次の日の昼休みの時間、月はナギを連れてある1年の教室を訪れていた。そのとき、月はその教室にいる生徒が集まっているところに行き、
「ねっ、ちょっといいかな?」
と、その生徒たちに声をかけると、その生徒の1人が、
「あっ、月生徒会長!!こ、こんにちは!!」
と、ちょっと緊張しながら月に挨拶する。その生徒に対し、月は、
「いやぁ、緊張しなくてもいいよ。もっとリラックスしてもいいんだよ。そこまで堅苦しいことを言いにきたわけじゃないからね」
と、少しでもその生徒の緊張をほぐそうとしていた。が、これには、その生徒、おもわず、
「あっ、ありがとう、ございます!!」
と、逆に緊張を強めてしまった。これを見ていたナギ、これでは埒が明かないということで、
「実は、みんなにお願いがあるんだ」
と言って、月が考えた木松悪斗への対抗策の説明をし、それに参加してもらえるようお願いした。が、
「でも、それって、私たちにとって意味あるものですか?」
と、そこにいるほとんどの生徒たちがその策に懐疑的に見ていた。さらには、
「私はその策はとてもいいと思いますが、親から、「絶対に浦の星との統合については反対しなさい、じゃないと、将来のためにならないからね」って、言われていますので、参加できません」
と、丁寧に参加を断る生徒もいた。これには、月、
(こりゃ、木松悪斗の考えが生徒たちにも浸透しているのでは・・・)
と、すぐに感じた。まず、月の策に懐疑的な生徒たちからすれば、浦の星との統合など大人たちに任せればいい、自分たちは静真で勉強さえしていれば高校も卒業できるし、自分が行きたい大学にだって進学できる、逆に、なにか行動を起こして、それが大問題に発展すれば、内申点にも響く、そうしたら、自分の行きたい大学に進学することなんてできない、そんなふうに考えているのかもしれない、と、月はそう考えていた。さらに、「策には賛成だけど、親から反対しなさいって言われているから参加出来ない」と言った生徒に関しては哀れとしかいえない、と、月はそう思ってしまう。なぜなら、静真の部活動については「木松悪斗が言っていることが絶対である」といった認識が静真の部活動に参加している生徒たち、そして、その保護者たちのあいだで広がっていたから。廃校寸前だった静真を建て直し、さらには、静真の部活動を全国大会の常連といえる部活を数多く持てるほどに実力をあげてくれた木松悪斗に対し、静真の理事長以下、理事の面々、そして、部活の(先生側の)部長をしている先生たち、さらには、静真の部活動に参加している生徒の保護者からは王様かそれ以上の存在として見られていた。木松悪斗もそのことは自覚しており、それを逆手にとって、静真のなかで権力?を振りかざしていた。たとえば、自分に反抗した理事をそこに通うその理事の子ともども静真、いや、沼津から追い出したり、静真が自分にとって不利益になるような方針をとろうとすると、自分の息がかかった理事、というよりも、理事全員を動かしてその方針を撤回させたり、などなど、静真の王様というくらいの権力を持っていた?で、今回の浦の星との統合の件も、浦の星の大スポンサーだった小原家のお金を使い、静真への寄付をもっと増やし、静真をもっと有名にし、それでもって、静真に大きな影響力を持つ自分の名声をさらに高めようとする、そんな皮算用があったために今まで賛成だったのだ。が、小原財閥、というよりも小原家が静真への寄付を拒絶したことにより、その皮算用が弾けただけでなく、浦の星という余計なものまで静真に入ってくる、それこそ自分にとって不利益になる、そう木松悪斗が判断したため、今になって木松悪斗は統合反対に転じたのだ。とはいえ、静真のなかでは絶対的な権力?を持つ木松悪斗が浦の星との統合に反対しているので、静真の理事たち、部活動に関係のある先生や保護者たちは木松悪斗の逆鱗に触れてしまえばどうなるかわからない、という恐怖で浦の星との統合については反対票を投じざるをえなかった。で、それが保護者を通じてその子どもである生徒たちにもその影響が出てしまっていた。月はそのことをこの場で実感していたのだ。
しかし、月、ここで引き下がらなかった。そんな月の策に懐疑的、そして、親の命令で浦の星との統合に反対している生徒たちに対し、月はあることを訴えた。それは・・・。
「みんな、聞いて!!もし、浦の星との統合がなくなったら、浦の星の生徒たちはみな行き場をなくして困ってしまうの!!僕、そんな困って途方に暮れて泣いている浦の星の生徒たちの姿を思い浮かぶととても悲しくなってしまう!!僕、実は、自分にとって大親友と呼べる友達が今、浦の星に通っているんだ。でも、統合が中止になって、浦の星がなくなったりすると、その友達、とても悲しんでしまうよ!!だからね、お願い、浦の星に通っている生徒たち、いや、友達のために参加して・・・」
この月の訴えに、これまで月の策に懐疑的、反対だった生徒たちは、
「でも・・・」
「月生徒会長の話を聞くと賛成したいのはやまやまなんですけど、でも、親からは・・・」
と、ちょっと躊躇してしまった。
そんなときだった。突然横から、
「私は月生徒会長の策に賛成です!!私、参加します!!」
と、大きな声で月の策に賛同することを表明した少女がいた。それに気づいた月、
「えっ、誰?」
と、まわりを見渡す。するおt、その少女が立ち上がり、月のところまで来ると、
「私は月生徒会長の言うことに賛成です。だって、私の友達、と、言えるかわかりませんが、中学生のときに知っている子が今浦の星に通っているんです!!その子、少し中二病患っていて、ときたま、自分のこと「堕天使ヨハネ!!」と称して(中学校の)校舎の屋上に上っては不思議なことを言ってしまう、とてもイタめな子なんですけど、それでも、私にとっては大事な大事なお友達、なんです!!その子を困らせることなんて出来ません!!その子のためにも絶対に浦の星との統合を実現させたいのです!!」
と、大きな声でみんなに聞こえるように言った。これにはこれまで懐疑的、反対している生徒たちからも、
「たしかに。私にも浦の星に通っている友達いるもんね」
「その友達が困らせるようなこと、それを静真の大人たちがしようとしていること、それって、自分たちから見たら、知らないうちにその子たちに迷惑かけていることにならない。それってとてもいやだよ」
と、だんだん月の策に賛同する生徒たちが増えていった。それを見たナギ、「ここだ!!」と思い、
「それじゃ、月生徒会長に賛同してくれる方はこちらに・・・」
と、もくもくと生徒たちにあることをさせる。とても簡単なことである。が、それをするためには自分の想い、考えをしっかり持つ、それが必要だった。そして、それをした生徒たちは浦の星にいる友達のために、月の考え、策に賛同したのだった。
そして、突然の発言で懐疑的、反対していた生徒たちを賛成へと導いてくれた少女も月とナギの前でその行為をすると、突然、月が、
「本当にありがとうね。あなたの率直な発言がなかったら、今やどうなっていたのかわからなかったよ」
と、その少女に御礼を言うと、その少女はすぐに、
「だって、私、中二病を患っているその子と仲良くなりたい、と、中学のときにずっと思っていたのですが、その子、不登校気味で、中学校で会うことができないまま中学を卒業しちゃって、その子は浦の星に、私は静真と別々の高校に進学しちゃったんです。だから、私、その子と友達になりたい、その心残りがあるのです。だから、今度の統合でその心残りを解消できたら、そう思って、月生徒会長の考え、策に賛同したのです」
と、答えた。これには月、
「でも、本当に賛同してくれてありがとうね」
と、その少女にあらためて御礼を言うと、その少女も、
「いやいや」
と、少し謙遜していた。
そんなときだった。月はあることに気づいた。
(あれっ?たしか、この少女の友達?って「中二病を患っている」「ときどき「堕天使ヨハネ!!」と称している」って言っていたよね。たしか、曜ちゃんがいるAqoursにそれに似た子、いたような気がするけど・・・)
で、月、すぐにその少女に尋ねた。
「で、あなたが中学のときに友達になりたかった子の名前ってなにかな?」
すると、その少女はその子の名前を言った。
「たしか、苗字は・・・津島、あっ、津島善子!!善子ちゃん!!今は浦の星のスクールアイドルAqoursの一員として頑張っているはずですよ!!」
これを聞いた月、おもわず、
「えっ、あの善子ちゃん!!僕、知っているよ!!あのAqoursの善子ちゃん、だよね!!」
と言うと、その少女も、
「えっ、善子ちゃんのこと、知っているのですか!!私、月生徒会長が善子ちゃんのこと、知っているなんて、びっくりです!!」
と、目をパチクリしながら驚いてしまう。月はこれに対し、
「僕は善子ちゃんにあったことはないけれど、僕の大親友がAqoursの一員でね、その大親友と話すときによく善子ちゃんのこと、話題にしているんだ~」
と、喜びながら言うと、その少女も、
「えっ、月生徒会長の親友ってAqoursの一員なんですか!!誰ですか?」
と、月に向かって興奮しながら言うと、月、
「渡辺曜ちゃん!!曜ちゃんと僕はいとこ同士で大親友といえる仲なんだ~」
と、少し自慢げに言うと、その少女も、
「それは凄い!!Aqoursのなかでも1,2位の人気を誇る曜ちゃんといとこ同士で大親友だなんて、凄いです!!凄いです!!」
と、こちらも興奮気味で話していた。
そんな、興奮状態の2人に対し、ナギ、冷静に、
「月生徒会長、あともう少しで昼休みが終わります。すぐに自分の教室に戻らないと」
と、月に忠告する。月、これに対し、
「あっ、あともう少しで昼休みが終わっちゃう!!また、今度、Aqoursについて話しましょうね。で、あなたのお名前は?」
と、その少女に名前を聞くと、その少女は元気よく自分の名前を言った。
「稲荷、稲荷あげはです!!」
これには、月、
「あげはちゃんね。また、あとでね!!」
と、元気よく別れの言葉を言った。
そして、月は自分の教室に戻る・・・前に、月の策に賛同してくれた生徒たちの前に戻り、その生徒たちにあることを尋ねた。
「ところで、君たちにとって部活動ってなに?」
唐突な質問にほとんどの生徒たちはただただうなるしかなかった。が、そのなかで、ある生徒が月の質問に答えた。
「私たちにとって部活って「勝つことがすべてだ」と思います。勝つために日夜自分に対してきつい練習を課しています。特に高校の大会はそのほとんどがトーナメント戦だから、負けたらそこで終わりです。そう考えると、勝ち続けないといけない、勝ち続けるには日々の鍛錬こそすべてです。真面目にこつこつとやっていくこと、そして、それにより勝ち続けること、それこそ大事だと思います」
で、この生徒の意見を聞いた生徒たちは次々と、
「それもそうだね」
「それって(全国大会に出場できる部活を数多く持っている)静真にとってとても大事な考え方だよね」
と、その生徒の意見に次々に賛同していく。これには、月、
(本当にそうなのかな?僕、それって、今を生きる僕たちにとってとても危険な思想、考え方にならないかな?そう思うと、もっと大切なものがなにか、大事なものがなにか、あると思うんだけどなぁ。でも、今の僕にはまだそれがなになのか、わからない・・・)
と、その生徒の意見を否定しつつ、それに代わるなにかがわからない自分に対し少し悔しい思いを持ってしまった。
こうして、月たち生徒会一同が行動を起こして1週間が経ったある日、
「た、大変です、月、生徒会長!!」
と、突然月のいる生徒会室にナギが叫びながら飛び込んできた。それに、月、
「騒がしいですよ、ナギ副会長。さぁ、これを飲んで落ち着きなさい」
と、紙コップに入れた水をナギに勧める。ナギ、それを一気に飲み干すと、月に対してある知らせを伝えた。
「月生徒会長、ついに決まりました!!明日の夕方、学校の会議室で臨時理事会が行われます!!」
これを聞いた月、
(ついに木松悪斗が勝負にでましたか。木松悪斗にとってみたら、下準備はすでに終わった、ってことかな)
と、木松悪斗が考えていることを想像していた。静真の理事会は月1回定期的に行われる通常理事会と臨時に行われる臨時理事会の2つがある。で、月1回の通常理事会はすでに3週間前に行われていた。なので、もし、次の通常理事会で静真と浦の星の統合について協議するのであれば、あと1週間ぐらい待たないといけない。で、今、現時点は2018年2月末である。そんでもって、次回の通常理事会が行われるのが3月上旬。こうなると、もし、通常理事会で木松悪斗たちの思惑通り、浦の星との統合中止、白紙撤回が決まったとしても、そのあとに発生する統合中止にむけた作業の期間はたった2週間ととても短い。だって、3月上旬の3週間後って4月である。新しい年度が始まってしまうのだ。と、いうわけで、たった3週間で統合中止に向けた作業を行うのは酷だといえる。結果、たとえ、木松悪斗の力をもってしても、3月上旬に行われる通常理事会にて浦の星との統合の中止、白紙撤回の案が採用されることは難しい。けれど、臨時理事会を今開けば、浦の星との統合中止に向けた作業の期間は1ヶ月と長くなる。いや、1ヵ月こそがその作業が行うことができるぎりぎりのラインだった。と、いうわけで、木松悪斗たちはそのぎりぎりとなる2月末に臨時理事会を開催することを決めたのである。
しかし、月は「木松悪斗たちは下準備ができた」と思っていた。その下準備とはなにか。それは臨時理事会の開催と深くつながっていた。臨時理事会を開催するためには理事10人のうち、半数の5人以上での開催要求、もしくは、浦の星に通う生徒の保護者全体のうち過半数以上の開催要求があれば臨時理事会を開催しないといけないことになっていた。で、今回は前者の開催要求があった・・・わけではなかった。なぜなら、いくら木松悪斗の権力が強いために理事全員を牛耳っている・・・とはいっても、今回の臨時理事会開催の原因となった静真と浦の星の統合については、今後の静真の占う上でもとても重要な問題である。なので、いくら木松悪斗の権力を使っても臨時理事会を開催しても、学校運営を任されている理事たちとしてはとても慎重に協議しないといけない、そんな気持ちが強かったりする。そのことは木松悪斗も考えていたらしく、早々と理事を使っての臨時理事会開催は諦めていた。で、木松悪斗たちが採った方法が、後者の方、生徒の保護者全体の過半数以上の開催要求だった。で、木松悪斗たちがそれを実現させるために採った方法が、前述の通り、木松悪斗が静真の部活動に参加している生徒の保護者全員に送った、浦の星との統合反対、白紙撤回を訴えるメールだった。そのメールと木松悪斗の取り巻きである部活動保護者会の幹部たちの噂話(木松悪斗が訴えたい情報+根の葉もない噂)のおかげで今やその保護者の大多数が木松悪斗の考え、浦の星との統合反対、白紙撤回に賛成していた。だって、大切な子どもを静真に通わせている理由、それがその子どもがプロの選手になるために、将来のために静真に通わせているのだ。なぜなら、静真はプロの選手になるための環境が整っているから。最新のトレーニング機器を揃えていること、優秀なコーチ・トレーナー陣がいることなどなど。プロの選手になるために必要なものは全部揃っている、プロの選手を目指す生徒にとって最高といえる環境がここ静真にはある。そして、そのおかげか、静真の部活に参加している生徒たちの士気も高い。が、お遊び感覚で部活をしている(木松悪斗談)浦の星の生徒たちが静真の部活動に参加すると、木松悪斗の言うとおり、その環境が崩れてしまう、そうと考える保護者が大多数いたのだ。この保護者が大多数いること、それこそ、今回において、木松悪斗が追い求めていたものだった。生徒の保護者の大多数を味方につけることで、生徒の保護者の大多数の声、すなわち、浦の星の統合による静真の部活動に悪影響、子どもたちにとって最強の(練習)環境の崩壊を起こさないための浦の星との統合反対、白紙撤回の声という大義名分を得たのである。そして、その保護者たちの声は臨時理事会開催要求につながり、規定により2月末での臨時理事会開催へとつながったのである。だが、実は、木松悪斗にとって保護者たちの声という強い武器はこの先の臨時理事会にも影響力を及ぼすのだが、それはのちほど・・・。
とはいえ、月もこのまま何もせずに臨時理事会で浦の星との統合の白紙撤回を決めさせる腹はなかった。逆に月の闘志に火をつけることになった。
(このまま指をくわえながら木松悪斗のやりたい放題にさせる気はないね。そっちがその気なら、こっちにも対木松悪斗用の最終兵器、持っているもんね!!その完成目指して、今夜は鉄やだ~!!)
その月の思いゆえに、月、生徒会役員全員に対し、
「みんな、ついに決戦の日が明日に決まったよ!!もう待ったなしだよ!!さぁ、自分たちのためにも、浦の星に通う友達のためにも、あれを完成させよう!!今日は徹夜になるかもしれないから、覚悟していてね!!」
と、はっぱをかける。これには生徒会役員全員、
「はい、わかりました!!」
と、自分たちがこの1週間やってきたことに誇りを持って最後のラストスパートをかけた。
翌日、月は対木松悪斗用の対抗策となる最終兵器の完成を目指して頑張っていた。が、あまりに膨大なものになっていたため、それを整理したりして時間が月の予想以上にかかってしまい、今だに完成していなかった。これには月、
(このままだと臨時理事会に間に合わない!!急がないと!!)
と、少し焦りを感じていた。しかし、ちゃんとしたものに仕上げないとただのなまくらの武器と同じになってしまう、そうすると木松悪斗に対してあまりダメージを与えることができなくなる、それでは用意した意味がない、月はそれを重々承知していた。だからこそ、手を抜くことは許されなかった。と、いうわけで、月は一瞬の気も抜かず、その最終兵器の完成目指して生徒会役員みんなと一緒に頑張っていた。