あと第五話で致命的なミスを見つけたので、修正しておきました。
顔見知りと別れ、達也たちと観戦するためにスタジアムに入った進はその熱気に圧倒されながら、捜し歩いていた。しかし、なかなか見つからない。大歓声で耳も聞かず、無用なトラブルを生まないためにに魔法を発動するわけにはいかない。
今日のところは諦めて宿舎に戻ろうかと考えたところで、聞き覚えのある声がかかる。
「あら、また会いましたね。風間さん?」
「お久しぶり、というほどでもありませんか。一色さん?」
先ほど言葉を交わし別れた二人が再会する。しかし、愛梨のほうには新たな取り巻きがおり、愛梨が自ら声をかけるという行為に驚き、目を丸くしている。
「うろうろされてどうしたんですか?」
「人を探しているんですが、なかなか見つけることができず。適当に立ち見でもしようかと考えていたところです」
進は適当にごまかしながら応じる。進の目元を見て納得したように息を吐いた愛梨。その後ろから取り巻きの一人である沓子が進の前に立つ。
「風間、というと今年の一年男子のエースかの?どんな風貌かと思っておったが、まさか盲目だったとは驚いたの」
沓子は進を頭のてっぺんから視線を下ろしていく。視線が腰元まで下りたところで沓子は杖を見て、眉をひそめた。
「お主……、よくそんなものをもって平気でいられるのう……」
「その杖がどうかしたのかしら?」
沓子のつぶやきを聞いた愛梨が問い掛けると、沓子は考え込むように顎に手を当てる。
「う、む……、勘でしかないんじゃが……。こ奴が持っているのは呪われた代物、のような気がする。それも相当強力な、人を殺すようなものじゃ」
沓子の発言に愛梨と栞は驚きを隠せない。沓子の家は古式の大家で、少なくとも現代魔法師よりはそういったことに長けている。その彼女が呪いの品といった。そんなものを携帯している進の神経が知れなかった。
が当の本人はあっけらかんとしている。命が脅かされているかもしれないというのに。
「ええ、これはきっと呪いの品ですよ。ですから私の手ではつながりを切れないのです。教会へ行かなければとれないのです」
進のジョークの意味を理解できなかった三人はぽかんとして進を見つめている。おおすべりしたのがはっきりと分かった進は事態の収束と自分の失態をごまかすために口を開いた。
「ともかく、私は今ここに立っている。だから別に気にするつもりもないのです。無用な気遣いはしないでください」
進の言葉で一応は納得した沓子は、困惑しながら再び杖を見つめる。
「それよりもお聞きしたいことがあるんですが」
「えっ?何かしら?」
先ほどのショックからまだ復活していなかった。愛梨が突然の問いかけに驚きながらも対応する。
「一校生の集団はどのあたりでしょうか?おそらくその辺に友人がいると思うのですが」
「ああ、それならちょうどあなたから見て右方向に進んだところにあるわ」
「ありがとうございます。それでは」
進は三人のもとから立ち去り、教えてもらった通りに進み、見事達也たちと合流することに成功した。そして真由美の優勝を見届けて一日目が終了した。
九校戦二日目。進は今日もいつもの面々と観戦していた。本日の目玉は真由美のクラウド・ボールである。
真由美の試合は圧倒的であり、相手をしている選手が気の毒に思えるほどの試合内容となった。
「そういやよ。進もクラウド・ボールだったよな。どんな魔法を使うんだ?」
進の後ろに座るレオから疑問が飛ぶ。が、レオの行為は魔法師としてマナー違反である。それを咎めようとするが、それより早く進が口を開いた。
「単純な障壁魔法ですよ。とりあえずは主力がこれです」
「いいんですか?使う魔法を言っちゃって」
ためらいなく魔法を口走った進にほのかからさらなる疑問が飛ぶ。が、進は特に何を思うことなく当然のように答えた。
「別に構いません。知ってて防げるものでもありませんから」
進の発言に皆、おぉと声を上げる。進の発言は自信たっぷりであり、暗に負けないと告げているようなものだった。
「自信たっぷりだねえ」
エリカの発言で期待が高まる。
「まあ、見ていてください」
進がそう告げたところで真由美の試合終了のブザーが鳴り響き、優勝を告げた。
九校戦三日目。今日の目玉の、摩利と七校選手のバトル・ボードの試合を見るために会場は観客であふれかえっていた。
そんななか、しっかりと席を確保していた進たちは達也たちが到着するのと試合開始を待っていた。
「すまん、遅くなった」
達也の到着を待っていたかのように、席に着いたところでブザーが鳴り響き、試合がスタートする。
先行したのは摩利だが、七校の選手もぴったりと張り付いている。カーブに差し掛かったタイミングで異変が起きる。
摩利が減速した。そこまではいい。七校の選手が減速することなく、カーブに突っ込んだのだ。おまけに様子もおかしい。それに気づいた摩利も彼女をかばうような動きをし、受け止める体勢を取る。が、突如として水面が沈み、摩利の体勢が崩れる。七校の選手が摩利に派手に突っ込み、このままではフェンスに激突する。誰も助けることができない。
これから起きる悲惨な事態が予測できたものは目を覆う。が、それが起きることはなかった。フェンスに激突しそうになっていた二人の身体が、物理的にあり得ない方向に軌道を変え、フェンスを乗り越え、地面に転がさせた。
「とりあえず、行ってくる」
しかし、事故が起こったということには違いない。達也は席を立ち、摩利のもとに向かっていく。視界の端に移る手を伸ばした進のことを見ながら。
進は無理やり真由美に同行させられ、摩利が搬送された病院に来ていた。
「それにしてもよくわかったわね、事故が起こるって。まさかわかってたの?」
「私にそんな知覚系の能力はありませんよ」
瞬時にCADを操作し、摩利を助けた進の判断能力はそれこそ、わかっていたというしかないほど、早いものだった。そう思ったから進に問いかけた真由美だったが、見当違いの答えが返ってきて、拍子抜けする。
「じゃあどうして?」
「勘です」
進の口から出た非科学的な答えに、真由美は唖然とする。その時摩利がうめき声をあげ、目を覚ます。一通り摩利の意識を確認した真由美は、摩利に事故の一連の結果を告げる。その過程で進が助けたということを伝えると、摩利はベットに寝転がったまま、礼をする。
しかし、摩利は七校選手を助ける際に、足でボートを受けてしまっており、痛めていた。日常生活には支障はないが、競技となれば、首を横に振らざるを得ない。摩利の欠場が決まった。
「では、私はこの辺で失礼します。明日は早いですから」
「ええ、ここまでついてきてくれてありがとうね」
真由美の見送りを受け、進は摩利の病室から出る。進のクラウド・ボールは明後日であるが、早く戻ってCADの設定を終わらせておかなければいけない。進は速足でバスの会場いきのバスの停留場へ向かった。
九校戦四日目。今日からは一年生が主体の新人戦である。進のクラウド・ボールは明日だが、その前にCADの調整を終わらせなければならない。
担当であるあずさとともにCADの調整を調節していた。
「ど、どうでしょうか?」
キーボードをたたき終えたあずさからCADを受け取り、電源を入れ、指を滑らせる。文句のない出来栄えに進はうなずく。
「大丈夫です。完璧な仕上がりです」
進の言葉にあずさはほっと息を吐く。
「でも、大丈夫なんですか?あんな戦法じゃあまり長くはもたないと思うんですけど……」
進はあずさの指摘に耳を貸す。
「確かに恐らく最後の試合まではもたないでしょう。ですが、サブプランも用意してありますから。おそらく大丈夫です」
進の自信たっぷりの言葉を聞き、なぜだか自分まで自信に満ち溢れ始めるあずさ。今日の担当であるほのかのもとに向かうために走り始めた。
新人戦のスピード・シューティングは一校選手が表彰台を独占するという快進撃を見せた。バトル・ボードもほのかは勝ち、優勝にコマを進めていた。
これによって、達也の評価が上がっていき、深雪の機嫌も上がっていったのは公然の秘密である。
九校戦五日目。新人戦二日目である。進の試合を見たことのないいつもの面々は興味津々で進が現れるのを待っていた。
「そういえば、進君どんな戦法取るのかしらね」
「簡単な障壁魔法っていってたが。複雑な魔法を使わなくても普通に勝っちまいそうなのが不思議だな」
レオの発言にその場の全員が首を縦に振る。全員の首を動きが止まってところで進がフィールドに姿を現す。
まず、進の恰好は観客たちの目を引いた。普通であれば、動きやすいジャージなどではあるはず。が、進は制服のまま、フィールドに現れたのである。手には杖と腕輪型のCAD。普段から見慣れた格好に面々は驚きを隠せない。
会場が妙なざわつきに包まれる。一校だけでなく、三校などにも動揺は広がっていく。それは達也たちだって例外ではなかった。
「あれは……、どういうことでしょうか?」
「単純に動く気がないのか、それともあれでも十分に動けるという意思の表れなのか、正直わからないな」
達也が感想を述べたところで、
ボールが相手フィールドに入ると同時に進はCADを操作する。それを見た相手選手が魔法を使用しながらボールを進のフィールドに打ち込んだ。
が、その一撃は見えない壁に阻まれ、相手フィールドにはなったはずのボールは自陣に帰還する。
相手選手はそれが障壁魔法の類であることをすぐに見抜き、隙間を見つけてそこに打ち込もうとする。が、隙間が見つからない。障壁は完璧に自陣と敵陣を遮っている。ならば、と力押しで押し切るために魔法併用で障壁にボールを打ち込み続ける。
長くはもたない、そう思うほどの猛攻に観客たちは進の次の手に期待する。が、次の手が出ることはなかった。破れない。どれほど打ち込んでも破れるどころか、ヒビを入れることすらかなわない。それどころか、次第に自分のフィールドにボールが落ちはじめ、攻撃の回転数が落ち始める。
疲労を感じ始めた相手選手は焦りを覚え、攻撃を続けるが、綻びは見られない。
第1セットが終了するころには、相手選手の消耗でそのまま試合も終了する。相手選手が進のフィールドに打ち込めた玉数は0。フィールド侵入距離0センチでパーフェクトという驚異の結果をたたき出し、会場中にさらなるざわめきを与えた。
試合を見ていた達也たちもざわめいている。
「圧倒的なほどの力押しだったわね……」
「いや、実はそうでも無いぞ」
達也の発言にその場の全員が首を傾げる。それを見た達也は説明を始める。
「大きく広げた障壁に関してはいうことは無いが、ボールがヒットする瞬間だけ、そこにもう一枚強度の高い障壁を張って二枚で攻撃を防いでいる。ヒットする瞬間の短い時間だけ張っているから消費も少ない。前にエリカが言っていた兜割りの理論と同じだな」
達也の説明に驚きを隠せない。達也は付け加えるように言葉を発する。
「それにしても単純な術式であるにも関わらずあそこまでの強度と消費の少なさ。さすがの魔法力だな」
「それでも最後まで持つとは考えにくいのですが……」
「さすがにその辺は考えているだろう。最後の方には別の戦法に変わっているかもしれないな」
皆の興味が上昇し、決勝まで見逃さないようにしようと心に決めた。
進が控室の天幕に戻ると、まず真由美が笑顔で出迎える。
「お疲れ様。ものすごい結果だったじゃない。生徒会長として鼻が高いわ」
「相手選手がたいしたことなかったせいでしょう。遮二無二攻めてくるので、非常に読みやすかったです」
「しかし、油断は禁物だぞ。上に行くにつれて実力が上がっていく。思わぬところで足をすくわれんようにな」
真由美の後ろからひょっこり顔をのぞかせた摩利の忠告を進は胸に止める。
「しかし、あんな攻略法では長くはもたないだろう?試合が長引けば長引くほど不利になる。何か作戦はあるのか?」
「それなら大丈夫よ。ダメになったときの別案もあるから。その強さは私お墨付きよ」
あずさを撫でていた真由美が横槍を入れる。
「会長の言う通り、一応いくつか別案がありますので決勝までは負けることはありません。もちろん油断するつもりはありませんが」
では、と言い、進は踵を返し、天幕を後にする。
「でも実際、どうなんだ?真由美は練習でやりあったことがあるんだろ?」
「ええ、メインの迎撃手段は二パターンだけど、どっちも恐ろしく強いわ。シンプルゆえに崩しにくい。そんな感じかしらね。ひいき目で見なくてもほぼ優勝間違いなしよ」
「そこまで言うのか……。男女の差云々だと言ってたが、彼の場合、その心配はあまりなさそうだな」
二人そろって、誇らしそうな笑みを浮かべながら、あずさを撫で続けたのだった。
そろそろ夏休みですね。私もこの期間にたくさん書きたいと思います。
夏休み編くらいまでかければいいなあ……
それじゃ、次回までお待ちを。チャオ。