魔法戦記リリカルなのは アンダー・ザ・ストライカーズ   作:砂城心輝朗

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第三話:スクランブル

 アラートコールの鳴り響く観測室内。駆け出したソード分隊の隊員たちを見て一足遅れで我に返ったなのはが口を開く。

 

「わ、私も出撃します!」

「あたしも行くぞ、なのは!」

 

 返事は待っていなかった。それだけを告げるとヴィータとともに出口へ向かおうとするが、ハリーが腕で二人の行く手を遮り、それを止める。

 

「待て、高町一尉。申し出はありがたいがこれは我々の仕事であり、任務だ。ここは我々に任せてもらいたい」

「だけどよ三佐、民間人もいるんだろ!?」

 

 それに半ば剣幕になりながら食い下がるヴィータ。彼女も闇の書の端末として主の命のまま嵐のように力を振るっていた時期もあったが、本来は誇り高く心優しいベルカの騎士である。そんな彼女が、一方的な暴虐を見過ごせるはずがない。

 

「そう言うな、ハリー」

 

 ところが、思いもよらぬところから追い風が吹いた。通信ウィンドウの向こうのヴェロニカの意見は正反対だった。その場にいた全員の視線がウィンドウへ集まる。

 

「せっかく申し出てくれたのだ、万が一ソードの手に負えないときに応援を頼めばいい」

「……そうかもしれませんが」

 

 今度はハリーが食い下がる番だったが、明らかに歯切れが悪い。そこをヴェロニカは押し切った。

 

「ならば問題はないだろう。高町一尉、ヴィータ二尉。同行を許可するわ」

「ありがとうございます!」

 

 ハリーはそれ以上何も言わなかったが、さりとて不服といった様子でもなかった。その言葉を聞いたなのはとヴィータの表情が綻ぶ。しかし、ヴェロニカは条件をつけた。

 

「ただし、二人はこちらから別命があるまで輸送機内で待機とする。三佐が言うように、これは我々第00特殊機装小隊の任務であるというのも事実なのだからな。……デュカート二尉、聞こえていたな? そういうことだ。今から高町一尉とヴィータ二尉を向かわせる」

 

 どうやら別回線でソード分隊へ通信を流していたらしい。あちらの声は聞こえなかったが、話は既についたようだ。

 

「急げよ一尉。輸送機は建物の裏だ」

 

 ヴェロニカはエアポートまでの道筋をなのはたちに伝える。それを聞くが早いか、なのはとヴィータはヴェロニカとハリーに敬礼すると踵を返し、エレベーターへと駆けていった。それを見届けると、ヴェロニカはハリーとヴルカンに指示を出し、通信を切った。

 

「さて、では、私は発令所で指揮を執る。副長、ドクター・シャマルとザフィーラ捜査官に館内を案内してやれ。特にドクターは医務官同士、顔合わせも必要だろう。ヴルカン主任は引き続き、『ウォンド』と『チャリス』のデバイス調整にあたってくれ」

「了解じゃよ」

「了解。……シャマル医務官、医局へ案内する」

「は、はい。お願いします!」

 

 ヴルカンは再びモニター装置の前に向き直ると、コンソールを操作してデータログの整理を始める。シャマルとザフィーラはハリーに連れられて、観測室を後にした。

 

 エレベーターで地上に上がると、ヴェロニカが手を回していたのか案内の局員が待機しており、迷うことなく建物の裏手のエアポートへ出ることができた。エアポートでは既にエンジンを温め終えたVTOL輸送機が、主翼の両端に付けられたティルトローターをゆるく回しながら、離陸はまだかとなのはとヴィータを待っていた。後部ハッチ近くにいた別の局員に誘導されて二人は急いで輸送機に乗り込む。内部はかなり余裕があり、高さ、幅ともに二メートル以上ある。少なくとも六課で使用していた武装ヘリよりもペイロードはありそうだった。

 

「これで全員だな?」

 

 コンラッドが尋ね、それぞれが返事を返した。が、そんな中でカタナだけが作り付けの簡素な椅子の上でうずくまって震えていた。先ほどまでの明るい姿と同じ人物だとはにわかに信じられないほど、小動物のように怯えきっており、口からは呪詛のような呟きが漏れている。

 

「マジで輸送機かよ……トラックでいいじゃねえか……」

「トラックじゃ遅すぎる。なんなら基地で電話番していてもいいぞ。なにせ、あの高町一等空尉とヴィータ二等空尉がいるからな」

「ふ、ふざけんな、ヴィクター!」

 

 ヴィクトールの軽口に反抗する元気は残っているようだが、怒鳴るばかりで今ひとつ覇気が足りない。

 

「サイオン曹長、だ、大丈夫……?」

「高町一尉、こいつは輸送機で出るときはいつもこうなんだ。あまり気にしないでくれ」

 

 あまりの怯え具合にさすがに心配になったのか、なのはが声をかけるが、コンラッドが軽く制する。カタナがコンラッドを睨みつけたように見えたがなのはは苦笑いを浮かべてスルーした。

 

「よし、准尉、出してくれ!」

 

 コンラッドがコクピットに向かってそう叫ぶと、准尉と呼ばれたパイロットの男が前を向いたまま左手の親指を立てて合図を返した。続けて外ではティルトローターの回転数が上がり、そしてゆっくりと輸送機が飛び立つ。離陸した瞬間、小さな悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

 

 

「……そういえばギガースって何だ?」

 

 水平飛行の体勢に入って少し経った後、思い出したようにヴィータがなのはに耳打ちする。

 

「数年前から遺跡の発掘現場に現れるクソッタレた殺戮マシーンのことさ。調査隊を襲っては武装隊員、遺跡調査員、一般人、その場にいる全てを見境なく殺し尽くす機械のバケモノだ。行動目的、製造地、司令系統一切不明。なにせ破壊したり鹵獲すれば全てが砂のように崩れ去る。詳細なんぞ分かるはずがねえ」

 

 聞こえていたのか、なのはの隣からコンラッドが答える。口調こそ笑いを含んでいたがその目は笑っておらず、ひたすら冷静な光を湛えているのがサングラスの奥でわかった。

 

「あたしたちの主な任務は、現れるギガースの破壊と、それによって民間人への被害を防ぐこと。……まあ、どれだけ効果があるのかは知りませんけどね」

 

 まだ青い顔をしているが、飛んでしまえば多少落ち着くのか、、向かいの席からカタナが自嘲気味に付け加えた。

 

「C.Q.クラウン、こちらソード01。現場の状況を確認したい」

 

 コンラッドが機内の通信パネルを叩き、基地の発令所を呼び出した。機内の真ん中に通信用ウィンドウが出現し、鳥の巣のような髪の毛の女性局員が顔を出した。どうやら彼女が通信士らしい。

 

「はい。こちらクラウン03です。斥候中の『ペンタクル04』からの報告によりますと、確認された『ギガース』は中型の陸戦タイプと空戦タイプがそれぞれ四体。遺跡入り口付近を包囲した後は周辺に待機。内部には別の小型ギガースが多数侵入した模様です」

 

 コンラッドの問いかけに対して状況が報告される。通信士の厚みがあってみずみずしいアヒルのように愛嬌のある口元がよく回る。

 軽く概要が説明されると、ウィンドウの横に展開されたワイヤーフレームが網目状に組み合わさり、3Dマップを映し出した。

 小高い丘の側面に入り口があり、地下へと繋がっている。内部の通路は一本道だが、幾重にも折れ曲がった地下向きの緩やかな下り坂になっており、最深部までは外観からではわからないほど距離がある。そして、その奥に石室が二つ。どうやらそこが調査隊の目標ポイントだったらしい。マップ上には包囲・侵入したギガースを示すと思われる大小様々なマーカーが光っている。

 

「現在、調査隊と護衛隊は坑道の最深部に立てこもり、籠城戦を展開。テッサリアの空戦魔導師部隊は外のギガースを遠巻きに包囲しています」

「護衛部隊はよく戦っているようだが、AMF下ではそう長くは保たないだろう。ペンタクル01から03が付近の坑道から脱出ルートを工作中だが、先に状況を打開する必要がある」

 

 通信士のウィンドウが切り替えられ、ハリーが顔を出した。ハリーが戦況を補足すると通信ウィンドウの隣に新たなウィンドウが開き、録画された戦闘映像が流される。

 三メートルほどのギガースが四体、魔法弾の雨の中を平然と歩いていく。角ばった体に逆関節の長い脚で進む様は一見滑稽だが、いちいち高いところから見下ろされるようで地上で相対する局員にとっては恐怖だろう。魔法弾が効果をなしていないのは、どうやら発射された魔法弾が着弾する前にかき消しているからのようだった。

 一機のギガースが立ち止まると、背面から多数のミサイルを上空へまき散らす。魔力に反応して誘導を行うそれは、白い噴煙を引きながら飛翔して魔導師たちに迫る。射撃魔法による必死の迎撃も虚しく、迎撃を逃れた幾つかの弾頭が空戦魔導士の陣形の近くで爆発を起こし、何人かの魔導師が爆風に吹き飛ばされ、防御魔法が途切れた一瞬を突いて、ギガースから吐き出される機関砲の斉射が守るものを失った魔導師たちをバタバタと薙ぎ払っていく。緑色の大地の辺り一面が見る見る真っ赤なまだら模様に変貌し、なのはは思わず目を背けた。

 

「AMFと質量兵器で武装した機械兵器……ガジェットドローンかよ……」

 

 ヴィータが歯ぎしりしながらウィンドウを睨みつける。思い出されるのはJS事件でミッドチルダの陸上部隊を壊滅状態に陥れた主力兵器、ガジェットドローン。

 一機一機が魔力素の結合を阻害する力場「AMF(Anti Magilink Fierd)」の発生装置を搭載し、さらに管理世界では厳しく規制されている質量兵器で武装された機械兵団は、そのけっして高性能ではない単体性能でも、対策の取れていない魔導師に対しては絶対的な相性となって立ちはだかる。

 

「ああ……ガジェットドローン・シリーズか。ご丁寧なことに群れをなして襲いかかる程度の知能があり、AMFでこちらの魔法を阻害し、あちらは様々な質量兵器で武装している。腹違いの兄弟じゃないかと思うほど似ているな。ただ、一つ違うとすれば、サイズだ」

「サイズ?」

「今までに確認されたものでは、一メートル程度のものから、最大で二十メートルのものが確認されている」

「はぁ?」

 

 二十メートルという最大サイズを聞いたヴィータとなのはがが素っ頓狂な声を上げる。確かにガジェットドローンは数に物を言わせる戦術が主だったが、大きくても二メートルから三メートルないものがほとんどだった。ギガースも同様に連携を組む程度の人工知能が搭載されている。もしも二十メートル級のギガースが編隊を組んで襲ってきたら……。その想像は二人に身震いをさせるには十分だった。

 

「最初に出現したものが天を衝くように巨大だったから、この世界の言葉で『巨人』を意味する『ギガース』と名付けられた。実にわかりやすいな」

 

 やれやれと言ったように両手のひらを上に向けて首を左右にふるコンラッド。

 

「それなら、なおさら私たちも……」

 

 絞りだすようになのはが声を出す。

 JS事件では多くのガジェットにより、一般局員に多大な犠牲や被害が出ただけでなく、物理・魔法の両面で鉄壁の守りと評された管理局地上本部や、当時の防衛長官レジアス・ゲイズに「地上防衛の要」と言わしめた超大型砲塔・エインヘリアルまでもが破壊されるなど、今なお復興が必要な大きな傷跡を遺されたのだ、そんな話を聞いて不安にならないはずがない。

 

「この程度なら、その必要はないわ。一尉」

 

 さらに通信の割り込み。今度はヴェロニカだった。背後の様子から、今度は発令所にいるものだと分かる。間違いなく先ほどの戦闘、いや虐殺映像は見ているはずである。それなのにも関わらず、この司令官は「この程度」と言った。それは信頼からなのだろうか、その目には強い眼差しの光を宿し、通信越しでさえ貫かれたなのははそれ以上何も言うことが出来なかった。

そんななのはを尻目にヴェロニカは続けた。その言葉は、一種の戦慄をなのはとヴィータに与えた。

 

「AMFおよび質量兵器との戦闘……。我々は、そのために結成された部隊なのだから」

 

 

 

 

「クラウン、こちらソード01だ。プランを提案する」

 

 作戦ファイルが発令所へ転送され、概要に合わせて3Dマップが更新される。マップ上のギガースがいる場所から少し離れたところに新しく一回り大きな光点が出現した。どうやらそれがこの輸送機らしい。コンラッドはテキパキと作戦を説明していく。

 

「輸送機の撃墜を避けるため、少し離れたところからエアボーンで着陸し、その後地上から入口へ向かう。ヴィクトールはアリスを連れて坑道へ突入。そのまま一目散に護衛部隊が立てこもっているポイントまで侵攻しろ」

「了解」

 

 ヴィクトールの前に立ち、伝えた。ヴィクトールは律儀に敬礼して答える。

 3Dマップに白いポインタが追加された。内部の通路をトレースして最下層まで移動するように矢印が引かれた。

 

「アリスはヴィクトールと同行。ECMを展開してギガースどもを分断しろ」

「……はい」

 

 次に、アリスの前に立って伝えた。アリスは小さく頷いて答える。

 3Dマップには白いポインタの横に若草色のポインタが追加され、最下層までの矢印が白と緑のツートンカラーになった。

 

「カタナ、お前は俺とツーマンセルだ。入り口付近でヴィクトールの突入を援護。突入確認後、タイミングを見てこちらも坑道へ突入する」

「ま、任せろ!」

 

 最後に、カタナの前で立ち止まり、ポジションを伝えた。カタナは白い歯を見せて、ニヤリと答えた。

 3Dマップには朱色と空色のポインタが入口付近に追加された。

 

 その作戦は、なのはならば考え付きはしても提案しないものだった。言ってしまえばヴィクトールとアリスを囮にして侵攻するようなものだ。確かに内部にいるギガースの後背を取ることは可能だが、ヴィクトールたちの足が止まれば内部で挟撃される危険性がある、何より人数を分散させるということは戦力比的な負荷が高まる。――これでは自殺行為――もう一度作戦を考えなおすべきだと進言しようとする。

 

「こちらクラウン01、問題はないと判断する。プランを承認するわ」

 

 ところがウィンドウの先でヴェロニカの声がそれを遮る。そして、なのはの心配を見透かしたように、ヴェロニカが言った。

 

「そんなに心配するな、高町一尉。……教導官が貴様らの手練手管の披露をご所望だそうよ。存分に戦果を上げろ」

 

 ヴェロニカの発破にソード分隊の全員が了解、と敬礼で返した。作戦を立案したコンラッドは別として、どうやらこの分隊全員がこんな作戦対してに無理とも無謀とも考えていないらしい。

 その言葉の後、再び通信士にウィンドウが戻る。またアヒル口の通信士が姿を見せた。

 

「作戦地点上空に到達しました。ハッチ開放します。ソード03、04、出撃どうぞ!」

 

 後部のハッチが開き、台形に切り取られた空から機内へと気流が流れこむ。ヴィクトールとアリスが立ち上がり、ハッチへと向かっていった。

 

「行けるか、二士」

「……問題ないよ、ヴィクター」

 

 ヴィクトールがアリスに飛び出すタイミングの確認を取る。その様子はさながら年の離れた妹を心配する兄のようだった。

 

「……ソード04、アリス・ヴェンチュリー。……行きます」

「ソード03、ヴィクトール・ローゼマイヤー。出撃する!」

 

 二人は並んでハッチから地上へとダイブする。

 

「『ブリガンディン』 ゲット・レディ!」

「……『ゴーストウィスパー』……セットアップ・レディ」

 

 デバイスの名前を呼び、起動用の宣言を詠唱する。二人はそれぞれ魔力光に包まれ、青い空を落下しながらデバイスとバリアジャケットのセットアップを行っていく。その二人に対して、地上からはまるでハリネズミのような対空砲火が襲い掛かる。しかし、まだ距離があるのか、垂直に落下していく二人に対空射撃は逸れていく。

 効果が無いと判断したのか、ギガースのうち背中に三連装の砲を背負った一機が砲塔を回して狙いを定めた。小型砲にしか見えなかった砲身が組み合わさり、一本の巨大な砲身が姿を現した。さすがに長距離砲撃までは予想していなかったのか、輸送機の中からその様子を知ったメンバーに電流が走る。

 

「砲戦型だと!? マズい!」

「隊長! 狙撃!」

「間に合わん!」

「なのは! 砲撃は!?」

「レイジングハート!」

<Not on time>

(間に合いません)

 

 輸送機の中の誰かが対応するよりも早く、ギガースの砲口が火を噴く。飛び出した弾頭は魔力反応型の近接信管を内蔵しており、落下する二人に直接触れるまでもなく最適な位置で爆散すると、盛大に爆風を叩きつける。

 

「アリス! ヴィクター!」

 

 カタナが叫ぶ。

 発令所では通信士が素早く周囲の魔力をサーチし、即座に結果が返してきた。

 

「魔力反応、感あり!! ソード03、04、共に健在です!」

 

 幸いにもセットアップは間に合っていたようだ。二人が黒煙の中から姿を見せる。

 二人ともバリアジャケット自体は管理局の標準デザインのジャケット・インナー・ボトムスの三点セットだったが、装着されたデバイスが明らかにミッドチルダの魔導師とは逸していた。

 ヴィクトールの方は、右腕全てを覆う装甲と、それに接続された一メートルほどの直径をした青灰色の円盾。円盤の中心にトパーズ色の澄んだ魔力コアが光を放っている。

 盾を中心として、ヴィクトールとアリスの二人分をカバーしてもまだ余裕ある面積のシールド呪文が展開されていた。どうやら先程の砲撃はそれで防いだらしい。盾は装甲の一部が展開し、魔法を増幅する作りになっているようだった。

 

 一方、アリスの方は頭の上半分を覆う純白のハーフフェイス・ヘルメット。縁を落とすように掘られたモールドに、アリスの魔力光と同じ薄い若草色の光が走る。目深に落とされた黒いスモークシールドは少女の表情を隠し、頭上には天使の輪を彷彿とさせる白いリングが光をにじませながら浮かんでいる。

 

「あの程度でこいつが抜かれるか……。アリス、頼んだ」

「……わかってる。……ゴーストウィスパー」

<Repeated.Started "Anti Magilink Counter Measures" and began neutralize the "Anti Magilink Field">

(復唱。AMCM起動。AMFニュートライザスタート……)

 

 ヴィクトールに促されたアリスがデバイスに呼びかけると、彼女を中心に薄緑色の波紋が広がってゆく。

 一見、何の変哲もない魔力波の放出だったが、それに引き寄せられるように今度は空戦型のギガースが二人に襲いかかる。ステルス機のような形状を持っていたガジェットとは対照的に、翼竜めいたフォルムを持つ空戦型ギガースが滑空するように飛来する。

 しかし、一条の閃光が上から下へ、ギガースはいともたやすく装甲を撃ち抜かれて爆散。徐々に砂となり消えながらも地面に向かって墜落していく。上空の輸送機に待機しているコンラッドが、手はず通りに砲撃魔法による狙撃で援護したのだ。

 

「今度は間に合ったな、隊長」

「俺が撃つときはいつだって間に合わせるさ」

 

 デバイスで狙いを定めたまま、涼し気な顔でうそぶくコンラッド。小脇に抱えられた褐色のデバイスは次の獲物をスコープに映し出していた。二体目の空戦型ギガースも容易に貫く必殺の狙撃が空を割る。

 ――制空権は抑えた――ヴィクトールとアリスはデバイスに念じ、魔力の渦を足元に発生させる。本来は高速移動用の魔法だが、その浮力と上方向への加速によって落下速度を相殺し、柔らかく地面へ着地する。敵勢力の着陸を認識したギガース達は、坑道への入り口を塞ぐように集まり、火線を収束させて迎え撃とうとする。ヴィクトールは足がつくと同時に同時にアリスを左脇に抱え、かばうようにシールド魔法を展開しながら走った。直接坑道の入り口へは向かわず、あえて入り口を中心に時計回りに、円を描くようにしてギガースの攻撃を引きつける。

 

 

 

 同時刻、輸送機内部。

 ヴィクトールたちのエアボーンを援護したコンラッドたちが今度は飛び降りるために待機している。ここから見える限り、想定通り二人は地上の攻撃を引き付けているらしい。この作戦でのコンラッドとカタナの役割は「横合いから思い切り殴りつける」ことである。

 

「足が震えているぞ、副長」

「これは武者震いっつーんだよ! そっちこそ着地の衝撃でギックリ腰になるんじゃねえぞ、隊長!」

 

 ここでも互いに軽口を飛ばし合う。からかうというよりも互いを鼓舞するような、そんなやり取りだった。

 

「ソード03、04の着陸及びエンゲージを確認。着地点付近のAMF濃度は低下状態で安定。ソード01、02、出撃どうぞ!」

 

 地上の様子を監視していた発令所から許可が降りる。アヒル口の通信士はサムズアップで見送った。

 

「そ、ソード02、カタナ・サイオン。行くぜ!」

「ソード01、コンラッド・デュカート。出るぞ」

 

 コールサインの宣言とともに二人は同時に宙へと舞う。

 

「『ソードフィッシュ』、レディ?」

「『ソリッドシェル』……セットアップ」

 

 同じく落下しながらのセットアップ。やはり二人とも、陸上部隊の標準的なバリアジャケットと、それぞれ特徴的なデバイスを装着していた。

 コンラッドの方は右上腕から左胸にかけてを覆うような褐色のブレストプレート状の装甲。さらに、何より目を引くのはつま先から踵に備えられた履帯(キャタピラ)付きの脚部装甲だった。

 右腕には、杖と呼ぶのもおこがましいほど巨大な、ちょっとしたスーツケース大のデバイスを抱えている。側面にグリップとトリガーが付いている辺り、先ほど飛行型のギガースを立て続けに撃ち落としたのもこれだろう。砲身に当たる部分には『BIG SEVEN』と刻印されており、どうやらそれがこのデバイスの名であるようだ。

 カタナの方は腰から下にかけて、特に両足を飛行機の主翼のような鋭い稜線の装甲で覆われており、さらに腰やふくらはぎの部分には大小様々なのスラスターが装備されている。

 両手には長さ三十センチほどのデバイスを別に持っており、黒光りするその鋭角的なシルエットから、それは刀剣の形をしたアームド・デバイスだとわかる。

 制空権と魔術の使用範囲はアリスによって抑えられているため、二人は先程よりも難なく着陸する。敵性反応の増加に気付いた二機のギガースが二人の方を向き直る。

 

「ソリッドシェル! コール・バレット、ナンバー1!」

<I sir.Select bullet No1>

 

「――我が歩みは地の鎖を離れ、空を征く!」

<"Gravity accel plus">

 

 しかし、それよりもコンラッドとカタナの詠唱の方がはるかに早い。

 コンラッドの持つスーツケース大のデバイスの側面にハンドボール大の魔力弾が形成される。

 その発射に先駆け、カタナのデバイス・ソードフィッシュの各所に装着されたフローターユニットが稼働。さらにカタナ自身の高速移動魔法の行使と合わせることで、地面スレスレを這うような低い姿勢で駆け抜け、一気に距離を詰めた。

 

「ターゲット・インサイト! "エクスプローダー" シュート!」

<"Exploder" fire>

 

「アルタートゥルース、フルドライブ! 参の型、斬月!」

<"Split moon" full boost>

 

 発射された魔力弾はギガースたちの近くまで飛び、近くで爆発を起こす。構造上、重心が高い逆関節のギガースは大きく体勢を崩した。

 姿勢を保とうと胴体を下げたところへさらにカタナが追撃する。

 低い体勢のまま残像も見えないほどに加速。爆煙を貫いてギガースの胴体があった位置よりも高くに飛び上がり、最高到達点から急転直下に「加速」する。アルタートゥルースと呼ばれた二刀のデバイスに魔力の刃が灯り、さらに刀身を延伸させる。二刀を右上から左下へ、空中で一回転しながら袈裟懸けに振るい、一撃のもとに斬り伏せた。斜めに三枚に切り裂かれたギガースは左右に倒れながら砂となって消える。そこまできて、ようやく新たな敵に気付いた残りのギガースがカタナとコンラッドの方へ注目する。

 

「……! コンラッド、カタナ、周囲にギガースの反応。小型が二十!!」

 

 いつの間に囲まれていたというのか。ヴィクトールの左脇に抱えられたアリスがデバイスに搭載されたレーダーで周囲に出現した新たなギガースの反応を知らせる。サイズこそ目の前にいるものよりも小さいが、数はその比ではない。

 

「増援だぁ!? 現地の空戦部隊は何をやってやがる! あのタマ無しどもめ!」

「あはは……。テッサリアの航空部隊は我々の到着と同時に撤収したようですね」

「Fuck!!」

 

 アヒル口の通信士から乾いた笑いとともに伝えられたのは無責任な撤収報告だった。言葉も荒くコンラッドが悪態をつく。とはいえ、AMF下で実弾兵器が飛び交う中、やたらに兵士を失うのもまた愚策だ。

 

「行け、ヴィクター!」

 

 もう一体ギガースを切り捨てたカタナが、崩れつつある残骸を片足で踏みつけ、右手のデバイスで坑道への入り口を指し示した。

 

「任せろ!」

「……先に行くね」

 

 それを見たヴィクトールとアリスは、振り向くことなく坑道の入り口へと走って行く。

 

「ソード03、04、遺跡内部に突入」

 

 発令所からの通信で、前衛二人を無事に見送ったことを確認したコンラッドとカタナは、互いに背中を守った状態で、ジリジリと包囲を詰めるギガースと相対する。

 

「01了解。このまま包囲されるとマズい。クラウン、包囲の囲みが薄い場所を割り出してくれ! そこから突破して個別に撃破する!」

「02了解……っと! 邪魔、だぁ!」

 

 飛びかかってきた一メートルほどの小型ギガースを、二本のデバイスで十字に切り払いながら、カタナは最適な位置を探す。

 

「チィッ! コール・バレット、ナンバー3!」

<Bullet select No3 "Diffusioner">

 

 コンラッドはデバイスに指示を出し、射撃魔法を近接散弾仕様に切り替える。隙間なく射出される魔力弾は、先程よりもよほど小回りの利く小型ギガースを面で捉え、次々に撃ち落としていく。

 

「こちらクラウン03。その地点から六時方向は包囲が薄いです。そちらに抜けてください!」

「01了解」

「02了解!」

 

 指示を受けた二人は、即座に包囲の薄い方へ走り出す。コンラッドの弾幕を盾に、カタナが一撃のもとにとどめを刺していく連携によどみは無く、まさしく歴戦の動きそのものだった。

 

 

 

 

 同時刻。戦闘区域上空、輸送機内。

 なのはとヴィータは、中継される地上の戦闘映像に見入っていた。通常の武装隊員ならばまともに戦うことも出来ないAMF環境下で、明らかに自分たちよりも魔導師ランク的には格下のソード分隊の面々が縦横無尽に戦っている。それだけでも驚くに値することだった。

 

「な、なんであいつらはAMFの中でも自由に動けるんだよ……」

 

 ヴィータが映像に思わずたじろぐ。映像の中ではカタナとコンラッドが地上の小型ギガースの群れを、触れるところから撫で斬りにしている。説明が間違っていないのならばあの場所はAMFで満ちた空間のはずである。それを苦にしないとなると、コンラッドに担がれたか、あるいは彼らの魔力の最大瞬間出力がずば抜けて高いとしか思えない。

 

「ヴェンチュリー二士のデバイスが言ってたね。『AMF中和』って……」

 

 なのはが思い出したように呟いた。

 確かに、アリスのデバイスであるゴーストウィスパーは「中和」と言った。少なくとも六課にいたころのミッドチルダにそんな技術はなかったはずだ。

 そして脳裏に浮かぶヴェロニカの言葉

 

 ――AMFおよび質量兵器との戦闘……。我々は、そのために結成された部隊なのだから――

 

「その通り! よく気付いたのう、なのはちゃん!」

「ヴルカン博士!?」

 

 その呟きを待ち構えていたかのように通信ウィンドウにヴルカンが割り込む。いきなりドアップで老人の顔が映し出されたものだからさすがのなのはも驚きが隠せない。

 

「これがわしらの武器、対AMFの最新技術『Anti Magilink Counter Measures』――魔導連結妨害対策――システムじゃ!」

 

 ヴルカンはカメラを引くと大仰な仕草で両手を広げ、背後にある理論式の書かれたディスプレイを示してみせた。

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