たった二人しかいない知り合いだ。話しかけてくれたりするのはありがたい。感謝はしてる・・・してるんだけどなぁ・・・。

 

「監視とは失礼ですわね。幼馴染のよしみで、なにか不都合がないよう気を配っていましたというのに、貴方という人は相変わらずですわね・・・」

 

呆れたように腕を組み溜息をつくダイヤ。

 

「じゃあそんなダイヤ様に少しでも楽させる為に、今日も学業に励みますかねぇ」

 

 そう言って頭をポンポンと数回軽く叩く。それに怒ったダイヤがいつもの調子で「ぶっぶーですわッ!」と反抗してくる。そんな彼女からの抗議の声を一切無視して俺は自分の教室へと向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

「スクールアイドル部、入りませんかー!?」

 

 放課後。HRを終えて早々に教室から出た俺は校門へと向かって歩いていた。そこに響く、聴きなれた声。若干今朝の事でデジャブを感じつつ声のする方を見てみると、みかんと書かれた段ボールの上に立って、メガホンで必死に訴える生徒が一人。そしてその近くには、手に大量のチラシを持ってそれを配っている女の子。

 

「なーにやってんだおまえ」

「あ、アオ君!・・・って、酷いよアオ君。一人だけ先に登校しちゃうなんて」

「千歌を待って遅刻しそうになったのは何回だっけ?」

 

 そう言うと千歌は両手の指を折りながら数え始める。「うーん」と少し考えた後、答えがわかったのか「ハイハイ!」と手をあげて元気にアピールしてくる。こいつ・・・本当にわかってるのか?

 

「わかんない!」

「・・・渡辺さん」

「あー・・・うん、なんかごめんなさい」

 

 俺に申し訳なさそうに苦笑するこの子は一つ年下の渡辺曜。この暴走する幼馴染の高海千歌の古い友人であり、二人とも俺の後輩でもある。ちなみに渡辺さんとは、割と最近からの仲だ。しかしながら、千歌のストッパー的な存在たと思っていた渡辺さんでさえこの状況ということは、おおかた、千歌に乗っかった形だろう。

 

「しかも部って字間違ってるし」

「むぅ・・・それは言わないでよ。それより、はいコレ!」

 

 千歌から渡されたのは、スクールアイドル部部員募集のチラシだ。・・・そう言えば、さっきダイヤから愚痴を聞いたけど原因はコレだったのか。

 

「んで、部員は集まったのか?・・・って、聞くまでもないか」

「そーなんだよぉ。そうだ!アオ君―――」

「却下」

「まだ何も言ってないのに!?」

「あのな・・・俺は男だぞ?スクールアイドルは女子部活動だ。それなのに男の俺が居たらおかしいだろ」

 

 そう、スクールアイドルはその全てが女子の部活。男子がいるとすれば、精々マネージャーだろうが、俺の知る限りそんな部活があるなんて聞いたことはない。もっとも、俺が知らないだけかもしれないが。あからさまにがっかりと項垂れる千歌。段ボールから降り、後ろのベンチに渡辺さんと二人して腰掛ける。

 

「ハァ・・・どうして誰も振り向いてくれないんだろ・・・」

 

 眉をハの字にして溜息をつく千歌。そんな彼女に、渡辺さんはイタズラっぽい笑みを浮かべて囁く。

 

「じゃあ・・・千歌ちゃん、やめる?」

「ヤダ!」

 

 速攻で返ってくる返事。・・・ちょっと見ない間に負けず嫌いになったか?

 

「その調子なら大丈夫そうだな。んじゃ、俺はこれで」

「手伝ってくれないの?」

「おまえの分のプリン一つくれるならな」

「うー、またそう言って意地悪するぅ・・・」

「ハッハッハ、精々俺に勝てるようになるこった」

 

 いつも通り、千歌をイジッて学校を後にした。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「よいっしょ・・・っと」

 

 ゴトン、と音を立てて手に持っていたボンベが木製のバルコニーの床に当たる。重さも、多分私くらい女の子が持つにはきっと重くて、持ち上げるのに苦労するんだろうな。そんな事を不意に考えながら、いつもの作業を進める。まだ春先だけど、4月だというのに気温は少し高め。だからこう、ウェットスーツを着ながら作業するとどうしても汗ばんじゃう。んー、汗を掻くのは嫌いじゃないよ?身体を動かすのは好きだし得意分野だからね。でもこう、清々しい汗の掻き方とそうでないものってあると思うんだ。いくら慣れっていっても、苦手なものは苦手なわけで。

 

 とどのつまり、早くコレ脱ぎたい。

 

 首にかけたタオルで汗を拭く。肌を撫でる潮風が心地いい温度で吹き抜けるのが好きだ。お父さんのぎっくり腰が治るまで、私はこのダイビングショップをお手伝いしてるんだ。・・・あ、私、松浦果南っていうの。よろしくね!

 

「・・・って、何言ってんだろ」

 

 朝から一人で作業してたから、いよいよ寂しくなった・・・なんて、もうそんな小さな子供じゃあるまいし。

 

「休みなのにせいがでるな」

 

 ふと、声をかけられた。自然と上がるテンション。慣れ親しんだ声の男の子は、私の幼馴染。少し大人っぽくなった顏は、それでも昔のまんまだなと今でも思う。でもどこかその雰囲気は・・・・遠くて。まるで私の知らない彼がいるようで、ちょっと違和感もあったり。でも、私の知っている彼であることには変わりない。

 

「アオ、今日は学校じゃなかった?」

「始業式で半ドン。ほれ、プリントやら何やらを持ってきたぞ。バイト代として飯よこせ」

 

 ひらひらと手に持った数枚の紙を靡かせながらそういうアオ。私の幼馴染で、このショップでバイトしてる高城葵。あだ名はアオ。同じく幼馴染の千歌からはアオ君って呼ばれてる。

 

「何それ。訴えるよ?」

「おー怖い怖い。・・・で、今日は休みだったんじゃないのか?」

「来週から復学するけど、何だかこう、休みだと落ち着かなくて・・・」

 

 なんともまあ、私らしいというか、何というか。バルコニーに登ってきたアオからプリントを受け取りつつ、お店の奥まで行って麦茶を

 

コップに入れて二人分持ってくる。誰もいないテーブルに腰掛けながら、アオが言った。

 

「いよいよ来週か・・・・野獣が野に放たれる」

「何言ってんのさ・・・はい、麦茶」

「お、気が利くねー果南ちゃんは。将来はいいお嫁さんになるねぇ」

「おっ、およ・・・・っ、ていうか、何さそのキャラ」

「たまには違う自分になりたい時ってあるだろ?それさ」

「意味わかんない・・・」

 

 とまぁ、これがいつものやり取り。アオが意味不明な事をやって、私がそこにツッコミをいれる。昔はここに千歌が居ればそれに呼応するみたいに乗っかって、ダイヤが居れば首を傾げてアオに質問してみたり。・・・そう考えると、あの時のダイヤって結構ボケ殺しみたいなとこあったなぁ。

 

「・・・ふふっ」

「どうした急に笑ったりして?とうとう一人ぼっちでいることに心が・・・」

「だからそんなんじゃないってば!・・・なんかさ、アオが帰ってきてなんかあっという間だなって」

 

 二年前。アオは家庭の事情で静岡から東京の高校へと通う為引っ越ししていた。それが去年、突然の帰郷。それもたった一人で。どうしてか理由をダイヤに聞いたら、怪我をして、その静養為・・・らしい。詳しい事はわからないけど、二年生の後半から彼は私も通う浦の星女学院に転校してきた。・・・・でもどうして女子高に転校なんて?なんて事も聞いたけど、理由は本人に聞いても、ダイヤに聞いても「わからない」って口を揃えてそう答えてた。で、千歌のお父さんとお母さんがアオのお母さんの古い友人で。住む場所を用意してもらって、それだと申し訳ないって事で、私のお父さんに頼み込んでバイトを始めた。・・・・こうして振り返ってみると、なんだか色々急展開だなぁ・・・まあ、私も人の事言えないケド、ね。

 

「そうだな・・・もう、十年か・・・」

「そんな経ってないでしょ。・・・・怪我の具合はどう?」

 

 私の問いかけに、怪我をした左手を握ったり開いたりする。

 

「・・・もう、何ともない」

 

 そう呟くアオの横顔は・・・やっぱり、どこか哀し気で。・・・うん、やっぱりなんか・・・遠い、かな・・・。

 

「・・・なんだよ、神妙な顔して。らしくもない」

「・・・・心配くらいするよ。幼馴染だもん」

「もう二年になるんだ。怪我も良くなってるし、日常生活にだって支障はない。心配することなんて一つもないだろ?それより腹減ったー・・・飯!」

「んもう・・・ハイハイ、ちょっと待ってねー」

 

 テーブルに突っ伏してそうごねるアオを半ば邪けんに扱ってから、私はまた奥へと戻っていく。

 

「・・・そうさ。支障はない・・・・支障(・・)は・・・・な」

 

 そう囁いた彼の言葉さえ、気づかぬまま。

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