魅夢の一族   作:あまてら

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熱い眼差しのリユウ

 

 

 

 マフィア側が用意した対旅団相手の二千人近い武装構成員は、ほぼ壊滅状態だった。

 そんな中、十老頭の依頼を受けた伝説の暗殺一家、ゾルディック家のシルバとゼノは、混乱たるマフィア幹部達をセメタリービル内の大広間に留めさせた後、既に侵入していたクロロと対峙していた。

 二対一、クロロ自身には不利な状況下だ。しかし当の本人には、幾らかの余裕さえあった。

「ワシが奴の動きを止めたら、ワシもろともで構わん――()れ」

 交戦が続く中、ゼノがシルバに言った。

 クロロがオーラを放てば、ゼノは自身の手にオーラを集中させる。

 

 "盗賊の極意(スキルハンター)

 

 クロロの右手に、『極』の文字上に手形がついた本が現れた。そしてその本を開けば、左手にはマントが出現した。

 シルバが過去にクロロと関わりがあったらしく、クロロが他人の能力を盗むという事を知っていた為、それが盗んだ能力の一つであろうと、ゼノは推測した。

 その性質がわからない以上、迂闊に攻撃が出来ず厄介である。だが、それは普通の使い手が思う事であって、ゼノには関係ない。

 "龍頭戯画(ドラゴンヘッド)

 

 ゼノはオーラを龍の形に錬成すると、その形のオーラを操ってクロロに襲いかからせた。

 

 "牙突(ドラゴンランス)

 

 本を持つ手をそのままにして避けるクロロであるが、その度に少しずつ傷を負っている。

 ──そうか。

 ゼノはクロロの能力を見極めていた。

 クロロ自身の能力は、具現化した本に他人の能力を封じ込め、更に自在に引き出して使用出来る。しかしその代償として、引き出した能力を使う際に、常にその本を手にしていなければならない。

 先程クロロが出したマントも、盗んだ具現化系の能力であった。

 クロロは間合いを詰め、対象物(ゼノ)に接近し、その技で生け捕りにしようとしていたのだ。

 だがゼノはそれに気付き、クロロに近付こうとはしない。

 離れて攻撃をしかけるゼノも、隙を見てクロロを捕らえようとしていた。

 生け捕りは無理か。クロロはゼノを捕らえるのを諦め、右手で開いていた本を閉じた。

 本を閉じる事により、左手に出していた能力は必然的に解除されてしまうが、今は致し方なかった。離れて様子を伺っているシルバへの警戒をも、クロロは怠りはしない。

 あの時より、体術は更に向上している。過去にクロロと対峙した時の事を、シルバは思い出していた。

 クロロの秘めた能力が未知数である以上、命を賭して動きを止めない限り、確実には仕留められない。シルバが増幅させたオーラを放つと、一瞬、クロロの意識がゼノからシルバへと取られた。

 その一瞬を、ゼノは決して見逃しはしない。技を放てば、クロロは隙を突かれて体勢を崩してしまった。

 ゼノはそこへ突撃し、クロロの両脚を掴んで激しく攻撃を続けながら、壁へと追い込んでいった。

「今じゃ!! 殺れ!!」

 その頃、大広間に留まっていたマフィアの幹部らは、下から起きた突然の爆発と揺れに酷く驚いていた。

「一体何が起きてやがるんだ!?」

「相当デケェ爆発だぞ!!」

「もう我慢出来ねぇ!」

 これ以上この場に留まり続けるのは我慢の限界だったのか、幹部らは大勢で現場に向かおうと動き出した。

「皆さん落ち着いて下さい!!」

 そんな混乱の中、十老頭との連絡が、やっと取れたとの知らせが入った。

 中継の為、十老頭と直接話が出来るという事で、全員オークション会場へと急ぐ。静かに騒つく会場内では皆、緊張の面持ちで十老頭との中継を待っている。

 会場に設置された巨大モニター画面には、砂嵐の映像から徐々にはっきりと、十老頭の1人の姿が映し出された。

『大分ゴタゴタしちまったが、もう大丈夫だ。――旅団(ヤツら)の頭は始末した』

 会場のマフィア幹部らは、その言葉にどよめきと歓喜の声を上げた。残りの団員を殺るのも時間の問題。狩りはプロに任せて競売を楽しむよう、十老頭は言う。

 モニターに映し出される十老頭全員の姿を見た会場のマフィア幹部らは、その言葉を完全に信じて安堵の表情を浮かべていた。

 だが、幹部らは知らない。

 十老頭の先程の言葉が全て、誰かによって操られたモノであった事を──。

 ピピピと、電子音が鳴り響いた。

 シルバの持っていた、ゾルディック家専用無線機が鳴っていたのだ。

 これが鳴るのは……、"暗殺完了の証"である。

「イルミか」

 シルバがそれに出ると、抑揚のない声が、『オレの依頼人は?』と訊ねた。

 彼もまたゾルディック家であり、ゼノの孫で、シルバの息子でもある。

「ここにいる」

 シルバの目の先には、爆発の衝撃によって大きく崩れた瓦礫の山があった。

 その一部がゴトリと動き、瓦礫の下からボロボロになったゼノとクロロが出てきた。

『あ、今戦ってたんだ? まだ彼生きてる? じゃあさ、伝えといてよ』

 イルミの言う『彼』とは、クロロの事だった。クロロも、ゾルディック家のイルミと依頼を交わしていたのである。

『"十老頭は始末した。約束の講座に入金、よろしく"って』

 イルミとの無線を切り終わると、ゼノとシルバはそこから去ろうとしていた。

 クロロは敢えて『殺らなくていいの?』と、ゼノに問うた。

「ワシらの依頼人は十老頭。その依頼人が死んでしまった以上、おぬしはもうターゲットではないのでな」

 ゾルディック家は快楽殺人者ではない。決して好きでやっているわけではなく、タダ働きもタダ死にも真っ平御免であるのだ。

「1つ訊いて良いかい?」

 一対一(サシ)で闘えば、どちらが勝つかというクロロの質問に対し、ゼノは『十中八九ワシじゃろ』と気怠そうに答えた。

「おぬしが本気でワシを殺ろうと思えば、話は別だが」

 最後に『全くなめたガキじゃ』と言い残し、ゼノとシルバは踵を返して去って行った。

 あれは盗めねぇわ。その場にひとり残ったクロロは、仰向けに倒れて息を吐いた。

 

〔お待たせしました皆様! ではこれより、オークションを開始いたします!!〕

 オークションは予定通り行われた。

 しかしそのオークションは、既に幻影旅団の手の内にあった。

 オークショニアはシャルナークの能力で操られ、宝はコルトピの能力によりコピーされると、偽物が本物として出品されていた。

 一方で情報を頼りに向かったマフィアらは、旅団の頭の死体の他に、四名の残党の死体を発見した。

 だが、それらの遺体は全て、コルトピの能力による偽物(フェイク)だった。

 地上で起きていた争い事など嘘であったかのように、オークションは大変に盛り上がっている。 

 次々とお宝は落札され、そしてラストの品が競りにかけられようとしていた。

〔世界七大美色の一つ、『緋の眼』でごザいまス!!〕

 絶滅したとされる、クルタ族固有の体質である『緋の眼』。

 興奮状態になると緋色になり、その状態時で死ぬと、褪せない緋色のまま残る。

 その色は世界七大美色の一つと評され、闇市場で高額に取引されているのである。

〔クルタ族が滅亡した今、現存すルのは僅か36対! こちラは、その中デも強い緋の発色を残す絶品!!〕

 会場は『緋の眼』に大いに沸くと、1億ジェニーからのスタートで競りが始まった。そして次々に競られ、3億1000まで上がった時である。

「3億5000!!」

 一人の人物が声を張った。

 どこかの蒼い民族衣装のような格好をして、一見、男にも女にも見える風貌であった。

「3億5150!」

「3億7500!」

 周りもそれにつられてか、緋の眼の額は徐々に値上がっていく。

「6億!!」

 先ほどの人物が、また声を張った。

「10億!!」

 このまま落札かと思われた時、小太りのスキンヘッドの男が、倍の値を競り上げてきた。

 何やら顔見知りらしい二人は互いに睨み合うと、周りが競りから降りてもなお、競うように値を上げていった。

 ──結果、スキンヘッドの男が負け、民族衣装を着たもう1人が『緋の眼』を35億で落札した。

 こうして、コピーされた全ての品が落札され、旅団(クモ)は本物の競売品を奪う事に成功したのであった。

 

 

 

 仮宿で留守番をしていた不機嫌なノブナガと、本をひたすら読んでいたアリシアのもとに、クロロを含めた団員達が戻って来た。

「おかえりなさい」

「ただいま♦︎ いい子にしてたかい?」

「ええ。ねえ、楽しかった?」

 団員達が外へ出た目的など、詳しくは知らないアリシアの『楽しかった?』の意味は、マチと2人で出かけた事に対してだ。

「まあまあだった、かなぁ♠︎」

 ヒソカはなんとなくその意味を感じ取りながらも、街で暴れてきた感想をアリシアに答えていた。

「先ずはお疲れ様って事でさ、乾杯しようよ」

 どこぞから手に入れてきた酒缶を、シャルナークが皆に配り始める。

「はい、ヒソカ」

「2本あるけど?」

アリシア(彼女)の分もだよ」

 シャルナークはアリシアを指して言った。

「どうせなら全員で乾杯した方が良いしね」

「そうだね♠︎」

 シャルナークが奥側に座る団員のもとへと移動すると、ヒソカは隣に座っていたアリシアへ酒缶を手渡した。

「これは何?」

「今からこれで、みんなと乾杯するんだよ♣︎」

「カンパイ? それって、何かお祝いするの?」

「そうだよ♠︎ 欲しかった宝が手に入ったからね♠︎」

「そのお祝いなのね?」

 アリシアは愉しそうにして、両手で酒缶を持った。

 「乾杯」の声に合わせて酒缶のプルタブを開け、皆が一気に酒を飲む姿を、アリシアは同じように真似しようとした。

「おっと、キミは一気にイかない方がイイよ♦︎」

 アリシアが飲もうとするすんでのところを、ヒソカは止めた。

「一気に飲まなければ良いのね?」

「うん♠︎」

 一口だけ口に含んで飲んだ瞬間、アリシアはとても複雑な表情をした。

「美味しくないわ……」

「だろうね♦︎」

 皆が美味しそうに飲んでいるので、てっきり美味しいのだと期待していたアリシアは、がっかりと肩を落とした。

 旅団の死体は、未だ偽物だとは知られていなかった。

 解剖された死体の映像や画像等が、見せしめとしてネット上で出回る中、マフィアらは死体からの情報を得る為に探っていた。

「どーなってんだオイ?」

 その手のプロに任せたものの、半日以上経ってもまだ報告が無い事に、マフィアの構成員は痺れを切らしていた。

「いないんだよ」

 マフィアに頼まれて調査していた男は、溜め息交じりに言った。

 過去60年間に渡り、ありとあらゆるデータで世界中を調べたが、旅団の頭を含んだ5名は存在しなかった。自らのデータを消すなど、高過ぎるリスクを考えれば無理な話だった。

 個人情報を管理する(コンピューター)は3つ子システムといって、外部から干渉されない二つの脳みそが、24時間もう一つの外部用脳を、欠損が無いようにチェックしている。

 仮に侵入成功したとして、データを抹消、あるいは書き換えたとしても、0.1秒後には修復されてしまうのだ。

「つまり?」

 構成員の一人は、男の話をあまり理解出来なかったらしい。

「何度も言っているだろ。こいつらは存在しない」

「ふざけんな! 現に死体があるじゃねーか!」

 やけに偉そうな男の態度に、構成員は半ば苛立ちながら返した。

「社会的には、だよ」

 だが、男の態度に変わりはない。

「蒸発や死んだふりは今でも容易に出来るけど、一度社会に存在した事を、全ての情報から消し去るのは、今はまずムリ。なら────」

 男が出した結論は一つ。

 流星街。

 ラペ共和国と同じ位の土地面積に、現在800万の人間が、根拠もなく住んでいると言われている。

 流星街にはゴミや武器、死体や赤ん坊、この世の何を捨てても許されていた。

 住人は、その全てを受け入れているのだ。

「公式には無人って事になってる。1500年以上前から、廃棄物の処理場としてね」

 中で人々がどう暮らし、何を信じ教わっているのか、誰にもわからない。

 最近彼等が、こちら側に唯一残したメッセージがあった。

『我々は、何ものも拒まない。だから、我々から、何も奪うな』

 10年程前にある国で、身分証を持たない浮浪者が殺人容疑で捕まった。

 その浮浪者は国籍を始めとする、社会的存在証明を全く持たない者であり、後に本人の口から、流星街の住人であると判明した。

 その国の警察は、否認する男を強引に起訴し、裁判所は、ろくに弁護の余地さえ与えずに有罪を言い渡した。

 三年後。麻薬中毒の通り魔が逮捕され、余罪が次々と明らかとなり、浮浪者の冤罪が証明された。

 その直後だった。警官に裁判官、検事に目撃証人、陪審員に弁護士ら、冤罪に関わった31名が何者かに殺されたのである。

 

『我々は、何ものも拒まない。だから、我々から、何も奪うな』

 

 細切れの死体脇に残されたメッセージだ。

「旅団が流星街出身だとすると、相手が悪過ぎる」

「そんな台詞は、むしろオレ達が言われる立場なんじゃねーのか!?」

「その時の奴等の殺しの手口だけど──」

 怒るもう一人の構成員に、『自爆だよ』と男が告げた時、その構成員は言葉も出なかった。

 目撃者によれば、笑顔で標的に握手を求め、その直後に爆発。其々違う場所にいた31人が、同時に吹っ飛ばされたという。

「仲間一人が3年間不当に拘束され、その報復の為に、31人が平気で命を投げ出し、31人の命を奪う」

 彼等は、いざとなれば足し算も引き算もしない。彼等の絆は、他人より細く、家族より強いのだ。

「相手が悪い。十老頭も、そう言うね」

 男の言葉に対し何も言えなかった構成員二人は、直ぐに組の上層部に結果報告を出した。

 コミュニティーはそれを受け、旅団の残党狩りを断念。かけられていた懸賞金も、白紙となった。

 

 

 

「此処で良いんじゃない?」

「そうね」

 アリシアはマチとパクノダに連れられて、とある安ホテルの一室にいた。

 何故そのような場所にいるのか。それは、旅団が競売品を奪う事に成功した後の事である。

 廃墟のあの暗い倉庫にて、アリシアが地面にいる蟻を眺めていた時だった。

「ねえ」

 突然声をかけられて、反射的にその方へと顔を上げると、アリシアを見下ろすようにパクノダが立っていた。

「早く立って」

「え?」

 一体何だろうと、アリシアは言われるままに立とうとした。すると──。

「ボクも混ざりたいんだけど?」

 アリシアの隣にいたヒソカが、二人の間に割るようにして入ってきた。

「無理ね。女だけで行くから」

「ズルいなぁ♦︎ ナニをするんだい?」

「別に何だって良いでしょ。女は色々と面倒があるの」

 パクノダは適当にヒソカをあしらうと、次は静かに読書を続けるクロロに顔を向けて声をかける。

「団長、そういう事だから少し出かけてくるわ」

「ああ」

 クロロが本から目を離さずに相槌を打てば、パクノダはマチからの視線を受けた。

「それじゃあ行ってくるわね」

 残念そうに『行ってらっしゃい♠︎』と言うヒソカに手を振り、アリシアはパクノダに付いて行く。挟むようにして後ろから来たのはマチで、どうやら三人だけで何処かへと向うらしい。

 もう一人眼鏡をかけた少女がいたが、その娘は一緒に付いては来なかった。

 こうして三人で行き着いた場所が、冒頭のホテルだ。そして話は最初に戻る。

「静かで良いわね」

 この安ホテルはアジトである廃墟からも割と近く、ヨークシンの華やかで派手な街から離れた、人目のつかない閑静な場所に建てられていた。

「シズクも無理矢理連れてくれば良かったかしら?」

「本人が断ったんだし。……まあ、忘れて後で文句言いそうだけど」

「フフ、そうね」

 パクノダとマチが窓から外の様子を眺めている間、手持ち無沙太な様子のアリシアは本を抱き締めたまま、シングルベッドの上に腰を下ろした。

 ──これからどうするのかしら?

 ヒソカ以外の人と行動したのは初めてで、少しの緊張と感動が入り混じった気分である。

「……さて」

 パクノダがこちらを振り向いた。

「アリシア……でいいわよね?」

「あなたは──」

「私はパクノダ」

 ベッドの上に座っているアリシアの隣に移動したパクノダは、さり気なくアリシアの肩に手を触れて問う。

「アナタ、どこの森からやって来たのか、本当に覚えてない?」

 その質問に対してアリシアは、母と暮らしてきた森、小さなレンガ造りの家での母との幸せな時間、独りになってからの過ごしてきた日々を思い出していた。

「……わたし、本当にあの森がどこにあったのかわからないの」

「そう……、残念ね」

 パクノダは特質系能力者である。

 一つに、記憶を読み取る能力を持ち、人や物に触れ、そこに宿る記憶を読み取ることが出来る。人に対してそれを行う場合は、軽く質問をすることで、その人物が反射的に連想した記憶を読み取れるのである。

 試しに情報を手に入れようとしたパクノダであったが、アリシアの記憶には母親との日々や、何処だかわからない森とレンガの家だけしか読み取れなかったのだ。

 例の森にアリシア以外にも魅夢の一族の生き残りがいるのではという期待も虚しく、これ以上は無駄かと、パクノダは軽く溜め息を漏らした。

「──ねえ、先にシャワーでも浴びてきたら? 一緒にマチも」

 ここに来た目的は、アリシアの住んでいた森の情報を手に入れる為だけではない。夏の茹だるような暑さを流したい。その為でもあったのだ。

 さて、唐突なパクノダにぎょっとしたマチは、アリシアを指差しながら不服を唱える。

「ちょっと、何であたしが一緒に入んなきゃなんないのよ」

「一緒に入った方が効率良いわよ、きっと」

「それならパクが入れば?」

「……私より歳も近いくらいのアンタ達のが、色々と良いでしょ」

「色々って……何?」

 二人が言い合いに発展しそうな空気を醸し出し始めたその時、シャワーと耳にしたアリシアは、今からお風呂に入るのかと理解して、二人に訊ねる。

「ねえ、みんなで一緒に入るのでしょう?」

 目が点になったパクノダとマチは、アリシアの発言に対して、『はあ?』と声を揃えた。

「だって、お風呂は一人で入るより楽しいって、ヒソカが言ってたわ」

 二人はアリシアを呆れるように凝視しつつ、こう思った。今までずっと、ヒソカと一緒に入っていたのかと。

「アンタまさか、それ真に受けて……」

「ちょっとマチ、それ以上は止めてよ。気分が下がるじゃない」

 そんな想像はしたくない。パクノダは、能力を使って余計な質問をしなくて良かったとさえ思った。二人の間に数秒の沈黙が流れた後、耐え切れなくなったマチは行動に移した。

「……ああっ、もう! 面倒だよ、さっさと入れば良いんだろ、さっさと!」

 腹立ち紛れにアリシアのマントを素早く剥がし、服も脱がそうとしたマチはふと、その手を止める。

 そんなマチを不思議に思ったパクノダが『どうしたの?』と声をかければ、『お願いがあるんだけど』マチは言った。

「……三人分の下着は?」

「ああ、そうよ。途中で用意するの忘れてたわね。分かった。適当にその辺から手に入れてくるから、先入っててよ」

 やれやれとパクノダが部屋を出るや否や、マチは無言で自分の服を床に脱ぎ捨てた。

 脱がされる途中だったアリシアもマチに合わせるように、慌てて自分で服を脱いでいく。

 脱ぎ終わったマチは、高く一つに結んでいた髪を下ろし、先に一人でバスルームへと向かった。その顔は、不機嫌極まりない程に。

 入って直ぐにシャワーの蛇口を捻り、お湯を出して頭からシャワーを浴びる。

「何であたしが一緒に入んなきゃいけないのよ……」

 その声は、シャワーの音に掻き消される事なく響く。すると、背後からバスルームのドアが遠慮気味に開かれた。

 アリシアが入って来る気配を感じたマチは、素早く振り向いて乱暴に腕を引っつかむと、そのままアリシアの頭にシャワーを浴びせた。腹いせである。

「ひゃっ……!」

 驚いたアリシアは抵抗する間も無くシャワーを浴びせられ続けていたが、流石に息が苦しい。

「ま、まっ……て!」

 逃れたくとも、マチに押さえられていては上手く逃れられない。アリシアは何とか頑張って、出て来るシャワーから顔を背ける。

「何? この狭いバスルームから早く出る為にわざわざ洗ってやってんだから、大人しくしな!」

「で、でも……! これじゃあ苦しいわ!」

 頭上一点に目掛けてシャワーを当てていた事に気付いたマチは、軽く舌打ちをしてから、掴んでいた腕を離した。解放されたアリシアはマチへと身体を向け、濡れて顔にへばり付いた髪を掻き上げる。

「……文句ある?」

 何も言わずに、じいっと見つめてくるアリシアをマチが睨めば、本人は少しだけ顔を赤らめて、もじもじとしながら口元を緩めていた。

「わたし、母様以外の女のヒトと一緒に入ったことがなくて……。それに、あなたと一緒だから、本当に嬉しくて」

「……はあ?」

 何が嬉しいのか全く理解出来やしないと、訝しくアリシアを横目で見たマチは、何故だか一瞬、どきりと心臓が波打った。

 全身シャワーでずぶ濡れとなったアリシアの姿が、女の自分ですら艶めかしく思えたのである。

 傷一つない白い絹肌に、パクノダやシズクの胸程ではないが、自分より大きくてツンと美しく上がった乳房。

 ネイビーブルーの髪は色濃く、星空のような瞳とほのかに紅い唇。アリシアの全てが眩く妖しく、それにプラスされた甘い香りは、心地良く鼻を擽った。

 ──女でも関係無いの?

 クロロから聞いた魅夢の一族という存在は、性別関係なく魅力するのだろうか。

 ──だとしたら、あたしでもコイツに魅了されるってわけ?

 本当に最悪だ。マチは自分の下唇を噛みながら、今度は顔面に向けてシャワーをかけてやった。

 適当に盗んだ中にあった、使い捨てのシャンプーを雑に泡立てると、その泡でアリシアの髪をこれまた雑に洗う。『痛い』と言う声を無視しながら、マチはアリシアの服に手をかけようとした時の事を頭に過ぎらせていた。

 何故途中で止めたのか。それは、ある事に気が付いたからだった。

 何とアリシアは、下着を一切身につけていなかったのだ。

 勿論考えなくても、ヒソカが着させてないという事は確実であろう。

 変態────。

 長い付き合いではないが、ヒソカが大体どんな奴かは、知りたくなくても分かっていた。

 何でもイケるらしいあの男は、嘘つきで薄っぺらい言葉を次から次へと並べ立てる、いけ好かない男だ。

 プライベートでは係わらないようにしているが、仕事となると話は別で、金の為に接しなくてはならない。

 それ故に色々絡まれる事も多々あって、マチとっては非常に鬱陶しい相手。

 そんなヒソカの言葉巧を真に受けて、素直に従っているアリシアには、女としての哀れみよりも怒りが勝る。

 ──この先、アンタがどうなろうと、どうされようと、あたしは興味ない。

「ま、マチ、目に泡が入ったわ!」

「黙ってな! 風呂はね、一人で入るもんなんだよ!」

 動き回ろうとするアリシアを押さえつけ、マチは再びシャワーを頭からぶっかけるのだった。

 その後。仮宿戻ったアリシア以外の二人が、ヒソカに対して軽蔑に近い、変態を見るような眼差しを向けたのは言うまでもない。

 

「ねぇアリシア♠︎ 戻って来てからさぁ、あの二人から物凄く熱い眼差しを受けているんだけれど♦︎ 何でか知らない?」

「いいえ。何も」

 

 

 

 

 




微妙な違いあります。
見逃しちゃいそうなレベルの。
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