エスパー・ボール・ピュア   作:五億人に一人のラッキーガイ

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この前の限定のゆっこ、最初に見たとき藍子だと思いました。今でもそう思ってます。


過度な期待はするな

 私が黄金の鉄球に手を触れたとき、世界が一周した。

 何を言っているのかわからないかもしれないけれど、私もなにが起こったかわからなかった。黄金の回転に巻き込まれたと思ったら、私の頭の中には無数の情報がねじ込まれていく。

 なにが起こったのかわからなかった。

 ありもしないはずの出来事を、確かな経験として私は認識している。

 一度も会ったことのない人と楽しげに笑いあっている私がいた。

 初めて見る人にジュースを奢ってもらう私がいた。

 顔も知らないはずの人と、必死でポーカーをしている私がいた。

 怒られて励まされて、めげずに何度も立ち上がる私がいた。

 

 知らないはずの出来事なのに、私はそれを知っている。経験してきている。その時間を生きている。

 まるでその時間を見てきたかのように、私は彼のことを理解しているのだ。

 

 頭がどうにかなりそうだ。

 あの鉄球に触れた一瞬で、まるで一回の人生を体験しきったような、そんな何とも言い難い気分を味わった。

 私は一体全体なにをしているんだろう。

 たしかプロデューサーと一緒に会場まで行って.....。

 いや待ってほしい。私はプロデューサーと会うのは初めてのはずだ。

 そもそも私はどうして彼がプロデューサーだとわかったんだ。

 でも間違いなくプロデューサーはプロデューサーであって、私はその担当アイドル.....。

 待って。

 私はアイドルなんかじゃないし、彼とは初対面だ。

 思考が混乱してまとまらない。

 これは催眠術なんてチャチなもんじゃあ断じてない。なにか、もっと恐ろしいもの片鱗を味わった気がした。

「ハァ、だから鉄球には触るなと言ったんだ。アンタが人の話を聞かないからそうなったんだぜ。オレはしっかりと注意したからな。それは全部アンタの自業自得だ」

 私はこの言葉を一度聞いている。

 鉄球の回転に巻き込まれた私にプロデューサーが声を.....。あぁ、まただ。私はどうして、初対面のはずのこの人を自分のプロデューサーだと思ってしまうんだろう。

 目の前の彼に対して、どうしようもなく心を許している私がいる。

 それが、なんともわからない恐怖となって私に襲い掛かってくる。知らないはずなのに、私には彼と一緒に過ごしてきた記憶があるのだ。

「.....プロデューサー.....」

 つい口から出た私の言葉に、彼は心底驚いたようだった。

 私から大きく離れると、なにか見えないものからの攻撃を防ぐようにあたりを観察している。しばらく周囲を警戒していたプロデューサーだったが、どうやら目ぼしい情報はなにも手に入らなかったようだ。

「アンタ.....なぜオレをプロデューサーと呼んだ」

 プロデューサーは私のことを警戒しながら、そう聞いてきました。

 なんと説明したらいいのでしょう。

 本当のことを言っても信じてもらえるわけがありませんし、あなたに運命を見たとでも言えばいいのでしょうか。

 いえ、それではまるでまゆちゃんみたい.....またです。

 私の知らないはずの人の名前がまた出てきた。でも今度はどうしてでしょうか。どうにも記憶が朧気というか、なんというか。

 まるで霧が張ったみたいで不明瞭です。

 なんて言えばいいんでしょうか。友達の友達の名前をすぐに思いだせないみたいな感じです。

「おい!聞いているのかッ!?オレは何故だと言っているんだぜ!」

 あぁ、頭の中がこんがらがってしまいます。現実と妄想がごちゃまぜになってしまったみたいに、どの記憶が正しいものなのかわからなくなってきました。

 なにか、なにか言わなくては!

 こんな時はプロデューサーに相談して.....いえ、これは私の知るはずのない。

「.....あなたは、誰、ですか.....私は.....」

 思考が、どんどん、おかしな方向に.....。

 自分の言っていることすら、わからなくなって。

 私はついさっきまでステージの上にいたはずでは、あれ、私は一体、なにを、言ってるんでしょう。

「さっきからアンタどうもおかしいぜ!一体全体なんだってこんな.....」

 あれ、おかしいな。なんだか急に視界がぼやけて。頭が痛い、足元がフラフラする、吐き気もある。

 こんな、さっきはではなんともなかったの、に.....。

「おいッ!!いきなり倒れちまって、どうしたんだよ!?クソ、今日はとんだ厄日だぜ」

 

 

 頭が痛いです。車酔いのあとみたいで、とっても気分が悪くて。

 うぅ。私、いったいどうしたんでしょう。さっきまで公園でサイキックパワーの修行をしていたはずなのに.....。

「あれ.....ここドコだろう?」

 私の目の前には、知らない天井が広がっていました。どうやら私は事務所か何かのソファに寝かされているようです。

「もしかして.....私のサイキックパワーで瞬間移動したんじゃ」

 可能性としては大いにあり得ます。これまでの努力が報われて、ついに神様が私にサイキックパワーをくれたのかもしれません!

 .....でも、それって要は不法侵入ってことですよね。

 もしかして私って、けっこうピンチだったりしますか?いや、そんなはずないですよね。だって私ってサイキッカーですし。こんな状況、余裕でなんやかんやできますし?

 

 マズいです。

 これはとってもとってもマズいですよ。

 

『そこで問題です。私はどうやってこの事務所(仮)を抜け出せばいいのでしょうか』

 三択の中からひとつだけ選びなさい

1、ハイパーサイキッカーな堀裕子は突如この危機を脱するための能力に目覚める

2、仲間が来て助けてくれる(仲間がいるとは言っていない)

3、抜け出せない。現実は非常である

 

 1を選べれば良いんですが、正直なところこの土壇場にそんなことが起こらないのは私が一番よく分かってます。ここは堅実に2、でしょうか。仲間って言えるような仲間なんていた覚えがないですけど。

 .....はぁ。現実逃避はここで終わりにします。

 とりあえずコッソリこの事務所(仮)を出る!簡単なことじゃあないですか。私からしてみればこんなイージーなこと、たとえサイキックパワーがなくたって楽勝ですよ。

 

 ガチャ。

「あ、やっと起きたんですね!プロデューサーがいきなり連れてくるから、いったい何事かと思っちゃいました!」

 ア、オワタ。

 このどことなくピュア属性ありそうな娘、タイミング悪すぎじゃないですかね。瞬間移動の代償、高すぎ.....。

 いや、でもちょっとまってください。いまこの娘、私が連れてこられたって言ってませんでした?

 私は瞬間移動でここにきたんじゃ.....。

「暑さにやられて倒れちゃったって聞きましたよ。まあ座って水でも飲んでいてください。わたしはプロデューサーを呼んできますから」

 それだけ言うと、女の子は事務所を出ていった。

 

 あ~なるほど。私が熱中症か何かで倒れたところを、たまたまココに運び込まれたってことですか。それは、まあ、なんと言いますか.....。

 私って、瞬間移動ができるようになったわけじゃなかったんですね。

 特にすごいことが起きたわけでも、超常現象があったわけでもなく、ただの熱中症。

 なんていうか、もう。全力の肩透かしを喰らったかのような、もうなんか、もう。空しい。

「ハァ.....あっ冷たい」

 水の入ったコップが、私にはやたらと冷たく感じられました。

 

 

 いいか、テメエのそれはただの思い違いだ。『奇跡』なんてもんはそうそう起こったりはしないし、コレはそんな御大層な代物じゃあ断じてねえ。

 とりあえずオレからアンタに言えるのはこれだけだ。

「過度な期待はするな」

 

 




いくつか考えていたパターンのうち、一番不可思議そうなものにしました。
まあ、ジョジョ五部のアニメもそろそろ終わるので、六部のネタを挟みたかったんです。申し訳ない。
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