土曜の学校が終わり、手首を痛めたエリカと試合ができない代わりに、剣術部をメタメタにした進は深夜一人で散歩に出ていた。進の趣味は剣を振るうことの他に散歩をすることである。その中でも夜に散歩するのが好みだった。静かで涼しく人が日中より少ない。これほどに散歩をするのに適した環境はない。
あてもなく目的地もなくフラフラと夜の街を歩き続ける進。父は軍の関係で多忙であり家に寄り付いていることは少なく、母親は既に身近にいない。一軒家に一人で暮らしている彼の行動を見張る者はおらず、深夜徘徊を止める者もいない。既に一人で三時間以上歩き続けている進は何も考えずフラフラと進み、いつの間にか渋谷まで来ていた。そこそこ郊外に住んでいるはずなのだが、ここまで歩くことができるのは彼の健脚がもたらせる結果なのだろうか。
何も考えないままひたすらに歩き続けていた進。しかし自分がどこまで来ているかは認識していた。二十三時、深夜の渋谷、若者が集う繁華街。まともな魔法科高校の生徒が寄り付くような場所ではないこの場所で妙な出会いをすることになる。
彼の脳内に響く虫の羽音のようなノイズ。意識にまとわりつくようなそのざわめきに何かを感じ取った進はその音が大きくなる方へ向かって歩き始める。その歩みは次第に速さを増していき、形を変える。それに比例するように着実にノイズは大きくなっていく。彼の胸中にあった意思はただ一つ。「斬れるなら行かなきゃ。強ければいいなぁ」
ノイズとともに大きくなっていく闘争の気配。つられるように上がる口角。ノイズがある一定の大きさまで大きくなったところで彼の耳にかが戦っている音が入ってきた。その音を聞きつけた進はさらに速度を上げ、距離を詰めていく。進と戦闘を行っている二人の距離が二十メートルのところまで近づく。そこで進が行動に移る。強く踏み込みながら距離を詰めた進は低空気味に跳びあがると、気配の強い方に向かって斬りかかった。
突然の闖入者に動揺するそぶりを見せながら唐竹割を受け止める怪人。鈍い音とともに受け止められる進の唐竹割。受け止めたと同時に怪人は進の腕を掴む。しかし、それを力で振り払った進は、止められた状態から落ちる体を捻り速度をつけると、空中で逆袈裟の一撃を怪人の横っ腹に打ち込んだ。カーボンアーマーをつけているにもかかわらず伝わる衝撃に怪人はよろめき、二、三歩後ずさる。
その一方で打ち込んだ進は不満そうな表情で片足で音もなく着地する。今の攻防は一撃目、さらに譲歩すれば横薙ぎの二撃目で決められたと考えていたのだ。さらに受け止められ腕を掴まれたことにも不満げである。先ほどの一撃は並の男性では受け止めることできず、レオのような近接タイプであっても衝撃で沈みこまざるを得ないほどの一撃であった。それを動揺しながらも軽々と受け止められたことが不満で仕方なかった。
不満そうに鼻息を吐いた進は怪人に相対すると両腕をだらりと下げ、それでいて一切の油断なく無行の位を実行する。それに戦闘体勢であることに気づいた怪人は腹部の痛みに耐えながら戦闘態勢をとる。先に動いたのは進。風のごとき速度で一気に距離を詰める。それに合わせ力強く踏み込むと崩拳を撃ち込む怪人。二人の攻撃は渋谷のにいる一山いくらのチンピラでは対処することが不可能な洗練された動きであった。
リーチの関係で先に攻撃が届く進は、顔面に迫りくる拳を当たる寸前で躱すと怪人の胸に向かって突きを繰り出す。あまりにもあたる寸前で拳を躱された怪人は突きに対して回避行動をすることができない。そのまま胸部に突きを受けた怪人は衝撃で吹き飛び、もんどりうって転倒する。
倒れこんだ怪人にさらなる追撃を加えるため、走り出す進。しかしの彼の体が前に出ることはなく、杖でも防御を強いられた。杖でごく小音の銃弾を弾いた進はその方向を向き、攻撃の対象を探る。攻撃主を発見した進は杖を握りなおし、迎撃のためそちらに走り出そうとするが、逃げ出す怪人に意識がとられてしまい、攻撃主から意識がとられる。そして怪人に意識をとられた瞬間、攻撃主にも逃げられる。
らしくないミスをした進は己のミスを悔やむと同時に身を翻し追いかけようとする。が、彼の足元から響く呻き声がそれを躊躇させる。どことなく覚えのある声に足を止めた進は追跡は困難だと判断し、倒れる人物の介抱に移った。倒れこむ人物の体を抱き上げた進はここで声の正体に気づく。
「レオさん!? レオさん大丈夫ですか!?」
想像だにしない人物が倒れていることに驚いた進は声を上ずらせる。その直後、彼らのもとに寿和と稲垣が現れる。
「……すいません。このあたりで怪しい人物はいませんでしたか? っと君は確か……」
「話はあとでたっぷりと。それより早く救急車を」
「あ、ああ」
進のぴしゃりとした指示に寿和は稲垣に指示を出し救急車を手配する。
「ところで話は戻るんだが」
「どうやらレオさんと交戦していたみたいですね。そのあと私とも少し戦いました。逃げられてしまいましたが」
「本当か! その人物はどっちに!」
寿和の追及に進は怪人の逃げていった方向を指さす。程なくして彼らのもとに救急車のサイレンがやってくる。レオと怪人に襲われたもう一人が救急車に乗せられる。刑事である寿和もおり、これ以上自分のやることはないと判断した進はその場を離れようとするが、寿和に肩を掴まれることで逃げられなくなる。
「さあ、君もだ。戦闘を行ったんだろう?」
「……一撃も食らっていないのですが」
「戦闘の最中、未知の攻撃を食らった可能性だってある。念のため検査をしてもらった方がいい」
寿和に無理やり救急車に乗せられ搬送されていく。搬送される中進は戦闘に割って入ってきた人物のことをぼんやりと考えていた。いったい何者だったのだろうか、彼は無意識のうちに覚えを抱いていたのだが、それに気づくのは少し先の話である。
病院に搬送され、検査を受けた進とレオ。進の方は身体に何の影響もなかったが、レオは立ち上がることもできないほどに消耗している。ただ、医者曰く命に別状はなく時間が経てば回復するとのこと。しかし、原因不明で倒れこんだレオのこともあり進も一応安静を言い渡されているのだが、身体的に何の変化もないと思っている進がそんなことを聞くはずもない。
検査が終わってすぐに病室を脱走した進は病院内の散歩を始める。あまり病院に来ることのない彼は(小さい頃は父親の関係上、軍の医者、特に山中に診てもらうことが多かった)非常な新鮮な気持ちで歩き回る。少々の騒ぎになっていることにを知ってか知らずか二時間ほど歩き回った進が病室付近に戻ってくるとレオの病室前の廊下に置かれた椅子に見知った人物がいることに気づく。
「おや、エリカさん。レオさんのお見舞い……、という感じではなさそうですね」
「進君!? なんで病院服!?」
病院では忌避されるほど大きな驚きの声を上げながら、立ち上がったエリカは進のもとに駆け足で寄ってくる。
「私も怪人と戦ったからですよ」
彼女の問いかけによどみなく答える進。彼の返答を聞いたエリカは妖しいオーラを放ち始める。
「そう。ちょっと行ってくるわね」
「え、ええ、お構いなく」
そういうとエリカは駆け足の進の前から姿を消す。彼女の後を追わず廊下にとどまった進は、何か嫌な予感を感じながら廊下に置かれた椅子に座り彼女の帰還を待つ。しばらくして戻ってきたエリカはその手に缶コーヒーを二本持っており、一本を進の手の上に置く。
「ありがとうね。兄貴の代わりにレオを助けてくれて」
「いえ、偶然通りかかってこっちが勝手に首を突っ込んだだけですし。おそらく刑事さんたちも間に合っていたでしょうから」
エリカに手渡された缶コーヒーをありがたく受け取った進は口を開けると恐る恐る口をつける。進の返答を聞いたエリカはいつも通りの彼の振る舞いにクスリと小さく笑う。
「相変わらずね。きっと偶然通りかかったっていうのも嘘じゃないんでしょうね。それでも感謝するわ。過程はともあれもう少し遅ければレオは死んでいたかもしれないから」
「これ以上感謝の気持ちを貰ったら溢れてしまいます。この缶コーヒーとそれで勘弁していただけませんか」
「じゃあやめておくわ」
一通りのやり取りを終えた二人はそのまま世間話に突入する。
「そういえば手首の調子はいかがでしょうか?」
「ん。病院にも行ったし治癒魔法がうまかったのかほとんど治ってるわ。あと三日も安静にしてれば完治するって」
「それはよかったです」
「それにしても進君なんで渋谷にいたの? レオならともかく進君行くような感じには見えないけど」
「フラフラと何も考えずに歩き回っていたら渋谷についてしまったみたいです。そのあと、いやな気配を感じてそこに行ってみたら怪人がいたので突っかけたというわけです」
「まあ、あなたの性格考えたらそうなるわよねぇ」
二人が世間話をしていると、二人の前に意外な人物が現れる。十文字克人と七草真由美。一項の先輩、十師族の直系の二人である。現在自由登校である二人に時間に関しての制限はないが、レオと進、二人に対して深い関係のない二人が見舞いに来るというのは少々不自然である。
三年二人が世間話をしている二人に気づくと、一瞬、「あれ? なんでこいつここにいるんだ?」という顔をし、その直後、真由美が口を開く。
「進くんも怪人に襲われたそうね。そのことで少し話を聞かせてもらってもいいかな?」
「わかりました。あまり参考にはならないでしょうが」
真由美の誘いを受けた進は真由美に誘われるまま、レオの病室に足を踏み入れる。そこにはうっすら意識を取り戻しながらもベットに伏しているレオがおり、虚ろな目で三人を見ている。
「お、おぉ? 生徒会長が何でここに?」
蚊の鳴くような声を発したレオは無礼がないようにと体を起こそうとするが、二人はそれを制止する。二人の気持ちを受け取り、ベットに再び寝転がったレオと壁によりかかる進。真由美と克人によって二人の聴取が始まる。
「ではこれから話を聞かせてもらうんだけど、その内容は内密にお願いします」
前置きを話した真由美は二人から昨晩の話を聞き始める。とはいえ進が怪人と接触したのは奇襲を仕掛けたあと、三分ほどの短い時間である。レオのように受動的に遭遇し騒動に巻き込まれたわけでなく、自分で首を突っ込んだ彼の話は大して役に立たないだろう。レオも未だ体調不良のため、長時間聴取をすることはできない。進が自発的に首を突っ込んでいったことという
聴取が終わるとレオは再び体力回復のために眠り始め進は病室を離れ廊下に出る。しかし、そこにはエリカはいない。彼女の居場所に心当たりのあった進は病院の事務室の一つに向かう。そこには寿和たちが待機しており彼関連でエリカがいる可能性が高い。
その推測はあたり、事務室に入るとそこにはエリカと寿和、稲垣の三人がいた。寿和の頬は大きく腫れているが、進の気づくところではない。
「進君、終わったの? で、どんな感じだった?」
寿和たちを差し置いてエリカは二人の聴取の内容を聞き出そうとする。先を越されたことで口を開くタイミングを失った寿和は酸素の足りない金魚のように口をパクパクと動かしている。
「申し訳ございません。あのお二人に守秘義務をつけられてしまいまして内容自体は」
進が何も話せないことにエリカは舌打ちを打つ。しかし、進はですがと付け加える。むろん彼女のためではなく話を円滑に進めるための措置である。
「わざわざ警察に投げるのでなく、自分たちで調べるということは何か魔法関連の裏があるんでしょうねぇ。それも十師族が関わらざるを得ないほど面倒な事件。いやですねぇ物騒で」
「……守秘義務があるんじゃないの?」
推測をわざとらしくこぼした進の口元が小さく上がったことに気づいたエリカは、じっとりした視線を向けながら進の言葉を指摘する。
「話しているのは聴取の内容ではなく私の推測ですので問題はないでしょう。それでは私はまた暇つぶしに行ってきますね」
そういうと進は再び散歩に行くため、事務室を出て行ってしまう。残された三人は寿和を皮切りに話を始める。
「……なあ、あの子、いっつもあんな感じなのか?」
もちろん寿和と稲垣も進の口角が上がっていることには気づいていた。普通、問題に関わりたくないというのが人間の心理である。それとは正反対に問題に首を突っ込もうとするその精神。寿和の引き気味の問いかけにエリカは何事もないかのように答える。
「ええ、いつもどこかで斬りかかれる相手を探してるわ。その嗅覚も抜群。腕も尋常じゃない。もはや現代の人斬りよ」
「ええ……」
エリカの返答を聞きやっぱりドン引きする寿和。横浜で見た時にもどこか変な子だとは思っていたが、ここまで変な子だと思っていなかった寿和。兄としてエリカに関わらせて大丈夫なものかと思うのだが、それを口に出そうものならまた裏拳を食らいかねないため、そっと飲み込むのだった。
その後、フラフラと歩き回っていた進であったが、その自由奔放な行動に痺れを切らした病院は病院の秩序を守るため、完全に復活したという理由で強制退院の措置を出した。願ったり叶ったりである進は先に退院するための準備をする。
準備を終えた進がほとんどない荷物をもって病室を出ると、彼の前にエリカに引き連れられた達也たちが現れる。進が怪人と接触(突っかけた)したことは彼らも知っている。彼が平気そうに歩き回っていることに口火を切ったのは以外にも幹比古だった。
「進、もう歩き回って平気なのかい!?」
「ミキ、進の性格まだ理解してないみたいのね。自分から首突っ込んでいくような人よ。朝には既に今みたいな感じだったわ」
「じゃあ、進さんそこまでひどくないんですね」
幹比古が自分の呼び方に突っ込みを入れる前に美月が口を開く。気弱な彼女のことだからか、進が平気そうにしていることにホッとしたように顔を緩ませる。
「もう帰るのか?」
私服に着替えて病室を出てきたことに疑問形で問いかける達也。
「ええ、散歩していたら追い出されました」
「ああ……」
進が何の気なしに答えると、いつもの面々は呆れ気味に小さく声を上げる。まあ、それはそれとしてレオの見舞いに来たという彼らに便乗する形で進はレオに退院の報告をすることにした。
レオの病室に入り、彼の姉とのやり取りを終えた面々はレオとやり取りを始める。みっともねえ所見せたなと照れ臭そうに笑うレオに見舞いの言葉をかける面々。続いて始まる怪人の会話。その中で幹比古がその最中にその正体を推測する。
「多分レオが遭遇したのはパラサイトだ」
幹比古の言葉に病室内の彼以外の面々が首をかしげる。幹比古の口から語られるパラサイトの解説。それが人に寄生して人を別の存在に作り替える存在の名称であるという説明を聞いた面々は納得し、一部は怯えた様子を見せた。
パラサイト談義で盛り上がる面々を遮るようにして幹比古はレオに幽体を見せてほしいと提案する。その言葉の意味を理解できていない面々に再び解説をする幹比古。生命力というわかりやすい説明で納得したレオは彼の提案を気持ちよく了承する。
その後、由緒正しい儀式的な方法でレオの幽体を調べた幹比古はレオの強度に驚きを隠せなくなる。その中でレオにしかわからない不躾な発言があったものの、レオの明るい振る舞いで和やかに話が進む。
「さあ、進。次は君を測らせてもらうよ」
「私ですか?」
「君も吸血鬼と戦ったんだ。一応調べておいて損はないと思う」
「まあ、私は構いませんが」
幹比古の提案を了承した進。それを聞いた幹比古はレオと同じような手順で進の幽体を調べ始める。しばらくして幹比古はレオの時以上の驚きを見せる。
「嘘だろ……。何でこの量でこんなに変わらない様子で動けるんだ……」
「どんなものなんだ、幹比古」
「あっ、うん。進の幽体も相当減ってる。大体半分より少し少ないくらいかな。これだったらレオみたいに昏倒するってことはないけど、それでも立ってるだけでもつらいはずなんだ。散歩なんてしてる場合じゃない」
幹比古の発言で面々がざわつく。そんな中でも進は全くたじろぐことなく顎に手を当てうんうんとうなずいている。
「なるほど、道理で逃げられるわけだ。無意識のうちに集中力が切れていたのですね」
「進、本当に何ともないのか?」
「ええ、少し体が重いくらいです。それ以外は特になんとも」
「いつも見てわかってたつもりだけど改めて人間離れしてるね……」
「照れますね」
「褒めてないと思いますけど……」
進の的外れな発言に突っ込みを入れる深雪。やっぱりおかしい人だというのは全会一致の意見であった。
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