魅夢の一族   作:あまてら

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〜蜘蛛ノ頭〜
クモの巣へ


 

 

 

 天空闘技場を後にして、アリシアはヒソカに付いて飛行場へと向かうと、生まれて初めての飛行船に乗った。

「凄い! 見て、わたし達空を飛んでいるわ!」

 飛行船の先頭側にある、広長い窓に手を付いて大興奮のアリシアは、地上を見下ろしながら目をキラキラと輝かせていた。

「大袈裟だなぁ♦︎」

 大喜びのアリシアの背後からヒソカが現れ、同じように地上を見下ろしながら声をかける。

「キミの初めてに色々付き合えて、本当愉しいよ♠︎」

 この日が来るまでの数週間とちょっと。メルサの一件から始めた訓練をアリシアに続けさせていたヒソカは、使いこなすには難しいとされる、応用技修得への修行に付き合っていた。

 元々念を使えている様子はあったのだが、それを理解せずに無意識で使っていたアリシアは、酷く不安定さが目立っていた。

 けれど修行の結果。読み込みの早いアリシアは予想を反し、初めから出来ていた応用技の凝の正しい修得に成功したのである。

 ──イイねイイねぇ♦︎ 脆い玩具のままより断然イイよ♥

 目の前にいるアリシアの成長に身体をゾクゾクとさせながら、香ってきた甘い匂いにふと、違いがあることを気付いた。

 ──こんなに濃い香りだったっけ?

 初めて匂ったあの時の香りよりも更に濃い匂いは、いつも以上にヒソカの気分を心地良くさせていたのだった。

 

 

 

 幻影旅団。蜘蛛の頭と、団員12本の蜘蛛の脚に見立てた13人で構成された、危険度Aクラスの賞金首の盗賊集団である。

 盗みと殺し、稀に慈善活動もする彼等は、熟練のハンターでも迂闊に手を出せない存在。

 その旅団の団長、団員No.0のクロロ=ルシルフルは、これから活動する間の借宿を目指して一人、木陰のベンチで休憩がてらに古い書物を読んでいた。

 その書物の内容は、太古の歴史や人物等が記されている古文書のようなもので、ずっと昔に読んでからのお気に入りの一つであった。

 クロロがパラパラとめくる先にある文字は、【魅夢の一族(ミムノイチゾク)】と記されている。その文字を人差し指でゆっくりとなぞり、ふ、と静かな笑みを浮かべた。

 果たしてそうなのか、そうでないのか……。

 クロロは、ゆっくりとその本を閉じた。

 

 

 

 ヨークシンシティーの飛行場に到着後、アリシアは前を行くヒソカに黙々と付いて歩いた。

 被っているフードを少し上げて見た周りの景色と言えば、どこもかしこも高層ビルばかり。

 夜が一層華やぐこの都市は、ヨルビアン大陸の西端にある、ヨークシンシティ。年に一度、毎年9月に大規模なオークションが開催され、コレクターや観光客で溢れかえっている夢の都市である。

 ──建物がいっぱいだわ。

 そんな景色に少々圧倒されたアリシアは、今から何処へ向かうのか全く検討もつかない。

「ヒソカ、どこへ向かっているの?」

「蜘蛛のメンバーが待っている場所さ♠︎ 他の誰にも知られないような所だから、少し歩くよ♣︎」

 何処なのかは結局わからないままだったが、取り敢えずヒソカに付いて行くしかないようだ。

「……不安かい?」

 歩きながらヒソカが訊いた。

「少しだけ……」

「だろうね♠︎ ……けど、マチもいるよ♥」

「ヒソカの恋人の?」

「んふふ♥」

「恋人と同じめんばーって素敵ね!」

「そうかなぁ?」

「そうよ」

 アリシアの中での恋人というイメージは、幼い頃に絵本で見たお姫様と王子様の物語や、恋愛ドラマで見たカップルのキスまでの純愛ストーリーでしか知識がない。恋愛とはプラトニックなものだと、アリシアは本気で信じているのである。

 暫く歩いていると辺りは徐々に静けさを増していき、廃墟が目立ち始めた。周りの廃墟を物珍しそうに見ながら、アリシアは歩きを速めた。

「どうしたんだい?」

 少し後ろを歩くアリシアが突然歩みを速めたのに気付いたヒソカは、前を向いたままアリシアに声をかける。

「なんだか息苦しいわ……」

「この廃墟の空間に当てられて、そう感じてるだけだよ♠︎」

「そう、なのかしら……?」

 さあ着いたよ。ヒソカが指を指した。一棟の廃墟の中に誘われて、アリシアは恐々としながら古びたコンクリートの建物の中へと入った。

 まだ外は暗くもないのに、廃墟の建物の中は真っ暗闇である。

「この奥の場所で待とう♣︎」

 更に進んだ奥の部屋らしき中に入れば、床や壁や天井までもが崩れかけているのがわかった。だが、今すぐに壊れてしまう心配はなさそうだった。

 少しの間二人で待っていただろうか。静けさの中で何者かの気配を感じ取ったアリシアは、慌ててヒソカの背に隠れる。

「随分とお早いお着きだたな」

 男の声で、誰かが嫌味を込めて言った。

 ヒソカの視線の先には、幻影旅団全団員に囲まれた蜘蛛のリーダーの姿があった。団長である男の久しい顔を熱い眼差しで見つめたヒソカは、ニタリといやらし気な笑みを浮かべていた。

「みんなが集まるの遅過ぎなんだよ♦︎」

 かけられた嫌味の言葉もなんのそのである。

「……本当むかつくヤツね」

 黒いマントを纏い、顔から下半分を隠した小柄な男。団員No.2のフェイタン=ポートオが言う。

「おいヒソカ」

 無精髭を生やし、着流しを着ている丁髷の男は、団員No.1のノブナガ=ハザマだ。

「なぁに?」

「テメェ、誰と来やがった? そこにいる奴は誰だ?」

 ノブナガは顎をしゃくってヒソカの後ろを指した。それは、ヒソカの背後に隠れているアリシアに気付いたからである。

「団長のご命令でね、連れて来てるんだよ♣︎」

「命令? なんの? 聞いてねーぞ。んなもん」

 ノブナガがクロロに目を向けると、同じく知らなかった他の団員達もクロロへと注目した。

「悪い。まだ定かではなかったからな。直接確かめるまで黙っていた。──ヒソカ」

 ヒソカはクロロをじっと見つめ返し、そこから視線を後ろにいるアリシアに向けた。

「さあ、アリシア、前へ出るんだよ♠︎」

 名を呼ばれたアリシアは少し躊躇いながらも、怖じ怖じとヒソカの前へ移動した。

 団員達の一斉なる視線は、全てアリシアに注がれた。その反応は、マチ以外とても訝しげである。

「フードを下ろして顔を見せろ」

 クロロがそう言うと、アリシアは前方にいるクロロへと顔を向けた。

 オールバックの髪型、額には十字架の入れ墨。耳たぶのイヤリングが特徴的な男である。アリシアはクロロに言われた通り、素直にフードを下ろして自分の顔を見せた。

 ──と同時。ヒソカ、マチ以外の団員皆に電流が走る。アリシアを見る周りの反応が大きく変わった瞬間だった。

「どんなツラしてる奴かと思いきや……」

 一番肌を露出している薄着の大男、団員No.11のウボォーギンがアリシアの容姿に驚き、思わず口を開いていた。

 それはアリシアを初めて見た者達も皆、同じ気持ちだった。

 今までどれ程の美人を見てきた事か。目は肥えているつもりだ。──だが、アリシアの美しさはただ美しいだけではない。この世の者ではない次元の違う別格の美しさがあり、見たこともない星空の瞳も相まってとても神秘的な雰囲気を漂わせている。

 言葉をも失ってしまったかのような団員達の反応に、何故か優越感のヒソカは静かに笑った。

「……でさぁ、命令どおり彼女を連れて来たのは良いんだけど、説明してくれないかな?」

 ヒソカの言葉にハッと我に返った団員達の視線が、再びクロロへと向かれる。

「……わかった。一つヒソカに尋ねるが、その(むすめ)から独特な匂いはあるか?」

「あの甘いイイ香りの事かな?」

「マチ、お前が言っていたのは?」

「確かにソイツ本人だよ」

 二人からの返事に満足らしく笑みを漏らしたクロロは、アリシアをしっかりと見定めた。

「団長?」

 鷲鼻に睫毛の長い女、団員No.9であるパクノダが呼ぶと、クロロは静かに口を開いた。

「そこにいる娘は恐らく、『魅夢の一族』の末裔だろう」

「ミムノイチゾク?」

 ノブナガとウボォーギンが声を揃えた。

「待って団長! 魅夢の一族って……!」

 一見して爽やかな好青年風の男、団員No.6のシャルナーク=リュウセイが、驚きの声を上げてアリシアを見た。

「魅夢の一族。かつてこの世に存在し、今は途絶えてしまったとされる幻の民族の事だ」

「聞いたことないけど、凄いの?」

 眼鏡をかけた少女、団員No.8のシズク=ムラサキは、周りの空気を読まずに質問した。

「凄いってもんじゃないよ! でも、今は影の薄い都市伝説ぐらいにしか思われてないけどさ」

 と、シャルナークは答える。

「その娘が魅夢の一族だと知られれば、世界中の考古学者やコレクター、裏の住人達や政治家達がこぞって欲しがるだろう。その存在価値は、オレ達の想像もつかない程……」

 そんな価値が。クロロから聞いた団員達のアリシアを見る目は、更に違うものへと変わっていた。

「あのコ、どういう価値があるの?」

 シズクは、再び質問をクロロへと投げた。

「魅夢の一族が歴史に記され始めたのは古代からだ。その地に留まる事無く生きる移住民族の彼等は、強い戦闘力を誇る存在であり、ネイビーブルーの髪色と星を降らしたような瞳を持つ、美しい者達だそうだ。こぞって他の国々が欲しがる強大戦力でもあったが、彼等にはまだ世から望まれるものがあった」

「なんだよ」

 気になったノブナガが、早く言えと急かす。

「"匂い"だ。彼等は特殊な人間で、独特の甘い匂いを発する。しかもその香りは人を魅了する成分が含まれ、その香りに取り付かれた者は数知れず。魅夢の一族の女を取り合って戦争が起きた歴史もある」

 あのさぁ。挙手をして喋るのは、またまた眼鏡少女のシズクだ。

「それなりに強かったんでしょ? なんで途絶えちゃったの?」

「時代が平穏を望み争い事が減ると、時の流れと共に、必要とされなくなった力が退化していく民族の話は良くある。他の民族との交じりにより純血が数を減らしていく事や、力を持たなくなったおかげで狙われる事も勿論。魅夢の一族も例に漏れず……だ。彼等らが他と違う価値を見出された事で、結果急速に途絶えたんだ」

 その価値とは、美しさもさることながら、一つは食用として。

 幻の美食と噂されていた魅夢の一族の肉は、脳天を刺激する程の美味さ。もう他の食べ物が受け付けなくなってしまう程。

 二つ目は肉体そのもの。一度躯を合わせれば、極楽の世界へ誘われるような快楽を体験出来る。

 一番の標的は純血の女と子供だ。男も例外ではないが、殆どが無残に殺されて人肉嗜食達の餌食となった。

 奪われ殺され、食べられ続けた魅夢の一族は、それが原因で途絶えたとも言われている。

 淡々と語り終えたクロロの話に耳を傾けていた団員達は、何故途絶えた筈の一族であるアリシアが、今ここに存在するのかを疑問に思った。

「深くは考えつかねぇが、ミムノイチゾクってのは、とうにいなくなっちまってるんだろ? ソイツ本当にミムノイチゾクなのか?」

 ウボォーギンが睨みを利かして質問すると、『髪色と目が云われてる通りだからそうじゃないの?』とパクノダが返した。

「髪色や瞳の特徴、匂いは魅夢の一族の証しだから、多分彼女は本物……とオレも思いたいんだけどね」

 シャルナークがそう言うと、奥に立っていたクロロがゆっくりとアリシアに近寄って行く。

「魅夢の一族を見極める方法が、髪色や瞳以外にもう一つある。彼等は、体の一部に印をつける伝統的な風習を持っていた」

 アリシアの目の前に、クロロは立った。

「一族以外と交ざった者達には無くなってしまった印が……」

 アリシアの左耳に手を伸ばすと、クロロはその耳に顔を近付けた。

「何してるね?」

 フェイタンである。

「やはり正真正銘、この娘は魅夢の一族だ」

 アリシアの髪を少し上げてずらし、左耳の裏側の耳たぶを指で曲げて見ながらクロロは呟くように言った。

「魅夢の一族は子が生まれると、直ぐに一族の証として小さな入れ墨を左耳の耳たぶの裏に彫る風習があったんだ。この娘にも同じ小さな星型の入れ墨が彫られている」

「それじゃあもしかして……!」

 シャルナークがアリシアを凝視しながら言った。

「しかも純血だ」

 クロロはアリシアからヒソカへと目を移した。

「ヒソカ、お前は何処で拾ってきたんだ?」

「たまたま偶然見付けて連れ帰っただけ♠︎ 場所は天空闘技場近くの森林公園だった気もするけど、彼女は別の森から来た……としかわからなくって♣︎」

 クロロはもう一度アリシアを見つめて、『何処の森だ? 他に仲間は?』と質問を投げた。

 ──なんだか、頭が。

 目の前に立っている男の質問に答えなければと思っていると、急に頭の中がふわりとしてくる感覚にアリシアは陥った。

「わ、わからないわ。わたしはうさぎを追っていただけなの。気付いたら知らない場所にいて……、森では母様と一緒だった。でももう、死んでしまった。他に仲間なんて知らない。生まれた時から母様以外のヒトは見たことがなかったもの……」

 ふわりふわり。徐々に意識は朦朧としてくる。そんな状態のアリシアは、何とか本当の事をクロロに伝える。決して嘘ではないと。

「最後の生き残りってやつか?」

 ノブナガが問うと、クロロの代わりにシャルナークが返した。

「確か最後に発見された極秘記録によると、十数年以上前に男と女の二人組の目撃が報告されてるよ。男の方は捕まって裏で捌かれたって」

「女の方は生き残ったのか?」

 エジプト風の衣装を身につけた目付きの悪い男、団員No.5のフィンクス=マグカブがシャルナークに訊いた。

「捕まえ損ねたらしいけど。もしその女が子を宿していたとしたら……」

 やはりアリシアは魅夢の一族の生き残りにして最後の存在。

「ヒソカ、この娘をどうしておくつもりだ?」

 再びクロロがヒソカを見ると、ヒソカはクツクツと笑い出した。

「もしかしてさぁ、彼女を連れて来させたのは、金にする為……なのかなぁ? 利用するのはまた別として、生憎だけどボクは献上するつもり全くないから♣︎ ……今のところは、ね♠︎」

 そう答えながらニタリと笑顔を向けると、フェイタンは『ミムノイチゾクが貴重と知て手放すのが惜しくなたか』と、ヒソカを睨んだ。

「別になんの一族だろうと、そんな事どうでも良いよ♠︎ アリシアはボクが見付けた玩具なんだ、今は誰にも譲る気はない♦︎」

 ヒソカがそう伝えれば、クロロはあまり表情を変えずに平然として『それは残念だな』と、言った。

「まあ良い。だがこの娘は想像も超えた価値がある。迂闊に壊したりするな」

「やだなぁ、そんなもったいないコトしないよ♦︎」

 薄気味悪く笑うヒソカに対し、ノブナガはぽつりと悪態を吐くように『ウソこけっ』と呟いた。

「ソイツがミムノイチゾクってのはわかった。けどよ、団長こそ、どうするんだ?」

「まさかただ見てみたかっただけ……とか?」

 フィンクスとシズクが更に問いかけ、クロロは一人考えながら静かに唸った。

「正直、驚きを隠せないでいるんだ」

 その表情は少しも驚いてるようには見えない。

「団長でも驚く事って、あるんだね」

 シズクが言うと、『オレだって驚きはする」とクロロは返す。

「……でもまぁ、そんな珍しいお宝に折角出会えたんだしよ、この際売っちまったらどうだ?」

「そうね。ただ見るだけの観賞用なんて旅団らしくないよ」

 ノブナガとフェイタンの提案に少しムッとしたのはヒソカだった。

「彼女は売らない♣︎」

「お前が決める事じゃないね」

「見付けたのはボク♠︎」

「それがどした。お前が何度団長の手を煩わせたか忘れたか?」

「お詫びに捧げろ……とでも言うつもりなら答えはノー♦︎」

「相変わらず癪に障るヤツね……」

 ヒソカを一方的に睨み、フェイタンから険悪なオーラが溢れる。

「団員同士のマジギレは禁止だ、抑えろフェイタン」

 声を低く出してフェイタンを制止させようとするのは、不気味な怪物のような風貌と長い耳たぶや顔中に無数の傷跡が特徴である巨漢、団員No.7、フランクリン=ボルドーである。

「ヒソカが手放す気はないようだからな、今はこのままに置いておくしかないだろう」

「欲しいモノは奪てでも手に入れるのがモトー……。団長はヒソカに甘いね」

「そうだぜ団長。わざわざこうして目の前にあるのによ」

 クロロに不満を告げるのはフェイタンとウボォーギンだ。

「確かにそうだが、団員であるヒソカから今無理矢理奪ったところで何になる? 一先ず今こうして蜘蛛の手にあるんだ、焦る問題にはならない。それに、貴重な魅夢の一族の女をそう簡単に競売に賭ける訳にはいかないだろ。死体でさえ高値が付くんだ」

「……団長」

 『死体』に反応したのは、この中で一番背が低く、全身を覆う程の長い毛が特徴の団員No.12、コルトピ=トノフメイルだった。

「ボクの念能力を使えば、そのコの死体は可能だよ」

「おー、その手がありゃ何度でも稼げるじゃねーか!」

「だけどノブナガ、貴重な一体を何度も売りに出してたら貴重じゃなくるだろーが」

「そうだよ、ネットにすぐ出回っちゃうし」

 フランクリンとシャルナークにそう言われ、ノブナガは『んなもんわかりゃーしねえって!』と返した。

 団員達がああだこうだとアリシアについて話す中、マチは呆れながらふとアリシアに視線を向けた。

 話の当事者であり、自分の素性を少なからず知る事になったのだ。さぞかし今は恐怖心や不安感でいっぱいなんでしょうねと、マチは思っていたのである。けれど、アリシアの表情からは恐怖心など表れてはいなかった。

 何も聞いていないのか、否──、耳に入っていない。虚ろに地面へと目を伏せるだけで、ぼうっと突っ立っているだけなのだ。

「団長、偽物(フェイク)の死体だけなら……ボクはかまわないよ♠︎」

 ヒソカがクロロを見つめて笑いかけた。

「何がかまわねぇだよ。てめえがそんなこと言える立場かっての」

「しつこいなあ……♣︎ さっきから言ってるだろ? 彼女はボクの玩具だって♠︎」

 そう返してきたヒソカに、フィンクスは苛立ちながら軽く舌打ちをした。

「ちょっと! いつまでも話が進まないと埒があかないわ。ここはいつもので任せましょうよ」

 痺れを切らしたパクノダが提案するのはコイントスだ。団員内で起きた揉め事など、意見が分かれた時に解決する為の旅団ルールである。

「この件を団長に全部委ねるか、ヒソカに任せるかにしましょう」

「じゃあ誰が投げる?」

「私がやるわ」

 そう言ってパクノダはコインを手に取り、上へと投げて落ちてきたコインを手の平で素早く隠した。

 クロロが表と言えば、必然的に裏はヒソカである。そしてパクノダは、ゆっくりと隠したコインを団員らに見せた。

「……この件は、団長に委ねましょう」

 結果は表。旅団内のルールに従って団員達は皆、クロロの言葉を待った。

「その娘の今後は保留。取り敢えずはヒソカに任せよう。今はそれよりも、みんなに集まってもらった目的を話す」

 クロロの言葉にヒソカ以外、特にフェイタンやフィンクス、ノブナガは不満大有りだった。だがそこはぐっと抑えるしかない。ヨークシンに集まった本来の目的を忘れては元も子もないのだ。

 早速話が進められようとこの場の空気が切り替わった時、アリシアは強烈な目眩に襲われていた。

 普通ならば自分自身の存在を疑問に思い、ヒソカの玩具発見や今の状況に怯えたり混乱したりする状況なのではあるが、今はそれどころではない。立っているのがやっとなのだ。

 そんなアリシアに気付いたのは、マチ以外にパクノダだった。

 恐くないのかしらと、視線をクロロからアリシア向けた瞬間。──倒れる。パクノダが言うより先、アリシアがそのままバタリと地面に倒れ込んだ。

「オイ、倒れたぞ」

 フランクリンの言葉に、皆がアリシアへと再度注目した。

「──限界だったかなぁ♠︎」

 ヒソカは何も驚きはせず、倒れているアリシアを抱き起こした。

「何がだ?」

 クロロが問うと、ヒソカは薄笑いを浮かべて『睡眠を取っていなかったからね♦︎』とクロロを見つめ返した。

「……さあ、話を進めてよ、団長♥」

 

 

 

 

 







虹作品は書きながら脳内で再生するのが癖になってるんですが、旧、新と脳内再生してて楽しく書けました。
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