魔法戦記リリカルなのは アンダー・ザ・ストライカーズ   作:砂城心輝朗

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第一話:『うみ』を越えて

 どこまでも突き抜けるような空。

 遥か遠くには入道雲が泰然とそびえ立ち、第三十六管理世界『テッサリア』の真夏の太陽が乱雑に陽光を地へと注ぐ。遮る物のない次元港の敷地は、毎日日が高くなる前にはもう熱射が立ち込めていた。

 そんな嫌気が差すほどにうだりきった駐機場に、一機の大型輸送機が停められていた。ツヤのない灰色の耐熱塗装を施された輸送機の船体には、小さく「Administrative Bureau(時空管理局)」と塗装されており、それらの機体やコンテナが民間機や旅客機のものではないことを示していた。

 四半時間ほど前から駐機している輸送機の後部ハッチは開放され、フォークリフトや作業員が出入りしては様々な色をしたコンテナを運びだしている。船体が作る日陰と日向のコントラストがさながら影絵のように作業風景を写しだす。

 そんな様子を傍目に、輸送機から降りた四人組の男女が炎天下をターミナル・ビル目指して歩いていた。

 

「はやてから話は聞いてたけど、暑ぃ……」

 

 一番外側を歩いていたヴィータがうんざりしたように吐きだした。

 オレンジ色をした大きな二つの三つ編み髪がじっとりと汗に濡れ、力なく垂れ下がっている。

 

「クラナガンや海鳴の夏も暑かったけど、こっちの暑さは全然違うのねえ……」

 

 その後ろを歩くシャマルも時折ハンドバッグからハンカチを取り出しては額や頬の汗を拭っている。日本の湿潤な暑さに比べて、この土地の暑さは乾燥した暑さと言える。

 良く言えば鬱陶しい湿度の無いカラッとした暑さだが、気温自体が低いわけではない。挙句の果てに周囲が山がちになっているおかげでひっきりなしに風が通り、実は目の前に巨大なドライヤーが置いてあって、自分はそれに逆らう哀れな旅人か何かじゃないかという錯覚さえ覚える。

 

「あはは……。早くターミナルの中に入っちゃおう」

 

 顔には笑顔を浮かべるなのはも、声色は薄暗い。

 日本ともクラナガンとも違う類の酷暑に、三人は到着早々参っていた。

 ターミナル・ビルはそう遠くない距離にあったが、焼けた舗装路の照り返しの眩しさと、目の前に揺らめく陽炎は、ただでさえ熱いこの外気の体感温度を何倍にも感じさせた。

 

「……」

 

 一方、シャマルの隣には珍しく人型を採っているザフィーラが歩いていた。

 汗は浮かべつつも、弱音を吐くことも暑さに表情を歪めることもなく、いつも通り涼し気な顔で威風堂々と言った面持ちだった。

 

「ザフィーラさんは暑くないの?」

 

 人間体のザフィーラは筋骨隆々とした体をツーピースのスーツへ収めていた。所謂正装といった装いだ。日差しの強さに加えて、サイズはともかくその窮屈そうな様子が余計に暑さを感じさせる。

 それでもなお何も不満を漏らさないあたり、もしかしたら守護獣は暑さにも強いのかもしれない、などとなのはは暑さでぼんやりする頭で考えていた。

 

「ザフィーラは狼だからな。暑さ寒さには強いんだろう?」

 

 ヴィータが茶化すように横から口を挟んだ。

 

「……」

 

 無言のままヴィータの方へ視線を送るザフィーラ。

 視線は明らかに「黙れ」と言っているのだが、ヴィータは目でその視線を捉えながらも続けた。

 

「いやでも……くくく。また思い出したんだけど、ミッドの次元港でさ、規則だから狼のままだったら檻に入れて貨物と一緒じゃないとダメって……。しかも検疫も受けろとか……。ダメだ、想像するだけでも笑いが……くくっ……。」

 

 ヴィータは小さく腹を抱えながら、次元港で出会った局員の口ぶりを真似てみせた。

 若いその局員の己が職務を賢明に果たそうとするその必死さが、ヴィータのけして上手くはない物真似の上からでも伝わってくる。

 

「それでも構わん、とは言ったのだがな」

 

 感情の伴わない声で、ザフィーラは小さく呟いた。おそらく彼にとって人であるとか狼であるとかは瑣末な差異でしかないのだろう。

 

「まあまあ、シャマル先生のおかげでどうにかなりましたし……」

「で、実際どうなのさ。暑いんだろ?」

 

 なのはのとりなしを遮り、ヴィータが話を戻した。

 

「……日本にはこんな言葉があったな。『心頭滅却すれば、火もまた涼し』……良い言葉だ」

「やっぱり暑いんじゃん」

 

 長い沈黙の後、ため息半分、諦め半分にザフィーラは答える。いかにも鋼の守護獣と言った具合の、実に「らしい」回答だった。

 間髪を入れないヴィータの指摘がなのはとシャマルに笑いを誘い、ほんの少し暑さが和らいだ気がした。

 そんな雑談に咲いた花が葉になるころには、もうターミナルのガラス戸が目の前に来ていた。

 

 

 

 

 

 

「はあ、涼しい……」

「極楽ねー」

 

 空調の利いたロビーの待合室でヴィータとシャマルが表情を緩ませる。

 そう新しくは見えない造りの室内で、ミッドの公共施設ではもう見ることもないような、壁に後付するタイプの大型室内機が、ごうんごうんと低い唸りをゆっくりと響かせながら風を送り続けていた。経年劣化故かそれほど涼しいというわけではなかったが、湿度自体は低いこともあり、熱風で炙られる屋外よりはよほど居心地が良いといえる。

 

「ヴィータちゃんもシャマル先生も、あんまり気を抜いてないでくださいね。この後着任の挨拶とかあるんだから……」

「これから駐屯地までの足は目星があるのか?」

 

 到着手続きを済ませて待合室に戻ってきたなのはにザフィーラが問いかける。さすがに彼まで空調の前に精神を屈させたりはしていなかった。

 

「はい。今連絡してみたんですけど、基地の方が迎えに来てくれるそうです」

「そうか。それなら問題はないな」

「まさかザフィーラさんやシャマル先生まで一緒に来るなんて思いませんでした」

「……主はやての望みだ」

 

 表情一つ変えず腕組みをしながら答えるザフィーラ。

 最後の夜天の主である八神はやてと、彼女に仕える騎士たちヴォルケンリッターには主従の間柄を超えた信頼関係がある。簡潔な答えにはその強固さが透けて見えるようだった。

 

「私はなのはちゃんの主治医ですから、当然です!」

「にゃはは……。ありがとうございます……」

 

 さらに横からシャマルが、至極真面目な顔で断言した。主治医というのはあくまで自称、というか結果的にそうなっているだけである。本気なのか冗談なのかわからないシャマルの口調になのはは苦笑で返すしかなかった。

 

「はやても来られれば良かったんだけどなあ」

 

 頭の後ろで腕組みをしながら、ヴィータが残念そうにごちる。バカンスじゃないんだから、とシャマルが返しつつ、続けた。

 

「はやてちゃんもご自分の仕事でお忙しいですから。なぜだか一緒に来たがってましたけどね」

 

 大小様々な爪痕を残したJS事件から二年と少しが過ぎ、様々な問題を残しつつも時空管理局地上本部、ならびにミッドチルダは元の姿を取り戻していた。

 機動六課も一年前に予定通り解散され、盛大な模擬戦でフォワード一同の門出を祝った。そしてなのはは空戦戦技教導官、フェイトは本局執務官、はやてはフリーの特別捜査官として再び自らの道を歩き始めた。当然ではあるが部隊が違うわけであり、六課に所属していた頃のように皆で同じ任務を、というわけにはいかない。

 

「三ヶ月の長期教導だもんな。ヴィヴィオのやつ、今頃寂しがってたりして」

「お父さんもお母さんも初孫みたいなものだから可愛がってくれてるし、ヴィヴィオもあれでしっかりしてるから大丈夫だよ」

 

 JS事件の後、ヴィヴィオは正式になのはの養子として高町家に迎え入れられ、今はSt.ヒルデ魔法学院の初等科二年生として通学している。なのはの単身赴任中は地球にあるなのはの実家に預けられ、そこに設置された転送機を使ってミッドチルダを行き来することになっている。

 事件について幼心に何か感じ入るものがあったのか、学院へ入学して少し後、ストライク・アーツを習いたいなどと言い出してなのはと(特に)フェイトを驚かせていた。

 また、好奇心や向学心も強く、いつの間にやら無限書庫の司書資格を取得していた。何もない休日などは無限書庫へ入り浸って読書や調べ物に励んでおり、かつてのなのは以上に文武両道を謳歌しているとは司書長ユーノ・スクライアの言である。

 八歳とはいえそこまでにもなれば、さすがにヴィヴィオ一人留守を任せるとまでは行かずとも、地球には家族が、ミッドにはフェイトとはやてがいる以上、残してきたことをそう不安になる必要もなかった。

 

「でも、ほんと、あたしとなのはをセットで三ヶ月なんて申請にも驚いたけど、それが承認されたのにも驚きだよな」

「六課だって一年間だったけど、なのはちゃんもヴィータちゃんも部隊長や副部隊長として出向っていう扱いだったものね」

 

 本来、教導は長くても半月程度で行われ、三ヶ月というのは異例だ。

 そもそもとして、普通ならば必要な技能を中心として教導隊側で派遣する隊員を決めているため、教導官を指名した申請があってもそれがそのまま通るということは基本的にあるものではない。

 

「そうだね。だから、ちょっと気になって調べてみたんだけど、この世界は次元が不安定で定期的にミッドとの行き来ができる期間とできない期間になるみたいなの」

 

 次元というものは海のようなもので、例えば水面に石が落ちて波が起きるように、何かの原因で次元にも歪みや捻れなどの乱れが起こりうる。伝わり方に程度こそあれ、ある次元で起こった異常が別の次元に波及することすらある。

 もしもそんな次元の乱れに巻き込まれれば高波にのまれる船舶のごとく、存在が本来持つべき座標を失って虚数空間へ落ち、二度と戻ってくることはできないとされていた。故に、次元が不安定になる期間は安全のためにどんな手段でも航行することができないのだ。なのはたちが小型ポートによる転送ではなく、輸送機を利用した次元航行でこの世界に来たのもそれが一つの理由であった。

 

「だからこんなに長い期間の教導になるのか……。それなら丁度今がその航行できる時期ってわけだな」

 

「うん。次にいつ航行できなくなるかまでは判らなかったんだけど、行き来できない期間はミッドへの通信もできなくなっちゃうんだって」

 

 ヴィータが合点したように頷いた。

 同じように、この世界の特性を口に出して説明したなのはも合点した。なるほど、本局付きの医務官であるシャマルや、本来はやて本人のボディガードに近い立場のザフィーラを同行できるように捩じ込んだのは、はやてなりの長期教導に対するなのはへの心配りだったのだろう。

 

「ま、こんなひなびた感じの港だし、そんな不安がることもないだろ。それに、あたしたちもいるんだしな」

 

 ヴィータが軽くひびの入った壁を手のひらで二度、三度と叩くと、安っぽい軽薄な音がした。続けてシャマルとザフィーラも頷き、肯定を示した。守護騎士である矜持が裏打ちしているのだろう。その仕草には一種の自信めいたものがある。そんな姿を見て、なのはは感じていた内心の不安が払拭されていくのを感じていた。

 その後ろで待合室の扉が開き、二人の男女が入ってきた。

 二人とも管理局の制服を着ており、フィットした制服がスラリとした身体に似合って、どこかしら優雅な雰囲気さえ醸し出される。しかし、まず目に入ったのは女の顔だった。額から頬骨の辺りを覆うように、硬質な光沢のある面をかけている。辛うじて目の動きや口元の変化程度は追うことができるが、詳細な表情までは見て取るのは難しい。

 

「貴官が高町なのは一等空尉かな」

「は、はい。私です」

「私は管理局地上本部駐テッサリア基地司令、ヴェロニカ・イリノスカヤ・アフトワズ二等陸佐だ。そしてこっちが……」

「ハリー・キャブライトだ。階級は三等陸佐。副司令を勤めさせてもらっている」

 

 なのはが所属を明らかにし、名乗るよりも早く、二人が名と所属を明らかにした。

 数瞬の沈黙。確かに『基地から迎えが来る』とは知っていた。しかし、まさか司令官が直接迎えに来るとは夢にも思わなかった四人の思考は意表を突かれる形で停止してしまった。よりにもよってヴィータがこの次元港を『ひなびた』などと言った瞬間に入ってきたのだから効果もてきめんだ。

 

「……失礼しました! 管理局本局航空戦技教導隊、第五班所属、高町なのは一等空尉です!」

「お、同じく、ヴィータ二等空尉です」

「本局医療部所属のシャマルです。健康管理面などからサポートさせていただきます」

「本局捜査部所属、ザフィーラです」

「以上四名、地上本部陸上警備隊駐テッサリア部隊、第00特殊機装小隊の教導のため着任いたしました」

 

 いち早く思考を取り戻したのはなのはだった。右手で敬礼の姿勢を取って名乗る。それに騎士たちも続き、最後になのはが着任の挨拶を付け加えて締めた。ヴェロニカとハリーもそれに返礼する。

 多少見苦しくはあったがソツのない挨拶に仕上がり、なのはは内心胸をなでおろした。

 

「よろしく頼むわね。そんなに背筋正さず、楽にしてくれていいわ。私も肩が凝るのはダメでね。こんなところで立ち話も何だし、後は基地に向かいながら話しましょう」

 

 ヴェロニカは腕を下げ、敬礼の姿勢を解くと改めて四人をぐるりと見回し、言った。それを見て四人も腕を下げ、ようやく緊張の糸も緩む。特にヴィータは自分の発言に対して何も言及されなかったので、心なしか安心したような表情さえ浮かべている。

 

「司令官直々にお迎えをいただけるなんて恐縮です……」

 

「ふふ。うちの部下は優秀でね、これくらいしかすることがないの。さあ、行きましょう。表に車を待たせてあるわ」

 

 そう言ってヴェロニカは踵を返し、待合室から出ようとする。

 しかし、一、二歩歩くとすぐ歩みを止めた。釣られて全員が立ち止まる。何かあったのかとなのはが尋ねるより早く、顎に親指から三本の指を当てて思案するように、ヴェロニカはとぼけたような口調で尋ねた。

 

「ふむ。しかし、ひなびた基地か。副長、この次元港は築何年だったかな」

「……三十年くらいだったかと」

 

 ハリーは困ったように目を瞑ると、一瞬考えたような仕草を見せて生真面目に答える。

 どうやら外から声が聞こえていたのか、あるいは調度良くヴィータの発言が聞こえるタイミングに入ってきていたようだ。

 

「まあ少なくとも最新の、とは言いにくいか。仕方ないな」

 

 ヴェロニカの表情は仮面で隠れてはいるが、ウェーブのかかった長いブロンドの髪から覗き見える横顔の口元の感じから、ヴェロニカがいたずらっぽく笑ったように見えた。

 そのやりとりを聞いてシャマルの後ろで小さくなるヴィータ。それにおそらく気付いているのだろうヴェロニカは続けた。

 

「なあに、こんな次元港でもこの星に一つしか無いものだ、その重要さは我々が一番良く知っている。だから、二尉もそれをわかってくれればそれで良い」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 消え入るような声でヴィータは言う。その様子を後ろでシャマルが小さく笑っていた。どうやらこの女司令官は、思ったよりも懐が深い人物のようだとなのはは思った。

 

 

 

 

 

 次元港のパーキングに向かう間、六人の話題は尽きることはなかった。

 テッサリアはその次元的な性質上、ミッドチルダのニュースが最新のままで届くことが少ない。だいたいは一周二周遅れたニュースになってしまう。ヴェロニカもハリーも元々はミッドチルダ出身ということで、そういった話には餓えているようだった。ほとんどがヴェロニカの質問に答える形ではあるが、自然に話題と歩みは進んでいった。

 ランチは済ませたのかどうか。テッサリアの風土や気候について。地上本部の人事配置の変化。最近のミッドチルダの流行や芸能。八神はやて二佐の手腕について。それぞれ配偶者や恋人ははいるのか。ここ最近のデバイス技術に変化はあったかetcetc

 時折ジョークなども交えつつ、話は軽く弾んでいく。

 

「……あの、先ほどから気になっていたんですが、一つお尋ねしてよいですか?」

 

 それまで会話に混ざるだけだったシャマルが自分から話題を振った。何か気まずいことでもあるのか少々物怖じした様子だが、どうにも好奇心には敵わないのだろう。

 

「構わないわ。ドクター・シャマル」

 

「その仮面は、どうして着けていらっしゃるのでしょうか……?」

 

 シャマルがおそらく四人の誰もが一瞬は気になっていたことへと切り込んだ。

 例えば目が弱くて紫外線を避ける必要があるとか、視力矯正とか、義眼を隠すなどの理由でサングラスや眼鏡をかけることはある。しかし、顔の半分を覆うようなマスクをかけるというのは組織に――特に軍隊に近い側面も持つ管理局に――属する人間としては、特別な理由でもない限りはありえないことだ。

 おそらくなのはもヴィータも、もちろんザフィーラも気になっていたことではあるが、彼女は暫くの間上官として付き合う、しかも初対面の人間にそこまで突っ込んでいいものかと考えものだった。ところがシャマルは医務官である。身体的な理由ならば何か助けになることはできないかと、医者としての心が働いたのかもしれない。

 

「気にしないで、よく聞かれるわ。……子どものころににひどい火傷を負ってね、それ以来のものよ。あんまり酷いものだから、申請もすんなり通ったわ。なんなら見てみる?」

 

 申し訳なさそうなシャマルを気遣いながら、しかし悪びれずヴェロニカは答えた。その場で仮面を外そうとするジェスチャーに、シャマルは両手の平を振って断った。

 ヴェロニカの隣を歩きながらそのやりとりの様子を見ていたハリーが付け加えた。

 

「二佐の仮面は特別製だ。インテリジェント・タイプではないがそれ自体がデバイスだからな」」

「え、それがデバイスなんですか?」

「ええ、これが私のデバイス『ペルソナ』…………もちろん、待機状態じゃないわよ」

 

 なのはが驚きの声を上げる。ミッドチルダ式の魔導師にとって、デバイスといえば主に杖が主流だ。最近では管理局でもベルカ式の剣や槍といった武器を模したアームドデバイスも主流の一つになってきている。しかし仮面型のデバイス、というのは多くの局員に触れる機会のある教導官のなのはでさえ見たことも聞いたことがない。

 まあ、ミッドチルダ式でも剣やら鎌やらに変形するデバイスを振り回す相方のことや、そういえば元六課のフロントアタッカーのインテリジェント・デバイスは靴だったと思い出して、なのははなんとなく納得してしまった。

 

「二佐の場合、デバイス自体が様々な認証キーとしても機能している。仮に変身魔法で姿をごまかしても基地施設そのものはごまかすことができない」

「そういうことだ。安心してくれ」

 

 何がどう安心なのかは誰にもわからなかったし、突っ込まなかった。とはいえ、その話の真偽はともかく、その仮面には理由があり承認されて着けているものらしい。それがデバイスというのもミッドチルダから来た四人にとっては小さな驚きだったが、一先ず納得できるだけの理由を提示されてはこれ以上食い下がるのもまた問題である。

 そうしてまた他愛のない話を続ける内に、ターミナルの外へと出てしまった。

 

「あ」

 

 四人が空を見上げ、呆気に取られた声を出す。

 空は先程までと同じような蒼い蒼い好天だった。ただひとつ違うのは、その空に七色をした光の帯が、さながら風に揺れるレースのカーテンのように静かに静かに揺らめいていることだった。

 

「……綺麗」

「なんだぁ、こりゃあ」

「すっごおい……」

「これは……」

 

 口々に感嘆の声を漏らす四人。

 地球やミッドチルダでも、地磁気がある以上このようなオーロラ現象はあった、しかし当然ながらそれは夜間の、しかも極点に近い地方でしか見られないものだった。それがこんな昼間から、しかも緯度の低い地域で見られること自体が何かの法則をねじ曲げているとしか思えない。しかし、天球いっぱいに広がった七色のカーテンは太陽の光を柔らかく屈折させ、その異常さとともに一層美しく見えた。

 

「……ハリー、少し早くないか」

「ええ。予測より三日ほど」

 

 反面、ヴェロニカとハリーはその横でいたって慣れた様子で呟いた。どこかしら忌々しげな感情すら感じられる口調だった。

 

「イリノスカヤ二佐、これは……」

 

 その落ち着いた様子にすがるように、なのはが尋ねた。

 

「……『虚光の帯』。これがテッサリアにおける次元異常よ。あれが現れている間、全ての次元転移魔法や技術はその効果を書き換えられ、次元を渡ろうとするもの全ては虚数空間へと誘われる。簡潔に言えば、我々はまたしばらくこの世界に閉じ込められた、ということよ」

 

 ヴェロニカは淡々と答えた。先程までと打って変わって感情の少ない声は、四人にある種の予感じみた寒気を感じさせるには十分な冷たさを持って放たれた。

 

「……忙しくなりそうだな」

 

 ヴェロニカが、誰にともなく吐き捨てた。

 誰もそれに応えることはなく、呟きは煙のように立ち消えた。

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