魔法戦記リリカルなのは アンダー・ザ・ストライカーズ 作:砂城心輝朗
青々とした山々と深緑の田園によって地の果てまで続く緑色の絨毯のようになった大地を、幹線道路が真っ直ぐに伸びて裁断していく。その上を地上部隊仕様の多目的トラックが走っていた。
軽トラックで言えば荷台にあたる部分に差し向かいになるように座席が仮設されており、なのはたち四人は二人ずつそっちに座っている。仮設とはいえ座席には片側三人ずつ、計六人ほどは座れるようで、なのはたち四人が座ってもたっぷり余裕があった。天井は幌で覆われており、乱暴な日光を適切に遮っていた。窓にガラスははめられておらず、外から風が入ってくるので空調を使わなくてもだいぶ涼しい。魔法で消音しているのか車内は静かであり、念話を使わずとも会話ができるほどだった。
なのはは車窓から横目でぼんやりと空を見上げていた。地平の下半分は一面緑色であり、上半分はシャボン玉の膜のような七色の帯が広がるという幻想的な光景。それを見ていると――次元を渡ろうとするもの全ては虚数空間へと誘われる――次元港でのヴェロニカの言葉が反芻される。あの美しいオーロラがそんな物騒なものでさえなければ、もっとこの牧歌的な風景を楽しむこともできただろう。
<You should not mind it very much my master?>
(マスター、心配し過ぎは体に毒ですよ?)
「にゃはは……ありがとう。そうだね、レイジングハート」
デバイスにまで心配されるほど、気にしているのが表に出ていたらしい。既にヴィータは「教導が終わる頃には消えてるんだろう?」などと気にも留めていないようで、シャマルと二人で助手席のヴェロニカとの会話を楽しんでいる。ザフィーラはなのはの向かいで腕を組んで目を瞑り、なにか考えているようだった。なのはは自分のほうが考え過ぎなのかもしれない、と頭を振るった。別のこと、例えば教導メニューや部隊員への挨拶の内容を考えようと頭に思い浮かべるが、やはりあの虚光の帯が脳裏にちらついてしまう。
――いっそ基地に着くまで眠ってしまおうか――そんなことを考えている間に、トラックは基地のゲートを抜け敷地内へと入っていった。トラ模様の車止めが上がるのを待つ間、ゲートの詰め所にいた守衛局員に敬礼で見送られ、釣られてなのはも敬礼で返す。間にいたヴィータが不思議な顔でなのはの方を見ていて、その視線で我に返った。
そのままトラックは徐行運転で敷地内を進んでいった。正面には地上三階ほどのビルが見える。周囲はそのビルを中心に塀が立てられているようで、車の中から見える範囲の敷地が隊舎の全容なら、元六課の隊舎よりは小さいようだ。建物の車寄せ付近はロータリー状になっており、中央に設けられた円形の島には背の低い植え込みが小奇麗に刈揃えられていた。この世界固有の種だろうか、ピンクやオレンジといった鮮やかな花が植え込みの中に点々と咲いており、季節を感じさせる。
トラックは隊舎の入り口には止まらず、道なりに左に逸れて建物の裏手に向かっていき、そのまま地下へのスロープへと入っていった。どうやら地下に駐車場があるらしい。等間隔で壁に埋め込まれた橙色の誘導灯がラインを描き、暗闇の中を地下へと誘う。地下に降りると、一フロア分が丸々駐車場になっていた。百貨店の駐車場ではないので空いていないなどということはない。そのまま空いているスペースに駐車した。なのはたち一行はドアを開け、トラックを降りる。薄暗い駐車場を見ると、私用や部隊用と思われる車両が何台か停められていた。
運転席と助手席からはヴェロニカとハリーが降りてくる。二人に連れられて一行はエレベーターホールへと向かった。ヴェロニカはエレベーターのコンソールを操作して降りのエレベーターを呼び出すと、なのはたちの方に向き直って、特に申し訳なく思っていなさそうに言った。
「申し訳ないんだけど、夕方までに終わらせないとならない書類があってね。部隊への顔合わせと案内はハリー副長に頼んだわ」
「わかりました。では、キャブライト三佐、よろしくお願いします」
降りのエレベーターが到着し、ヴェロニカを除いた一同がが乗り込む。
「おお、すげえ……」
ヴィータが感嘆の声を上げた。おそらく資材や物資を運び込むことも考えられているのだろう、エレベーターは五人で乗り込んでも余裕がある。おそらく三倍、四倍は乗り込んでもまだ狭さを感じることはないだろう。
「では諸君。後ほど」
ハリーがパネルを操作し、地下六階へのランプが点灯する。同時に扉が閉まり、ヴェロニカは軽く上げた右手をヒラヒラとはためかせながら扉の向こうへと消えていった。おそらくデスクワークはあまり得意ではないのだろう。薄暗くてもそうと見えるほどにその目は死んだ魚のようだった。
エレベーターは静かに唸りを上げながら、ゆっくりと地下深くへ降りていく。
やがて電子音が目的階への到着を知らせ、エレベーターの扉が開く。扉の外には地下とは思えないような空間が広がっていた。天井にはいくつもの投光機が吊るされてそれぞれまばゆい光を放っており、目の前には現代的なビル群が立ち並んでいる。十階建て以上のビルも見えており、天井までは空戦魔導士が飛んでもまだ余裕があるくらいの高さがあった。床はアスファルトで舗装されているものの、周囲の壁や天井は自然のままらしく、支柱や補強用の骨組みこそ見えているもののほとんど岩肌が露出したままになっていた。
「ここは天然の空洞を利用した訓練場になっている。この基地でも空間シミュレーターを使って様々な局面を想定した訓練を行っている」
先導するハリーの説明を聞きながら、なのはたちは訓練場の外周を歩いて行く。
魔法と科学のハイブリット技術である空間シミュレーターは、今や部隊の訓練になくてはならない施設になっている。一定の区画さえ確保できれば、シミュレート出来る限りでどんな状況をも再現することができるため、部隊の練度を飛躍的に向上させることができる。今も訓練中の部隊が使用しているのだろう。時折ビル群の中から爆発音や閃光、地響きが伝わってくる。
四分の一周ほど回ったところに、訓練場の区画外に設けられた二十メートルほどの高さの展望台のような施設があった。後ろに作られた階段を登って展望台の中へ入ると、外が見える窓の近くに据え付けられた様々な機器の前で、デスク・チェアに座った研究者がコンソールを操作して訓練の様子をモニターしているようだった。
ハリーは周囲を見渡し、椅子の向こう以外に誰も居ないことを確認すると、研究者に向かって尋ねた。
「博士、ミッドチルダからの教導隊を連れてきたのだが、ソード分隊の連中はまだ来ていないのか?」
どうやら、ここが集合場所になっていたようだ。研究者は背中を向けたまま言葉だけ返す。
「お主らが訓練場に入ってきたのが見えたから、一応内線は流しておいたぞい。も少ししたら来るじゃろ」
「それなら博士、作業中すまないが、先に自己紹介を済ませてもらってもよいか」
ハリーに博士と呼ばれたその研究者がゆっくりとデスク・チェアごと振り向くと、小さい老人が身の丈に合わないダボダボの白衣を着て椅子の上に立っていた。老人は椅子から飛び降りるとなのはたちの方へ歩み寄ってくる。白衣の丈が余りに余っており、半分くらいがタイルの床を掃除している。なのはたち一行の中では一番小さいヴィータよりもまだ小さい。数値で言えば、一メートルあるかどうかと言ったところだ。当然一番に反応したのはなのはたち一行のなかで一番小さいヴィータであった。
「ちっさ!」
「何じゃい失礼な。ワシを誰と心得る。ワシの名はリネア・ヴルカン。00特機小隊の開発主任にして、稀代の天才デバイスマイスターとは、あ、ワシのことよ!」
右手を肩の高さで水平に上げ、左腕を曲げて手のひらを天にかざし、そのまま首をぐるりと一周させて見栄を切ってみせた。背後で桜が舞っているように見えるのはおそらく気のせいだ。
「き、稀代の天才って……」
「自分で言うかぁ……」
「なんで歌舞伎なの……?」
シャマルとヴィータとなのはのの三人が口々に呆気に取られる。今までに見たどんな技術士よりも変人であることは間違いなさそうだった。
「博士は00特機で使われる全てのデバイスの整備と開発を一手に引き受けてくれている。こんなだが腕は確かだ。一応付け加えておくと、三佐相当の待遇だ」
「更に言えばこの地下訓練場の基礎設計をしたのもワシじゃ! どうじゃ、恐れいったか! どわはははははは!」
「わざわざ地下に訓練場を作る必要なんてあったのかよ……」
三人の様子を見かねたのか、ハリーがフォローを付け加える。腰に両手を当て、胸を張るヴルカン。ヴィータの軽口にも怯まず言い返す。しかし、訓練場が地下に作られた理由は実に無駄な理由であった。
「カッチョエエじゃろ! ……それはそうと、ハリー。さっき、ミッドチルダからの教導隊と言うたな」
「はい。これから三ヶ月。ソード分隊の教導を行ってもらいます」
なのはたち四人は敬礼の姿勢を取り、それぞれ自己紹介をした。ヴルカンの視線はなのはたちというよりも、なのはの首にかけられたレイジングハートに注がれていた。
「ほうほう……。お嬢ちゃんが高町なのは一等空尉ということは、お前さんが、あのレイジングハート・エクセリオンじゃな? マリーちゃんやシャーリーちゃんからは、マスターと心を通わせる素晴らしいデバイスだと聞いておるよ」
それは小さい子どもに言って聞かせるような優しい口調だった。その雰囲気の落差加減になのはは驚きながらも礼を言った。レイジングハートもそれに続く。
「あ、ありがとうございます……」
<Thanks so many professor Vulcan>
(ありがとうございます。ヴルカン博士)
「バルディッシュ・アサルトとやらも実物を見てみたかったが、こればっかり仕方ないのう」
ヴルカンは心底残念そうに肩を落とした。一介の技術屋としては、ミッドチルダの最先端技術で改修され続けて最前線で運用されるレイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルトには興味があるようだった。
「ヴルカン博士は、マリーさんとシャーリーをご存知なんですか?」
「むか~し、ミッドチルダの技術局にいたころはよく面倒を見たり、色々教えてやったもんじゃよ」
「そうだったんですか……」
「ここ一年は忙しくて技術交換会議にも出られてないからのう。二人は元気でやっとるか?」
どうやらこの老人、面倒見はいいらしい。初見の印象よりも相当常識的な人物だったようだ。ヴルカンがなのはたちと浅からぬ関係のある二人を知っているのはなのはには意外だったが、技術者同士のネットワーク的なものがあるのかもしれないと思った。
「マリーさんは今でも技術局で頑張ってくれてますし、シャーリーはフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官の補佐官として、色々な分野で活躍されてますよ」
「そうかそうか……。インテリジェント・デバイスへのカートリッジ・システムの搭載に、瞬間加速システムの改善。あの二人も立派になってくれたもんじゃわい」
かつての教え子たちの活躍を聞き、我がことのように表情を綻ばせて満足そうにゆっくりと頷くヴルカン。その姿は先程までとは打って変わった、我が孫の成長を喜ぶ好々爺そのものだった。
場の空気も和らいだところで、背後のドアが二度ノックされた。続けて、低い男の声がドアの向こうから入室許可を求めた。
どうやら、待っていた分隊のメンバーが到着したらしい
「コンラッド・デュカート二尉以下四名であります」
「来たか……。入れ」
ハリーが受け答え、入室を許可する。扉が開き、四人組の男女が入ってきた。四人とも陸士部隊の制服を着用している。
四人はなのはたちに気付くと横一列に並んで敬礼をした。それに合わせてなのはたちも敬礼を返す。ハリーが前に出て敬礼の姿勢を解けとゼスチャーし、それぞれが姿勢を元に戻す。続けて右手で入ってきた四人へ視線を促した。
「彼らが今回教導を担当してもらう、ソード分隊のメンバーだ。とりあえず、コンラッド分隊長から自己紹介を。名前と階級、それからポジション。後は長くならない程度に適当にやれ」
「コンラッド・デュカート二等陸尉であります。ソード分隊のセンターガード及び、分隊長をやらせていただいております」
一人目が一歩前に出る。分隊長と名乗ったのは肌の黒い男だった。年齢はそれなりにありそうで、目尻や顔に刻まれた皺がそれを語っている。かなり大柄で、身長だけなら180cmほどあるザフィーラと同じかそれより少し高い。よく鍛えられた肉体は、腕の太さだけでもなのはの倍はありそうだった。ヴィータなら三、四人くらいはぶら下げてもまだ余裕そうだ。剃り上げられた頭髪、短く整えられた口周りの髭や偏光サングラス、大きな体躯から発せられる低い声も相まって、存在そのものにちょっとした威圧感がある。
「作戦中の事故で目を痛めておりまして、サングラスが外せません。失礼をご容赦下さい」
サングラスについてなのはが理由を尋ねようとしたところ、先を取ってコンラッドが説明した。こっちは案外まともな理由なようだった。
「失礼ですが、それで作戦行動に支障は……?」
しかし、医務官であるシャマルには気がかりだったようだが、問題ありません。と前置きしてコンラッドが答える。
「強い光が苦手なだけなので、サングラスがあれば特に差し障りは。デバイスも優秀ですので」
優秀なデバイスと聞いて後ろでヴルカンが胸を張っていたが、誰も何も言わなかった。
「次、サイオン副長」
「あたしはカタナ・サイオン。階級は陸曹長。ポジションはガードウィング。一応、副隊長です! まあ、短い間ですがよろしく頼みますよ!」
二人目がハリーに促されて前に出る。副長と呼ばれたのははまだ幼さの残る顔立ちの少女だった。身長はなのはと同じくらいか少し高いくらいで、全体的に華奢な雰囲気の感じられるスレンダーなタイプだった。肩にかかった緩いウェーブのつややかな黒髪が流れている。その下深い緑の瞳がカラカラと明るい笑顔の中で揺れていた。少し言葉遣いが軽すぎるきらいもあるが、硬すぎるよりは許容範囲かなとなのはは思った。
「副長。少しは言葉をわきまえろ。ヤマト・ナデシコが泣くぞ。……すみませんな。高町一尉。こいつは口から生まれたようなものなので」
カタナの一歩後ろで腕組みをしていたコンラッドが呆れたように指摘した。しかし、この曹長はそれにすら軽口を返す。
「イヤだなー。そんなのうちの爺さんの頃にもいなかったって言ってるじゃないですかー」
「……副長」
「……へいへい。申し訳ありませんでしたー」
だんだんとコンラッドの声色が低くなり、カタナは流石に状況を悟ったのか、あまり気持ちの入っていない謝罪をする。おそらくいつものこんな調子なのだろう。コンラッド諦めているのか、それ以上追求する気はないようだ。
「曹長はもしかして……?」
――大和撫子――管理世界ではまず聞くはずのない言葉だった。それになのはは反応し、話題を振ってみることにした。
「はい、祖父が第九十七管理外世界。……地球の、日本出身です。つっても、あたしは行ったことねーんですけどね」
管理外世界、から先は流暢な日本語だった。突然仲間の口から飛び出した聞きなれない言語に、ソード分隊の三人が異星人か何かを見る目でカタナのことを見ていた。
「今のはどこの世界の言語だ。適当に喋ったんじゃあるまいな」
「……バイリンガル。……カタナが賢く見えた」
「人は見かけによらないとはこういうことか」
「お前ら、後で覚えとけ……」
そして口々に揶揄するソード分隊一同。意外なスキルにも仲間はあくまで淡白だった。カタナは悔しそうにじっとりと睨みつけた。どうやら彼女がこの部隊がムードメーカーらしい。
「次、ローゼマイヤー陸曹」
「自分はヴィクトール・ローゼマイヤー陸曹であります。分隊ではフロントアタッカーを担当しています」
三人目が前に出る。こちらはコンラッドに比べれば細い印象だが、それでも精悍と言うのがふさわしい、よく絞られた体つきだった。こちらはなのはと同じくらいの年齢に見えた。
ざっくりとカットされた黒い短髪。三白眼が異常なほどに真っ直ぐなのはの目を見つめている。なのはよりも少し背が高いため、どちらかというと見降ろされているような感じもある。見つめ合った視線は「そう」いうものではない、と分かっていはいるものの、男性経験に疎いなのははどうにも恥ずかしくなって先に目をそらす。
「……自分の顔にゴミでもついておりますでしょうか」
ヴィクトールは不思議そうな顔で尋ねた。声色、表情、どちらをとってもからかっているようには見えなかった。どうやらこれが彼の「素」らしい。
「何やってんだー? いきなり口説いてんじゃねーよヴィクター」
間髪入れずにカタナがツッコミを入れ、ローキックが向こう脛に刺さる。しかしヴィクトールは表情一つ変えず、仕返しとばかりに無言でローキック。カタナが痛そうに呻いた。
「……止めろアホども」
コンラッドが苦そうに止めなければ、しばらく交互に互いの脛を蹴り続けていただろう。
「次、ヴェンチュリー二士」
「……アリス・ヴェンチュリー二等陸士、です。担当は、フルバック、です」
四人目は半歩前に出た。うつむき加減で、消え入りそうな、小さな声で少女は名乗った。おそらくは十代前半くらいで、元六課フォワードのエリオ・モンディアルやキャロ・ル・ルシエのように、何か事情があって管理局に所属しているのだろう。
腰まであるストレートの金髪。長く切りそろえられた前髪が視線を隠しているが、恥ずかしがっているというよりも初対面の人間に怯えているといったほうが正しいようだ。
「あー、悪ぃ。ヴェンチュリー二士? 後ろ半分聞こえなかったからもう一回頼む」
どうやら本当に聞こえにくかったらしい。ヴィータは確かに悪く言えばガラが悪い。それを差し引いても今のは普通の声色だった。しかし、アリスは竦んでヴィクターの後ろに隠れてしまった。一応後ろでモゴモゴと何か言っているように見える辺り、管理局の一員で相手が上司、という自覚はあるようだ。
隠れられたことに納得がいかないのか、怪訝な顔でヴィータがヴィクトールの左手側に回り込もうとすると、アリスは反発するように右側へ引っ込んでしまう。ヴィータが回りこめばアリスは逆側へ。回りこむ。逆へ。回りこむ。逆へ。回りこむ。逆へ。回りこむ。逆へ。……放っておけばバターが出来るだろうか。
「ヴィータ二尉、ストップー。お話が終わらないー」
埒が明かないと判断したなのはが、苦笑いを浮かべながら両手を叩いて二人がバターになるのを止めた。渋々ヴィータが戻る間もアリスはヴィクトールの後ろに隠れたままだった。
「ゴホン……以上が、ソード分隊のメンバーだ。あいにく、今日のローテーションは出撃待機になっている。本格的な教導というわけにはいかないが、各員、明日からの教導に励むように」
口に握り拳を当て咳払いを一つ。場を締めたのはハリーだった。
「あ、あはは……。何かみなさん、個性的と言いますか……」
「ま、まあ、いいんじゃないかな……」
「お、おう……」
既にシャマルは完全に圧倒されていた。なのはもヴィータもかなり気圧された感じはあった。今までにも教導官として様々な部隊に出向して多くの局員に会ってきたつもりだった。しかし、ここまで「濃い」局員はそういるものではなかった。良く言えば型破り。悪く言えば無秩序。それが地上本部陸上警備隊駐テッサリア部隊、第00特殊機装小隊に対する教導官・高町なのはの感じた最初の感想であった。
「では、私たちからも自己紹介を……」
なのはが先陣を切って一歩前に出る。
その瞬間、建物の中にスクランブル出撃を示す高いサイレン音が鳴り響いた。一瞬遅れて、モニター機器の内線通信が着信のコール音を鳴らす。ハリーが通話ボタンを押す前に内線は自動で着信し、ウィンドウが中空に開かれる。その中には先ほど地下駐車場で別れたヴェロニカの姿があった。書類仕事の途中だったのだろう、オフィスのような造りの部屋、おそらくは司令室にいるのだろう。通話を確認すると、ヴェロニカは話を始める。
「皆いるようだな、調度良い。……カルディツァ地区西部遺跡に派遣されていた調査隊が『ギガース』の襲撃を受けている。現地の警備隊及び、護衛で派遣されたテッサリアの魔導師部隊が対応にあたっているが、我々にも応援要請が来た。歓談中のところ悪いが、ソード分隊は出撃準備を取れ」
ほんの少しばかり緩んでいた空気が一気に引き締まる。なのはたちよりも早く、ソード分隊のメンバーがウィンドウの中のヴェロニカに敬礼し、駆け足で部屋を出て行くのが見えた。