といった具合に木松悪斗は仕事面においてはかなりよかった。だが、その一方で家庭面においてはある種の不安を抱えていた。木松悪斗が日本に帰国して以降、木松悪斗以下はまた一緒に住むことになったのだが、自分たちの子どもの育て方に関して木松悪斗とその奥さんとのあいだでちょっとした意見の違いがみられるようになったのだ、特に次女の桜花に関しては・・・。
まず、長女の旺夏についてであるがこちらは旺夏が帰国して以降すぐに女子サッカースクールに入ると父親譲りのハングリー精神によって実力がめきめきとあがり、サッカーを初めて2年ほどで日本のジュニア代表に呼ばれるほどになった。だが、自分の父親である木松悪斗が帰国して一緒に住むようになるとその父親の影響なのか父親の信条「勝つことこそすべて」その信条にだんだんと染まっていくようになった。その信条はただ相手に勝つため、勝利への執念は誰よりも高くそれにより多く点をとって自分のチームに勝利をもたらす分にはよかったもののその信条のせいで旺夏は格下の相手には見下すことが多くなった。また、勝つためには手段を選ばない(たとえば、相手の弱点を狙う、だけでなく、相手の選手を貶めることすらした)こともあり、旺夏、どちらかというとヒール的なところが目立つようになった。
ただ、それだとこれから先、旺夏はまわりとあわせることができずに苦労してしまう、そう考えた木松悪斗の奥さんは木松悪斗に対し、
「あなた、このままだと旺夏は、これから先、必ず苦労してしまいます。あなたからもその考え方(「勝利こそすべて」)をあらためるように説得してください」
と意見するも、木松悪斗、自分の奥さんに対し、
「ふんっ、そんなの必要ない!!旺夏は今の考え方、「勝つことがすべて」、そのままでいいんだ!!」
と聞く耳持たず。いや、むしろ、
「言っておくが、サッカーの世界はおろか、スポーツ全般、いや、この世界において実力がものをいうのだ!!いや、「勝利」への貪欲さがものをいうのだ!!もし、「勝たなくてもいい」なんて言ってみろ、それすなわち、負け確定、いや、人生が終わった瞬間、になってしまうんだ!!そうなってしまうとこの世界では生きていけなくなる。ずっと底辺を這いずり回るしかなくなるのだ。だからこそ、旺夏はその考えのごとく生きていけばいいのだ、旺夏の名前、王のごとくな!!」
と、自分の奥さんを糾弾しようとしていた。旺夏の名前の由来、それは、当時自分が設立していたIT企業の社長だった木松悪斗が自分の娘に自分のようにいつも王のようにトップに君臨できるように、という思いで木松悪斗がつけた名前であった。で、旺夏は、今、日本女子サッカー界の王になるべく、投資の世界でばく進を続ける旺夏の父、木松悪斗と同じように「勝利」を追い求める、なにがなんでも勝ち続けることを是として「勝利」へとばく進する、そのことを木松悪斗はあらためて肯定したのである。木松悪斗にとって「勝つことこそすべて」、それこそ、木松悪斗の第1のテーゼ、命題であった。子ども時代、極貧だったためにまわりから見下されていた。自分の設立したIT会社はその会社のほとんどの株を買い占められた大企業の圧倒的な力とそれによる従業員たちの裏切り(と、いまだに木松悪斗はそう信じているのだが、本当は木松悪斗の高圧的な態度にいやけがさしたから)により社長の座をおろされたこと、それらによって木松悪斗は苦汁を飲まされてきたのである。なので、なので、なにがなんでも「勝ち続ける」ことで絶大なる力を得ることができる、それにより、自分が王として君臨することができる、そう木松悪斗は思っていた。また、自分のこれまでの人生を旺夏にも味あわせたくないためにも小さいときから、「勝つことこそすべて」、その信条を叩き込んでそれを地でいくような行動をとらせることでいつもトップとして君臨しては誰からも見下されることがない、そんな人生を手にいてほしい、そんな木松悪斗としての親心があったのかもしれない。
というわけで、木松悪斗の奥さんはこれ以上木松悪斗に反論しようとしても聞く耳をもたない、そんな木松悪斗の態度を見てらちが明かないということで言うのをやめてしまった・・・わけではなく、ふと思っては木松悪斗に旺夏の教育方針について口論になることがたびたびあった。
だが、旺夏以上に問題だったのが次女の桜花(はな)であった。ちょうど旺夏の考えについて口論になっていたころ、木松悪斗の奥さんに対し、木松悪斗、桜花のことについてこう言ってきた、桜花を前にして・・・。
「おい、あの落ちこぼれ、なんとかならないのか!!音楽?そんなもの、なんの役にも立たない!!この世の中において一番大事なものとは「勝つこと」なんだぞ!!特に、陸上の100メートルみたいに、誰から見ても1番である、すぐに勝者がわかる、そんな競技などがこの世の中でとても大切なんだ!!でもな、音楽みたいに他人の評価によって優劣が決まる、そんなものは他人の見方によって順位がころころと変わるもんだ。これだとはっきりと「勝った」なんて言えないしイライラする。それに、音楽?、そんなもの、ただのお遊びじゃないか!!文化すらない!!実にくだらないものだ!!それよりも、桜花、お前は落ちこぼれであり「役立たず」なんだ!!ならば、やることは1つ、少しでも私の役に立つことをしろ!!(日本女子サッカー界でジュニア代表になるくらいの)旺夏みたいにな!!」
桜花、木松悪斗がアメリカ在住中に生まれた子であるが木松悪斗を残して家族3人で日本に帰国してから木松悪斗が日本に帰国するまでの3年間、桜花は、
「これ、聞きたい・・・」
と小さい子どもながら、木松悪斗の奥さん、つまり、自分の母親に対していろんな音楽を聞かせてくれるよう家やレンタルショップにあったCDをみてはそれを自分の母親に渡してはそうお願いをしていた。もちろん、桜花の母親もそのことを知った上で桜花に対しいろんな音楽を聞かせてくれた。そのジャンルは童謡だけでなく、アニソン、J-POP、ロック、カントリーなどなど多岐にわたっていた。そんなこともあり、小さいときから音楽に対する才能はピカイチであった。だが、自分の父である木松悪斗が日本に帰国してから桜花の生活は一変した。木松悪斗、そんな桜花に対しなにもかも、特に音楽すべてを否定してきたのだ。実は、木松悪斗、「勝つことこそすべて」という考えのせいか、自分の実力だけですべてが決まる、「勝つ」か「負け」がすぐに、それもはっきりとわかるもの、たとえば、陸上の100メートル走みたいにタイムによってすぐに選手の優劣が、成績がわかるもの、またはサッカーや野球のみたいに獲得した点数によってすべてが決まる、そんな確実に成績が決まるものが好きだった。逆にフィギュアスケートなどみたいに他人の見方や判断によって優劣が決まるもの、成績に不確実性を伴うものに関しては嫌っていた。だって、他人の見方によって点数が決まるものは点数を決める者の思考などに影響を受けてしまうもの、だと木松悪斗は思っているから。特に音楽や絵画などといった芸術は時代によって人々の見方が変わってしまい、それがその時代における音楽や絵画などの芸術における評価につながってしまうものである。たとえば、ゴッホの場合、ゴッホが在命中のときはあまり評価されなかった、没後、再評価、いや、高評価をえることができた。それくらい時代によって人々のものの見方がどんどん変わっていく、そんな不確実性を木松悪斗は嫌がっていたのである。また、これは日本によくいえることなのだが、音楽(特にJ-POPのような現代音楽)をないがしろにする傾向が強かったりする。いや、1つの文化としてみない傾向がある。ドイツなどのヨーロッパの場合、音楽は1つの文化としてみられており、その音楽に対する保護がかなりあつかったりする。逆に、日本においては音楽(特に現代音楽)を1つの文化としてみることなくただのお遊びとしてみられたりすることがあったりする。また、音楽に対する保護もヨーロッパほどあつくなかったりする。そして、木松悪斗の場合、音楽(現代音楽)なんて文化じゃない、たたのお遊びだ、くだらないものだ、と見下していたのである。むしろ、勉強などして少しでも桜花の父、木松悪斗の役に立て、と木松悪斗は言ってきたのである。これにはまだ物心をつかないほど幼かった桜花からしてもかなりのショックだった。
もちろん、桜花の母である木松悪斗の奥さんは木松悪斗に対し、
「少しは桜花のことも認めてやってください!!このままだと、桜花、立ち直れなくなります!!」
と桜花のことを思ってか反論するも、木松悪斗からすれば自分の考えが間違っていないとばかりに、
「桜花が役立たずになったのはお前のせいなんだ!!音楽というくだらないもののせいで桜花は役立たずになったのだ!!ならば、お前がとれる手段はただい1つ、桜花から音楽というくだらないものを取り上げて少しでも私の役に立てるように再教育しろ!!いいか!!」
と言い返す始末。これではらちが明かない。そんなこともあり、桜花の母親は桜花に対して桜花の音楽の才能を伸ばせるように秘密裏に音楽教室に通わせることにした。
そして、桜花もその音各教室の時間をいつも楽しみにしていた。だって・・・、
「私、音楽、大好き!!だって、私、音楽をやっていくうちになんか成長している、もっと音楽のことが好きになっていく、そんな気になるんだもん!!」
そう、桜花は自分が持つ音楽の才能、それが伸びることに喜びを感じていたのだ。それに伴って音楽が好きになる、そんな「好き」という好循環に桜花は喜びを感じていたのである。
だが、そんな生活も長くもたなかった。自分の思い通りに、「勝つことがすべて」、その考えのもと、ひたすら勝ち続けては日本女子サッカー界において未来の日本代表にまで言われるようになった長女の旺夏に対し、次女の桜花は父親からのプレッシャーからなのか、音楽以外の才能が伸びず、逆に落ちぶれてしまった(と木松悪斗が自分の基準で判断してそう評していた)。そんなこともあり、木松悪斗は勝ち続けている旺夏だけをかわいがり、逆に、落ちぶれてしまった桜花に対しては「役立たず」「ごく潰し」と貶めていた。さらに、旺夏は格下の相手を見下すことを平気でするにも関わらず「自分は未来の日本代表なんだ!!それくらいの実力があるんだ!!」と言っては威張り散らしていた。だが、旺夏、それを豪語するだけの実力や実績は伴っていたため、誰も反論できずにいた。一方、桜花はなんの才能もないダメダメな子、というレッテルを貼られ、さらに、唯一の才能であった音楽で結果を残してしまったらそれによって父木松悪斗から唯一の楽しみである音楽を取られてしまいかねないこと、また、木松悪斗が行っている投資においてあまりいい印象を持たれていない(だって、木松悪斗が行っている投資は自分達の利益を最優先しており、まわりのことなんてちっとも考えていなかったから)ということもあり、家のなかではいつも自分の父親から「役立たず」「ごく潰し」と言われ続けられては家の外ではまわりから「あのヒールな木松悪斗の子」として白い目で見られていた。そのため、桜花は次第に卑屈になっていった。
そんな旺夏と桜花のことを心配しては2人の母親である木松悪斗の奥さんは自分の夫に対し2人への接し方を改めるように言うも逆に木松悪斗は自分の奥さんに対し激怒しながら、
「私のやり方は間違っていない!!むしろ、お前のほうが間違っている!!いいか、お前、少しでも私が納得がいく教育を桜花にしろ!!いいな!!」
と言ってくる始末。なので、次第にそのことを木松悪斗から言われ続けてきたせいか、木松悪斗の奥さんは次第に精神的にまいるようになってしまった・・・。