多分、次の話でライブですかねー?
とある山の中、地面を埋め尽くすほどの数のノイズがそこにはいた。
あちこちには爆炎が上がり、何かが砕ける音が響く。
【1】
【2】
【3】
「ライダー…… アヴァランチ」
【Rider Avalanche!】
突如巨大な青白いプラズマ状のエネルギーが半円状に発生し、群がっていたノイズ共を飲み込み炭素へと変化していく。
そして、ひときわ多く膨張すると一気に収縮し爆ぜ割れ、周囲一帯へ衝撃波をばら撒き生き残っていたノイズ全てを殲滅する。
「ハア…… ハア……」
何もいなくなった空間の中心で仮面ライダーコーカサスは荒くマスクの下で二酸化炭素の塊を吐き出し、手に持つヘラクスブレードを杖にして地面へと膝をつく。
──総司、まだへばるのは早いぞ。 南西に10キロ、敵の援軍だ。 でかいぞ
「……わかった」
コーカサスゼクターの声に答え、総司は言われた場所へと走り出す。
そして、リモート機能によりどこからともなくコーカサステンダーが現れ、走る彼と共に山肌を並走する。
総司はバイクに飛び乗ると一気にアクセルをフルスロットルにし、地面をギャリギャリと削りながら加速する。
──かれこれ数時間も連戦か…… 疲労も溜まっているのではないか?
問題は無い。 いざとなれば
──それもそうだが、あまり無理はするなよ?
お前が俺を心配か? 珍しいこともあるものだな
──孤独なヒーローにも少しくらい労うものがおってもバチは当たるものかよ
「フッ、そうか」
小さく笑い、呟く。
うだるような熱気に晒される中、ただ1人で金の戦士は戦い続ける。
誰の助けも借りぬまま、ただ独りで……
〇
「また出遅れた ……か」
目につくのはいくつも陥没し、えぐれた地面。
なぎ倒され、空へと黒煙を上げる木々。
そしてノイズがそこにいたということを理解させる炭素の塊。
戦闘の痕跡が至る所に散らばり、真新しさの残る戦場特有の独特の臭いに奏は顔を顰めつぶやく。
「仮面ライダー……!」
その隣では
あと日、自分の力全てを否定され自分は無力だと捨てられたかのような屈辱に拳を握りしめ震わせる。
それを見て奏は小さくため息を吐き、その後頭部にチョップを放つ。
「てい」
「いたっ!?」
「まったく、翼! そうやって追い詰めるのは悪い癖だぞ〜 そんなんじゃいつかポッキリ折れちまうゾ」
「や、やめてってば奏!」
わしゃわしゃ〜! とさらに頭を撫で回して彼女を髪の毛を乱す。
日に日に増加する
弦十郎からの指令により、自分たちがそこへと言った頃には既にノイズたちは全滅しており、ソレがさらに翼自身へ無力さを伝えてくる。
それがストレスとなり、彼女をどんどん追い込んでいく。 その過程がまるで過去の自分のようで奏は翼を放ってはおけなかった。
「(ほんと…… 手間のかかるやつだな〜) よーしよしよし!」
「ちょ、奏! 私犬じゃないんだからやーめーてー!!」
気がつけば翼の顔にはどこか危うい影はなくなっており、年相応の笑顔になっていた。
『ゴホン、2人とも幾らノイズが全て殲滅されているといえそこはまだ戦場。 警戒を怠らないように!』
すると、通信機から弦十郎の声が聞こえ、思わず2人は方をビクッと震わせ、互いに目を見合わせる。
「フッ」
「フフッ」
吹き出し、少しだけ笑う。
「よし、じゃあ帰ろうか翼」
「うん。 ……ありがとう奏」
「なぁに、気にしなさんな!」
2人で1人。 双翼は欠けることはない。 これからも。 そして、これからも……
「うし、数週間後にはライブだし気合い入れてレッスンといくか!」
「うん。 完全聖遺物 "ネフシュタンの鎧" を起動させるための大量のフォニックゲインを集める大型ライブ…… 絶対に成功させなくちゃ」
〇
「…………疲れた」
もたれ掛かるように庭園の中心に置かれた椅子に座り、総司は開口一番にそんなことを漏らした。
──さすがに36時間54分12秒ぶっ続けでの戦闘は応えたか?
「ああ…… さすがに、な」
連戦に次ぐ連戦。 最後の戦闘では大型ノイズを複数体を相手にしながら、逃げ遅れた民間人を守るというゲームだったら即投げるほどのことをやり遂げた総司は肉体的にも精神的にもボロボロで、このままずっと眠りたい気分だった。
『ありがとうございます! このことは絶対忘れません!!』
『ありがとう、ありがとう仮面ライダーッ!!』
『ありがとうございますかめんらいだー』
だが、助けた人々が涙混じりに礼を言う姿が脳裏をかすめ、寝落ちしかけた意識をつなぎ止めた。
「……」
──おや、総司くんなにかいい事ありました?
「ん? どういうことだケタロス」
──口元、ですよ
「口元?」
総司はケタロスにいわれ、懐から携帯を取りだし、その光の点っていない画面に自分の顔を映し出した。
そこには微かに微笑んだ自分の顔が映っており、知らずのうちに自分が笑っていたことに気が付かされた。
「ふむ…… "笑顔" か」
──あの小娘どもが顔筋死んでるレベルの無表情オブ無表情と称したお前が珍しいものだ
なかなか失礼なことを銀色のやつがなにやらいってるが、そのことに総司は気が付かなかった。
「これも…… 俺が俺らしくなってるというのかコーカサス?」
──さて、な。 その答えはいずれお主が見つければ良い。 大いに迷い、大いに悩めよ総司。 それを見つけた時お前に与えられた命題は解き明かされよう
「…………そうか」
噛み締めるように呟き、その様子を見るコーカサスの視線はどこか我が子を見守る父親のような感じであった。
そんな時、見つめていた携帯の画面に光が灯り着信音がスピーカーから流れてきた。
その画面には簡潔に "響" という1文字だけが表示され、電話をかけてきた相手が誰だかを示す。
突然の出来事に思わず携帯を落としそうになり、ギリギリ落ちる手前で掴み取り僅かに息を吐く。
「ンンッ、何の用だ響」
──あ、この人何事もないように電話に出ましたよ?
──ハハッ、笑えるなオイ
──なんというかまぁ、のぉ?
そこ喧しいぞ、という視線を込めて金銀銅の奴らを睨みつけ総司は電話に意識を向ける。
『はい、響です! いきなり電話をかけて迷惑でした?』
「いや、特に問題は無いぞ響」
『ならよかった〜。 なんだか昨日から留守してて電話も繋がらないから未来と心配したんですよ?』
「む、それはすまなかった。 ちょっとばかし野暮用でな」
ほぼ丸1日+αノイズと過ごしてたなんて言える訳もなく、当たり障りないことを言う。
そのことに安心したのか、響はすぐに元通りの声色に戻り、不在の間に起きたことを楽しそうに話し出した。
重い荷物を持っていた老婆の手伝いをして感謝をされ、お菓子をもらったこと。
小学生の女の子が気にひっかけた風船をどうにかしてとってあげたのはいいけど、気から落っこちてしまったけどお礼を言われたこと。
提出するはずの課題が終わってなくて頼み込んで未来に写させてもらったが、提出期限が明日だったことといった何気ない日常。
時折総司が相槌を打ち、響が楽しそうに笑う。
そして、気がつけば小一時間話し続けていることになっているのだが、それを指摘するものはおらず、ゼクターたちも総司のことを見守っていた。
『あ、それとですね総司さん! な、な、な、なんと! 私ってばツヴァイウィングのライブチケットの抽選販売に当選したんですッ!』
「ほう…… たしかかなりの倍率だったはずだがよく当選したな」
以前響や未来にツヴァイウィングとはなんぞや? と言った時、響のツヴァイウィングの良さを丸一日使って力説されて以来、時折あのアイドルユニットのことを調べていたため何故かそれほど興味が無いのに人並み以上に詳しくなっていた総司は、彼女の言うライブチケットの購入権を手に入れることの難しさにすこしだけおどろいていた。
『ですよね! ですよね〜!? いやぁ〜、やっぱり日頃の行いですかね! ほんと、当選のメールが来た時なんて思わず家族の目の前で踊っちゃいましたもん!!』
「ハハ、たしかにお前ならやりそうだ」
電話越しでも響が嬉しそうに舞い上がってる様子が脳裏に浮かび、再び自然と総司の口元には笑みが作られる。
『それでですね! 今度未来と一緒に見に行くんです! ぜったいに限定グッズとか色々買ってきて総司さんにもプレゼントします!』
「ああ、心待ちにしておこう」
『ハイ! あ、もうこんな時間…… それじゃあまた今度!』
「ああ、また明日な」
そう言い、通話を終える。
「フッ……」
僅かに笑い、総司は空を見上げる。
空高くには大きな月が浮かび、幻想的な光景を生み出していた。
──確かに、守らなければならないな。 笑顔を
「ああ。 多分、俺はこの暖かい居場所を守りたいんだろうな……」
僅かに手を握りしめ、開く。
すると、その手は人間の手ではなく人とはかけはなれた異形の形へと変化していた。
「これは我儘だ。 ただのどうしようもない化け物のな……」
──構わぬさ。 それがお主の願いならな……
1人の怪物は少女の笑顔を胸に抱き決意する。 正義の味方などではなく、仮面ライダーとしての覚悟を。
──総司、ノイズだ
「ああ。 どうやら今夜は眠れないらしい」
既に疲れなどない。 四肢の端には力が満ち、その瞳は力強く目の前を見すえる。
「────変身ッ!!」
例え、命が尽きようと。
命題を解き明かすため、大切な居場所を守るため。
黄金の戦士は走り出した────
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