星廻る杖と魔法科高校の劣等生   作:カイナベル

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第五話

 公開討論会当日。とはいっても進のやることはさほど変わらない。いつものように授業を受け、適当に散歩をして帰るつもりだったのだが、そうもいかない事態が起きた。摩利に三度呼び出され、勧誘を受けてしまったのだ。いつものようにいなして立ち去ったものの、これではいつまでも勧誘を受け続けることになる。そう考えた進はさすがに鬱陶しく感じていた。その前に対応策を考えておく必要がある。

 

「というわけで何かいい案はありませんか?先生がどうにかしていただいてもよろしいのですが」

 

「図々しいわね。言い方が」

 

「困ったことがあったら相談しに来なさいとおっしゃったのは先生ですので。私はそれを聞いただけです」

 

 放課後、進は遥のもとにやってきていた。今の進にこれを相談できるような教師は遥以外にいない。進にはこの問題を一人で解決できるほどの手腕はない。そのため、いいように使える遥のもとにやってきたのだ。

 

「まあ、生徒の相談に乗るのがカウンセラーの相談ですから。渡辺風紀委員長にやんわり伝えておきます。それでもだめだったら自分で頑張ってね?」

 

 生徒にいいように使われているのが気にくわないのか、皮肉たっぷりの口調で遥は答える。遥の答えに進は口角を上げる。

 

「小野先生の言葉でぜひ止まっていただけるとありがたいんですが、あの方の場合、そうもいかないのが辛いところですね」

 

 進は鼻から重く息を吐き出す。その様子を見た遥は少々気味よさそうににやける。それでも遥に面倒事がのしかかった事実は変わらない。その現実から逃げるために遥は話題を変える。

 

「そういえば進君は討論会見に行かないの?」

 

「ええ、興味がありません」

 

「一科生、だからかしら?」

 

 遥からの問いかけでカウンセリング室内の雰囲気が引き締まる。少なくとも遥にはそう感じた。

 

「そうではありません。一科生が図に乗る、もとい立場が高くなるのは当然の事でしょう。ここは魔法科高校、魔法を学習する場所です。魔法力が高い生徒が優遇されるのは当然の事でしょう。問題なのは強くなるための努力をしようともしない者たちです。恐らく今回の有志達のほとんどがそうでしょう。文句があるならば魔法抜きでも魔法師を圧倒できるほどに強くなればいい。そこに到達するための努力すらしないくせに文句だけは一丁前とは反吐が出る」

 

「なんか……、進君性格変わってないかしら?」

 

「気のせいでしょう」

 

 遥は進の持論に体を震わせた。魔法力が高いというのも今の言葉の自信になっているのだろう。しかし、問題は後の理論である。魔法なしで魔法師を圧倒できるようになればいいなど、普通は考えない。それほどまでに魔法というものは強力なのである。それを進は淀むことなく言い切った。これほどの考え方を持っているものがいったいこの世に何人いるのだろうか。この若さでそういう領域にいる進に恐れすら抱いた。

 

 遥は体を抱いて身を再度震わせる。その瞬間、校舎が大きな揺れで震えた。突然の爆音と振動に進は驚き、椅子から滑り落ちる。先ほどとは打って変わってひょうきんにも見えるその動きに遥は驚きながら、進が立ちあがるのに手を貸す。

 

「何が起こったんでしょうか?」

 

「来たのね……。とりあえず外に出ましょう」

 

 遥と進は廊下を駆けながら、状況を確認しあう。

 

「とりあえず、何が起こっているか教えてもらってもいいでしょうか?先ほどの口ぶりだとこれが何か知っているかのようでしたが?」

 

 進の問いかけに遥は数秒唸ってから、進に話し始める。

 

「反魔法活動ブランシュは知ってるかしら?」

 

「一応は」

 

 進の返答に遥は眼を見開く。普通であればこんな情報走ることが出来ないものである。いったい彼はどこからその情報を得たのだろうかと、遥は再び唸った。

 

「それが攻めてきたということでいいのですか?」

 

「……ええ、目的はおそらく図書館でしょうけど……」

 

「関係ありません。戦えれば何でも構いません」

 

 その圧倒的な戦闘狂(バトルジャンキー)ぶりを見て、遥は先ほどの言葉がどこから出たのかの見当がついた。

 

 外に出ると、すでにテロリストたちがトラックから降り、戦闘体制を取っていた。その光景を見たら、普通であれば身がすくむだろう。しかし遥の隣に立つ男は身がすくむどころか、いつもの薄い笑みではなく、どう猛に小さく口角を上げ、今にも走り出しそうに、体を倒している。

 

「では、私はここで。小野先生は自分のなすべきことを」

 

 そういうと進は遥の制止を聞くことなく、テロリストの集団に駆け出していく。もう自分では止められない。そう考えた遥は、自分のやるべきことを達成するために達也のもとへと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこれは……」

 

 講堂内に入り込んだテロリストを制圧し、外に出た摩利たちが見たのは衝撃的な光景だった。

 

「殺せ!囲んでたたき続けろ!」

 

「目の見えないガキ程度、さっさと囲んでつぶしてしまえ!」

 

 大立ち回りを見せる進の姿だった。黒い覆面をかぶった男たちに囲まれながら、進は一撃も食らうことなく、まるで蝶のように華麗に立ち回っている。繰り出される攻撃は足さばきで攻撃の軸線上から外れ、よけきれない攻撃は杖を巧みに使って受け流している。

 

 しかし、防戦一方というわけではない。ある男の攻撃を回避すると同時に、腹部に杖をたたきこみ、意識を刈り取る。また、ある男は杖で攻撃を受けられ、その勢いを利用した下段の一撃が股間に直撃する。その痛みで悶絶する暇さえなく、男は気絶する。何十人に囲まれているにもかかわらず、間隙を縫って、進は着実に数を減らしつつあった。

 

「あいつは本当に魔法を使っていないのか!?どう考えても魔法を利用した動きにしか思えないぞ!」

 

 摩利の疑問はもっともである。そもそも進は目が見えない。その状況で何十人の位置関係を把握するのは人間業ではない。それ以上に身体能力が異常の一言に尽きた。五メートル近く離れている敵の懐に一瞬で飛び込み、意識を刈り取ったかと思えば、返す刀で三人を同時に薙ぎ払う。

 

「え、ええ。彼は役員じゃないから校内での常時CAD装着は認められていないわ。それに彼の左腕にはCADはついていない。生身である証拠よ」

 

「生身であの動きはおかしいだろう!シュウでもあんなことできないぞ!」

 

 シュウがだれかはこの際放っておいても、それほどに進の動きは異常だった。いや、もはや魅了の域に達していた。ここまでの動きをされては剣術においては素人の真由美や服部であってもその動きに息をのまざるを得ない。

 

 が、摩利たちは黙って進の動きを見物するために、わざわざ外に出てきたわけではない。自身のCADを操作し、進の援護に回る。

 

 その時、進の体が跳ねるように宙へ飛び、空中から上段の振り下ろしを男の肩に叩き込み、鎖骨を砕き昏倒させる。そして、着地すると摩利たちのほうに弾丸のようなスピードで駆け出した。そのスピードについてこれたのは剣術を学んだ摩利一人。摩利はとっさに普段から持ち歩いている得物で進の攻撃を受け止め、大きく呼びかける。

 

「進君、私だ!摩利だ!」

 

 呼びかけで誰かを魔法を打ってきたのが誰かを確認した進は、杖を下ろし、一歩距離を取る。

 

「すみません。魔法の気配がしたので敵の魔法師かと思いまして。ありがとうございました。おかげで傷つけずに済みました」

 

「そんなことはいい。それより、君が全部やったのか?」

 

 あたりに転がる人間の肉体。かろうじて生きているのがせめてものの救いだろう。遅れてやってきたほかの生徒たちもその光景を見て、唖然としている。

 

「ええ、私が一番乗りだったようなので、いただいてしまいました。久々に本気でできる相手だったのでつい張り切ってしまいまして」

 

 あっけらかんとして告げる進に、真由美たちは唖然とする。が、そうしていられないようになった。進の背後からまだ動ける男たちが急襲してきたのである。真由美たちは魔法を発動して迎撃しようとする。距離は十メートル。この距離ならば、真由美であれば、難なく迎撃出来るだろう。

 

 が、CADをはじくボタンが最後まで押されることはなかった。進は男たちに背を向けたまま突進し、そのまま一人の腹を杖の石突で突く。男が呼吸困難で倒れこむのと同時に、進は独楽のように回転し、残りの二人をその勢いを利用して、吹き飛ばした。

 

 その妙技にその場の全員が見惚れ、すべての行動を止めた。まるで演武を見てるかのような、華麗な動きでありながら、最速で相手をしとめる、実践の動きであった。

 

 止まってしまった全員の時間を再び動かしたのはどこからともなく鳴り響いた着信音だった。特徴的なクラシックの着信音が鳴り響く端末を進は自分の胸元からだし、応答する。

 

「もしもし、……はい。……はい、わかりました」

 

 短く応答を繰り返すと、進は着信を切り、杖を今までの順手から逆手に持ち替える。そして、何の前触れもなくいきなり校門のほうへと走り始めた。摩利たちは事情を聴くため、引き留めようとするが、その速さにあっけにとられ、初動が遅れたため、捕らえることができず、そのまま取り逃がしてしまう。

 

 なぜ進がいきなり走り始めたのかを考えこみたい気分であったが、そうもいかない。まだ校内に制圧するべきテロリストがいる。テロリストたちを制圧するために、真由美たちは奔走することとなり、進のことを思い出すのは紗耶香に事情を聴くときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブランシュのアジトを突き止めた。進、お前のその杖のデータ取りにちょうどいいだろう。思いっきりやれ。データ取りのために真田君を行かせてあるから彼と合流してそのアジトに向かってくれ」

 

 進に送られてきた着信の内容がこれである。これに応えるために進はいきなり駆け出した。

 

 駅近くまで走ったところで、進の隣に一台の自動車が止まる。

 

「やあ、久しぶり、……というわけでもないか。まずは乗ってくれ」

 

 進は疑うことなく助手席に乗り込む。

 

「真田さん。早く向かいましょう。でなければ一校の生徒たちが乗り込むかもしれません」

 

「せっかちだね。ゆっくり世間話でもしないかい?」

 

「そうしたいのはやまやまですが、早くいかなければ、逃げられてしまうかもしれません。もし、打てなかったら、真田さん。あなたに打ち込ませてもらいますよ?」

 

「僕にそれに抗う力はないからさっさと向かわせてもらおうかな」

 

 父親の部下である真田は進の冗談に身を震わせながら、車を発進させる。向かうは町はずれの廃工場。そこに死神の鎌が振り下ろされることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃工場に到着した真田の車から進は降り、真田はそのまま車で待機する。

 

「それじゃあ、僕はここで見てるから、派手にやってくれ。そのほうがデータとしての価値が高くなるからね」

 

 真田の言葉に進は軽く頷き、廃工場の中に入っていく。数分もしないうちに進は人気の多いところに到着する。

 

「初めまして!確か……、風間進君、だったかな?話は聞いているよ。二科生である壬生紗耶香君との間に起こりそうになったいさかいを止めたらしいね。それはやさしさなのかな?」

 

「まあそんなことはどうでもいい。正直な話、君はお呼びじゃないんだ。かといって僕の魔法が通用する相手ではない。だから君には消えてもらう」

 

 進にすべての銃口が向き、ためらうことなく一斉に火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進から数時間ほど遅れて廃工場に突入した達也たちはそのおぞましい光景に戦慄していた。

 

「廃工場がみじん切り?になってる……。いったいどんな魔法を使ったらこうなるんだ?」

 

 目の前のおぞましい光景をみてレオは体が震えるのが感じた。廃工場だったものはがれきの山へと変貌を遂げ、その下にはヒトだったものががれきの隙間から顔をのぞかせている。そのあまりのおぞましさに慣れているはずのエリカも手で口を抑える。

 

「どうやら、俺たちの前に先客がいたみたいだな。その人物がこの惨状を作り出したみたいだ。……司波、こんなことができる魔法を知っているか?少なくとも俺は知らない」

 

 その状況でも十文字克人は冷静に状況分析する。さすがは十師族の次期当主である。その克人の問いかけに達也は臆せず応える。

 

「俺も知らないですね。ただつぶしたというレベルじゃありません。この断面を見てください。この断面は割れた、というより切れたと言った方がいい断面でしょう。それにかなりきれいに切れています。ここまできれいに、なおかつ大規模に切り裂く魔法なんて俺の記憶の中では存在していません。何かしら未知の魔法の可能性があります」

 

 達也と克人が話していると、廃工場のがれきの上を歩き回っていたレオが声を上げる。

 

「おい!生きてるやつがいるぞ!」

 

 その声に呼応し、全員が駆け寄る。そこで腕を切り飛ばされながらも気絶していたのはブランシュのリーダーである司一だった。それを告げられた桐原は壬生の仇を打つため、刃を振り下ろそうとするが、戦意のないものに刀を振ることは恥であると自分で抑え込んだ。

 

「とりあえず、この場は俺が何とかしておく。お前たちはもう帰宅しろ。ご苦労だった」

 

 達也たちは消化不良のまま、事件が解決したことを納得するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな、進。おかげでいいデータが取れた。礼を言う」

 

「家族のあいだに畏まった礼など不用でしょう。それに私も久しぶりに刃を振るえて楽しかったです」

 

「ならいい。今日はもうゆっくり休め。体をしっかりいたわれよ」

 

「ええ、では失礼します」

 

 息子との通話を終え、一息つくために、傍らに置かれたコーヒーカップを手に取り、口に運ぶ。カップを口から話したところで真田が扉を開け、室内に入ってくる。

 

「ご子息と通話ですか?」

 

「ああ、息子に何かないかを確認するのが親の義務だからな」

 

「親バカですねえ」

 

 真田はデータを提出しながら、からかうように口を紡ぐ。が、すぐに真剣な表情になる。

 

「やはり心配ですか?」

 

「当たり前だ。息子に死神の鎌を持たせておいて嬉々としているほうがおかしいだろう」

 

「彼以外の魔法師であの杖を抜こうとした者は全員亡くなりましたからね。軍としてもデータ収集のために持たせておくのが一番と考えているのでしょう。上層部に逆らえないのは悲しいですね」

 

「軍は進を引き入れようとするだろうな」

 

「間違いなくそうでしょう。彼を守るのであれば、一番簡単な手段は先手必勝、これに尽きますね」

 

 ううむとうなりながら、背もたれに寄り掛かる。息子をできれば軍にかかわらせたくはない。だが、もはや逃げられない存在になっている。そうなったときに息子を守るには……。

 

「ううむ」

 

 再びうなり、男は目をつぶり考え込み始めた。

 

 




 
 とうとうオルガノンが火を噴いた!腕を切り飛ばされた司一の運命やいかに!

 次回「司一死す!」デュエルスタンバイ!
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