魅夢の一族   作:あまてら

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注)某巨大掲示板的表現あり。











蟻 of the DEAD

 

 

 

 バルサ諸島・ミテネ連邦の西端に位置し、ロカリオ共和国との国境以外は海に囲まれ、自然保護を目的としたNGL自治国。

 機械文明を捨て、自然の中で生活する、人口217万人のこの国は、国民の約99%がネオグリーンライフという団体員であり、残りは支援のボランティアだ。

 通信手段は主に手紙である。交通手段は馬などの動物。ただし外交業務の為、国境近くに位置する大使館ではパソコンなどを使用し、情報交換にあたっている。勿論国内には、電気・ガス・水道などの文明社会の必需である、ライフラインは存在しない。一般構成員は畑を耕し、自給自足の生活を営んでいた。

 入国審査は非常に厳しく、金属・石油製品・ガラス製品の持込は禁止。銀歯や整形用シリコンが体内にある場合は、摘出しないと入国は出来ない。しかもパソコンなどの文明の利器を持ち込んだ場合は、極刑になる場合があるという。

 エコ団体として活動しているNGLには、世間には知られていないもう一つの顔が存在する。

 自然保護区を名目に、NGLが裏で行っていたのは、飲むだけで手軽に効果が得られる事から、世界中で流行している、麻薬『D2(ディーディー)』の製造と売買だった。

 一般構成員は、NGLの純粋な共感者として暮らしており、麻薬の事を知るのは、NGL上層部のみである。

 このような表と裏の顔を持つNGL自治国では今、信じ難い事が起こっていた。

 キメラアントの女王蟻に酷似する奇妙な生物の一部を分析した結果、巨大なキメラアントの可能性が高い事と、漂流先がNGL自治国である可能性が出てきた事により、11組のハンターがそれを突き止める為、NGL自治国に現地入り。

 その内6組が全滅。残りの脱出したハンターが、ハンター協会に討伐隊を要請する騒ぎとなった。NGL自治国では、一体何があったのか。

 なんと、分析された一部の本体である、巨大キメラアントの女王は生きていた。虫や魚、小動物に飽き足らず人間までも捕食し、異種配合を繰り返して部下を大量に繁殖。自らを頂点にし、組織を作り出していたのである。

 凶悪な進化を遂げたキメラアント達によってNGL自治国はほぼ占領され、事態の深刻さに気付いたハンター協会は、主戦力を領内に投入するが、今は均衡を保ちながら膠着(こうちゃく)状態だった。

「キキメラアントについて詳しくせ説明しますね。 キキメラアントは5つの階級でこ構成され、王が産まれると階級がぶ分裂します」

 NGL自治国の隣、ロカリオ共和国で待機していたアマチュアハンターの4人は、ハンター協会からの連絡を待ちながらキメラアントについて話し合っていた。

「へぇ。一定周期で産まれた王が放浪して、色んな生物と交配しながら次世代の女王を孕ませるってわけね」

「うわぁ。爆発的に増えるんだ……」

 増殖を防ぐには、王を産む前に女王を倒す事が必須。しかし女王を倒すには、周りを固める兵を全て掃わなければならない。

「あ、かかってきた!」

 風船ガムを膨らましていた少女のケータイに連絡が入る。待っていた協会からだった。

「討伐隊の第一陣が来るよ」

 3日後。その第一陣部隊三名が、NGL自治国に足を踏み入れた。中途半端な戦力で敵に吸収される(おそれ)を避ける為、実力のある少数精鋭。その3名とは、ハンター協会会長のアイザック=ネテロ、一ツ星(シングル)ハンターのモラウ=マッカーナーシ、プロハンターのノヴである。

 この実力者達で即解決……というわけにはいかず、女王が産む王の為の直属護衛隊も、新たに誕生するのであった。

 

 

 

「アリシア、起きろ」

 ソファの上で本を読みかけたまま眠りこけているアリシアの肩を、ハールが軽く揺さぶって起こした。

「……ん。わたし、眠ってしまっていたのね」

 アリシアは目を擦りながら小さく欠伸をし、開いていた読みかけの本を閉じてソファから立ち上がった。

「面白いか? それ」

 ハールの言う『それ』とは、パリストンから贈られた『希望の国』である。

「ええ、とっても! 今はジャポンっていう島国に入ったところなの」

 眠そうだった筈の顔を一気に吹っ飛ばすように、アリシアは高揚して言った。

「とても不思議な国でね、みんな"キモノ"っていう服を着てるのよ。ハールはジャポンに行った事がある?」

「いや、まだない。独特な伝統なんかがあると聞いた覚えがあるだけだ」

 200年近く前まで鎖国をしていたらしいジャポンという国は、近隣の文化を取り入れつつ独自に発展した小さな島国の事だ。

「わたし、ジャポンに行ってみたい。明日」

「なるほどな、明日か……って、明日!?」

 一瞬納得しかけたハールは、慌てるようにして問いかけた。

「ええ。明日行きたいなぁって。駄目なの?」

「い、いや、駄目というわけじゃないんだ。突然だから少し驚いたというか……」

 じゃあ明日からジャポンに。アリシアがそう言いかける前に、『待った』と一言が入る。

「ここからの直通便は無いぞ。ヨルビアン大陸からジャポンに行くには、リンゴーン空港を使うのが良い。あそこは大きいからな、大抵の国にはリンゴーン空港から行ける」

「そうなのね。なら、明日リンゴーン空港まで行って、そこからジャポンに行くわ」

 随分急だなと思いながら、行く準備を始めようかと動いたハールを、アリシアは呼び止めた。

「わたし一人で行くから、ハールはお留守番してて」

「え? でも一人じゃ……」

「わたし小さな子供じゃないのよ。一人でも平気だし、どうしても一人で行きたいの」

 こういう時は、無理に止めても無駄である。心配だから本当は付いて行きたい。けれど、それをしてもアリシアは喜びはしないだろう。今はもう嫌われてしまいたくはないハールの心は、とても複雑だった。

 ──前髪や髭を剃ってなくて、良かった。

「ジャポンはどの国よりも平和らしいからな。観光するには最適だろうよ。でも……気を付けて行くんだぞ」

 表情が見えれば、アリシアを困らせてしまったかもしれない。ハールは、なるべく明るい声を出して言った。

「大丈夫よ。ミムノイチゾクだってわからないように気をつけるから。それに、ハールに教えてもらったあれを着けて行くわ」

 魅夢の一族(ミムノイチゾク)の特徴でもある瞳とネイビーブルーの髪色を隠す為、カラーコンタクトとブラウン色のウィッグをハールに勧められていたのだ。一応外出時にはフードを被ってはいるが、もしもを考えての事だった。

 翌日。空港までハールに見送られた後、飛行船に一人で乗船したアリシアは先ず、直通便のあるリンゴーン空港を目指して向かった。

「では、乗船時間まで搭乗待合室でお待ち下さい」

 到着してから直ぐに、リンゴーン空港のチケットカウンターで乗船手続きを済ませ終える。すっかり慣れた様子のアリシアは時間が来るまでの間、読みかけだった『希望の国』を読んでいようと、黒のうさ耳リュックから本を取り出し、近くに設置された椅子に腰を下ろす。──すると、ロビーの方向から耳を(つんざ)くような悲鳴が上がった。

 逃げろ──。誰かの声の共に、周りにいた者達が騒めいた。聴こえてくる悲鳴は止まらない。何かが現れたのか、それは徐々に近付いて来ている。

「な、なんだありゃ……?」

 全身緑色。両手に、まるでカマキリのような鎌状を持ち、目が異様に離れた人間らしき謎の生き物が搭乗待合室に現れた。

「コスプレ?」

 騒ぎに駆けつけた係員と警備員は、カマキリ人間が仮装して来た不審者だと思ったらしく、やれやれと溜息を吐いて声をかける。

「こらこら君ィ! コスプレするなら専門の場所でやってくれ────」

 警備員の一人が近寄って行った瞬間だった。カマキリ人間が鎌を一振りすれば、警備員はバタリとその場の床に倒れた。離れた頭が近くにいたアリシアの足下へ転がって来れば、封を切ったように、皆が一斉に逃げ出した。アリシア以外は。

 あ、頭……?

 足下に転がる警備員の頭を見つめながら、ついていけない思考のせいで固まっていたアリシアは、自分の前に近寄って来たカマキリ人間に声をかけられて、漸く我に返る。

「──おいコラ。聴こえてんのかコラ。さっきから呼んでんだよ」

 右側の鎌の端を使い、被っているフードを強引に下ろせば、アリシアの怯えた表情と目が合う。カマキリ人間は愉快そうに、ニタリと裂けそうな口で笑った。

「お前、めちゃくちゃ美味そうダナ。記念に食ってヤル」

 不気味な口を大きく開けて、頭から食い千切ろうと息を大きく吸ったカマキリ人間は、アリシアから微かに漂っている香りをも吸い込んだらしい。すると突然、その動きが止まった。

 ──何?

 危機を感じ、能力を使おうとする寸前だったが、まだ使ってもいない。カマキリ人間は、口を半分開けたままだらしなく涎を垂らし、焦点を上に向けて目をひん剥かせながら体を悶えさせている。

「はあああアァァ……ん!! 気持ツィィ!!」

 急に声を上げたカマキリ人間は、アリシアの足下に(こうべ)を垂れるようにして膝を付いた。

「なんだコレ? 食べたいのに、そんなんどうでもイイヤ。気持ちイイ! はあっぁん!!」

 一体何だ、何が起きたのだろうか。自分の前で膝を付き、頭を垂れるカマキリ人間を見下ろしながら、アリシアはこの場からどうやって逃げ出そうと考える。

「動くな!! 両手を上げろ!」

 通報により、武装した警備隊がやっと現れた。カマキリ人間がアリシアの前から動かないのを知ると、銃口を向けつつ、周りを囲むようにして搭乗待合室に次々と入って来る。

「……ぞろぞろやって来やがって、この最高な時を邪魔すんじゃねぇぞゴラ……!」

 ──ゆらり。カマキリ人間は苛立ちを露わに立ち上がった。

「そこから動くな、撃つぞ!」

「あ?」

 オーラを放ったカマキリ人間が、周りにいる警備隊員を見渡しながら右手を軽く振れば、何かがブーメランのように隊員らの首元を走る。

「これで邪魔はいなくなったナ」

 ぼとり、ぼとりと、周りを囲んだ警備隊員全員の頭が床に落ち、切れた首元から血飛沫が次々と噴き出した。

「きゃああ!」

 惨劇に驚愕し、アリシアは思わず悲鳴を上げた。カマキリ人間はくるりとアリシアに向き直ると、再び膝を付く。

「イイ気分ダヨ。もっと、モット……!」

 床に頭を擦り付け、何かを乞うように腕を伸ばしてくるカマキリ人間に、アリシアはびくりと体を震わせた。鎌の付いた手らしきものが、マントの下から覗かせていたアリシアの足首に触れた時、鎌の先が当たって、レースの靴下ごと切れてしまったのである。

「痛っ」

 カマキリ人間は一瞬『しまった』と焦りつつも、血を見て興奮したのだろう。アリシアのその足目掛けて勢い良く飛び付き、小さな傷口から流れる血を、恍惚の表情でペロペロと舐め始めたではないか。

「い、いやぁ!」

 しがみ付くカマキリ人間から逃れようとすれば、掴まれた力は強まっていく。

 ──逃げれない。

 ちゅうちゅうと音を立てて、血を吸い出すカマキリ人間にこれ以上耐えられず、躊躇っていた能力を使おうとすれば、増員された警備隊員が再び現れた。

「……ちっ、また来やがったカ」

 血を吸うのを止め、アリシアから離れたカマキリ人間は警備隊員らに自ら近寄り、先程と同じような動作をしようと右手を上げる。

 ──今だ。

 

 "弾ける赤い風船(ブラッドバルーン)

 

 アリシアの放つオーラに気付いた時にはもう遅い。潰れた蛙のような声を上げて弾け割れたのは、念を使う謎のカマキリ人間が振り向くより先だった。

 飛び散る様子を見つめながら、警備隊員が此方に走って来るのが視界に入ると同時。アリシアの記憶は、そこからプツリと途切れてしまったのである。

『──本日昼前、リンゴーン空港内で一般市民2名、施設関係者1名、警備隊員20名が殺害される事件がありました』

 そのニュースは、ここ数日発生していた、謎の生物による事件の一報だった。カマキリ型の生物が空港内に入って行く映像と、事件現場の映像が映し出され、空港前で報道する報道アナウンサーや、目撃者のインタビューが流れる。

「出ないから関係ないもんねー」

 テレビを見ながら電脳ページのとある実況掲示板で書き込みをするミルキは、グラスコップに入った炭酸ジュースをぐびりと一口飲むと、掲示板のフィギュアスレッドを新たに開き、気になる書き込みを発見した。

 

 

  100:名無しさん@人形の楽園町。:2000/06/18(日) 19:35:34.52 ID:1g6VdXkjj

 

  リンゴーン空港のニュース映像に、Woden(ウォーデン)氏の最後の作品【ブルーヘアーの少女】に似た女の子映ってなかった?

 

  101:名無しさん@人形の楽園町。:2000/06/18(日) 19:35:40.13 ID:md2wAc8p

 

  >>100 動画貼れよks

  てかブルーヘアーじゃなくてネイビーブルーだろ

 

  102:名無しさん@人形の楽園町。:2000/06/18(日) 19:36:10.50 ID:9c3Www5a

 

  >>101

  オレも見たよ 画像ならこれじゃない?

  

 

 ミルキは興味本位で貼られた画像をクリックし、ガタリと椅子から立ち上がって驚いた。

「……ま、マジか!?」

 報道アナウンサーがインタビューをしている後ろの方に、女性職員に毛布を掛けられて椅子に座る、虚ろな表情の少女がはっきりと映っているではないか。髪型や色は違うけれど、見れば見るほどに、その少女の顔はWodenのフィギュアにそっくりである。ミルキは直ぐさま画像を切り抜き、拡大して保存したのだった。

 

 

 

 某国某所。ノブナガやコルトピと途中で別れ、別行動をしていたマチの荷物の中から、ケータイの着信を知らせる音が鳴っている。知らない番号からだったが、マチは妙にこの番号が気になってしまい、何となく試しに出てみる事にしたのである。

 ──誰よ、一体。

 聞こえてきた声を耳にした時、マチの唇は微かに震えた。

『わかるか?』

「────団長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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