目を覚ますと段ボールがポツンと置かれただけの簡素な部屋だった。
私は痛む頭を押さえながら上体を起こす。
「はわわっ!びっくりしたのです!」
そう言って私の様子を伺っていた電ちゃんがあたふたする。
「いや、電ちゃんのせいだよね、この頭の痛みは?」
「え?何の事でしょうか?」
「しらばっくれないでよ、電ちゃん」
私は溜め息を吐くと周囲を見渡し、窓に気付いて近付く。
ああ。なんか、昔見た港っぽい。
「ーーさて、早速、用件を聞こうか?
なんとかして欲しい相手って誰?」
「司令官さん、メタ発言をしても?」
「いいよ」
電ちゃんにそう言うと私は段ボールに置かれた海図を見せられる。
うん。鎮守府以外は出てないね。
此処まで来るとどれだけ艦これ愛がないか解る。
「えっと、これが何か?」
「これが司令官さんの今、見れるマップなのです。
それでこれが問題のマップなのです」
そう言って、電ちゃんがもう一つのマップを見せる。
え?なにこれ?
見た事ないマップのマスが全部制覇されてる。
オリョクールとか聞いた事はある程度だけど、あるんだ。
……あれ?
「この記号は何?」
「妖精さんの印です」
「……は?」
そう言われて、私はしばし、その記号について考える。
かなり、メタな発言をするならば、これはアーマードコアとのクロスオーバー作品だ。
タグも用意したしね。
……いや、ちょっと待てよ。
この記号がアレを意味するなら……。
嫌な予感がする。
「えっと、これって、どう見ても⑨だよね?」
「はい。艦これ改の妖精さんの印です」
「……なんて、妖精?」
「H-1です」
「はい!無理!陰猫(改)提督グダグダ艦これ話、完!」
「はわわっ!逃げないで下さい!」
私が逃げようとすると電ちゃんが服の裾を引っ張って止める。
アーマードコアを知らない人達にも教えよう。
H-1ーーハスラーワンとはアーマードコアのアリーナと呼ばれるランクのナンバー1だ。
機体名を言えば、多分、覚えている人はいるだろう。ナインボールの事である。
H-1とはアーマードコアになくてはならないAIで、その機体であるナインボールは倒しても倒しても出て来る。
更に終盤では有名なあの機体ーーナインボール・セラフを出して襲って来るのだ。
詳しくはアーマードコア【マスターオブアリーナ】をプレイだ。
プ○イス○ーションク○シックも出てるし、遊んで見てね?
P○3のア○ザー○ンチュリーエ○ソードRには隠しボスとしても出て来るぞ。
因みに条件次第では使えるとの事だ。
ぶっちゃけ、そんなのと底辺な私がやり合っても勝てる訳がない。
「無理ったら、無理!
ブレードで一閃されて詰む!」
「落ち着いて下さい!何も妖精さんと戦えなんて言いませんから!」
「……本当に?」
私は立ち止まると裾を引っ張る電ちゃんに顔を向ける。
「そもそも、私達が妖精さんと戦うとか敵対するとかあり得ません」
「そうなの?」
「そう言うプログラムですから」
随分とまあ、メタな発言だな。
あれ?それなら私が呼ばれた理由って何?
いや、そもそも、なんでハスラーワンが艦これ改のプログラムなの?
会社違くない?
色々疑問があるから、電ちゃんに聞いて見よう。
「それじゃあ、私は何で呼ばれたの?
理由とかないよね?」
「……」
そこで電ちゃんが俯く。
「電ちゃん?」
もしかして、私に会いたかっただけ?
いやいや、私にはーー
「……力を持ち過ぎたもの……秩序を破壊するもの」
「え?」
「プログラムには不要だ」
電ちゃんはそう言うと私から手を放し、砲頭を向ける。
「ぎゃあああああぁぁぁーーっっ!!」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
私は電ちゃんーーのプログラムに潜むH-1ことハスラーワンから逃げようする。
電ちゃんの姿をしたハスラーワンは逃げる私をなぶる様にゆっくりと歩み寄って来る。
そして、とうとう壁まで追い詰められた。
どうするどうする!?
混乱する頭を少しでも落ち着けながら、私は深呼吸する。
そこで、ふと、私の脳裏にあるものがよぎった。
「……私は……秩序を守る」
私がそう言うとハスラーワンが動きを止める。
「……修正プログラム……起動……艦これを起動しますか?」
「たまにでよければ……」
「……全システム……チェック終了」
ハスラーワンはそう言うと電ちゃんの腕についた砲頭を下ろす。
……ほっ。
なんとか、説得(?)に成功したようだ。
「……鎮守府……深海棲艦……そして、提督。
全ては私が作り出した」
「うん。自分が作ったモノだからプレイして欲しかったんだね?」
私はそう言うとハスラーワンの頭を撫でる。
「ごめんね、ハスラーワンーーいや、艦これ改の妖精さん。
また艦これやるからね……気が向いたらだけど」
そう言うと私の視界が真っ白になる。
【……目標を達成……システム……通常モードに移行】
そこで私は目を覚ます。
今回は積みゲーの構ってだったか……ああ。良かった。
私は一息吐くとゲーム機を取り出し、艦これ改を起動する。
そして、電ちゃんの頭をタップした。
『プログラムには不要だ』
【完】