魅夢の一族   作:あまてら

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〜彼女ノ旅路〜
ニシから東へ


 

 

 

 

 誰かに頬を撫でられた。

 母親が、幼いアリシアを撫でてくれたあの日々の様に、優しく、そっと。

「……ん」

 目を開ければ、見覚えの無い天井が視界に入る。ゆっくりと上半身を起こして、アリシアは辺りを見渡した。

 ──あれ? ここはどこ?

 丸みのある広くて薄暗い部屋のベッドの上に、何故自分が寝かされているのか。しかもまた衣服は身に付けておらず、裸の状態である。

 アリシアはフラットシーツに身を包むと、ベッドから降りた。

「……夢、なのかしら?」

 何だかデジャヴ感がある。アリシアは独り言を呟きながら、ドアらしき方向へと歩こうとした。

「おはよう♥」

「っひゃあ!」

 突然背後から覆い被さるように抱き締めて来たヒソカに、アリシアは驚きの悲鳴を上げる。

「ヒソカ!」

「んふふ♦︎」

「いつもそうやって驚かせるんだから」

 悪戯な表情を浮かべて笑うヒソカに、アリシアは少しむくれ気味に返した。

「ごめんごめん♦︎ やっとキミが目覚めたからさぁ、つい、ね♦︎」

「あっ、そういえば……」

 アリシアは思い出したかのように、何故此処に自分が寝かされていたのかを訊いた。

「それに、イルミが何でヒソカになっていたの?」

 仮宿での最後の記憶と言えば、ヒソカの姿をしたイルミである。

「あぁ、『バレてた』って言ってたねぇ♠︎ ちょっと事情があってさぁ、イルミに代わりを頼んだんだよ♣︎ キミのことも連れて来るようにお願いしたんだけど、まさか気絶させて来るとは思わなくてね♥」

 アリシアから離れ、ドア付近にあるスイッチを押せば、ほぼ部屋全体のブラインドが上へと自動に上がり出した。明るい太陽の光が、部屋中を照らす。眩しさに目を細めるアリシアは、外の景色に驚いて思わず窓ガラスに走り寄った。

「飛行船!?」

「正解♦︎」

 此処は長距離用の飛行船ホテルの一室であると、ヒソカは答えた。

「あ!」

 アリシアはまた声を上げる。

「みんなはどうなったの? クロロは大丈夫?」

「ああ……♣︎」

 壁に身体を寄りかかりながらヒソカは、本当につまらなさそうな顔をして『多分ね♣︎』と素っ気なく言った。

「多分?」

「そう、多分♣︎ そんな事よりさぁ──」

 これ以上は訊くなよとばかりに、ヒソカは表情も話も切り替えた。

「新しい服、用意したんだ♥」

 指を指した先には白い箱が置いてあった。中に入っていたのは、水色の小花柄が可愛いゴスロリワンピースで、スカートのフロント部分が四段のティアードフリルになっているものだった。

「素敵ね!」

「ボクのセンスがイイからね♦︎」

「あ!」

 これで何度目か。アリシアはまたもや声を上げた。

「今度は何?」

「本よ! わたしの本は?」

 焦りを露わにヒソカから離れ、ベッド周りから部屋中のあらゆる所をアリシアは必死になって探し始めた。

 ──わたしの本はどこ?

 あの本を最後に持っていた場所は、ヨークシンの仮宿内。イルミに気絶させられるほんの数秒前まで、確かに手に持っていた筈だった。

 ──ああ、わたしの本はどこなの?

 半泣きになりながら探すアリシアの側に、口角を上げて歩み寄るヒソカの右手には、本があった。

「キミの探してる本って、……これだろ?」

「そ、それよ!」

 気絶させられていたアリシアは、それでも離さずに持っていたようだった。イルミからの受け取り時にアリシアの手から落ちた本を、ヒソカは拾っていたらしい。

 本が見つかった事に安堵しつつ、ヒソカに差し出された本を、アリシアは『良かった』と受け取ろうとした。

「そんなに大事なモノかい?」

 ──が、ヒソカは差し出した本を後ろへと引っ込めてしまった。

「大事なものよ」

「ふ〜〜ん♣︎」

「ねえヒソカ、返して」

 ヒソカは厭らし気な顔で『どうしようかなぁ♦︎』とニタつく。一向に渡す素振りも無いのだ。

「返してったら」

 困り顔のアリシアは、ヒソカにまとわり付くようにして手を伸ばし、何とかして本を取り戻そうと動いた。

「モノには執着しない性格なのかと思ってたんだけど……♠︎」

 伸ばされた手を何度も(かわ)しながら愉快そうに笑うヒソカに、アリシアの表情は徐々に苛立ったものへと変化させていく。

「いじわるしないで」

「ボクって時々、キミみたいなコを無性にいじめたくなるんだよねぇ♦︎」

 背の高いヒソカが本を持つ手を上へと伸ばせば、アリシアは益々必死になった。

「もっと意地悪くしちゃいたいけど……はい、どうぞ♠︎」

 これ以上やり続けると止まらなくなりそうだと、ヒソカは仕方なくアリシアの手に本を掴ませて返した。

「わたしの本……!」

 愛おしむかの如く本を抱き締めれば、独特な甘い香りがアリシアから放たれる。

「クロロからのプレゼントだから、そんなに大事なのかい?」

 大事そうに本を抱き締めているアリシアの姿を見つめながら、ヒソカは近くにある白いソファに深く腰を下ろした。

「いいえ。クロロからのプレゼントだからじゃないわ。この本を読んでいるとね、不思議と"ベル"になったような気持ちになれるの」

 それは読む程に深まってゆく。

 物に思い入れなど持った事などなかったのに、この本だけは何故か、アリシアの特別になっていた。

「でも、クロロがプレゼントしてくれてこの本に出会えたから、クロロにはまた会ってお礼が言いたいわ」

「ふぅん……♠︎」

 ヒソカは凝を使って本を見る。

 ──微かなオーラがあるね♠︎

 才能ある者が魂を込めて作った作品には、念が宿る。能力者による者の作品だろうか。

 クロロが元々は持っていたのだから、それなりに価値のある作品ではある筈だ。そんなものを敢えて贈り、自分へ好意を持たせるような事をわざわざクロロがしたとは思えないが、結果的にはアリシアには良い印象与えているらしい。

 何故か無性に、ヒソカはアリシアの目の前でその本を破り捨てたくなった。

 きっとショックを受けて泣き叫び、『酷い』と言って睨み付けるだろうか。そんなアリシアの拒む唇に無理矢理舌をねじ込ませ、力で押さえつけながら乱暴に犯し、最期には首を絞めて優しく口付ける。もしくは、寸前でアリシアの能力を受け、自分が弾け死ぬ。

 ──あぁ、殺しちゃうのは駄目駄目♥ 弾け死ぬなんてもっと駄目♥

 愉しそうではあるが、今やるのはもったいない。ヒソカはそのような妄想を、頭の中で巡らせるだけに留まらせておいた。

 

 

  向かうなら東がいい

  きっと待ち人に会えるから

 

 

 クロロはひたすら、待ち人に会う為に東を目指していた。

 クロロにとっての待ち人とは、除念師の事である。

 ──念能力の使えぬ不便さよ。

 地を進み、船に乗って夜の海に出た。ただ、占いの通りに進むだけ進む。

 ──島、か?

 地図にも載っていない島に行き着いた。降りると、前方から見知らぬ人物が一人で現れた。只者ではなさそうな目の前の男を警戒しながら、クロロは相手に何者であるかを問いかける。

「ゲームマスターの一人だ」

「ゲーム?」

「何も知らないでこの島に来たと?」

 男は訝しくクロロを見つめた。

「オレはこの島に偶然辿り着いただけだ」

「それでも去ってもらわなければな」

「何故だ?」

「この島に入りたくば、正しい入り口から入る事だ」

 一体どういう意味か。

 だが、その質問には答えてくれそうにもない。

「出て行け」

 男は謎のカードを一枚取り出し、そのカードを自分の前にかざした。

「『排除(エリミネイト)使用(オン)!」

 急な浮遊感。

 気付けば見知らぬ地に、クロロはいた。

 ──確か、G・I(グリードアイランド)だったか?

 飛ばされる寸前に見た、男がかざしたカードに書かれていたG・Iという文字。確かヨークシンに入る前、世界一高いゲームソフトが売りに出されるという話を耳に入れていた事を、クロロは思い出した。

 G・Iとは、1987年に発売された、ハンター専用ハンティングゲームだ。

 価格はゲーム史上最高値の58億ジェニーで、当時100本が限定販売された。念能力が作ったとされるこのゲームは、念能力者にしかプレイ出来ない。世界一危険なゲームである。

 ──オレは東を目指し海に出て、確かに島に辿り着いた。

 クロロはある疑問を持った。

 G・Iとはゲームの中の仮想世界ではないのか。

『この島に入りたくば、正しい入り口から入る事だ』

 男が言った言葉である。

 ──『正しい入り口』か。

 占い通りに待ち人に会う為にも、真東にあるあの島に入らなければ。だが、戻ればまた同じ目に合うだろう。面倒だが、言う通りに『正しい入り口』から入るしかない。

 あの島がG・Iであるならば、正しく入島する為のゲーム機とソフトを手にする必要がある。クロロは先ず、自分の現在地を調べると共に、本機とソフトの入手に動いた。

 

 

 

 飛行船で目覚めて数時間。ヨルビアン大陸北東部に位置する空港に降り立ったアリシアとヒソカは、石畳やレンガ造りの古い建物が美しい、大きな港街を歩いていた。

「ねえ、これは何の匂い?」

「潮の香りだね♠︎ 港街だから海がすぐそこにあるんだ♠︎」

「海が?」

「キミは海を見た事ないんだっけ?」

 アリシアは海を実際に目にした事がない。テレビや本の中でしか知らないのである。

 今すぐにでも海を見に走りたい気持ちを抑えて着いた先は、街でも一番高く建てられた宿泊施設だった。

 受付を済ませ、エレベーターで最上階まで上がると、その階の一室に入る。部屋の中は赤を基調にした豪華な作りで、天空闘技場でのヒソカの部屋にいた頃を思い出させるような、そんな部屋であった。

 ──あ!

 海側にあった連続窓が目に入った瞬間、アリシアは走り寄った。

「海だわ!」

 リビングルームの窓から見える景色はまさに絶景のオーシャンフロント。残念ながら開け閉めの出来ない窓だったが、最上階なだけあって眺めは最高だった。

「気に入った? キミが海を見たいんじゃないかと思ってね♦︎」

 食い入るように窓の外を見ていたアリシアは、隣に立つヒソカへと移して、顔を上げた。

「だからこの部屋に?」

「うん♦︎」

「ありがとう!」

 正面からヒソカに抱きついた。背中に回す手がぎこちないのは、アリシアの右手がしっかりと本を掴んでいるせいだった。

 本がやっぱり邪魔だなと思いつつ、ヒソカはアリシアの甘い香りに目を細めて舌舐めずりをした。

 ──本当に堪らないなぁ、……この匂い♠︎

 鼻で香りを深く吸い込めば吸い込む程に、脳天から足の爪先まで、電気が走ったように痺れる。

 その感覚に酔いしれたままのヒソカは、アリシアを抱き抱えてベッドルームへと移動し、本をさり気なく奪ってナイトテーブルの上に置くと、押し倒すようにしてアリシアをベッドの上に下ろした。

「ヒソカ……?」

 アリシアは何かを察知したのか、自分に覆い被さるヒソカを見つめながら顔色を青く変えた。

 過るのは、躰を貫かれた痛みに恐怖した、あの日の出来事。

「い、……痛いのはいやっ!」

 顔を背け、両手でヒソカの胸板を押しのけようともがくが、全くびくともしない。

「この香りのせいでさぁ……ヤりたくなっちゃうんだよね♦︎」

 背けたアリシアの首筋をヒソカが舌先でねっとりと這わせば、びくりとその身体が震えた。

 ──どうしようもなく、ヤりたくて、殺りたくて堪らないんだ♠︎

「や……っ!」

 恐ろしさで小さく震えているアリシアの左の耳たぶを甘く噛み、膝下から太腿の付け根のギリギリまでを撫で上げたヒソカは、吐息交じりにこう言った。

「今度は痛くないよ──多分、ね♥」

 何もかもぶち撒けた後、ベッドの上でうつ伏せのままぐったりとなっているアリシアの背中に唇を落としたヒソカは、とてもすっきりとした気分に満ち溢れていた。

 ──あーあ、またヤっちゃった♦︎

 アリシアを横目にして、ペロリと下唇を舐める。

 アリシアが人を魅了する特殊な存在であると知った今でも、ミムノイチゾクに興味の無いヒソカには全くどうでも良かった。

 ただ、この甘い香りが自分の意思を奪おうとするのが時々腹立たしく思い、抗おうとすればする程に迷路に迷い込んでいるようで、いっそこのままアリシアを殺してしまおうかとさえも考えた。──が、どうしてもその手を限界まで絞める事が出来ない。

 最後にはいつも、感じた事の無い凄まじい恍惚感がやって来るからだ。

 ──ヤダなぁ♠︎ もしかしてボク、ハマっちゃってる?

 まさか魅了されて、と自身を嘲笑しながら上半身を起こすと、近くで携帯電話の着信音が鳴っている事に気付いた。

 ベッド近くの床に脱ぎ捨てられた衣服の下を探り、ケータイを手に取って着信画面を見るが、知らない番号からであった。

「……もしもし?」

『久しぶりだな、ヒソカ』

「やあ、クロロ♣︎」

 その声を聴くのは、あの日から約一週間ぶりである。ヒソカは裸のままベッドルームを出て扉を閉めると、真っ暗なリビングルームの真ん中に立った。

「一体何の用なのかなぁ? 連絡しても大丈夫なのかい?」

 今頃何だというのか。ヒソカが気怠げに返せば、『お前に頼みがある』とクロロは言う。

G・I(グリードアイランド)を知っているか?』

「グリードアイランド? ……ああ、なんとなくならね♠︎ それが?」

『オレの代わりにG・Iへ行き、そこである人物を見つけてもらいたい』

「何それ? そんな依頼をする為に、わざわざボクに電話を?」

 電話の向こうのクロロは、それに対しこう答えた。

『報酬はオレとの決闘……ならどうだ?』

「……念能力使えないんじゃ意味無いんだけど♣︎」

『詳しくは会ってから話そう。場所はメールで送る』

 クロロは最後に『指定場所で待つ』と伝えると、用件だけを言って直ぐに電話を切ってしまった。

 ──その報酬、すっごく魅力的だけどさァ♠︎

 確かクロロは鎖使いであるクラピカの能力によって、全く念能力が使えなくなっていた筈ではないのか。すると、再びケータイが鳴った。

 つい今し方クロロが言っていた、指定場所のメールが送られてきたらしい。

 

 

 誘いの糸を切ってはいけない

 伝えば逢瀬が叶うから

 

 

 ふと、クロロが盗んだ能力で占った予言を思い出した。

 この"誘いの糸"がクロロからの電話であるならば、"逢瀬"の為に話にのった方が良いのがもしれない。──けれど。

 

 

 片眼の熊の手招きで

 大事な箱から夜空の星が飛び出すだろう

 

 

 "夜空の星"はアリシアを意味している。なら"片眼の熊"とは一体誰か。これは、自分にとってあまり良い予言ではない気がした。

 ──回避するべきか。

 しかしこれを回避したとしたら、"誘いの糸"の方は成就しなくなるのではないのか。

「仕方がないのかなぁ……♣︎」

 名残惜しそうに呟きながらベッドルームを見つめたヒソカは、身支度を整える為にバスルームへと入った。

「ん…………」

 身体中が重い。

 あれから、どのくらいこの状態のままでいたのだろう。倦怠感に襲われながらゆっくりと目を開いたアリシアは、カーテンから射す陽の光の先を見つめた。

 今は一体何時なのだろうか。

 起きたくても起きれないのは、絶対にあの行為のせいだ。アリシアは思った。

 初めての時より痛みは無かったが、その分下半身の奥で圧迫感を感じ、苦しさが増した気がする。

 ──ヤダって言ったのに。

 アリシアは何だかムカムカとした気分になって、掛け布団の内側に顔を埋めた。それから一時間程経過した後、漸くベッドから起き上がれたアリシアは、若干の警戒を持ってベッドルームからリビングルームを覗き見た。

 ──あれ?

 ヒソカの気配は無い。

「手紙?」

 リビングルームにある、テーブルの上の置き手紙が目に入る。

 その紙には、『良いコでお留守番してるんだよ♥』と書かれてあった。

 ──いないのね。

 いつものように背後から脅かしてくる様子もなく、アリシアは愁眉を開いた。

「あ!」

 窓越しではなく、海を直接目の前で見たい。唐突にそんなことを思った。

 けれど、『良いコでお留守番』との置き手紙が気になる。

 でも、外には絶対出ちゃ駄目って書いてないし……。

 暫くひとりで葛藤しつつも、やっぱり海を見に行こうと思い立つ。そうと決めれば、先ずは身体を洗い流したい。アリシアは慌てるようにしてバスルームへと入った。

 着替えの服は、部屋を出る前にヒソカが何着か用意していた内の一つを選び、側にあった新しいフード付きのマントも忘れずに羽織った。

「……よし」

 支度も済ませ、大事な本を持って部屋を出る。向かうは近くの港だ。

 風にのった海の匂いを頼りに、観光客らしき人々や商人らと行き交いながら、アリシアは港を目指した。

 ──あれは船だわ!

 到着した港には、係留している漁船や、沖に出入りするいくつもの貨物船等があった。灯台の向こうへと飛んで行く数羽のカモメを目で追えば、海からの風がアリシアを優しく撫でる。

 美しい景色を見つめて想像するのは、クロロに貰った小説の中盤、主人公ベルが海を見つめながら、故郷の島国に思いを馳せるシーンだ。

 森に戻るのをやめたアリシアには、故郷を思い出して涙するベルの心情が、わかるようでわからない。

 ベルには故郷に待っている肉親がいるが、アリシアのいた森にはもう、誰も待ってはいないからだ。

 ──母様が生きていれば、森に帰りたいと思うのかしら?

 そんな事を思いながら港沿いを歩いていると、通りすがりに黒いローブ姿の老婆が声をかけてきた。

「お嬢ちゃん」

 アリシアは、足までの長さのあるフードマントを全身を覆うように着ているので、男女の区別は一見してつきにくい。だが、見知らぬ老婆はアリシアを直ぐに『お嬢ちゃん』だと気付いたらしく、反射的に振り向いたアリシアに笑みを見せた。

「わたし?」

「そう、アンタじゃよ。お嬢ちゃん」

「何かしら?」

「もうすぐ、お嬢ちゃんの行く道を照らしてくれる、明るい光が現れるよ」

「明るい、光?」

「眩しい光もあるけれどね、足を掴もうとする闇の手にも気を付けなくちゃいけないよ」

 突然何なのだ。意味がわからずに訊き返したアリシアに老婆は、『いずれ訪れるその時まで』と答えると、それ以上は何も語らずに柔かな顔をして去って行ってしまった。

 ──光?

 老婆の後ろ姿から海の方向へと視線を戻したアリシアは、老婆に告げられた謎の言葉に頭の中を支配されながらも、再び美しい景色へと目を奪われる。

「あなた、あっちに行ったわ!」

 老婆が去って行った方向へ、中年の男女が呆けて徘徊する祖母を追いかける姿があったが、アリシアはそれに気付くことはなかった。

 

 

 

 某所──。

 華やかな場所から外れた酒場に入ったヒソカは、店内奥のカウンター席に座っていた男の隣の席に腰を下ろした。

「彼と同じもので♥」

 目の前に現れたバーテンダーに、男が飲むグラスを指差してヒソカは注文する。

「お前なら、必ず来ると思っていた」

 グラスに入った、ウイスキーのロックを一口飲んだ男の口元には、薄く笑みがある。

 そんな男を横目にし、力のない歪んだ微笑を口の辺りに浮かべるヒソカは、静かに言葉を返した。

 

「フフ……♠︎ さあ、話を聞こうじゃないか、──クロロ♦︎」

 

 

 

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