クロロ達が仮宿に戻ってからも不機嫌だったノブナガは、日が昇り明るくなっても、未だ不機嫌のままだった。
「どーいうことだ? 引き上げるってのはよ」
ひとりクロロの前に立つノブナガが言った。
「言葉の通りだ。今夜ここを発つ」
仮宿で祝杯を上げてから暫く経った後、クロロは『ここを引き上げる』と皆に告げたのである。
「鎖野郎が残ってる」
ノブナガは納得しなかった。
「こだわるんだな」
「ああ、こだわるね。」
ウボォーギンの仇を討つまでは、鎖野郎を探し出して八つ裂きにするまでは引かない。ノブナガの決意は固かった。
「ノブナガ、いい加減にしねぇか。団長命令だぞ!」
黙って聞いていたフランクリンは、遂に口を出した。
「本当にそりゃあ、団長としての命令か? クロロよ」
ノブナガはフランクリンを無視し、クロロをじっと見据えている。クロロもそんなノブナガを見つめ返し、過去の記憶を思い起こしていた。
「ノブナガ──」
クロロは瞬きと共に右手にオーラを発し、本を出現させた。
「オレの質問に答えろ」
「はあ?」
唐突でよくわからぬままにクロロから質問を受けたノブナガは、生年月日と血液型、フルネームを答え、渡された紙にそれらを書いた。
クロロはその紙を見つめ、今度は左手に不気味なモノが薄っすらと憑いたペンを出すと、取り憑かれたように何かを紙に書き出していた。
大切な暦が一部欠けて
遺された月達は盛大に
加わり損ねた睦月は一人で
霜月の影を追い続ける
菊が葉もろとも
血塗られた緋の眼の地に臥す傍らで
それでも蜘蛛は止まらない
遺る手足が半分になろうとも
「詩の形を借りた、100%当たる予知能力を持った女から盗んだ。今回、オレ達がマフィアの競売を襲う事も、その女に予言されていた。十老頭にファンがいたらしい」
『女』とは、ノストラード
クロロは "
能力によって紙に書かれたのは、今月の週毎に起きる、ノブナガの運命の予言だった。
「どうなんだ、ノブナガ?」
自動書記の為、クロロには占いの内容がわからない。シャルナークは直接ノブナガに訊いた。
「来週、……おそらく五人死ぬ」
ノブナガは書かれた予言の紙をじっと見つめながら答えると、予言も自ら皆に伝えた。
「他の事は何だかさっぱりわからねェが、蜘蛛の手足ってのがオレ達団員の事だろうから、半分て事は、ウボォーの他五人て事だろう?」
「オレの占いにも同じように出ていた。多分、他の団員を占っても、同じような結果が出るだろう」
クロロが予言された自分の紙を順番に回し見させると、黙って聞いていたシズクが口を開く。
「ちょっとあたしを占ってみて下さい」
大切な暦が一部欠けて
遺された月達は盛大に葬うだろう
あなたは仲間と墓標に血をそえる
霜月が寂しくないようにと
黒い商品ばかりの
あなたは永い眠りを強いられる
何よりも孤独を恐れなさい
二人きり程怖いものないのだから
「来週死ぬの、あたしだ」
そう言うも、表情に変化は無い。シズクの占いには2周目までしかなかった。
「後ね、パクノダとシャルナークも死ぬよ」
ノブナガが『何でわかる?』と問えば、暦の月が団員の番号を表してるみたいだとシズクは答えた。
霜月は11月。ウボォーギンの団員番号である。菊が菊月で9月、葉が葉月で8月。涸れるが水無月で6月をそれぞれ暗示しており、涸れ落ちるが枯れ落ちると掛かり、まるで死を示していた。
「緋の眼はオレ達の誰か、じゃない」
「十中八九、鎖野郎の事だろう」
フィンクスの後にクロロが言う。
「緋の眼……、思い出した。目が赤くなる連中ね」
「あの時の生き残りがいたという事か」
「そいつも死ぬって?」
パクノダとフェイタンの後にボノレノフが続けると、フィンクスは横に寝転んで肘をついたままの体勢で、『わからんぜ、血だらけで地に臥してるってだけじゃあ』と鼻で笑いながら言った。
「これでわかっただろ? ノブナガ。このまま鎖野郎と闘り合うと被害が大きい、戦力半減だよ?」
「だけどよぉ……」
「オレやノブナガの能力はいくらでも代わりが利くけど、シズクとパクノダはレアなんだ。旅団として失うわけにはいかない」
シャルナークの言う事は勿論わかっていた。だがノブナガは、どうしても鎖使いを諦めたくなかった。
「今日が9月の第一周目の土曜日。今日中に
悪い予言を回避するチャンスが与えられている所が、この予知能力の最大の利点である。クロロ達がこの地を離れて、鎖野郎と戦いさえしなければ、逆に100%この予言は成就しない。
「ノブナガ」
クロロは更に続けた。
「お前やウボォーは特攻だ。死ぬのも仕事の一つに含まれる。お前らすすんで捨て石になる事を選んだんじゃなかったか」
──そうだ。ノブナガの視線は、クロロから地面へと移っていた。
「シズク、パク、シャルは主に情報処理部隊。オレ達全身の行動を補佐する生命線だ。こいつらの盾になって守るのが、お前の役目じゃないのか、違うか? 旅団の立場を忘れて駄々をこねてんのは、オレとお前どっちだ? 何か言う事はあるか?」
諭すクロロにこれ以上何も返せないノブナガは、半ば諦めたような声で『ねェよ』と答えるしかなかった。
外は雨が降り出し、近くで雷の轟音が響いていた。
本を読んでいたアリシアは、クロロやノブナガの話を途切れ途切れでしか聞いておらず、内容にはあまり興味を示さなかった。
それよりも外の雷に気を取られ、大きな雷が鳴る度に、びくりと身体を震わせていた。
そんなアリシアの斜め後ろに座るヒソカは、携帯電話をいじりながら誰かに向けてメールを送っていた。
──送信、と♥
送り終わったヒソカの口角はニタリとつり上がり、視線をクロロへと向ける。
これから残りのメンバーも占うと言って、クロロは団員達に紙を回し配った。
「そこにはシズクのように、危険回避の助言が出ているかもしれない」
それぞれに名前と生年月日、血液型を書かせた。しかし、それらがどうしても不明な者は仕方なく省かれた。最後に自分も占ってくれるのだろうかと、雷から占いに興味を惹かれたアリシアも同じく、生年月日や血液型が不明の為に諦めるしかなかった。
赤目の客が貴方の店を訪れる
半身は天使で半身は死神
月達の秘密を売るといいだろう
霜月のそれが特に喜ばれるはずだ
熱い日に件の客の仲介で
逆十字の男と2人きりになれるだろう
偽りの卯月は暦からはがされる
これで残りは6枚となる
片眼の熊の手招きで
大事な箱から夜空の星が飛び出すだろう
誘いの糸を切ってはいけない
伝えば逢瀬が叶うから
回ってきた順番で占いの結果を見ていたヒソカのもとに、パクノダがやって来た。
「どんな占いが出たの? 見せて」
パクノダの声で、皆が一斉にヒソカへと注目する。
「やめた方がいい♣︎ 見たら驚くよ?」
「いいから」
ヒソカは『ハイハイ♦︎』と、あっさり結果の紙をパクノダに差し出した。
パクノダがそれを読む間、ヒソカはトランプを切って一枚だけを選んで目にする。──鎌を持った骸骨のジョーカーだった。
「ねえ! ちょっとみんなも見て」
内容に驚いたパクノダがフランクリンにそれを渡すと、周囲にいた団員らが集まって来た。
赤目の客が貴方の店を訪れて
貴方に物々交換を持ちかける
客は掟の剣を貴方に差し出して
月達の秘密を攫って行くだろう
11本足の蜘蛛が
さらに5本の足を失うだろう
仮宿から出てはいけない
貴方もその足の1本なのだから
パクノダや他の団員が見ている結果は、先程とは違うものになっていた。それは皆が気付かぬ間に、ヒソカが瞬時に自身の能力である、
「見せろ!」
ノブナガは読んでいたシャルナークから無理矢理奪うと、変えられたとも知らない結果を目にした。
「ヒソカ……」
ピリリとした不穏な空気を醸し出し、ノブナガは高い場所に座るヒソカを睨み上げる。
ヒソカの近くにいたアリシアは、流石にこの状況には雷よりも気になって、ノブナガとヒソカを交互に見ていた。
「てめェが売ったのか? ウボォーを」
腰に差していた刀の鞘を、ノブナガは抜いた。
「イエスと取るぜ!!」
何も答えずに再度トランプを一枚だけ引くヒソカに対し、ノブナガは動こうとした──が、それは前に出たフランクリンとシャルナークによって止められた。
「どけ!」
「まあ待てよ。話を訊いてからだ」
「話? 何もねェな。コイツがウボォーを赤目の客に売ったって、はっきり出てるじゃねーか!」
「落ち着きなよ。これは予言だから、行動によっては回避出来るって団長が言ってたろ」
「ヒソカ、今週何があったか説明しろ」
フランクリンが代わりに問いかけると、ヒソカは『言えない♠︎』と答えた。
「だが……、そこにある一つ目の詩の内容は、事実だったと言っておこう♦︎」
「聞いたろ、どけ!!」
「まあ、待てって」
「何故言えない?」
今度はシャルナークが問う。
しかし、それでもヒソカは答えない。
「言わないんじゃなく、言えない♠︎ ボクがギリギリ言えるのはそこまでだ♣︎ それで納得出来ないなら──」
ヒソカはその場でゆっくりと立ち上がった。
「──ボクもボクを守る為、戦わざるを得ないなぁ……♦︎」
ノブナガとヒソカ、2人の間に流れるのは、異様な緊迫感だった。
「……チッ、止めとくぜ。てめェは戦り辛ェからな────」
軽く溜息を吐いたノブナガは、鞘に刀を戻した。
「──っなわけねェだろボケェェ!!」
ノブナガは皆の不意を突き、ヒソカに襲いかかろうと動いたのである。
──危ない!
アリシアは迫ってくるノブナガに対して強い殺気を感じ、驚きのあまり
だが次の瞬間。ヒソカの前に来る筈であったノブナガが、全く別の方へと移動していたのだ。
「ノブナガ、少し黙れ」
黙って聞いていたクロロが静かに口を開く。
ノブナガを瞬時に移動させたのは、クロロの能力であった。
その能力を皆が初めて知り、一体どんな能力で、どう使ったのかさえわからなかった。
「ヒソカ。いくつか質問する。答えられないものは『言えない』で良い」
クロロはヒソカに質問を投げた。
「攫われた秘密というのは、何の事だ?」
「団員の能力♦︎」
「それは何人だ?」
「七人……いや、八人か♣︎ 団長にウボォーギン、シズク、マチ、フランクリンとパクノダ、シャルナークにボクで八人だ♣︎」
次にクロロは相手の能力、形貌、ヒソカと相手との関係を訊いたが、どれも『言えない♠︎』の一点張り。
「赤目の客……鎖野郎は、最低でも二つの能力を有する敵だ。一つはウボォーを捕らえた時の能力、もう一つはヒソカの言動を縛っている能力」
後者の能力が【掟の剣】という表現から察すれば、相手に何らかのルールを強いるものである。
鎖使いがヒソカに与えた"
「ここからは更に想像に依るが、ヒソカの体内には敵が仕掛けた何か、が埋まっている」
【物々交換】で【差し出す】とあるにもかかわらず、【攫う】のでは前後の文意が食い違ってくる。
【掟の剣】がヒソカを攻撃するという予言を暗示させる為、差し出すと刺し出すを掛けたものであると、クロロは思った。
「その剣でヒソカの言動を規制している。具現化系か操作系かは断定できないが、何か、かなり強制力の大きな能力とみている」
ちょっと整理してみよう。シャルナークが言った。
「鎖の使い手となると、操作系なら実物の鎖を使い、ウボォーを倒した。具現化なら念で作った鎖を使ってウボォーを倒した」
「それって何か違いあるの?」
シズクの質問に、シャルナークは『大アリさ』と答えた。具現化なら、手ぶらを装う事が出来るからだ。
操作系は人や物体を媒介しなければ力を発揮出来ないので、常に武器は手放せない。特に物体操作の場合、使い込んだモノでないと威力、制度が上昇しない事が多い。
「……つまり、愛用品を失くしたら致命的って、リスクがある」
「そっか、具現化はイメージ修行が大変だけど、一度具現化出来ちゃえば出し入れ自由だもんね」
「しかし、具現化した鎖で本当にウボォーの馬鹿力を押さえ込めるもんなのか?」
次はフィンクスが質問した。
「可能だよ。捕らえた瞬間に、相手を麻痺させたり眠らせたり出来る鎖を具現化すれば良い。ちょっと難しい制約を付ければ出来る筈」
それより問題は、ヒソカを縛っている力だ。
「……掟の剣って言うんだから、何かを守らせるんだろ?」
「そう、それが団長の挙げた2つの命令である可能性は高い。後は、鎖野郎への『攻撃不可』とかあるかもね。確認は出来ないけど、多分、約束を破ったら死ぬって事だと思うよ」
鎖使いについての話がまとめられようとしている中で、ヒソカだけは心の中でほくそ笑んでいた。それは、ヒソカの体内に掟の剣など刺さっていないからだ。
しかも、皆が見たヒソカの予言が、ヒソカの能力で上貼りされた創作であると、クロロでさえ気付いてはいない。唯一真実なのは、団員の能力を鎖使いに話したという一点だけ。
しかも八人ではなく二人、ウボォーギンとシズクの能力のみ。ヒソカは団員個々の能力全てを知っているわけではない。
パクノダの場合は対象に触れ、そこに残る記憶を探る特質系であるという事だけしか知らない。
他の団員達も、同じようにそれぞれ切り札を隠し持っている。実践経験の中で自分自身の情報が漏れる事は、即、"死"に繋がるという事を知っているからだ。
ヒソカも例外に非ず。
だがマチは、ヒソカの能力を真に理解出来てはいない。
体を保護や装飾するものだとしか解釈していないが、実際ヒソカの能力で平面上に再現出来る質感は、軽く千を超える。
ヒソカは賭けをした。旅団全員を敵に回し、命さえ落としかねなかった危険な賭けを。
全ては
「ボクは此処に残るよ♥ 死ぬ前にやりたい事があるんでね♥ 仮宿は離れない♦︎」
「……団長」
ヒソカが告げた後、シャルナークがクロロに『退くか残るか』を問うた。
「──残ろう」
クロロは少しの間を置いて答えた。
黒い商品ばかりの収納場で
貴方は永い眠りを強いられる
何よりも孤独を恐れなさい
2人きり程怖いものはないのだから
暗くてわずかに明るい日
貴方は狭い個室で二択を迫られる
誇りか裏切りかしか答えはないだろう
死神が貴方の側に佇む限り
電話を掛けてはいけない
一番大事な時につながらないから
電話に出るのもすすめない
3回に一度は死神につながるから
11本足の蜘蛛が懐郷病に
さらに5本の足を失うだろう
仮宿から出てはいけない
貴方もその足の1本なのだから
順番にシズク、パクノダ、シャルナーク、ヒソカ。死の予言が出た者達だ。
「それじゃあ班を決める。 来週はこの班を基本に動き、単独行動は絶対に避ける事」
先ず、シズクにパクノダとマチ。データ不足のコルトピとフィンクスにフェイタン。ノブナガとシャルナークにクロロ。そしてボノレノフとフランクリン、ヒソカは待機という班で決まった。
アリシアは勿論、仮宿でおとなしく待機である。
「団長、一つ良い?」
思い出したかのようにマチが言った。
「子供がさぁ、此処の場所知ってんだけど。まあ、鎖野郎とは関係ないみたいなんだけど。やっぱりどうも気になるのよね」
「子供?」
マチが言っていた子供というのは、ゴンとキルアの事である。
「あ! そうだ忘れてた、団長!!」
ノブナガも二人を思い出したらしく、声を上げて若干興奮気味に話に入って来た。
「そいつの入団を推薦するぜ!」
「ちょっと! こっちはそんなつもりで話をしてんじゃないよ!」
マチとノブナガは、クロロにゴンとキルアの話を、粗方説明した。
「なる程、確かに面白そうな奴ではある。……だが、話を聞く限りそいつは旅団には入らないだろう」
「説得するさ!」
ノブナガは特にゴンを気に入ったらしく、『なんとしても連れて来るから、兎に角見てくれ』とクロロに頼んだ。
「……うむ」
「団長!」
「──で、マチ。お前が気になる事とは?」
「あ、え──と、何となく……な、だけなんだけど」
「勘か?」
マチの勘はよく当たり、とても頼りになるものだった。
「その子供、もしかしたら何か重大な繋がりがあるかもしれないな」
用心の為にアジトのダミーを増やしておくべきかと、クロロはコルトピに棟を増やさせた。
コルトピのコピーする能力は"円"の役割も果たし、
「全員で最終的な確認をしておこう」
クロロは、先ずシャルナークの名を呼んだ。
「ウボォーから聞いた鎖野郎の情報ってのは、前に話した分だけなんだな?」
シャルナークは頷くと、ウボォーギンと一緒にハンターサイトでノストラード
「その時ウボォーが『こいつらだ!』と言ったのが、この写真の中の上段3人」
シャルナークは自分で用意していた構成員の顔写真リストの三人を指差した。
「ウボォーは奴等の宿泊場所がわかった時点で行っちゃったけど、オレはその後も少し調べてみて、こいつらが娘のボディーガードだって事がわかったんだ」
「それが一日の深夜だな。オレも昨日、そのサイトを調べてみた」
クロロはノストラード組のボスの娘の写真を、順番に回して見せた。
「そしてこっちが、オレが調べた時のボディーガードの顔写真リスト。更に二人加わっている」
「もう新しい情報に変わってたの?」
新たな顔写真リストにシャルナークは勿論、フィンクスとフランクリンも食い入るように見つめた。
「これを調べてから一日近く経っている。シャル、後でもう一度このサイトを確認してみてくれ」
「了解」
「ボディーガード、七人もしくはそれ以上……か。娘っ子一人に大層なこったな」
「親バカなんだろ」
新しい顔写真リストを見ながら、フランクリンとフィンクスが言った。
「娘自身より、その能力の方が大事らしい」
クロロの情報によれば、父親は娘の占いで現在の地位を築き、それを面白く思ってない連中も多かったという。
「でもなんでこのコ、ヨークシンに来たのかな?」
回って来た娘の写真を見つめたシズクに、パクノダは『そりゃあ、オークションなんじゃない?』と返した。
──そうか。
二人の言葉に、クロロは直感した。
「シズク、パクノダ」
「はい?」
「ナイスだ」
唐突過ぎて意味がわからないと言った顔を、パクノダとシズクは向け、クロロは独り言のように何かを呟いている。
「──何故、ボスの娘はヨークシンに来たか? そこにオレが気付いていれば、もっと早く鎖野郎に辿り着いていた……!」
ボスの娘がボディーガード付きでヨークシンに来た目的、それはオークションである。
だが、占いの能力ばかりに気を取られて重要視してはいなかったが、クロロが見たサイトの情報では、娘には人体収集家という、もう一つの顔があった。
「人体……! 緋の眼か!」
鎖使いがノストラード組に入ったのは、偶然なのではない。
今回の地下競売に緋の眼が出品される事と、それをノストラードの娘が狙っているという事を予め突き止めていたとすれば、鎖使いの目的は二つ。
「オレ達への復讐と、仲間の眼の奪還」
クロロはシャルナークに、競売品の中に緋の眼があったかどうかを訊いた。
「ごめんわかんない。競売の最中は、進行役を自動操作してたから」
すると後ろにいたコルトピが、『あったよ。確か、コピーした』と言った。
「お前のコピー、"円"の効果があると言ったな。緋の眼のコピーが今どこにあるのかわかるか?」
「本物を触れば、ね」
奪った宝の中を探し、漸くシズクが緋の眼を発見した。
「同じ形のものは、あっちの方角……。だいたい、5500m」
能力を使ってコピーの場所を特定したコルトピが、ある方向を指差した。
「急いだ方が良いよ。コピーしたの昨日の夜だから、後数時間で消えちゃうから」
クロロはフィンクスから地図を受け取り、コルトピのコピーの場所を割り出していた。仮宿から約5500。そこは、ホテルベーチタクル。
「団長、オレに行かせてくれ」
今のノブナガの表情からは先程までの、ただ怒りに任せて必死だった時の様子は無い。クロロはノブナガを見据え、それを承諾した。
「その代わり、オレと一緒だ。単独行動は許さない」
「了解!!」
「パク、マチ、シズク。お前達も一緒に来い。メンバー交代。シャル、コルトピと代われ」
「OK」
こうして、クロロ、パクノダ、マチ、シズク、ノブナガ、コルトピの六名は、ベーチタクルホテルへ向けて行動を開始する。
「クロロ」
仮宿の建物からクロロが出る寸前、アリシアは声をかけて手を振った。
「いってらっしゃい」
アリシアの声に振り向いたその一瞬、クロロの唇が微笑を浮かべたように見えた。その視線はアリシアを捉え、そして背後のヒソカへと移してから、クロロは踵を返して行った。
「団長とも仲良くなったんだね♦︎」
ベーチタクルホテルへと向かったクロロ達から向き直れば、いつもと同じようでどこか違う笑顔のヒソカが言った。
「クロロがね、わたしに本をプレゼントしてくれたのよ」
アリシアは、クロロから貰ったその本を抱き締めて見せた。
「へぇ♣︎ 団長が、ねえ♦︎」
大事そうに本抱き締めるアリシアからは、甘い香りが漂って来る。
──そんなにアリシアが欲しいかい?
先程の目を合わせたクロロが脳裏をかすめる。その眼は
──本当にイイ目だった……♥
下半身を熱く滾らせながら、ヒソカはクロロとの闘いを心から待ち遠しく思うのだった。
外は未だ雨が降り続いている。
クロロ達はコンチネンタル通りを西へと進み、中心街を目指して、渋滞を避ける為に電車に乗り込む。途中、目的地に近いリパ駅で降りた。
「動いてる……! 下にゆっくり降りてる」
能力によって反応し、察知したコルトピが言った。コピーの緋の眼を持った何者かは、どうやらエレベーターで降りているらしい。
「これから全員で捕獲にかかる。お互いにお互いをフォロー出来る間合いを保て。パクノダ、敵を捕まえたらウボォーの事を訊き出せ」
「了解」
「その後はノブナガ、お前の好きにして良い」
クロロの『Go』という掛け声と共に、六人は全員その場から一斉に駆け出した。
「2時の方向、時速50km程で移動中」
車に乗ったのか。逃げられる前に捕まえなければ。よりスピードを上げて走っていると、何者かが背後から追って来るのを、クロロは感じ取った。
──尾けられている。
「追うのに夢中で気付かなかった」
漸く気付いたマチとシズクは、後ろを意識しながら走った。
「前と後ろ、どっちが鎖野郎だ!?」
舌打ちをしたノブナガがクロロの隣を走り、次の命令を待った。
「団長!」
「ノブナガ、パクノダ、コルトピは前を追え!」
「了解!」
命令に従った三人は前方へと走り、残ったクロロとマチ、シズクは、不意を突くように体勢を後ろへと向き直った。
「見えたか?」
シズクが見たのは路地に隠れた影のみ。マチはゴミ箱の後ろに隠れた何者かの姿を捉えていた。
「"凝"を怠るな」
「了解」
警戒を強めたクロロ達は"凝"を使用し、沈黙のままに様子を見て待った。すると──。
「ごめんなさい! もう追っかけないから、許して下さい!!」
ゴミ箱の後ろから両手を上げて出て来たのは、ゴンであった。
「またこの子?」
「こいつか、例の子供は」
マチは路地の方向を見つめながら、『出てきな』と相手に呼びかける。すると、その呼びかけに応じたキルアが路地からゆっくりと現れた。
「何の用だ? もうあたしらに賞金懸けてるマフィアはいないよ」
「え、ホント!? どうして?」
銀髪の少年、キルアが問う。
「どうする、団長?」
「捕まえろ」
瞬時でゴンとキルアの背後を取り、マチは自らの念糸で2人を拘束した。
そしてクロロはコートからケータイを取り出し、仮宿で連絡を待つフィンクスへと電話をかけた。
「……フィンクスか、オレだ。ベーチタクルホテルまで来てくれ」
一方でノブナガとパクノダ、コルトピの三人は、鎖使いのデータを引き出せる事に成功していた。
「こっちはスクワラって男だった。ウボォーのその後はわからないままだったけど、鎖野郎の名前と顔はわかったわ。……能力は、まだ不明」
『わかった。ベーチタクルホテルのロビーで待つ』
クロロへの電話を切ったパクノダは、ノブナガとコルトピと共に、ベーチタクルホテルへと向かうスピードを速めるのであった。