いつもの場所、それは2人がいつもお茶をしている茶房旧茶屋亭であった。そこで聖良とあつこはいつもの場所、大通りが見える窓のそばのテーブルに向かい合って座った。そして、座ってまもなく、聖良はあつこに対し、あつこの真意を問うた。
「あつこ、ここに来て間もないけれど、まわりくどいことはいやだから、ずばり言います。あつこ、なぜ、理亜のユニットを抜けたのですか?正直に答えてください」
そんな聖良の真摯な質問、これには、あつこ、
(聖良さんが真剣な表情で私に尋ねてきている・・・。これはどうごまかしても聖良さんは納得しないだろう。正直に理亜さんのユニットを抜けた理由を述べよう・・・)
と、ここは正直に聖良に本当のことを言おうと心に誓うと聖良に対し真剣な表情で理亜のユニットを抜けた理由を正直に述べた。
「私としては聖良さんのお願いもあってか当初は理亜さんのユニットから抜けようとは思っていませんでした。でも、最初のころ、みんなと一緒にユニットを結成したころと比べて、今の理亜さんは変わってしまいました。昔はわきあいあいしていたのがうそだと思えるくらいに変わってしまいました、理亜さんは。まさか、理亜さん、私たちに対して無謀といえるくらいの練習を課するようになってしまうなんて思っていなかったです。そして、たとえ、その練習によって疲れて転倒してしまったとしても、理亜さん、そんな私たちを責めようとしてきました。それを見て、私、はっとしました。昔の私みたいに、無謀といえる練習によって大ケガしたことにより、私に期待していたまわりの人たちをがっかりさせてしまう、落胆させてしまう、そんな私の二の舞にならないように、それをわからせるために理亜さんのユニットから抜けることにしたのです。特に、聖良さん、あなたの落胆した様子、私は見たくありません!!」
このあつこの真意を聞いて、聖良、
「あつこ、もしかして、昔のこと、まだ引きずっているのですか・・・」
と、あつこに対し少し心配そうに言うと、あつこ、自分の足をあげては靴下を脱いで昔の古傷を聖良に見せながらこう答えた。
「この傷は私にとってある種の聖痕、スティグマです!!私にとってあの日の出来事はこのスティグマによっていつでもよみがえってくるのです!!このスティグマを見ると、私、あのときの愚かさを身をもって思い返してしまうのです!!このスティグマこそ、この私の過ち、そのものであり、それは、あのときに私に期待していたまわりのみんなの落胆する姿、それを思い返してしまう、いや、もう、みんなの落胆させない、そう心に誓った、その心の誓い、それを証明するものなのです!!」
そして、あつこはある少女の物語を語り初めた。
「聖良さん、私、ある少女の、ある女性のスポーツ選手、あるフィギュアスケートの若い女性選手の残酷すぎるお話をします。聖良さん、ちゃんと聞いていてください」
このあつこの言葉に、聖良、
「は、はい・・・」
と、ただうなずくしかなかった・・・。
(あつこ)
「今から私が語る物語、それは、将来を有望視された、そんなフィギュアスケート選手だった少女の悲しい物語・・・。
昔、この函館の地に将来を有望視された少女がいました。彼女は小さいときからフィギュアスケートに取り組んでいました。そんな少女でしたが、たぐいまれな運動センスや音楽センス、そして、どんな練習すらも音をあげずに前向きに取り組んでいった結果、彼女のフィギュアスケート選手としての実力はめきめきと上達していきました。そして、その実力が開花したのか、小学高学年のとき、各地で行われたフィギュアスケートの大会でいつも上位に食い込むような成績を残していきました。そんな彼女のまわりにいた人たちはその少女について、「あのオリンピック金メダリストの再来」「将来はオリンピックの金メダリストになれる!!」と太鼓判を押すくらい、彼女はフィギュア選手として将来を有望視されるようになりました。そんなまわりからの人たちの期待に応えたのか、その少女は一生懸命フィギュアを頑張りました。その結果、その少女が12歳のとき、日本のジュニアの大会で優勝、それにより、その少女は日本中で名声を響き渡らせただけでなく、日本のフィギュアスケート界をしょって立つ少女として有名になりました」
このあつこの語りに、聖良、あることに気付く。
(そ、それって、もしかして・・・)
だが、聖良のことは無視したのか、あつこ、そのまま、その少女の悲劇の物語の続きを語り始めた。
(あつこ)
「けれど、その少女にも女性フィギュアスケート選手に必ず訪れてしまう、恐ろしい壁にぶつかってしまいます。それは・・・、
成長・・・、厳密には、第二次性徴・・・。
この時期、少女の体にも大きな変化が訪れていました。胸などの発達などにより、昔の体形とは全く違う、背が伸び、女性らしい体つきになってしまう、そんな体型変化により、その少女は昔の自分が跳ぶことができたジャンプすら跳ぶことができない、いや、最盛期、つまり、ジュニアの大会で優勝していたときに感じていた(跳ぶときなどの)感覚とは違うものを、その感覚のズレを感じるようになり、それによってその少女はフィギュア選手としての大きなスランプに陥ってしまいました。けれど、そんなことすら知らないまわりの人たちからは、「不調の原因は木の迷いからだ!!」「単なる経験不足だ!!もっと練習しろ!!」「もっと根性みせろ!!」という、その少女が抱える悩み、大スランプすら気にしないような声が次々ときていました。
ただ、普通ならそんなヤジみたいなものは気にしない、それよりも、自分のことを大事にしつつも復活のために自分のペースで練習をすべき、そうなるのがよかったのですが、その少女は違っていました。その少女は小さいときからフィギュアを通じてまわりのみんなから期待されて育ってきた、そのために、その少女は、「自分の不調の原因は気の迷いのせいなんだ!!もっともっと練習して、昔みたいないい成績を残さないと・・・、昔みたいに勝ち続けないと・・・」と思い込み、普通のフィギュア選手の倍ともいえる練習をこなしてしまいました。ただ、それについてはその少女は自分の体の成長のせいで昔の感覚と今の感覚にズレが生じていた、それによる不調、大スランプに陥っている、と薄々と感じていたのかもしれません。けれど、まわりからのその少女のことなんてまるで心配していない、そんな心無いヤジのためにそれすら忘れようとしていたのかもしれません・・・」
このあつこの語りに、聖良、
(それって、やっぱり、あの子のことでは・・・)
と、その少女の正体に薄々と感じていた。だが、あつこ、そんなこと気にすることなく、物語の続きをまた語り始める。ついに悲劇の少女の物語も佳境を迎える。
(あつこ)
「しかし、その少女がいくら頑張っても、いくら連取しても、昔みたいな優秀な成績を残すことができませんでした。そのため、まわりのみんなからは「もう限界を迎えているのでは?」「単なる甘えだ!!自分に甘えるな!!もっと練習しろ!!」「もっともっと練習しろ!!そうすればきっと昔みたいにいい成績を残せるはずだ!!」、そんな少女の苦悩すら無視するような言葉が飛び交っていました。普通なら無視した方がいいものの、その少女はその言葉たちすら真面目に聞いてしまい、「もっと練習しないと、もっと練習しないと、昔たいな栄光を、昔みたいな優秀な成績を残すことができない、昔みたいに勝つことができない!!」、そう思ったのか、それとも、そうあるべきと自分をさらに追い詰めてしまったのか、その少女は普通のフィギュア選手の倍の倍、普通ならどんな人間だって音をあげてしまう、いや、人間の限界を超えた練習を自分い課すようになりました。普通なら音をあげるくらいの限界を超えた練習、むろん、それによってその少女の体のいろんなところから悲鳴に近いようなものが発せられたのですが、その少女は、「それこそ自分い対する甘えからくるものだ!!もっともっと頑張らないと・・・」と、自分を律する、いや、無理をしてでももっと練習をしないと、もっとみんなの声に応えないと、と、そのことだけを考えて、たとえ無理をしてでも、限界を超えたとしても、その限界を超えた練習を続けてしましました。
だが、その少女のその先にあったのは、地獄、いや、地獄より恐ろしい、絶望、という名の運命でした。限界を超えた練習に次ぐ練習、、それにより悲鳴をあげる少女の体、それでも少女はその悲鳴すら無視して限界を超えた練習に明け暮れていた・・・。それにより、ついにその少女は限界を・・・崩壊を迎えてしまう。
その少女の中学最後の大会、限界を超えた練習に次ぐ練習により少女の体は疲労困憊、いや、限界を迎えていた。それでも無理して大会に出場、でも、縁起の最中、その練習のかいもあってか、高難易度のジャンプや演技を次々とこなしていった。そして、迎えた最後の大ジャンプ、ここで決まれば優勝間違いなし、そんなときだった。これまでの限界を超えた練習による疲労のせいか、一瞬、態勢が崩れてしまう。それでも必死になって態勢を戻そうとするも、ここでも無理な練習をし続けてきたツケがまわってきたのか、少女の体は言うことをきかない、まるで、制御不能の状態に少女は陥ってしまった。
そして、その少女に訪れたのは、無、だった。一瞬、体が宙に浮かんだと思うと、その少女の体は重力により落下、そのまま氷へとたたきつけられてしまいました。だが、その少女の悲劇はここでは終わりませんでした。最後の大ジャンプ、ということで、勢いよく滑っていたのがあだとなりました。地面にたたきつけられたと思うとその少女の体はそのまま氷の上を滑るようにスケートリンクの壁めがけて猛スピードで一直線!!誰も止めることができずにそのまま壁に激突してしまいました。
この事故により、その少女は体の何か所も複雑骨折しただけではなく、これまでの無理な練習、それによってできた事故のツケがまわったのか、自分の足にも深い傷が残りました。本当に最悪ともとれる結果を招いてしまった、いや、それ以上に、その少女の心には、深い深い、修復不可能な傷が残ってしまいました。
しかし、それ以上にその少女にとってショックだったのは大ケガをした少女に対するまわりからの声でした。「とても期待していたのに・・・」「期待外れもいいとこだ!!」「こんな大ケガをするなんて、本当に根性が足りないからだ!!」、そんなまわりから聞こえてくる落胆の声、失望ともとれる声はその少女の生きる希望すら奪うものでした。こうして、その少女はフィギュアスケートを続けることを諦めざるをえませんでした。
これがとても愚かな少女のお話、昔の栄光を取り戻すために、みんなの声に応えるために無理をしてしまった結果、もうフィギュアスケートすらできない、そんな残酷な運命を背負ってしまった、いや、それ以上に、まわりのみんなから最初は期待されるも最後は落胆、失望されてしまった、本当に恐ろしい、いや、本当に愚かな少女の物語・・・」
あつこはそう言うと、ストーリーテラーとしての役目を終えた・・・。