「これは肉離れですね」
北九州からもどってから数日後、あつこと理亜は花樹を連れて整形外科から診断を受けていた。その医師からは花樹の足の様子について「肉離れ」と診断したようだ。実は、花樹、ラブライブ!決勝でAqoursに、桜花に負けたというショックからか、「勝つことがすべて」、その信条のせいか、いや、それ以上に、「Aqoursに、桜花に勝つには今以上に練習しないといけない」という思いが強くなってしまい、北九州の旅行中はたった1人で走り込みをしていたのだ。だが、運悪く、その走り込みの、いや、限界を越えての走り込みをしたせいか、足に激痛が走ったのである。理亜とあつこはこの花樹の痛がる姿を見て肉離れと判断、函館に戻り次第、花樹を整形外科へと連れていったのである。
ただ、花樹はその医者の判断を聞きつつも小言でこうつぶやいていた。
「もっと練習をしないと・・・、もっと練習をしないと・・・」
そのつぶやきは理亜とあつこのもとにも届いていたのだが、理亜は花樹に対しこう訴えた。
「花樹、今は治すことが先決!!練習、しないように」
だが、これには、花樹、こう反論する。
「オ・・・、花樹は練習しないといけないのです!!じゃないと勝つことができない・・・」
そんな花樹に対し理亜も反論。
「練習するより休め!!」
この2人、まるで、龍と虎、そんな感じになっていた。
そんな2人を見つつ、あつこは花樹の足をみるとこうつぶやいた。
「花樹さんの足、肉離れ・・・。でも、それだけで済んでよかったよ・・・。私みたいに永遠に残るスティグマ(聖痕)があったら、花樹さん、泣いてしまうよ・・・」
そして、あつこは自分の足を見る。そこには大きな傷跡が残っていた。それはあつこにとって大きなスティグマ、深淵なる闇であった。そんなスティグマを見ながらあつこはこんなことを考えてしまう。
(このスティグマがある以上、私はなにもできない。フィギュアスケートも、スクールアイドルも・・・)
そんなあつこであったが、そんなとき、理亜が少し困ったような表情をしていた、こう言いながら・・・。
「う~、こんな花樹の様子だとあれに間に合わないじゃない・・・」
これには、あつこ、
(えっ、理亜さん、なにか困っている・・・)
と思ってか理亜に対し、
「理亜さん、どうしたのですか?」
と尋ねてみる。すると、理亜、こう答えた、困ったような素振りをみせながら・・・。
「聖泉祭まであと1ヵ月!!これじゃ、私1人でのステージに鳴るじゃない・・・」
これには、あつこ、
「あっ!!」
と唖然となってしまった・・・。
聖泉女子高等学園「聖泉祭」、いわゆる学園祭である。毎年9月の下旬ごろに行わわれる学園祭であるが聖女の文化系の部活にとってこの学園祭は自分たちの活動の発表の場であった。むろん、体育系の部活にとってみても部費を稼ぐ絶交の場であるがそれ以上に文化系の部活からすればこの学園祭はビッグイベントであった。
そんんあ聖泉祭に対し理亜は悩んでいた。それは・・・、
「私1人でステージにでるなんて・・・。うぅ、どうすれば・・・」
そう、理亜たちスクールアイドル部もこの聖泉祭に参加することになっていた。スクールアイドル部、実は文化系の部活であった。また、ラブライブ!決勝で全体の3位という実績もあった。そのため、聖泉祭、メインステージ、それもメインイベントとしてライブが開催されることになっていた。
だが、今の花樹の状況だと練習などの子とも考えると理亜1人でライブをしないといけなかった。そのため、理亜は困惑していたのだ、これまで理亜1人でライブをしたことがなかったから・・・。これまでは理亜の隣には聖良が、花樹がいた。しかし、その花樹が肉離れでライブに参加できない、そのため、理亜1人でライブができるのか心配でしかなかったのだ。
そんな理亜に対しあつこはこんな提案をしてきた。
「それだったら、千歌さんたちAqoursにゲストとして参加してもらったら・・・」
たしかにAqoursをゲストに呼ぶことは妙案だった。
だが、理亜はあつこに対し現実を伝える。
「私もそのことを考えた。でも、今のルビィたち、とても忙しいから、呼べない・・・」
そう、実は、今、Aqoursはとても忙しかった。というのも、一連の木松悪斗関連の揉め事で悲劇のヒロインとなった桜花とともに、一躍、時の人になっていたのである。あのラブライブ!での出来事により全国的に人気が大爆発、それはあのμ's以上のものになっていた。そのため、Aqoursを呼ぼうにも呼べなかったのだ。
そんなことを知っている理亜はあつこにあることを伝える。
「それに、今、ダイヤたち(卒業生3人)を含めたAqoursオリジンとして新曲をだす予定。たしか、「Happy Party Trein」・・・、そのPVのためにルビィと曜が九州に行く予定・・・」
そう、今のAqoursは、桜花、梅歌、松華の3人を含めたAqours Sun Galaxyなのだが、今度、昔のAqours、ダイヤ、鞠莉、果南たちの卒業組、千歌たち3年生、ルビィたち2年生のAqoursオリジンとして新曲をだすことになっていたのだ。その曲の名は「Happy Party Train」、そのPVの下見としてルビィと曜は視察旅行をすることになっていたのだ。
ただ、理亜はそれに加えて変なことを言ってしまう。
「でも・・・、ルビィたち、今度の視察旅行は「○○を使う」って言っていたはず・・・。でも、今の鉄道ってJRじゃなかったかな・・・」
とはいえ、今の状況だと理亜1人だけのライブになってしまう、これにはあつこも困ったらしく、
「理亜さん1人だけのライブ・・・、一体どうすればいいのでしょうか・・・」
と悩んでしまった。
そんああつこと理亜に対しこれまで黙っていた花樹はこんな提案をしてきた。
「それだったら、オ・・・花樹がパッと治して・・・」
むろん、これには、理亜、
「それは却下!!花樹は安静にいるように!!」
と注意すると、花樹、
「う~」
とふてくされてしまった・・・かと思ったら次にこんな提案をしてきた。
「それじゃ、花樹の代わりにあつこさんがでればいいんじゃないかな」
この花樹の提案に、あつこ、
「そ、それは・・・」
と戸惑いをするも、花樹、おいそれとばかりにこんなことを言ってしまう。
「それに、あつこさんは、昔、フィギュアの選手だったんでしょ!!なら、スクールアイドルのライブもできるんじゃないかな?」
そう、あつこは、昔、フィギュアスケートの選手だった。それもただの選手ではない。中1のときに日本のジュニア大会で優勝したことがある実力者であった。そのことを最近知った花樹があつこに対し簡単に言ってしまったのである。
だが、さつこはそんな花樹の提案に、
「・・・」
と無言になってしまった。いや、自分の足をさする。そのさすっているところはあつこのいうスティグマ、深淵なる闇、であった。そのスティグマに触りながらあつこはこう思ってしまう。
(私はこのスティグマがある以上、なにもできない・・・。スクールアイドルなんてできない・・・)
そんな困惑するあつこに対し花樹はまだ言い続けた。
「あつこさん、やってみてくださいよ・・・」
そんな花樹に対し理亜はこう注意する。
「花樹、あつこはとある理由でできない!!少しは黙ってって!!」
これには、花樹、
「はい・・・」
となぜか下向きになりながらそう答えてしまった・・・。
そんな花樹を見てか、あつこ、こう思ってしまう。
(私はこのスティグマがある限りなにもできない・・・、フィギュアスケートも、スクールアイドルも・・・。でも、このままだと聖泉祭のステージは理亜さん、たった1人・・・。一体どうすればいいわけ・・・)
とはいえ、聖泉祭のライブのことについてはなにも決まらずにこの日の会合はお開きになってしまった・・・。その後、あつこは夕日のあたる廊下を歩いていた。そのとき、1人の女子生徒があつこの前に飛び出してはこうあつこに言ってきた。
「あつこ、お願い、考え直して!!フィギュアスケート部に入って!!」
これには、あつこ、頭を抱えてこう思ってしまった。
(う~、まただ・・・。なんで諦めないわけ・・・、フィギュアスケート部の部長・・・)
そう、あつこに声をかけてきたのは第5話で登場したフィギュアスケート部の部長であった。
その部長はあつこに対しこう言ってきた。
「あつこ、あなたのスティグマはすでに治っているのよ!!あなたなら昔みたいに活躍できるはず!!だから、フィギュアスケート部に入って!!」
この部長の言葉にあつこはこう反論する。
「言っておくけど、私のスティグマは治っていない!!だから、私はフィギュアスケートはできないの!!」
あつこのスティグマ、それは(再びになるが)過去に起きた出来事によってできた古傷であり、あつこにとってそれが深淵なる闇であった。あつこは中1のときの日本ジュニアの大会で優勝したのだが、その日を境に成績が落ちてしまったのだ。というのも、このときのあつこの体に第二次性徴が起きていたからである。これにより、あつこの体は成長しこれまで感じていた感覚にズレが生じてしまったのである。この結果、成績は落ちていくばかり。まわりからは罵詈雑言の嵐をあつこは味わった。そのため、あつこは「勝たないといけない」と焦るようになり、、限界を越える練習をしてしまう。結果、あつこは中3の大会でのジャンプの際に態勢が崩れてしまい転倒、壁に激突したのである。このとき、あつこの足に深い傷が残ってしまった。これをあつこはスティグマと呼び、このスティグマを見てはなにもできない、フィギュアスケートも、スクールアイドルもできない、ただ人をサポートすることしかできない、そう考えるようになっていたのである。
だが、それでもフィギュアスケート部の部長はあつこに対しこう言ってきた。
「でも、あつこ、早朝のときにトレーニングをしてるでしょ!!」
これには、あつこ、こう反論する。
「そ、それは・・・、理亜さんのトレーニングのお手伝いをするために・・・」
それでもフィギュアスケート部の部長はあつこに対しこう責めてくる。
「それでも体が動いていたでしょ!!なら、昔みたいに、フィギュアスケート、できるのではないの?」
この部長の言葉に、あつこ、こう言ってしまう。
「フィギュアスケートはもう無理!!」
すると、フィギュアスケート部の部長、すぐにあつこにこう訴える。
「あなたはすでにスティグマを完治している!!それなのに、スティグマが治っていない、というのはただの逃げでしかない!!あつこ、そのスティグマを乗り越えて!!」
このフィギュアスケート部の部長の言葉を聞いた瞬間、あつこは、一瞬、ある人の言葉が頭のなかをよぎった。
「そのスティグマを乗り越えてください!!」
その言葉は北九州の旅行のときに出会った(レジェンドスクールアイドルオメガマックスの)愛の言葉だった。愛はあつこのスティグマのことについて知っているがごとくあつこに対し「スティグマを乗り越えてください」と言ってきたのだ。このとき、あつこは
(私はただのサポーター。なにもできない。どうすることもできない。1人で「勝つこと」だけを追い求めようとしている花樹さんやたった一人で悩んでいる理亜さんに対してどうすることもできない・・・)
その言葉を思いだしたあつこは涙を流した。いや、そのことを思いだしたのか、その涙を見せまいとしてか、そのフィギュアスケート部の部長に対し、
「もうなにも言わないで!!」
と言ってはその場から立ち去ってしまった。
そんなあつこをみてか、そのフィギュアスケート部の部長は、
「あつこ・・・」
と言ってはただそこで立つことしかできなかった。
そんなとき、物陰からある少女があつこたちのやり取りを見ていた。その少女はあつこが走っていくなりこうつぶやいてしまった。
「花樹・・・、あつこさんの秘密、知ったかもしれない・・・。でも、これはこれで使えるかも・・・」
一方、理亜はというと・・・、
「そのいちご、10個ください」
と買い物をしていた。理亜の実家は茶房を営んでいた。その買い出しを理亜はしていたのである。いつもなら聖良の仕事なのだが、その聖良が留学しているため、今は理亜の仕事となっていた。
そんな理亜に対し果物店のおばさんは理亜にこう話す。
「あら、理亜ちゃん、今日も中島廉売で買い物かい。遠くから来ているのにえらいね」
これには、理亜、
「それなら、おまけ、して」
と言ってくる。
と、ここで、今、理亜が買い出しをしているところについて解説しよう。理亜が買い出しをしている場所は函館の路面電車、堀川橋電停近くの中島廉売である。函館には3つの市場がある。2つは函館ではお馴染みの函館駅近くの函館朝市、2つ目は新川町電停近くのはこだて自由市場、3つ目はこの中島廉売である。うち、函館朝市はどちらかというと観光客向けであり、函館市民は主に自由市場と中島廉売にて買い物をするようにしていた。ただ、理亜の家からだと少し遠いのだが、それでも新鮮な果物を安く仕入れることができるため、わざわざ理亜は遠くの中島廉売にきては果物を安く仕入れていたのである。
そんななか、理亜はあることに気付く。
「それにしても、お客さんの数、前より少なくなっている気がする・・・」
そう、いつもならにぎわっているはずのお客さんの数が少なく感じてしまっていたのである。
それについては果物屋のおばさんが内情を話してくれた。
「ほら、ここ最近、あるディスカウントショップがこのあたりにも進出して原価以下の値段で販売しているのよ。だから、お客はすべてそっちに流れているわけ・・・」
これには、理亜、
「えっ。ここで売っているものって質も値段も保証付きなのに・・・。なぜ・・・、そんなに安いの・・・」
と驚くとともにおばさんに言うとその安さのからくりをおばさんは教えてくれた。
「どうやら、農家さんたちなどにとって不利になるような条件で専売契約を結んでいるようだよ」
これには、理亜、
「それっていけないことじゃ・・・」
と言うも、おばさんは正直な気持ちを理亜に伝えた。
「それくらいそのディスカウントショップが力をもっているのよ。その力をもってすれば私の店なんて一ころだよ・・・。まったく・・・」
これには、理亜、
「そんなこと、私、いや・・・」
と少し怒りつつも困惑したような表情をしていた・・・。
一方、そのころ、花樹の家では・・・、
「よしよし、函館のまわりに農家との独占契約はほとんどがとれた。あとはどれだけ搾取すればいいのかのとどれだけ市場を独占できるかだ・・・」
と花樹の父親は不敵な笑みをこぼしていた。というのも、花樹の父親が経営しているディスカウントショップの経営がうまくいっているのだ。函館のまわりにある農家の多くとの独占契約を力でもって結ぶことができたのである。そして、その産物を自分のディスカウントショップに販売しているのだが、かなり安く販売しているためか、函館市における農産物販売の市場を独占しようとしているのだ。それがあまりにも順調だったためか花樹の父親はかなり上機嫌であった。いや、それ以上に、
「このままいけば木松悪斗様を迎え入れる準備が整う。いや、木松悪斗様はここ函館で復活するのだ!!はは!!」
と笑い転げていた。って、木松悪斗は、今、堀のなか、なのだが、花樹の父親はその木松悪斗に対しどんなことをしようとしているのだろうか・・・。それについてはあとで話すことにして、
「ただいま・・・」
と花樹が家に帰ってきたようだ。そんな花樹に対し花樹の父親はこんなことを言いだしてきた。
「おお、この負け犬がどうした?」
この父親の言葉に花樹はただ、
「・・・」
と黙るしかなかった。花樹の父親の力は絶大だった。それに、花樹はラブライブ!夏季大会北海道最終予選、決勝と負け続けている。そのため、父から負け犬といわれても言い返すことができなかった。
そんな花樹に対し花樹の父親はこんなこと言いだしてきた。
「いいか、花樹、この世の中は勝者のみが生き残るものなのだ。だから、お前みたいな負け犬なんて存在価値がないんだ!!「勝利こそすべて」なんだ!!いいか、わかったか、この負け犬よ!!」
この父親の言葉に、花樹、
(私はただの負け犬なんだ・・・。勝たないと意味がないんだ・・・)
と自分のことを貶してしまった。そのためか、花樹、ちょっと苦しそうな表情をみせると花樹の父親はそんな花樹に対し、
「いいか、もう負けは許されないんだ!!負けたら、わかっているよな」
と脅しをかけてきた。これには、花樹、
ごくっ
とつばを飲み込むことしかできなかった・・・。
そんなときだった。突然、花樹に助け舟をだす人が現れた。花樹を脅す父に対し、突然、
「お父さん、それくらいにして。ごはんにしますよ」
これには、花樹の父親、
「ふんっ!!花樹、いいか、今度こそ勝てよ!!」
と捨て台詞をはいて食卓へと消えていった。そのためか、花樹、
(う~、今度こそ勝たないといけないんんだ・・・)
と父親の言ったことを反芻していた。
そんな花樹に対し花樹に助け舟を出したその人は花樹に対しこう告げてきた。
「花樹、それより着替えてきなさい」
この人の言葉に花樹はただこう応えた。
「うん、わかった・・・、お母さん・・・」
そう、花樹に対して助け舟をだしてきたのは花樹の母親だった。この母親、父と違って花樹に対して優しく接していた。それはまるで昭和のお母さん、といった感じであった。そんな母親の言葉により自室へと行った花樹であったが、心のなかではこれから先の戦いについてどう勝っていけばいいのかシミュレーションをしては、
(はやく肉離れを治してもっと練習しないと・・・。でも、それだけじゃ足りない気がする・・・。あと1つ、あと1つだけ、なにか起爆剤になるもの欲しい)
自分の実力UPもそうであるが、なにか自分たちにとって起爆剤といえるものが欲しい、花樹はそう思たのである。そうすれば勝利をぐっと引き寄せることができる、そう花樹は思ったからであった。
そんな起爆剤について花樹はこう考えてしまう。
(起爆剤・・・、起爆剤・・・。あっ、あつこさん!!あつこさんが起爆剤になるかも!!)
その思いは花樹にとって、いや、あつこ、理亜にとって新たな方向へと進むものになることはこのときの花樹は思っていなかった・・・。