「じゃあ行って来るよ♠︎」
アリシアをひとりで残し、ヒソカは外出する事がある。行き先なんて言わないし、アリシアも訊きはしない。その日に戻って来たり、二日後だったり、時には数日だったり。
そんなヒソカから決まって臭うのは、微かな鉄の臭い。
──この臭い、好きじゃない。
臭いに関して深く追求するつもりは微塵も無い。それよりももっと、アリシアの思考を奪っているものがあったからだ。
イルミが来た日に出会った、メルサという女性。彼女に興味を持ってしまったアリシアは、出入り口のドアの前にかれこれ1時間は立ち尽くしたままである。
──メルサとまた会って、お話がしたいわ。
けれど、この部屋から一人で勝手に出ても良いとは言われていない。……なので、ドアノブさえ回すのが躊躇われていた。
でも……。
気持ちは抑えきれなかった。
暫く悩んだ後、勇気を振り絞り勢いに任せてドアを開けたアリシアは、音を立てずにそろりと部屋の外へ出る。
──大丈夫よ、直ぐに戻れば良いんだから。
アリシアは思うままに走った。道順はメルサのおかげで覚えていたようで、もう迷うことはない。エレベーターを降りて受付がある場所を探せば、直ぐ目の前の筈だ。
「あった……!」
そこへ向かおうと、足を一歩前に出した時である。
「どうしました?」
誰かに声をかけられて、アリシアは反射的に振り向いた。
「メルサ……!」
会いたかったメルサがそこにいた。
それはメルサも同じだった。だがアリシアとは違い、嫉妬に対する憎しみの感情が含まれている。
「どうしてもアナタに会って、もう一度お礼を言いたかったの……!」
アリシアはふわりと笑いかけ、メルサに近寄った。
「それでわざわざ?」
アリシアから漂う不思議な甘い香りに、ざわりとざわつく何かを感じたメルサは、唇の端を上げて微笑み返す。
「メルサ、あの……ね」
急にもじもじとし始めたアリシアは、顔を少し赤らめながら下を向いて告げた。
「わたしと、お友達になってほしいの」
その言葉を聞いたメルサは、心の中でほくそ笑んだ。
「私で良ければ是非!」
「本当?」
「ええ」
メルサの返事に歓喜したアリシアは、思わずメルサの両手を取って握り締めた。
「ありがとう! 女のヒトの友達なんて、わたし初めてなの!」
その後のアリシアはというと、とても喜ばしい気持ちで一杯になりながら、嬉々として部屋へと戻って行った。そんなアリシアの様子を薄ら笑いで見つめていたメルサ自身も、ひとり喜びにうち震えていた。
──なんておバカさんなの。せいぜい友達ごっこを楽しんでおくといいわ。
そう、メルサの目的はアリシアを貶める事。嫉妬に絡む女の憎しみが、何も知らないアリシアに注がれていたのである。
それからというものアリシアは、ヒソカが出掛けていなくなったのを見計らう度、こっそりとメルサに会いに行くようになった。
メルサは仕事の合間を抜け出し、アリシアに優しく話しかけたりする事でアリシアとの仲を深めていった。初めは周りにバレないかとヒヤヒヤとしたものの、アリシアは意外にもこっそりと会いにやって来る。お陰で他の同僚にはアリシアとの事を変に知られる心配はなかった。
「ヒソカ様は今日もいないの?」
「ええ。だからメルサに会いに行けるの」
「まあ。ひとりで寂しくない?」
「さみしい? いいえ。今まで一人だったもの。だけど、ひとりだとつまらない日もあるの。でも、でもね、今はメルサに会えるからとっても楽しい!」
清らかで明るい花のように美しく笑うアリシア。それを眩しく感じながら『恨めしい……』と、メルサの心はどす黒く沈んで行った。
一週間後。ヒソカが戻ってきた。
勿論、ヒソカにはメルサの事は秘密だ。内緒で出て行く事に対してのスリルと興奮も相まって、生まれて初めての嘘に罪悪感はあまり無い。
「随分と楽しそうな顔をするじゃないか♦︎ ひとりで退屈じゃなかったのかい?」
「いいえ、全然」
ニコニコと嬉しそうに笑うアリシアのあの甘い香りは、更に強く放っている。ヒソカは目を細め、じいっと熱くアリシアを見つめた。
「退屈しないんだったら良かった♣︎ 戻ってきたばかりだけど、今からまた出掛けなくちゃいけないんだよねぇ♠︎」
「そうなの?」
「だからアリシアは、おとなしくこの部屋で待っているんだよ?」
「うん! いってらっしゃい」
「いってきます♦︎」
ヒソカがまた出掛けて行った。アリシアは暫くソファーに座ってそわそわとしながらテレビを見た後、はやる気持ちを抑えきれずに、出入り口のドアノブを回した。開けたドアから顔だけを出して辺りを確認すれば、アリシアは心躍るように走った。目的は勿論、メルサに会いに、である。
アリシアが出て行ったのを見計らって直ぐ、死角になっている曲がり角からこっそりと静かにヒソカが現れた。
「ふーん……♠︎ やっぱりね♦︎」
ヒソカは何となく勘付いていた。『出掛ける』と嘘をついて、アリシアが部屋から出て来るのを待っていたのだ。
「あらアリシア」
受付付近でメルサに近づけば、メルサはアリシアがやって来るのを待っていたようだった。
「どうしたの?」
「またひとりになれたから、メルサに会いに来たの」
一見して仲良く微笑み合う二人を遠目に、ヒソカは少し驚いていた。
「まさかアリシアがボクに黙ってまで会いに行った相手が彼女とは……♣︎」
なんとも意外とは思いつつ、ヒソカの視線がメルサに向けられる。
「なるほど……♦︎」
切れ長の目を更に細めて、ヒソカは踵を返した。
それから数分後。アリシアはいつものようにして部屋に戻ってきた。
「おかえり♠︎」
そう背後から声をかければ、アリシアは小さな悲鳴を上げて振り向いた。
「ひ、ヒソカ……!」
「ひどいなぁ、アリシア♦︎」
「で、出かけたんじゃなかったの?」
「出掛けたフ・リさ♥」
動揺しているからだろう。思わず後退りしてしまったアリシアを奥へと追い詰めるように、ヒソカは薄く笑いながらじりじりと迫った。
「あ、あのね、イルミが来た日に初めて会ったの。メルサと」
「メルサ?」
「とても親切にしてくれたから、また会ってお礼を言いたかっただけなの」
遂に壁に背中が当たった。これ以上後ろには退がれない。アリシアは冷や汗を流しながら、近づいて来るヒソカを見つめた。
「メルサはとても優しくて、お友達になったの、わたし達。だから……」
目の前まで来たヒソカを、アリシアはただ見上げるしかない。何を考えているのだろうか。ニイっと口の両端を上げるヒソカは、アリシアの顔ギリギリまで自分の顔を近付けた。
「ボクに内緒で外へ出る気分は最高かい?……興奮、しただろ?」
ぞくりと背筋を凍らせ、逸らせない瞳を怯えながら見つめ返せば、ヒソカは舌先でペロリと自分の唇を舐めた。そして右手でアリシアの髪の毛先に触れる。
「……そんなに、怯えなくてもイイのに♦︎」
髪からやがて頬へ。触れたままの手は更に首へと下がり、そっと首元へ。
「ご、ごめんなさい」
「アリシア、ボクが言った事忘れたのかな? 『キミは騙されやすいから、食べられてしまうよ』って♠︎」
「……メルサは、メルサはわたしを騙してなんかいないわ」
「本当に? 彼女がそんなことをしないと、本気で思ってるのかい?」
「メルサは違う」
ヒソカの言葉に少しだけ胸の辺りがむかむかとしたアリシアは、初めてヒソカを睨み上げた。今まで生きてきて、相手を睨むなどした事もないのに。
──ボクを睨みつける顔も、堪らなくイイね♦︎
そんなアリシアに対しヒソカは随分と余裕で、しかも嬉しそうである。
「ヒソカは、なんでそんなことを言うの?」
「ボクはアリシアの為に忠告してあげてるだけ♠︎」
アリシアはヒソカから目を逸らし、不満気に口を尖らせた。
「メルサは違う! わたしを騙してタベたりなんかしないわ!」
アリシアはヒソカを力一杯押しのけると、走り去るようにしてそのまま部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ……♠︎」
アリシアの去った方向に視線を向けながら、ヒソカは一人呟いた。
「……少し、甘やかし過ぎたかなぁ♣︎」
飛び出したアリシアが向かった先は、メルサのいる受付である。いつもなら受付の前まで行かずとも、メルサが気付いてこちらにやって来るのだが、流石の今回はメルサも予想だにしなかった。
「メルサ!」
息を切らしてやって来たアリシアが目に入りに、メルサは一瞬で肝を冷やす。
「あれ? 彼女……」
メルサの隣にいた噂好きの受付嬢は、受付に現れたアリシアの姿に気付いた様子だった。
「どうかなさいましたか?」
メルサは隣の同僚である受付嬢を気にしつつ、そこから離れるようにアリシアを連れて外へ出た。
「どうしたの? 突然。さっき会ったばかりなのに」
「あの、な、なんでもないの。ただ、メルサに会いたくて」
「そう……」
視線を外へとやれば、もう空は夕闇に染まりつつある。
「──アリシア。私、もう少しで仕事が終わるの。だからちょっと此処で待ってて」
「うん」
外にアリシア一人をベンチに残し、メルサは建物の中に戻って行った。
──いつまでも馴れ合いごっこなんてやってられない。今日で終わり、こんな事!
メルサは急遽、『アリシアを貶めるという目的』を実行する事に決めたのであった。
「さっきのヒソカ様の?」
メルサが受付に戻って来ると、案の定、噂好きの彼女はそう訊ねてきた。
「なんか場所を教えてほしいって訊かれてしまったのよ」
「なあんだ、そうなの?」
適当に返したのに、意外にもあっさりと彼女は納得してくれた。それはきっと、別の話のネタ収集に夢中であったからだろう。
メルサが終わるのを待って数分後。空はすっかり闇色になった。辺りは建物の中から出る明かりと、周りに備え付けられている照明に照らされていて、決して暗くはない。
──メルサ、まだかな?
少しだけ肌寒く感じる。メルサの事やヒソカから逃げるように飛び出してしまった事が頭を過ぎり、アリシアは小さな溜息を吐いた。
「お待たせ」
それから少し待っていると、メルサがやっと現れた。
「メルサ、いつもとは違う格好ね」
私服姿はこの時に初めて見た。いつも見るメルサの姿は天空闘技場の受付嬢の格好であったが、今回は違った。タイトなミニの黒いワンピース姿のメルサは、どこか色気の漂う艶やかな女性に思える。
「私だって、仕事が終われば普通の服に着替えるわ」
「素敵なお洋服ね」
「アナタの服も素敵じゃない」
「ヒソカがプレゼントしてくれたの」
「……そう」
顔が引き攣りそうになるのを堪えつつ、メルサはアリシアの前を歩き出した。
「どこに行くの?」
「お散歩よ。ここの敷地には近くに森林があってね」
「森林……」
もしかしたらあの森なのだろうか。と思ったアリシアは、少し気乗りがしない。けれど、メルサと散歩が出来る喜びの方が今は勝ってしまっている。
「ねえメルサ、星が綺麗よ」
夜空の星を眺めながら歩き、少し前を行くメルサに声をかけた。
「そうね、とても……」
──彼がやって来る晩は、いつも星が綺麗だった。
ヒソカとの情事を思い浮かべ、メルサは胸の辺りをギュッと押さえた。
──この女がいなくなれば。
自分でも信じられないくらいの醜い嫉妬心、愛憎。ヒソカとアリシアへの憎しみを募らせる日々に、やっと終止符が打たれようとしていた。
「メルサ、そっちは真っ暗よ」
「大丈夫、月が照らしてくれるから」
森林の奥に進むメルサに対して何の疑問も持たないアリシアは、自分達を照らす丸い月に目を細めて微笑んだ。
やがて奥まで暫く歩いた頃だろうか。辺りはすっかり森林に囲まれて、人の気配すらない場所にやって来た。目の前には大きな泉もある。
「メルサ?」
その場に立ち止まったまま動かないメルサに、アリシアは名前を呼びかける。すると、周りの草影から歩いて来る音がして、三人の柄の悪い男達が現れた。
「メ、メルサ……?」
思わずメルサの側に寄ったのは、初めて会ったのあの男達を思い出して恐くなったからだ。
「アリシア」
メルサは、今まで見せた事のない冷たい表情をアリシアに向けた。
「……あんた、目障りなのよ」
「あ!」
メルサに突き飛ばされたその反動により、アリシアは地面に尻餅をついた。
「ど、どうしたのメルサ?」
メルサの行動が信じられなかった。見上げれば、唇の両端を少し弓なりに下のほうへ曲げ、アリシアを蔑むように笑っていた。
「──馬鹿な娘」
「え……?」
「今まで親切に友情ごっこをしてあげたのはね、アンタを陥れる為なのよ」
「メルサ?」
「まだわかんないの? あんたは此処で、めちゃくちゃにされちゃうの! 使い物にならないようにね、……アハハ!」
嘲笑うメルサに唖然とするアリシアは、こんなのは嘘だという悲痛な目を向けて、自分を蔑んでくる女を見つめた。
「嘘よ。メルサは違う」
「何が違うの? 全部本当、これは現実なの」
「メルサは、お友達だって……」
「まだ言ってるの? 私はあんたが大嫌いで憎いの。今すぐにでも消えて欲しいの。あの人の……、ヒソカの傍からいなくなれば良いのよ!」
凄まじい形相で罵倒しながら、メルサは声を荒げる。そんなメルサの口から出たヒソカに、アリシアは何故と疑問に思った。
「ヒソカ……?」
「そうよ。ヒソカの傍にいるあんたなんか……、死ねばいいんだわ!」
メルサは男達に『好きにどうぞ』と言い捨てると、アリシアの顔も見ずに去って行く。
「……ま、待ってメルサ!」
慌てて追い掛けようとすれば、三人の中の一人の男に腕を引っ張られ、地面に突き飛ばされてしまった。
「きゃあ!」
「ギャハハ! 哀れなやつだなぁ」
「お前の事は好きにさせてもらうぜ。……たっぷりな」
一人に胸元を乱暴に掴まれて、服の前ボタンの部分が引き破られた。
「あ!」
抵抗しようにも三人に押さえ付けられて、アリシアの力ではどうしようもない。
──メルサは違う、わたしに酷いことなんてしたりしないわ!
アリシアは、メルサの優しい笑顔を思い出していた。
騙したり……。
『今まで親切に友情ごっこをしてあげたのはね、アンタを陥れる為よ』
──友達なのよ。
『ヒソカの傍にいるアンタなんか、死ねばいいんだわ!』
違う。メルサは……!
アリシアの目の前が歪んで見える。初めて森を抜けた時、初めて出会った男達にタベラレソウになったあの日とリンクしたように、興奮しながら衣服をまさぐる男達を見つめた。
「メルサぁ……!」
大粒の涙がぽろぽろと、止まりを知らずに流れ落ちる。浮かんだメルサの嘲笑う顔が、ノイズ混じりにプツリと消えた。
「っやだ、タベラレタクナイ!!」
そう叫んだ刹那──。
「うぐっ!」
三人の男達は、突然ピタリと動きを止めた。そして苦しそうに顔を歪め始めたかと思うと、少しずつ地面から体を浮かせていくのである。
「……あ」
それに驚いたアリシアが解き放たれた身体を慌てて起こし、徐々に浮いていく男達を交互に見つめれば、男達の身体が段々と膨らんでいっているのがわかった。
「ぐぐぐ……っ!」
苦しそうに喉元を押さえ、顔中に血管を浮き出させ、眼球も飛び出しそうな勢いであった。まるで風船のように膨らんでしまった男達は、それから瞬く間もなくアリシアの目の前でパァンと弾け割れたのである。
臓物等の形も残さず細かい飛沫が雨粒の様であった血は、アリシアの頭上に降り注がれた。
「あ、あ、あ……っ」
あまりの衝撃にショックを受け、上手く声も出せない。
これは、一体これは……、何?
顔を拭って掌を広げて見れば、月の光りに照らされてハッキリとそれが見えた。──真っ赤な血である。生臭い鉄の臭いが、アリシアの鼻を酷くついた。
「うっ……」
臭いに反応してか、吐き気に耐え切れずにその場で嘔吐した。血の臭いは纏わり付いていて、アリシアから離れない。
「う、はぁ、はあ……っ」
泉が視界に入り、アリシアは足をもたつかせながら必死になって飛び込んだ。
「……っだ、やだ、やだ、やだぁ!」
早くこの臭いを取りたい、洗わなきゃと、全身に浴びた男達の血を、泉の水で洗い落とそうとしたのである。
一方でメルサは、未だ森林の中を一人で歩いていた。アリシアを置いて帰る事に微塵も心は痛まない。むしろ清々しいとさえ思っていた。
──今夜はぐっすりと寝れそうだわ。
晴天の如く微笑を口角に漂わせたメルサの背後で、何者かの気配がした。──否、メルサはそれが誰であるのかを知っている。
「心は晴れた?」
決して忘れる事の出来ぬ相手の声に、胸は高鳴る。メルサは急いで声のした方へ振り向いた。
「ヒソカ……!」
「随分と悪趣味だよね♦︎ それとも、イイ趣味してるって言った方が良い?」
トランプ一枚を片手で何度も出し入れするヒソカは、メルサに妖しく微笑みかけた。
「見てたの……?」
「うん♠︎ 途中からだけど♣︎」
メルサに言い知れぬ緊張が走る。
「あなたを愛してたからよ! あなたを愛して愛して、憎くて憎くて……。あんな
涙を流しながら訴える哀れな女。そんなメルサを見つめながら、ヒソカは堪らなく可笑しく思った。
「だからアリシアを騙してあんな事を? ……本当、キミって滑稽なんだけど♣︎ それをボクに言ったところでどうなると言うの? 期待に応えるとでも?」
「あなたを愛してるの……」
「ンフフ……。薄っぺらいね♣︎」
緩んでいた口元が下がり、冷たい表情へと変化する。
「キミはボクの大切な玩具を酷く傷付けた。──ボクよりも先に、ね♦︎」
ヒソカの周りのオーラが揺らいだ。
「……殺すの?」
「勿論♠ そのつもりだよ♦︎」
「今頃あの
動揺させるつもりだったのか。アリシアの今の状況を口に出すも、ヒソカの表情は一つも変わらなかった。
「彼女はね、キミなんかよりもずっとずっとずーっと素晴らしい強さを持っているよ♦︎ 今頃あの三人の男達は、形も残ってないんじゃないかなぁ?」
そう言ってペろりと唇を舐めるヒソカに対し、もう引き返す事の出来ない恐怖を感じたメルサは、退がるでもなく前へ、ヒソカへと向かった。
「あの
「──そんな残酷なボクを、キミは愛したんだろ?」
メルサは自らを嘲笑うかのように、『ええ……』と力なく答える。
「本気で人を愛する感情なんて、あなたはわからないんでしょうね」
「そうだね♠︎ でも、大切な果実を大事に愛でる気持ちはあるさ♦︎」
「それは本当の愛じゃないのよ」
「……面白いことを言うね♣︎」
メルサは瞳から更に一滴涙を垂らし、ヒソカを愛おしむように見つめた。
「あい、し────」
瞬きをする間も無かった。何かを言いかけたメルサの首が、身体から離れてしまったからだ。
「今度こそ、さようなら♣︎」
ごろりと地面に横たわるメルサの瞳は、最期までヒソカを映していた。