戦姫絶唱シンフォギア 三本角の英雄   作:タロ芋

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 ノイズが特異災害として認定をされてからおよそ10年と数ヶ月。

 

 "仮面ライダー" がその存在を現したのは米国の首都であった。

 

 当時、米国の首都には無数のノイズが埋め尽くし、建物と人々を蹂躙していた。

 見上げるほどのビルは大半が倒壊し、地面には人のなれ果てである炭素の塊の山が埋め尽くすほどだった。

 

 当然、米国政府は選りすぐりの精鋭で構成された軍を首都へ出動させる。

 しかし、米国の最新鋭の兵器はノイズの位相差障壁のまえで物理攻撃は無力であった。

 

 最新の兵器はあっという間に無力になったことに、兵士たちからしたら悪夢だっただろう。

 

 兵士たちは弾丸をばらまき、何とか応戦するが焼け石に水ともいえる行動は逆にノイズの注意を引き一人また一人と痛みを感じる間もなく炭素へと変わっていく。

 

 誰もが絶望し、生きることを諦めていた。

 その時、一斉にノイズたちは電源が切れた機械のように動きを止めた。

 目の前に人間がいるというのに微動だにぜず、機能を停止したノイズに疑問を覚えたときソレは現れた。

 

 

 コツコツと足音を響かせ、炭素の塊が広がる地面を悠々と歩くひとつの影。

 黄金のアーマーを纏い、顔には特徴的な配置の三本の角に蒼い複眼のマスクが顔全体を覆う。

 そして右肩には昆虫の角をもしたショルダーアーマーがあった。

 

「いたッ……!」

 

 その時、逃げようとして転んだ少女の近くにいたノイズが動き出しその腕を振り下ろす。

 

「───」

 

 だが、その寸前その腕は少女の顔のすぐ手前で止まる。

 否、その人物がノイズの腕を掴んだからだ。

 普通ではありえない光景に周囲の人々は息を飲む。

 人間では決して触れられないノイズに当たり前に触れ、あまつさえ掴んでいる。

 

「オォォォ……」

 

 空気が震える。

 

「ォォォォォォォオォォオッッ!!!!」

 

 雄叫びを上げその人物は、否、戦士はノイズの頭を掴み地面へと叩きつける。

 そして、目に追えぬほどの速度で駆け出し別のノイズの顔面へと拳を叩き込む。

 

 そして、それが合図となり至る場所から夥しい数のノイズが現れる。

 彼がノイズたちに囲まれるのはそう時間がかからなかった。

 だが、その戦士はたじろいだ様子はなく寧ろ不敵な笑みを感じさせる態度でノイズたちに手を掲げ、指を自分側に数回曲げるという挑発すらやってのけた。

 

 蹂躙が始まる。ただし、ノイズたちが蹂躙される側となってだが。

 

 人々は目を疑った。

 位相差障壁をものともせず、その拳で足でノイズを粉砕する姿に。

 

 確実にノイズの数を減らしていくその戦いに。

 

【1】

 

【2】

 

【3】

 

「ライダーブラスト」

 

【Rider Blast!!】

 

 波動を放つ拳を地面へと叩きつけ、拳を起点に地中へとエネルギーが注ぎ込まれプラズマが波紋のように広範囲へ広がり、範囲内にいたノイズをまとめて爆散させる。

 

『■■■■■■───ッッ!!!』

 

「ライダービート」

 

【Rider Beat!】

 

 5メートルは超える人型ノイズのパンチと戦士のパンチがぶつかり、拮抗することなくノイズがほかの個体をまとめて吹き飛ぶ。

 まさに圧倒的にして無双。

 おそらく最後の一体を屠ったであろう戦士はその手に握る煤を振り払い、その場に佇む。

 

 人々はまだノイズがいるのではないかと警戒を強めていたが、戦士が動くことがないことから漸く警戒を解き始めていく。

 

 誰かが声を発する。

 夕焼けを背にし、自分たちを見つめる黄金の戦士を。

 

 その時、戦士がゆっくりと歩きだす。人間の犠牲とノイズの消滅により作り出された煤を踏みしめ、呆然とした様子の少女のもとへ。

 

 そして、戦士は少女の目線に合わせるよう膝をつく。

 

 ──怪我はないか? 

 

 少女はわずかに首を縦に振る。

 

 ──…… そうか

 

 戦士はやさしく言い、少女の頭へ手を乗せた。

 少女はたどたどしく口を開く。

 

 あなたはだれ? と

 

 その問いに戦士は少しの間を置き、答える。

 

 ── "コーカサス" それが俺の名だ

 

 戦士、コーカサスは用は済んだとばかりに立ち上がりベルトらしきもののサイドバックルをたたく。

 

【Clock Up!】

 

 僅かな風が煤を舞い上げる。

 その場には少女しかおらず、コーカサスという戦士の姿はなかった。

 残された人々は突然姿を消した戦士に呆然とするが、沈黙を破るように歓声を上げた。

 

「「「「コーカサス! 我らが救世主!! 偉大なるヒーロー!!!」」」」

 

 半ば狂気的な歓声のなかに先ほどの少女もおり、ひたすらに同じ内容を叫ぶ。

 

 この日を境にコーカサスは世界中で目撃され、ノイズを倒す以外にも人身売買、人体実験、違法な薬物の密売を行うような組織を数多く壊滅させていった。

 

 そのたびにネットにはコーカサスの動画が流れ、彼を称えるものが増えていき、彼が現れたと聞けばそこに赴きどれだけ彼が素晴らしいかを昔の宣教師のように人々へ教え三大宗教すら上回る新たな宗教 "コーカサス教" というものが作られた。(内容はボランティアだったり、医療活動などといった意外と慈善活動を主としている)

 

 そして、今日も日本に現れたノイズをコーカサスは倒していく。

 

 ○

 

 

 そういえば今日はスーパーの特売だった……

 

 葡萄のようなノイズの脳天へ踵を叩き込み、ふとピキーンと新しいタイプ的な効果音とともに思い出す。

 

 ──総司よ、タイムセームならあと5分ほどで始まるぞ

 

 そうか……

 

 何体目かわならないノイズ、そのうちの飛行型の攻撃をバク転でかわしアッパーで空中へと吹き飛ばし、ホルスターから抜いた "ゼクトクナイガン" で撃ち抜き炭素の塊へ変える。

 

 現在の時刻は午後の2時55分。3時から近所の大型スーパーで特売が始まるというのに間に合わなくなってしまう。

 

 それなのに大空を埋め尽くすように空を飛ぶ雑音たちのせいで無駄に時間を食ってしまう。

 

 肝心のコーカサスエクステンダーは現在メンテナンス中のため、飛んでたたきおとすことも出来ない。さて、どうしたものかと思っていると。

 

 ──なら総司くん、私の出番ですね

 

 ──ケタロス…… お前が自分から出てくるとは珍しいな

 

 空間が引き裂かれ、そこから(あかがね)色の光と弓が飛び出す。

 

 ──フ、コーカサスやヘラクスがここ最近活躍してますからね。 少しは私も活躍したいのですよ

 

 本音のところは? 

 

 ──もう少しでネット注文をした特典付きゲームソフトが届くので早くしてほしいんですよ

 

 自分の欲望に素直すぎないかコイツ? 

 

 ──仕方あるまい。こやつだし

 

 ──さあ総司くん! はりーはりー!! 

 

「はあ…… 仕方ない。 すべては特売のためだ」

 

 ──貴様もおんなじようなものだと思うがのう

 

コーカサスゼクターが呆れたようにつぶやく。

 

 スポーツで使うようなアーチェリーに似た "ケタロスアロー" をつかみ "ケタロスゼクター" がスロットへ自動的に装着された。

 

「変身」

 

『HENSHIN』

 

 無数の小さな六角形がケタロスアローを起点に全身へ広がり、光を放つ。

 シルエットが形を変え、光を引き裂く。

 

『Change Beetle!』

 

 黄金の装甲は銅へ、三本の角は顔の全体を占める大きな一本となりショルダーアーマーも同様に形を変え、仮面ライダーコーカサスは "仮面ライダーケタロス" となる。

 

 姿を変えた戦士は手に持った弓を構え、呟く。

 

「付き合ってやる。10秒間だけな」

 

『Clock Up!』


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