星廻る杖と魔法科高校の劣等生   作:カイナベル

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第二十六話

 苦いような甘いような微妙な味わいを見せたバレンタインから五日の日曜日の夜七時。進含めたいつもの面々は第一高校野外演習場の前に立っていた。理由は達也に寄せられた一つの情報であった。―――今日この時間に残ったパラサイトすべてをこの演習場に誘導する――― というもの。

 

 どこの誰ともわからない人物から送られてきた情報であるため信憑性は低いが、情報がない以上これに頼るしかなかった。それにまだそれなりに時間は残されている。ガセネタ一つに踊らされたところでさほど痛くはない、というのが達也の見解であった。

 

 さて、この件に進が呼ばれたのは戦力として十分であるから、というものだった。単体でパラサイトを圧倒できるだけの高い実力があり、周りのフォローもそれなりにできる。そして何より大体の時間で暇を持て余し、戦える相手を探しているジャンキーである。これだけ揃えば呼ばない理由はなかった。

 

 何はともあれ演習場の前に立つ面々はここへの不法侵入を試みようとしていた。彼らと演習場を仕切るフェンスを飛び越えれば演習場に入ることが出来る。そしてこの場にそれが出来ないものはいない。

 

「跳べるか?」

 

 フェンスを乗り越えられるかの確認のために達也が声を上げると面々がその声に肯定で答えていく。その場で唯一答えなかったのは進。彼だけは言葉で答える前に行動で示して見せた。彼はフェンスに走り出すとその勢いを活かし大きく跳び上がる。跳躍の勢いを殺さないようフェンスに着地すると、そのままフェンスを蹴り上げ二度目の跳躍を行う。二度の跳躍で三メートル近く地面から離れた進は、そのままフェンスの縁に手を掛け体を引き上げ、縁の上に上った。

 

「……忍者みたいね」

 

「進、俺は素の状態で跳べるかと聞いたわけじゃないぞ」

 

 彼の行動を見ていた面々は呆れたように声を上げる。重力を感じさせない華麗な動きに見惚れてしまう者。呆れたように溜息を吐く者。洗練された身体操作に素直に感嘆する者。それぞれであるが共通してすぐに復帰しそれぞれの手段でフェンスを乗り越え始めた。

 

 演習場に不法侵入した彼らは三グループに分かれ索敵を開始する。索敵に美月・ほのかの特殊技能組に幹比古の護衛がついている。実働部隊として四人と一体が一塊で行動している。進一人が仲間はずれで当然のように一人で行動している。また一人にされた進であるが、これにもしっかりとした理由がある。まず第一に彼のその圧倒的な戦闘能力である。近距離において適うものなく、遠距離でも後れを取ることはない。そして何より彼には()()()()()()()()手段がある。勝手に放逐しておくだけで勝手にパラサイトを見つけ、処理してくれる彼の存在は達也にとって何よりありがたい存在であった。第二にその機動力がある。その機動力の高さを持ってどんな場所からも即座にフォローに回ることが出来る。これを実現させる上では一人のほうが都合がいいのだ。

 

 演習場の中を一人で歩き回る進はすぐにパラサイトの気配を掴み取り、その方向に向かって走り始めた。彼の進行方向には男女一組のパラサイトが存在している。彼らも即座に向かってくる進の存在に気づき、戦闘態勢を取る。

 

 お互いの存在を認識した双方は即座に行動に移った。男の方のパラサイトは自身の持つ能力、移動術式で進の身体に直接干渉し後方へ吹き飛ばし距離を開けようとする。女のほうは既に偏倚解放を発動しており距離を開けるはずの未来の進に狙いを定めていた。しかし、進は新魔法「術式斬壊」で自身の身体に直接干渉してきた移動術式を斬り飛ばす。おかげで進が後方に吹き飛ぶことはなく、狙いを定めた偏倚解放は失敗に終わり術式を中断する。

 

 自己加速術式で自身をさらに加速しつつ、術式斬壊で自身に降りかかる魔法を切り捨てていく進は事も無げにパラサイトの懐に潜り込んだ。目にもとまらぬ速さで近づいてきた進から距離を取ろうとするパラサイトであったがそんな彼らより進のほうがよっぽど速い。

 

 男のパラサイトの懐に飛び込んだ進は杖に手を掛けると、今回は出し惜しみすることなくその煌めく刃を白日の下に晒した。輝く刃を杖から引き抜いた進は光が軌跡を描く速度で剣を振るうとパラサイトの身体を一刀両断する。胴体を二つに泣き別れさせられたパラサイトは悲鳴を上げようとするが、進はさらに三回神速の剣で体を切り刻む。稲妻の軌跡で切り裂かれたパラサイトは悲鳴を上げる暇すら与えられず切り裂かれる。肉体が機能を停止したパラサイトは体を離れようとする。が、進は第六感、本能といえる感覚でパラサイトの本体を探し出すとその本体に向かって六度もの回数、その刃を振りかざし切り刻んだ。妖魔を殺せる未知の力を持つ刃。その六撃に晒されたパラサイトは、呆気なく命と呼べる概念を失い活動を停止した。

 

「しくじらずに殺せた、か。さすがにここまでやれば殺せるか」

 

 杖を片手に切り刻まれた男性の死体を見下ろす進。その姿を見て女性のパラサイトは恐怖に震えていた。本来であれば殺すことはできず、認識することすら難しい自分たちをその得物で切り刻み、何の抵抗もできないまま同胞があっけなく死んでしまったというその事実に彼女は震えていたのだ。足が震えているのを認識できないまま、恐怖で後ずさる女性型パラサイト。そんな彼女の様子を進は見過ごさなかった。自己加速術式で半分思考停止しているパラサイトの懐に飛び込むと、容赦も躊躇いもなくその胴体に刃を横にして突き刺すとその状態から刃を捻り上に向かって切り裂いた。当然、杖の刺さった場所から上は真っ二つに切り裂かれその機能を停止する。

 

 何の抵抗もできないままに男性パラサイトと同じ運命をたどった女性パラサイト。彼女もまた彼と同じように七度の斬撃に晒され容易く活動を停止した。

 

 瞬く間にパラサイトを封印ではなく殺害した進。彼は次の目標に向かって走り始めた。一番近くに存在するパラサイトに向かって走る進。しかし、彼は突然進路を変更した。その方向にはパラサイト以上に彼の興味を引く存在が存在していた。そこに向かって走る進。その存在が自分の射程内に入ったと認識した瞬間、進は跳び上がると杖をその対象に向かって振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で国防陸軍第一師団所属の遊撃歩兵小隊、通称抜刀隊と睨みあっているエリカとレオ。そこに一人の乱入者が現れる。名を千葉修次、「幻影刀(イリュージョン・ブレード)」、「千葉の麒麟児」として世界的に名を上げ活躍し、千葉一門の師範代、抜刀隊の師匠に当たる人物であった。

 

 抜刀隊にチラリと睨みを利かせた修次はエリカに視線を向ける。睨みつけるような視線で自分に向かい合った修次に対して一瞬怯んだようなそぶりを見せたエリカであったが、すぐに復帰し強気な眼差しで見返した。気持ちの上で見えない得物を突き付けあう二人。

 

 その均衡はすぐに崩れる。修次はエリカに向かって剣気を放つ。常人であればその圧力に押しつぶされ、少しも動くことができなくなるほどの濃密さ。現に抜刀隊の面々は余波であるにもかかわらず怯んだ様子を見せている。しかし、エリカは正面から当てられているにもかかわらず怯むことなく、剣気に対して真正面から剣気で返した。

 

 彼女の行動に無意識のうちに笑みが浮かぶ修次。一歩と動かずエリカの様子を窺っていた修次は行動を起こした。得物を振り上げたと認識すると同時に振り下ろす修次。予備動作のほとんどない彼の()()動きは熟練の剣士であっても捉えることが難しい洗練された動きであった。そんな彼の動きをエリカは持ち前の速さで受け止めた。

 

 そのエリカの動きを見て修次の浮かべていた笑みは獰猛な獣の物へと変化する。片手で握る刃を押し込む修次とそれを受け止めながら押し返すエリカ。二人の力が拮抗し合ったところで修次が意図的に圧力を消し、その瞬間エリカは体を引く。一定の距離を置いて対峙し合うエリカと修次。次の瞬間、修次はエリカにくるりと背を向ける。次の瞬間、エリカは兄の向いたほうを見てはっとしたような表情に変化した。

 

 修次が振り返った瞬間、彼の視界に自分に向かって飛び込んでくる何かが映った。棒状の何かを握りこみ、今にもそれを振り下ろそうとしている。明確な敵対行為であると反射的に判断した修次は振り下ろされる得物を自分の刀で受け止める。が、勢いの乗った得物の威力は非常に重く、修次は受け止めると同時に体を沈み込ませる。

 

 だが、修次はそれで怯むような近接魔法師ではない。得物を受け止めた体勢のまま、身を翻し空中に留まる襲撃者を蹴り上げる。が、襲撃者は空中で身を翻すと飛んでくる蹴りを回避する。宙で刎ねるような動きを師、地面に着地した襲撃者は地面を蹴ると再び修次に襲い掛かろうとし、修次はそれに備え剣を握りなおした。

 

「待って進くん! それは敵じゃない!」

 

 二人の激突を前もって防いだのはエリカの一声。進が修次狙いでこの場に乱入してきたことははっきりを認識できていた。しかし、修次は今倒すべき相手ではない。だからこそ一声かけて止めなければならない。

 

 エリカの一声で進は突進を停止する。エリカの声で襲い掛かった人物が敵対者でないことを認識した進は、足を止め別の気配を探り始める。その一方で千葉修二は未だに警戒を解かずに進を見つめていた。何せいきなり気配の一つも何もなく襲い掛かってきた人物だ。警戒心を抱いて仕方ないし、警戒を解かないのも当然である。

 

 だが、そんな彼を他所に進は悪意のある気配を探り動き出しのタイミングを計っていた。既に進の意識の中の修次は意識を割いておく程度の存在になっており、悪意に意識を大半を割いていた。

 

 意識を割いて探し始めた直後、彼の意識のレーダーに二つの悪意がかかる。一つは修次の方向、跳び上がったように上空から、もう一つはどうやったかは分からないが地中から、二方向から同時に襲い掛かってきていた。二方向からの襲撃に対して進は動く。

 

 地中から襲撃してくるパラサイトに向かって走り始めた進は同時に杖から光輪を出す。それに伴って上空から襲い掛かってくるパラサイトの落下直線状に刃の通り道が出来る。即座にパラサイト二体を迎撃する態勢を取った進は杖を振り上げパラサイトが出てくるであろう場所に振り下ろした。進が行動を起こした一瞬後、進の動きで何が起こるかをある程度予測したエリカやレオ、修次は遅れて迎撃のための行動に入った。

 

 しかし、彼らを置き去りにして進の攻撃はパラサイトを襲う。振り下ろした杖は地面から飛び出してきたパラサイトの頭部をものの見事に叩き、その衝撃でパラサイトは空中で意識を失う。次に上空から襲い掛かってきたパラサイトは星の杖(オルガノン)の回転する刃にかかり、ふくらはぎあたりで足を切断される。足を切り飛ばされたパラサイトは突然の事態に空中でもがくように動くと、べしゃりと地面に落下する。襲撃者を同時に迎撃した進の力量に修次は一瞬見惚れてしまった

 

 地面から出てきたパラサイトを叩いて引きずり出した進は杖から刃を煌めかせるとその刃をパラサイトの体に突き付け交差させるようにしてその体を斬り裂いた。その体に宿っていたパラサイトは瞬く間に活動を停止する。残るは膝から下を切り落とされたパラサイト。足を切り落とされたことでまともに動くことができない。

 

 だが、パラサイトには自爆という最後の手段が備わっている。これは一校襲撃事件の際に一度見ており、それを知っているからこそ早くパラサイトを殺さなければならなかった。パラサイトを殺したことを確認した進は反転すると即座に走り出し、残されたパラサイトに向かう。距離は二十メートルと離れておらず進の足であれば二秒と掛からずに到着できる近さであった。

 

 しかし、進がその手に握る刃をパラサイトに突き付けるよりパラサイトがその身を捨てる方が早い。進があと一歩で剣を振り下ろせるところまで近づいたとき、パラサイトの肉体が突如として破裂し、肉体の形を失う。同時に周囲に血が飛び散り、進はそれをもろに浴びてしまう。露出した本体を切り捨てようと剣をパラサイトの本体に叩きつけようとする進であったが、パラサイトの荷重系魔法の対処に追われ剣を防御に回さざるを得なくなる。その一瞬の間にパラサイトは進の剣の射程から飛び去ってしまい、他のパラサイトと合流してしまった。 

 

 本体を追いかけようと進はCADを操作し、自己加速術式を発動し走り出そうとする。しかし、そんな彼の気配のレーダーに妙なものが引っかかる。その方向に顔を向けその正体を探る。殺気も敵意も善意もなく、まるでこちらにまるで興味がない、それでいて力量は高い存在がこの演習場内にいる。そのことを認識した進はパラサイトの本体の方からその妙な気配に体の向きを変え走り始めた。

 

 エリカたちは声を上げ後を追おうとするが、その直後達也からの動くなという指示が出て行動を中断する。闇夜の中に消えていく進の背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇夜の中を駆ける進はほんの短い時間でとある場所にたどり着く。そこは別行動をしていた達也たちが一番最初に封印したパラサイトが眠る場所であった。そこには既に二つのグループがパラサイトを挟んで立っている。

 

 そんなことを知ってか知らずか、というより知ってて乱入する進。風を切りながら走っていた進は彼らの前に姿を現すと服の裾をたなびかせながら急停止する。来るはずのない場所に来るはずのない人物が現れたことでその場は一瞬の混乱状態に陥る。そこにいた人物が一斉に敵意を向け、それに合わせて進も戦闘態勢をとる。

 

 が、リーダー格と思しき人物が彼らを一斉に制して見せた。おかげで進に向けられる敵意がなくなってしまい、気の抜けた進は杖を下ろす。

 

「魔法で人払いもしていたのだがな……。恐ろしい直感だ」

 

 魔法で人払いをしていたにも拘らず、まるで関係ないかのように乱入してきた進に感嘆の声を上げる九島烈。もう一人のリーダー格である黒羽亜夜子は一度はこの場を収めたが、警戒心は未だ解かずに進を睨みつけていた。彼女もこの場に誰も来ないように魔法による人払いをしていたのだが、この男は平気な顔で入ってきた。そこに対して警戒心を持たないわけにはいかなかった。ここで動揺したようなそぶりを見せたのは年季の差、年の功というやつであろう。

 

 逆に進も亜夜子の敵意には気づいている。敵意を浴びても彼女に対しては警戒心を未だに解いていない。二人はまさに一触即発。何かの拍子に戦闘が始まりかねない雰囲気であった。

 

「安心したまえ」

 

 しかし、二人の間を収めるような烈の声が響き渡り、二人はぴりつくような気配を収める。続けて烈は進を収めるような言葉を紡ぐ。

 

「我々はこのパラサイトを拝借しに来ただけだ。君含めたお友達には一切手を出す気はない。手短に済ませたいため、戦うこともできないのだ」

 

 その烈の言葉を聞くと、進は警戒心を解き、すぐさまその場から離れ始めてしまった。彼が求めているのは自分と戦えるだけの強い存在であり、それ以外の存在には大して興味がない。彼らが戦ってくれないのであれば彼らに用はない。この場にまだ存在するかもしれない強者を探すために進は走り始める。烈も進の性格を知っていて最後の一言を付け加えていたのだ。

 

 闇夜に消える進の背中を見送った二グループはその背中に一体何を思ったのか。一方は若くして力をつけたものへの感嘆、もう一方は若くして力をつけたものへの警戒。その後、二グループはお互いに一つずつパラサイトを持って去り、その場を去った。

 

 その後、六体のパラサイトが合体し強大と化した怪物は達也と深雪によって打倒された。そこに加わることができず力を振るい足りない進は、それをどこにも振るうことができずに、物足りない感覚を覚えるのだった。

 

 

 




 さて、とりあえず少し早いですが来訪者編はこれで終わりになります。振り返ってみるとリーナ殆ど出てねえな。まあ主役は進だし多少はね?
 そんなことはさておき、現在来訪者編とスティープルチェース編の間の話を書いていますが、それを来週公開するか、スティープルチェイス編の前に登校するかで悩んでいます。多分、話的に八割の確率でスティープルチェイス編の前かな。まあ、アニメ化したら続きは書きますので気長にお待ちください。
 それでは魔法科高校の劣等生スティープルチェイス編アニメ化が決定したらまたお会いしましょう。

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