聖良の一言で千歌たち新生Aqoursは踊り始める。が、遠くから千歌たち6人を見ていた月、思わず、
(あれっ、あれってどこか見たような気が・・・)
と、今、千歌たち新生Aqours6人が踊って歌っている姿を見て、なにかを思い出そうとすると、月、すぐに、
(あっ、この曲、昨日の部活動報告会で見せた、あの曲、たしか、「夢で夜空を照らしたい」だ!!)
と、昨日、静真で行われた部活動報告会でも披露された曲、「夢で夜空を照らしたい」を、この場でも、Saint Snowの聖良・理亞の前でも披露していたのだ。この「夢で夜空を照らしたい」という曲、今のAqours、新生Aqoursにとって、今のところ、人前で披露できる唯一の曲、だったりする。Aqoursといえば、ラブライブ!冬季大会決勝で優勝を決めた「WATER BLUE WORLD」や、夏季大会東海予選での「MIRAI TICKET」、はては、Aqours9人での初めての曲「未熟Dreamer」があるが、どの曲も9人で歌うこと前提の曲であり、浦の星の卒業式から昨日の部活動報告会までの1週間程度という短期間で千歌たち1・2年生6人で歌えるようにアレンジする時間がなかったりする。それに比べ、「夜空で~」はもとから1・2年生6人で歌うこと前提で作られた曲であり、今の1・2年生主体の新生Aqoursにとってすぐにでも歌える曲であった。が、前にも言った通り、この曲は(この曲のPVで)Aqoursの名を全国に知らしめた曲であり、Saint Snowの聖良・理亞の前で初めて披露した曲、そして、「0」という厳しい現実を千歌たちに突きつけた曲である。そう考えると、聖良がついそう考えてしまうのも無理がなかった。
その聖良の心配は現実のものになってしまった。遠くから千歌たちを見ている月は、
(あれっ、昨日と同じ曲なのに、パフォーマンス、昨日以上にぎこちなくなっていないかな?)
と、スクールアイドル、いや、普通のアイドル、そのダンスや歌に疎い、悪く言えばド素人レベルの月にしてからも、昨日の部活動報告会のときよりもぎこちないパフォーマンスを、今の千歌たち新生Aqoursメンバー全員がしていた。なぜなら、昨日の失敗をいまだに引きずっている、いや、そのときに陥ってしまった、不安・心配の深き海・沼、それにもがき苦しんでいるようにもみえたからだった。たとえば、いつも陽気な曜も、
(あれっ、こうだったっけ?それとも、こうだったけ?)
と、今までのAqoursのダンスを思い出そうとするも、知らないうちに曜の体に染み付いてしまった、不安・心配のベールが曜が持つ陽気さ、元気さを隠してしまい、そのベールによって曜の体はうまく動くことができなかった。さらに、ルビィにいたっては、
(理亞ちゃん・・・)
と、理亞に自分たちのダンスを見てもらおうとガンバルビィするも、
(でも、体が、体が、ついていけない・・・。お、お姉ちゃん、助けて・・・)
と、ここにはいない姉ダイヤに助けを求めようとしてしまう始末。と、いうわけで、本来のAqours9人が持つキレのよさ、楽しさ、それを前面に押し出す、そんな姿は、心配・不安という深き海・沼に陥ってしまった結果、影を潜めてしまい、逆に、その不安・心配が、今、まさに、新生Aqoursのパフォーマンスとして、前面に押し出してしまった、そんな状況が、今の新生Aqoursに起きていた。
で、この新生Aqoursの姿を見た、聖良、
(やっぱりですね。今の千歌さんたちからは何か焦りを・・・、いや、何かに対する不安・心配、それをかもし出している・・・、いや、振りまいている、そんな気がします・・。それは・・・)
と、考えると、すぐにあることに気づき、こう考えてしまう。
(今の千歌さんたち新生Aqours・・・からかもし出している不安と心配、それは・・・、9人じゃないから・・・。これまで9人でやってきたこと、その9人だからこそできたこと、それに対する自信、9人の想い、9人のキズナ、それらが今までのAqoursにはあった。だから、ラブライブ!で優勝できるくらいの実力を持つことができた。が、その9人のうち、3年生の3人が卒業でいなくなった。それにより、これまでのAqoursにあった自信、キズナ、そのすべてがなくなってしまった、欠けてしまった。もちろん、9人だからこそできたことなんて、今の千歌さんたち新生Aqours6人ではできない、そう千歌さんたちは知らないうちにそう考えてしまったのかもしれませんね・・・)
この考えのもと、聖良はある結論をだす)
(完璧なものほど1つの歯車が欠ければすぐに崩壊する。これまでのAqoursは9人がいて初めて完璧、だったのかもしれない。が、3年生という歯車が欠けてしまったことにより、これまで完璧さが失ってしまいもろくも崩壊してしまった、今残っているのは、その完璧さから程遠い、3年生がいないから生じている不安・心配、それだけかもしれない・・・)
さらに、聖良、その結論に対し、ある思いを抱く。
(でも、果たして、今のAqours、千歌さんたち新生Aqoursって本当に3年生という歯車を失ったのでしょうか?ただ、失っている、欠けている、と、思い込んでいるだけじゃないでしょうか。ただの幻想・・・じゃないでしょうか・・・)
そして、聖良はあることを決断する。
(もし、本当に幻想・・・であるなら・・・、もう一度、ダイヤたち3年生3人に会えば・・・もとに戻る・・・かもしれない・・・。なら、私が・・・、ダイヤたちに・・・連絡を・・・)
が、そんなときだった。
「お姉さま、もうすぐ曲、終わりますよ!!」
と、理亞から聖良に千歌たちが踊り終わろうとしていることを言うと、聖良、
(あっ、もうすぐ曲が終わるのね!!なら、あとでダイヤたちには連絡しておこうかな?)
と、ふと思うと、さらに、
(でも、うちの理亞には、今の千歌さんたち新生Aqoursと同じこと、起きていない・・・かも・・・ね・・・?)
と、妹の理亞にある意味絶対的な信頼を持っているからなのか、ちょっと安心してしまう?
が、実は、理亞、このとき、別の意味で、千歌たち新生Aqoursと同じ状況に陥っていたのだ。で、今回の2人だけの卒業旅行も、理亞のその苦しみを聖良が無意識に感じていたのか、その苦しみを少しでも和らげるために行っていたのだ。で、その理亞がこのとき持っていた、千歌たち新生Aqoursにも通じる、その苦しみとは・・・。それはまたの機会にも話そう。
とはいえ、千歌たち新生Aqoursのパフォーマンスは終わった。
「なるほど・・・」
石階段に座って新生Aqoursのパフォーマンスを見ていた聖良はこう言うと立ち上がっては千歌たち6人の前へと進む。そのなかで、
「はっきりいいますよ!!」
と、わざと大きな声で言う。その声の大きさは遠くにいる月にも聞こえるように。
で、この聖良の大きな声、遠くから千歌たち6人のパフォーマンスを見ていた月にとって、
(あっ、サイドテールの子(聖良)、僕になにかを伝えたいのかもしれない、曜ちゃんたち新生Aqoursが今抱えている問題点、その原因を・・・。だから、わざを僕にも聞こえるくらいの大きな声で言っているしれないね)
と、わざと大きな声で言っている聖良の真意を感じ取る。
そんな聖良、千歌たち新生Aqoursのパフォーマンスを見て、千歌たち6人に対し残酷ともいえる現実を突きつける。
「そうですねぇ、ラブライブ!(冬季大会決勝)のときのパフォーマンスを100にすると、今のみなさん(のパフォーマンス)は30、いや、20くらいと言っていいと思います!!」
これには、さすがの千歌たちも唖然となってしまう。しまいには、ヨハネ、ルビィから唖然ともとれる発言が飛び出してしまう。
が、そんな唖然とする千歌たち6人に対し、その不調の原因を聖良は教える。
「それだけ3年生3人の存在は大きかった!!」
この発言は千歌たち6人に対しある意味残酷ともいえる言葉だったのかもしれない。なぜなら、ほかの理由ならいろんな方法でまだ立て直すことができたのかもしれない。が、ダイヤたち3年生3人はもう卒業して戻ってくることなんてない。その3年生がいないこと、もう戻ってくることなんてないこと、それを考えると、これが原因であるなら、それを乗り越えることは並大抵の努力をしても不可能ともいえた。いや、不安・心配という深き海・沼の奥底に沈んでしまった千歌たち6人にとってその言葉は致命傷・・・なのかもしれない。
それでも、聖良の言葉を真剣に聞いていいる千歌たち6人、聖良はこれを見てか、さらに言葉を続ける。
「松浦果南のリズム感とダンス、小原鞠莉の歌唱力、黒澤ダイヤの華やかさと存在感、それは(本来の)Aqoursが持つ明るさと元気さ、そのものでしたから」
そう、これまでのAqours、本来のAqours、9人のAqoursは、3年生の存在感が強かったのかもしれない。本来のAqours、千歌たち2年生3人はAqoursの行き先を決めていた。いわば船頭の存在であった。で、ダイアたち3年生3人はその千歌たち2年生3人が決めた行き先へと進めるためのエンジン役、かもしれない。ダイヤたち3年生3人は1年生のときにスクールアイドルとして活動していたこともあり、スクールアイドルとしての経験を持っていた。その経験のもと、いままでのAqours、本来のAqours、という船を安全に、そして、パワフルに進めてくれていたのである。いわば、Aqoursの屋台骨、だったのかもしれない。さらに、3年生3人というスクールアイドルとしての先輩がいたため、たとえ失敗してもすぐに取り返すことができる、そんな安心感を千歌たち1・2年生に与えていた。いわば、ダイヤたち3年生3人は家でいうところの、屋根、だったのかもしれない。その屋根のお陰で、本来のAqoursは観客たちに向かって明るさと元気さを押し出すことができたのかもしれない。が、その3年生3人がいなくなった、ただそれだけで、千歌たち1・2年生6人は、不安・心配という深き海・沼に陥るほどボロボロになった、ともいえる。ただ3年生3人がいないだけ、そんな簡単な言葉で言えるくらいたいしたことなんてない・・・、そう普通は考えるかもしれない。が、千歌たち1・2年生6人にとって、それがAqoursとして、スクールアイドルとしては死活問題ともいえた。なぜなら、ダイヤたち3年生3人という(船でいうところの)エンジン役、(家でいうところの)屋根がなくなったからである。船はエンジンがなくなれば、あとは潮の流れ、風の流れに身を任せるしかない、それはある意味自然任せ、いや、迷走迷走メビウスループに陥ることにもなる。また、家にしても、屋根がなければ雨風を防ぐこともできなくなる。それくらい千歌たち6人にとって3年生3人の存在は強く、その3年生がいない現状だと、(船であれば)いくら千歌たち2年生が指示をだしてもその指示の行く先に進むことなんてできず、むしろ迷走してしまう、(家であれば)屋根がないため、これまで3年生という屋根があったことで防ぐことができたいろんな問題、それに対処できずにのびのびとパフォーマンスを・・・、いや、身を縮めることしかできず、それが不安・心配という形で表に出てきてしまった、それが、今、聖良・理亞の前で見せたパフォーマンスにつながってしまった、のかもしれない。
では、ルビィたち1年生3人は・・・?それは、将来期待有望な新人、いわば、原石、なのかもしれない。で、あるが、新人、原石であるため、何も知らない、本当に真っ白、ともいえる。そのため、ルビィたち1年生3人は困難に直面したとき、どう動けばいいのかわからない、そんな危うさを持っていた。でも、これまではその問題を真っ向から挑んだダイヤたち3年生、守られながらもこれからの行き先を決めてくれた千歌たち2年生のお陰で函館の理亞の一件以外そんな困難な問題に直面することはなかった。が、その3年生という屋根がなくなった直後、今回の一件という問題、困難に直面したことにより、その危うさが表面化した、いや、心配・不安というものを噴出してしまった、ともいえた。その意味でも、子の問題、実はルビィたち1年生3人がどう化けるかがキーとなる、ともいえた。
この聖良の残酷ともいえる言葉に千歌たち6人は唖然、いや、心がなにかにえぐられてしまい苦しんでいる、そんな表情をしていた。その聖良、最後にこう締めた。
「それがなくなって不安で心が乱れている気がします」
聖良の締めの言葉であったが、ただそれだけでも千歌たち6人にとっては相当なダメージを与えてしまった。さらに、苦しい表情をするルビィ。
そして、聖良の言葉に続けとばかりに、理亞、トドメといえる言葉を発する。
「なんかふわふわして定まっていない感じ・・・」
まさに今の千歌たち6人の今の状況をいいあらわしている、そんな言葉だった。が、このとき、理亞もこの千歌たち6人と同じ状況に陥っていた、のかもしれない。
が、この聖良の言葉、実は千歌たち6人以外にも強い衝撃を受けた子が1人いた。遠くから聖良の言葉を聞いていた、月、だった。月は聖良の言葉を聞いて、
(あっ、やっぱり、僕があのとき感じていた違和感、それが原因だったんだ・・・)
と、思ってしまった。月が言う違和感、それは、昨日の部活動報告会での新生Aqoursのパフォーマンスを見たときの本来のAqoursと新生Aqoursのパフォーマンスの差、だった。このとき、本来のAqoursが見せるキレがあってダイナミック、元気さ、楽しさを前面にだす姿、とは違い、新生Aqoursが見せたパフォーマンスは表情もダンスもともに堅い、とても小さなパフォーマンスという大きな落差を見せてしまっていたのである。この差に月は違和感として感じていたのだが、その原因について、月、このとき、本来のAqoursにいた3人、ダイヤ、果南、鞠莉、がいないだけ、という認識しかなかった。と、いうわけで、聖良の言葉を聞くときまでは、月、その3人がいないことでパフォーマンスが悪かった、たった3人、その3人がいない、ただそれだけ、と、月は聖良の言葉を聞く前はそんな認識だったが、聖良の言葉でそんな認識ががらりと変わってしまった。そのパフォーマンスの落差の本当の原因を月は初めて知ることができたからだった。そのここにいない3人こそ、本来のAqoursの屋台骨、とても重要な3人、であり、その屋台骨がいない、今の新生Aqours、そのために、不安・心配という海・沼の奥底に沈みこんでしまい、結果、迷走している、それが聖良の言葉を聞いた月の認識だった。
そんな月、
(今の新生Aqours、ダイヤさん、果南ちゃん、鞠莉ちゃんという3年生3人、Aqoursを支えた3人という大きな柱がなくなったことで、不安・心配という深き海・沼に陥ってしまった、これが今の新生Aqoursの現状なんだ・・・。それだけ3年生3人の存在は大きかった、そう考えると、僕、もう少しAqoursのことを勉強すべき、だったかな・・・。だって、僕、とても大切な存在だった3年生3人が抜けた、そのことを知らず、ただ、ラブライブ!で優勝した、その実力がある、と、思って、曜ちゃんたち新生Aqoursを自分のためだけに担ぎ出した、そんな気がするよ。でも、曜ちゃんたちにとってみれば、新生Aqoursとして始めて、いや、新体制が整える時間すら与えられないほどすぐに表舞台に出してしまった・・・、そして、ライブは失敗した・・・。そう考えると、僕、なんか曜ちゃんたちに悪いこと、しちゃったかもしれないね・・・)
と、自分を責めるような思いを持ってしまう。たしかに、本来であれば、千歌たち新生Aqours、その万全な体制を整える、そんな時間があったほうがよいのかもしれなかった。新生Aqours、万全な体制で臨めば、こんな不安・心配と言う深き海・沼に沈みこむ、そんなことは起きなかったのかもしれない。けれど、新生Aqoursは、万全な体制を整える、そんな時間、なんてない、いや、本当に赤子の状態のまま、すぐに表舞台に引き釣り出されたのだ。その意味では、月、今の新生Aqoursの現状を作り出した張本人、だったのかもしれない。が、逆にいえば、遅かれ早かれ、今の新生Aqoursの現状に陥ることは目にみえていたのかもしれない。本来のAqoursの屋台骨を支えた3年生3人がいない、そのことが原因で迷走してしまったこと、その問題点はいつ噴出してもおかしくなかった。むろん、今回は赤子の状態でこの問題点は噴出してしまったので、ある意味最悪だったのかもしれない。が、この問題点はいずれいつかは必ず千歌たち6人が直面してしまうことになるだろう。そう考えると、このタイミングでその問題点が噴出してよかったのかもしれない。なぜなら、今はまだ2018年3月である。ダイヤたち3年生3人、浦の星を卒業した、とはいえ、まだ、3月中である、身分上ではまだ浦の星に籍を置く高校生、つまり、3月末、今月末までスクールアイドル、であるのだから・・・。
ともあれ、月、ふとあることを思ってしまう。
(あっ、そういえば、あのサイドテールの少女(聖良)、鞠莉ちゃんのこと、小原鞠莉、って言っていたのよね。小原・・・鞠莉・・・、あれっ?鞠莉ちゃんの名字ってなんだっけ?)
実はこのとき、月、鞠莉の本名を知らなかったのだ。用途Aqoursのことについて話すとき、鞠莉のことはいつも「鞠莉ちゃん」としか言っていなかったため、鞠莉の本名については、月、まったく知らなかったのだ。で、今回、聖良の言葉でようやく鞠莉の本名が小原鞠莉により、ちょっとパニックを引き起こしてしまった。なぜなら・・・。
(鞠莉ちゃんの本名は小原鞠莉・・・、小原・・・、小原・・・、小原・・・、って、たしか浦の星の大スポンサーだったところだよね。そして、鞠莉ちゃんの本名は小原鞠莉・・・。えっ、えっ!!)
そう、月、このとき初めて鞠莉が浦の星の大スポンサーだった小原家の娘、ではないかと疑うようになったのだ。さらに、
(小原・・・鞠莉・・・、小原・・・鞠莉、鞠莉ちゃんは浦の星の大スポンサーだった小原家の子ども・・・、なのかな・・・?)
と、月、少し困惑気味になってしまう。この疑い、月にとっては頭のなかでパニックを助長させてしまっていた。
が、そんなときだった。聖良たちと千歌たちに動きがあったみたいだった。月、それを見て考えてしまう。
(あっ、ツインテールの少女(理亞)が突然ほかのところに走り出している!!)
どうやら、理亞が聖良と千歌たちのところから逃げ出したみたいである。これを見た、月、
(あっ、僕も追いかけないと・・・)
と、逃げ出した理亞を追いかけるように走り出す聖良と千歌たちを自分も追いかけようと走り出し、この場をあとにした。