星廻る杖と魔法科高校の劣等生   作:カイナベル

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 やあやあ皆さんごきげんよう。
 アニメ第一話よかったですね。リーナかわいかったです。映画の時より顔が幼くなったって話をチラチラ聞いてましたが、ぶっちゃけどっちでもかわいかったので大して気にはならなかったですね。

 


第十七話

 ここは一校の体育館。剣道部や剣術部が見守る中、相対するエリカと進。大勢の観衆が見守るのは、二人の日課となりつつある一対一の試合だった。しかし、実力差があるため、実質的に進による手ほどきになっている。とはいえお互いに実力を磨けるのであればお互い何の問題もない。この二人がほぼ毎日、体育館で体育館を間借りし、試合をしているため、二人のことは校内でもそれなりに話題になっており、時間になれば近接に興味のある者たちが集まってきて観戦し始める。マジック・マーシャル・アーツ部の沢木や十三束も観戦の人ごみに紛れている。

 

 特に上記の二つの部は一度部活を止めてまで全員で観戦するほどであり、二人の動きの中から何とか技術を盗もうと真剣な面持ちで見ている。二人の試合は非公式ではあるのものの、監督者をつけなければならないのだが、毎日のようにやっているため形式的なものとなっている。

 

 エリカは防具なしで普段から使用しているCADを、進は身一つに杖を持っている。両者防具はつけていない。いつものようにほどほどの距離を取った二人は合図無しで試合を開始する。まず先手を打つのはいつもエリカ。自らの武器である速さを使い、進の懐に飛び込もうと一気に加速する。桐原や壬生、摩利などの実力者であろうと、対応が難しいほどの恐ろしい速度を足運びや体さばきで実現する。それでも進は怯まない。

 

 横薙ぎに振るわれた胴への一撃を軽く杖で弾き体勢を崩した進は、お返しといわんばかりに杖を振り上げ彼女の脳天めがけて杖を振り下ろす。エリカは素早く体勢を整えると即座に自己加速術式を発動し杖の一撃を回避する。そのままの勢いで側面から攻撃を試みるエリカであったが、進の鋭い気配に横っ飛びし、背後に回ったうえで攻撃に入る。

 

 だが、進はいとも容易くエリカの速度に対応する。エリカから距離を取るようにステップを踏みながら反転した進は杖を逆袈裟に振るい、向かってくるエリカの意思を削ぐ。目の前で振るわれた杖の影響で一時的に足を止めたエリカ。以前の彼女であったら、もう一度踏み込むのに一瞬のためらいを持っていただろうが、今では躊躇なく再び踏み出せる。

 

 脱力し力強く踏み出したエリカは鋭い踏み込みで進との距離を三メートルのところまで詰める。これ以上踏み込まれると彼女の間合いになってしまうと判断した進は杖を横薙ぎに振るい下がらせようとすると同時に、自分も後に跳ね距離を取ろうとする。しかし、杖が当たる直前、エリカは素早くかつ細かくステップを踏み側面に回り込むと横薙ぎの一撃を躱す。

 

 普通の剣士であれば、取ったと判断し一直線に走り出すだろう。しかし、もう何か月も進と戦っているエリカはこんなものでは不意すらつけないことを理解している。だからこそ、エリカは最後の最後まで油断せず踏み込んでいく。

 

 懐に飛び込もうと限界まで踏み込むエリカ。それに合わせて身を翻しながら降りぬいた杖を腕力で引き戻すと袈裟と逆袈裟で平行になるように二連撃を繰り出す。しかし、振るわれた杖がエリカに当たることはない。踏み込んだエリカはそれと同時に肉食獣のように身を低く屈めるとスレスレのところで杖を回避する。一瞬の激しい攻防に群衆からは小さく歓声が上がる。しかしそれは当の本人には届いていない。それにエリカにとっては第一段階を越えたに過ぎない。

 

 進の一閃を身を屈めて躱したエリカ。しかしそれでも進の攻撃は続く。斜めに振るわれたはずの杖は既に進の制御下に戻ってきており、躱したはずの一撃が今度は頭上から降り注ぐ。それを低い体勢のまま、横に体をズラすことで回避するエリカ。自分の身体の脇を紙一重で通り抜けていく杖。

 

 「取った」ここで初めてエリカはいけるかもしれないと希望的観測を持つ。進の鋭い迎撃を死に物狂いでかいくぐり懐に飛び込んだエリカは、手に持ったCADを進の腹部に向かって突きだす。周囲の人間にも当たったと確信させる完璧な一撃。打ち込んだ本人ですら決まったと思わせるほどの一撃。

 

 しかし、次の瞬間鳴り響いたのは肉を叩く鈍い音ではなく、何かが弾けたような金属音だった。数秒後、体育館の床にエリカのCADが甲高い音を立てて落ちる。

 

「ハ?」

 

 群衆のうちの一人が何が起こったのかが理解できずに間抜けな声を上げる。他のほとんどの群衆も何が起こっていたのかは理解できておらず、早々に気づいた者も進の体勢を見てやっと気づいたといった感じであった。

 

 半身で杖を振り上げている進。彼は突きが撃ち込まれた瞬間、エリカすら上回る人間離れした速度で体を引くと振り下ろした杖を本気の速度で振り上げエリカのCADを弾いたのだ。洗練されたその一撃を視認したことが出来たのはほんのごく一部だった。

 

 しかし、進はその一撃の代償を払うこととなる。その一撃はエリカの予想以上の動きに()()()()()()()では対処が追い付かなくなり、咄嗟に全力で打ち込んでしまったものだった。彼が何かを全力で握った時の握力は生の青竹を握り潰せるほど、速度は常人には軌跡を辛うじて追えるレベルである。つまり彼の一撃はレオレベルの肉体強度でないと致命傷になりかねないほどの威力を持っている。

 

「痛つつ……」

 

 その一撃をCAD越しとはいえ受けたエリカは手首を抑えてうずくまる。額から彼女らしくなく脂汗をかいており目じりには涙が浮かんでいる。相当の痛みが走っていることが群衆にも分かった。

 

「すみません! つい全力で振るってしまって……」

 

 やってしまったと顔を青ざめさせた進は杖を手離すとエリカの下へ駆け寄っていく。今のエリカがまずい状況だと理解した剣術部たちが集まってくる。

 

「へ、平気よ。この程度だったら普段の鍛錬でもよくあることだから……」

 

 もちろんそんなわけがない。彼女がここまで強く打ち込まれることはなく、また普段は防具がついているため、負担はそれなりに軽減されている。現に彼女の手首にはその衝撃でヒビが入っていた。それが理解できている進は即座に反論する。

 

「そんなはずがありません! 杖で叩いた時かなりの手ごたえがありました。恐らくヒビが入っているはずです!」

 

「……うん。本当は結構痛くて……」

 

 柄にもなく声を荒げ指摘する進に、エリカは押されつい本音を漏らしてしまう。彼女の腕を持ち患部の状態を確かめていた進は袖をまくりそこにつけられていたCADを露わにする。

 

「今から患部に治癒魔法をかけますがよろしいですか」

 

「……ええ、構わないわよ」

 

 エリカの返答を聞いた進はCADを操作し、治癒魔法を起動式を読み込むと、魔法式をエリカの手首に投射する。直後、ヒビなど最初からなかったかのように手首から痛みが消え去る。

 

「一応治癒魔法はかけましたが物理的な補強も行っておいたほうがいいと思います」

 

「だったら使ってくれ。治療に必要なものは一通り入ってると思うぜ」

 

 進の背後から桐原が救急箱を差し出す。善意で差し出されたそれをありがたく受け取った進は体育館の端のほうに移りエリカの手首にテーピングを巻き始める。既に剣術部や剣道部は活動を再開している。これは彼らの行動を無駄に意識させないための気遣いであった。

 

 慣れた手つきでテーピングを巻く進はおとなしくて首を握られているエリカに泣き出しそうな声で謝罪する。 

 

「すみません、力加減が出来ずに……」

 

 そんな彼を見てエリカはいつものように明るく振舞って見せた。このままでは進が責任を感じすぎてしまうと判断したからだった。

 

「いいのいいの! 一瞬でも全力を引き出せたんだから! それと手首のヒビの交換だったらおつりがくるわ!」

 

「しかし……」

 

 しかし、それでも進の罪悪感を晴れることはない。

 

「はい、この話終わり。もう治癒魔法もかけてもらってテーピングも巻いてもらったんだからもうそれで大丈夫よ。私だって剣の道を進むもの、こういうことだって覚悟してるわ。だからあんまり責任感感じないでね」

 

「……ありがとうございます」 

 

 エリカの必死の説得で進の心理状態は怪我を負わせる前の状態に戻る。

 

「それにしてもうまいわね。テーピングはすごくきれいだし、治癒魔法は本来すごい難しい術式なのに」

 

「昔は馬鹿なことばかりやって、自分で治療していましたから」

 

「へぇ~。ちなみにどんな事やってたの?」

 

「直径五十センチの鉄柱を魔法なしで斬ろうとしたり、宙を舞う鳥の羽を一息で三枚切ろうとしたり……」

 

 進の口から飛び出す剣豪でも逃げ出しかねない荒行にエリカはつい頬をひきつらせる。

 

「相当無茶してたのね……。結局できたの?」

 

「さすがにそのままでは無茶でしたね。鉄柱のほうは木刀で殴って折りました。鳥のほうは一枚しか……」

 

「それでもとんでもないから! うちの親父でもできるか怪しいわよ!」

 

「鉄柱の時は木刀を何本もダメにして手首も何度も痛めましたね」

 

 会話をしながらテーピングを巻き終わった進はエリカから手を離すとテーピングを救急箱にしまい、剣術部に返却しようと立ち上がる。一方でテーピングの仕上がりを確かめるエリカは、それと同時に先ほどの進のバカげた行動を思い出す。たとえそれが無茶であっても、何とか押し通そうと積み重ねてきた努力が彼の強さを作り上げたのだと理解する。彼の強さを改めて認識すると同時に自らの未熟さを理解し悔しさで拳を握り締める。

 

 そんな彼女のもとに一人歩み寄ってくるものがいた。

 

「ハイ、エリカ。ずいぶん派手な立ち回りだったわね」

 

「リーナ、見てたのね」

 

 金髪を揺らしながらエリカのもとにしゃがみ込んだリーナ。彼女も野次馬として二人の試合を見ていた一人であり、その実力の高さに戦慄していた一人であった。彼女の故郷であるUSNA、中でもスターズにもここまでの近接戦を行えるものはいない。副隊長であるカノープスであっても刀を使うが、剣術のみに絞れば彼であっても二人には勝てないとリーナにははっきりと理解できた。

 

「ずいぶんすごい戦いだったわね」

 

「なーんか複雑な気分ね。七月くらいから毎日のようにやってるんだけどまだ一度も打ち込めてないのよ」

 

 エリカの口から告げられた事実にリーナはさらに戦慄する。スターズの総隊長であるリーナであっても、模擬戦ですべて勝利することは不可能である。今までに何度も敗北を喫しており、副隊長であるカノープスには何度も辛酸をなめさせられている。それが分かっているからこそ進の功績が異常であると深く理解できた。

 

「進って魔法だけじゃなく剣までそこまですごいのね」

 

「そ、今までの相手が弱く感じちゃうくらい。おかげでだいぶ強くなれた気がするわ」

 

 リーナの隣で体育座りをし、顎を膝に乗せるエリカ。その隣で密かに進とそれに食らいついていくエリカに戦慄するリーナ。そんな彼女らのところに進が戻ってくる。 

 

「戻りました。っとエリカさんの隣にいるのはどなたですか?」

 

「リーナよ。私たちの試合を見てたんだって」

 

「こんにちはシン。あなた魔法だけじゃなくて剣まですごいのね」

 

 自分のほうに進が視線を向けてきたことを確認したリーナはひらひらと手を振りながら簡単に挨拶をし、話に入る。

 

「本来は剣のほうが得意なんですよ。魔法もそれなりにできるというだけで」

 

「生意気!」

 

 二科生であるエリカの前で無神経な発言をした進は、エリカに強く脛を前蹴りされる。さすがに痛みに耐えきれずに進は脛を抑え跳ねる。そのいつものふるまいとは違う間抜けな振る舞いに吹き出すエリカとリーナ。

 

 その後、正式に風紀委員の達也がやってきて注意を受けた二人。しかし、達也も進が悪意があって怪我をさせたわけでなく今まで怪我を負わせたということもなかったため、大事にすることなく注意と報告書のみで済ませた。 

 

 とはいえエリカの手首にヒビが入っている以上、これ以上は続けられない。剣道部と剣術部に挨拶をした二人はそのまま帰宅の途に着いた。その道中、杖を突く音をカツカツと立てながら歩く進の横を歩くエリカが突然口を開く。 

 

「ねえ、進君ってさ。本気で剣を振るえる相手いるの?」

 

「そりゃ相手を殺すときには全力で剣を振るいますよ。躊躇は自分を傷つけますから」

 

「ま、それはそうよね。じゃあ私とやるときは今まで手加減してたってこと?」

 

 そのエリカの指摘にビクリと肩を揺らす進。ジトリとした視線で見つめられていることを理解した進は重い口を開く。

 

「まあ、それなりに手加減はしていました。本気でやったら確実に怪我をさせてしまいますので」

 

「フーン……」

 

 納得したように息を吐くエリカ。彼女の返答を待つ進。彼はまさに処刑台の前に立っているような気分であった。久しくなかった冷や汗を浮かべながらエリカの返答を待つ進。重苦しい空気の中、やっとエリカが口を開く。

 

「もっと頑張るから」

 

「ん?」 

 

 エリカの予想外の答えに進は思考が一瞬停止し声を漏らす。その意味を問おうと呼び止めようとしたが、その前にエリカはさっさと先に行ってしまい、キャビネットに乗り込み行ってしまった。もやもやとして残った彼女の言葉に進は柄にもなく後頭部を掻く。聞かないほうがいいのかと彼はこの後、この言葉の真意を聞くことはなかった。

 

 




今回の話は来訪者編とは大して関係ありませんでしたが、次回からは戻りますのでご安心をば。それでは来週また会いましょう。

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