ところが、その笑いの秘訣はあるところで発覚した。それは、大学が夏休み中に行われた夏祭りでの出来事だった。桜花は、この日、汗をかきつつもH&HのMCを行っていた、そのときだった。突然、ある子どもがMCである桜花に対してこんなことを言ってきた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん、なんで笑っていないの?」
そう、桜花、実はどんなときでも笑っていなかったのである。というか、「笑う」ということを長い間してこなかったのだ。というのも、桜花は父の木松悪斗から音楽教室という大切なものを奪われたあと、父と姉から蔑まされてきたため、「笑う」という行為をすることができなくなった、いや、「笑う」という行為自体忘れてしまったのだ。そのため、桜花はこれまで笑ったことがなかったのだ。いや、それ以外にも、桜花自身、これまで「勝つことがすべて」が1番大事、だと思ってきた。いつも勝利を追い求める、それは「笑い」なんて不要である、そう思っていたのかもしれない。それは「あるものを失っていた」ともいえた。そんな笑う行為自体忘れていた桜花は小さな子からの突然の質問に、ただ、
「そ、それは・・・」
と言葉がつまってしまった・・・。
でも、小さな子からしたらそんなことなんて関係なかった。いや、それ以上に、純真無垢なその小さな子は桜花に対し決定的な一打となる質問をした。
「お姉ちゃん、このステージ、楽しくないの?みんな、お姉ちゃんたち(H&H)の歌を聞いてとても楽しんでいるよ。でも、お姉ちゃん(桜花)は楽しんでいない感じがする。なんで?」
この小さな子の質問、というか指摘に、桜花、さすがに・・・、
「えっ、え~と・・・」
と黙りこくしかなかった。いや、それ以上に、
(えっ、このステージを楽しんでいる?なんで?楽しむことが大切・・・なの?)
と、頭のなかがパニックになってしまった。ステージを楽しむ?みんなは歌を聞いて楽しんでいる?それなのに自分は楽しんでいない?いや、「楽しむ」こと自体なんで?と言いたそうになる、いや、困惑している桜花であった・・・。
「これにてH&Hのステージを終わります・・・」
とMCである桜花の一言で夏祭りのステージが終わった。だが、このときも桜花の頭のなかでは、
(楽しむことが大事なの?私が笑っていないのは楽しんでいないせい?どういうこと?)
と頭を抱えていた。
そんななか、頭を抱えていた桜花を見てか、はるかが桜花に尋ねてきた。
「桜花さん、いったいなにを悩んでいるのですか?」
これには、桜花、
「そ、それは・・・」
と言葉がまたつまってしまう。
そんな桜花に対し、はるかの隣にいたハヤテがズバリ当ててみせる。
「ズバリ、あの小さな子からの指摘、「笑っていない」、そのことだろうね」
このハヤテの指摘に桜花はわかりやすいのかあたふたさせながらも、
「そ、そうことでは・・・」
と言葉を濁してしまった。
そんな桜花に対しはるかはあることを指摘した。
「桜花さん、一言いいかな。桜花さんって、私たちのライブ、楽しんでいる?なんか桜花ちゃんを見ていると私たちのライブを楽しんでいない気がするんだよね
このはるかの指摘に、桜花、
(えっ、ライブを楽しんでいる?なんで?)
と思ったのか、はるかに対しこう言ってしまう。
「ライブを楽しむ?それって必要なのですか?」
だが、そんなこと、わかっていたのか、ハヤテ、こんなことを言ってきた。
「桜花さん、ライブに限らず、ユニドルであってもスクールアイドルであっても、
「楽しむこと」がとても大切
なんだ!!」
ところが、桜花はハヤテにこんなことを聞いてしまう。
「なんで「楽しむことがとても大切なの?ユニドルだってスクールアイドルだって「勝つことがすべて」じゃないの?」
この桜花のk賭場にハヤテはある大事なことを言いだしいてきた。
「たしかにユニドルだってスクールアイドルだって大会がある以上戦いはある。でも、1番大切なのは「楽しむこと」!!自分たちが楽しめばその楽しさが伝播していってお客さんはみなこのライブを楽しく感じてもらえる、いや、笑顔になるんだよ!!」
このハヤテの言葉はそれをハヤテは実際に体験しているからこそいえる言葉であった。実はハヤテは高校のときにスクールアイドルグループ「オメガマックス」として、当時、スクールアイドル界の女王かつスクールアイドル勝利至上主義という考えの権化だった福博女子大付属高K9を打ち破った(詳しくはラブライブΩをご覧下さい)のだが、そのとき、ハヤテ、はるかたちが目指したもの、それは
「スクールアイドルを楽しむこと」
だった。この考えがあったこそ、オメガマックスは会場中の人たちを楽しませては笑顔にさせていき、その勢いのままに、K9、そして、なぜかμ'sをも打ち破ったのである。
だが、それでも桜花は納得してなかったらしく、
「でも、大会がある以上、楽しむことなんて・・・」
と言い訳を言う・・・のだが、ここに、今さっき桜花に質問してきた小さな子が、
「あっ、今さっきのお姉ちゃん!!」
と言っては現れてきた。これには、桜花、
「あっ・・・」
と小さな子からの質問の答えがまだだったらしく、
「あっ・・・」
と三度言葉に窮するも、その小さな子は桜花に対しあることを話した。
「お姉ちゃん(桜花)、私、このステージを見て思ったの、なんか、ステージををしているお姉ちゃんたち(H&H)、なんか楽しそうにしている、って。そしたら、私もなんか楽しい気分になっちゃった!!それも、みんなで!!!だから、お願い、お姉ちゃん(桜花)も笑って!!みんなと楽しんで!!)
この小さな子の言葉が桜花のなかでぐさりと刺さった。
(私がライブを楽しむ・・・、みんなと一緒にライブを楽しむ・・・、それってなんか忘れていた記憶が蘇ってきそうだ・・。そう、小さなときの・・・音楽教室のことを・・・)
このとき、桜花が思いだしたこと、それは・・・、小さなときに母が父に黙って通わせていた音楽教室のときのことだった。このときは自分に許された唯一の「笑う」ことができた時間、だった。この時間だけは自分の思いを爆発させる、心の底から楽しむことができる時間、だった。だが、それすら父によって取り上げられてしまい、それ以降は、桜花自身、楽しむことができなかった、のである。そんな懐かしい思い出が浮かび上がったのか、桜花の目に・・・、
ポツリ・・・
と涙が出てくるとともに、
(なんか忘れていた感覚が・・・、自分が楽しんでいたときの思い出が・・・蘇ってくる・・・)
と、楽しんでいたときの、笑うことができたそのときの感情が蘇ってきた。
そんな桜花を見てか、梅歌、松華、あることに気づいたのか、桜花にあることを言ってくる。
「桜花ちゃん、笑った!!」(梅歌)
「へぇ、笑うとそんな顔人なるのですね」(松華)
それには、桜花、
「笑った?」
と聞き返すとはるかは手鏡をもって桜花に見せてはこう言った。
「うん、笑っている!!」
そう、桜花はついに笑ったのである。
そんな笑った素顔を手鏡を通して知った桜花は、
「これが「笑う」ということなんだ・・・」
と言葉を口にした。
ただ、このときの桜花はまだ困惑していた。それは・・・、
(でも、たしかに笑ったけど・・・、実際は・・・、楽しむことって・・・ただの遊びじゃないの・・・。この世の中はすべてが勝負なんだ・・・。今はただの祭りだけど・・・、本当なら・・・勝負の世界なら・・・勝つことこそ大事じゃないの・・・)
そう、桜花は今なおある考えに囚われていた。それは、もちろん、「勝利こそすべて」。今、自分はこのライブを楽しんでいる、だが、桜花のなかには、今は夏祭りという特殊な環境だからいえることであって、通常なら勝負の世界、なのだから勝つことがすべてではないか、勝負の世界のなかでは楽しむことは遊びの領域のままではないか、と思っていたのだ、桜花は・・・。
そして、それが桜花に対し元の桜花に、「役立たず」「ごく潰し」と父と姉に蔑まられていたあの桜花に戻ることを意味していた。
(そうだったら・・・、Aqoursとの勝負に・・・負けた・・・私は・・・みんなにとって・・・、「役立たず」・・・、「ごく潰し」・・・、なんだ・・・。だから・・・、私は・・・、お父様とお姉さまに・・・捨てられたんだ・・・」
さっきのハヤテの言葉によって新しい桜花になろうとしていた。だが、桜花のもつ「勝利こそすべて」という考えによりもとに戻ってしまった・・・。「勝利こそすべて」、それは桜花をすべてを縛り付けるあの父木松悪斗が施したチェーンなのかもしれない・・・。
ところが、ここにきて、桜花に巻きつかれたチェーンがさらにきつくなる事態が起きた。それは桜花がもとの桜花に戻ったときに起きた。なんと、桜花の隣にいた梅歌のスマホが鳴ったのだ。これには、梅歌、
「はい、梅歌です」
と電話をとると少ししてからこんなことを言いだしたのだ。
「えっ、圧倒的な大差で東海最終予選突破した!!やったー!!」
実は、この日、千歌たちはラブライブ!夏季大会最終予選に参加していたのだ。この東海最終予選では、RedSunの桜花、梅歌、松華は桜花のリハビリのため、不参加、だったため、のこりの6人、千歌、曜、梨子、ルビィ、ヨハネ、花丸、の6人で出場していた。その予選ではAqours本来のパフォーマンスをみせ、ほかのグループに圧倒的な大差をつけてトップで予選通過したのである。
そんなことを聞いた桜花はすぐに自分のスマホを見る。すると、たしかにトップニュースでAqoursが東海最終予選を通過したことが書かれていた・・・が、ここで、桜花は愕然とした。と、いうのも・・・、
「えっ、「あの3人がいなかったから圧倒的な大差で勝てた」「やっぱりこの前(地区予選)、パフォーマンスに失敗した娘(桜花)なんてAqoursにいらないんじゃ・・・」って・・・」
なんと、桜花、そのニュースのコメントのところに書かれていた罵詈雑言を見てしまったのだ。むろん、これには、桜花、
(やっぱり・・・、私は・・・いらない娘・・・、「役立たず」・・・、「ごく潰し」・・・、なんだ・・・)
とさらに落ち込んでしまった、いや、生きる意味を見失おうとしていた。
ただ、これに気づいたのか、松華、すぐに桜花のスマホを取っては、
「あんまり気にしないでいいのです!!桜花さんは桜花さんなりの頑張りがあるのですから気にしなくてもいいのです!!」
と元気づけしようとしていた。
だが、罵詈雑言の言葉を見た桜花はただ、
「・・・」
と無言に、いや、心のなかでは、
(やっぱり、まわりから見ても、「役立たず」、「ごく潰し」、なんだ・・・。やっぱり、私、この世の中にはいらない娘なんだ・・・)
と桜花を取り巻くチェーンはきつく締め付けられては生きる意味をなくそうとしていた・・・。
「桜花ちゃん、もっとしっかり動いて!!」
と曜の檄が飛ぶ。東海最終予選が終わって以降、次の決勝に向けて千歌たちが練習を続けていた。そこでは・・・、
「梅歌ちゃん、松華ちゃん、すごい!!すごく合っているじゃない!!」
とようやくほかのみんなと合わせることができるようになった梅歌と松華を褒める曜。対して、
「桜花ちゃん、いったいどうしたの?なんか元気がないのかな?なにか悩み事?」
とみんなにあわせることができない桜花のことを曜は心配するもリハビリも終えて復帰した桜花はすぐに、
「な、なんいもない・・・です・・・」
としどろもどろに言うも下を向いてしまう。これには、曜、
「桜花ちゃん、大丈夫・・・?」
と何度も聞くも桜花はそのたびに、
「私は・・・大丈夫・・・です・・・」
と答えるだけ。最後には、曜、
「なら、いいんだけど・・・」
とこれ以上いうのを辞めてしまった・・・。
だが、桜花の心のなかにはある種の諦めに近いものが渦巻いていた。
(もう私はいらない娘なんだ・・・。私はただの「役立たず」で「ごく潰し」・・・。もう誰も私のことなんて必要だと思っていない・・・、もういらない娘なんだ・・・。なら・・・、もう消えたい・・・)
桜花のなかに渦巻いているもの、それは、自分の存在なんていらない、自分を否定するものだった。本当は父と姉から認められたい、そう思って桜花は頑張ってきた。だけど、父と姉からは認められず、逆に、「役立たず」「ごく潰し」と言われてしまったこと、それは桜花のなかで修復不可能な傷をつけただけでなく、今、桜花のまわりにいるみんな、Aqoursや梅歌、松華にすら見捨てられた、そのことまで考えるようになってしまったのである。それは桜花を取り巻くチェーンが桜花の心の奥底まで食い込んでしまったことを意味していた。