火継の終わり   作:ばんもす

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第1話

かつて神により見出されたはじまりの火は、その神の意志を継ぐ王たちによって永い間、世界を照らしていた。

 

だが、はじまりには必ずおわりがある。燃え続けていた火も、いまや消えかけていた。

そのとき、かつてロードランと呼ばれていた地に、はじまり火に関わる者たちが集っていた。

 

ある者は神の意志を継ぎ、自らを薪にするべく王のソウルを求めた。

ある者は薪の器をその身に持ちながらも、火継ぎを拒み、殻に籠もった。

ある者は火に魅入られ、その火を我が物にせんと謀った。

 

その者たちの中の一人、火継ぎを終わらせようとする者がいた。

 

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「この..あたりか..」

 

彼は、そう呟いた。

 

辺り一帯には灰と瓦礫しか存在せず、人の気配など微塵も感じられない。

そんな中で、ただひたすらに歩き続けるものが一人いた。

 

彼はフルフェイス型の兜を被っており、体には青いサーコートが印象的なプレートメイルを身に着けてた。

その彼の装備は元々、貴族の国であるアストラの上流彼に与えられる、気品あるものだ。

しかし、今彼が身に着けている装備は全身に酷く傷がついており、その表面は血と泥で汚れている。

ゆえに、元々備え持っていた気品さはもはや感じられない。

加えて、彼の足取りはおぼついておらず、その装備でふらふらと歩くその姿は、生ける屍のようであった。

 

だが、そんな状態でも構わず、歩を進めていく。

どこを見渡しても灰と建物の残骸しか存在せず、道しるべもない状態だが、彼の歩が止まることはない。

 

「ここまで来れば、ハッキリと感じる..」

 

はるか遠い地であればともかく、ここは"火"に最も近い場所である。

しるしなどなくとも、不死人である彼にはわかるのだ。

だからこそ、彼は止まることなく、ただひたすらに目的地へ向かって歩き続けた。

 

そして、しばらく歩き続けたところで、それは姿を現した。

 

そこは、元々何が存在していたかなど、まったく想像ができない瓦礫の山でしかなかった。

 

「もはや炉の原型など、留めてはいないか..だが、この肌が焼けるような感覚..間違えようがない」

 

彼は、かつての王たちにより、永い間継がれてきたはじまりの火を消し去り、

火継ぎを終わらせようとしていた。

 

「ようやくだ..ようやく終わらせることができる..」

 

永い間継がれてきた光。世界を照らしてきた、その光を消そうとしているのだ。

 

火とは人にとっても希望であり、力である。火を継ぐもの、火を独占しようとする者は数いる。

しかし、そんな彼らにとってはじまりの火を消そうとする者など、邪魔以外の何物でもない。

 

彼の装備が酷く傷ついているのは、彼らによる妨害が理由でもある。

 

「いくら邪魔されようとも..成さねばならぬ」

 

そう言って、再び歩を進めようとした--その瞬間、背後から大きな黒い炎が襲い掛かかる。

 

咄嗟に横に向けて飛びこんだが、避けきれず、左腕にその炎を受けてしまう。

しかし、炎を受けたその部分には、竜紋章の彫られた青い彼盾が構えられており、

炎の直撃はなんとか免れていた。

 

「グぅ..!」

 

だが、その全てを防ぐことはできず、貫通した炎によって左腕を焼かれる。

 

(これは、深淵の呪術か..!!)

 

炎への耐性が高い盾であったはずだが、その耐性を上回る威力であったことが伺える。

不死人といえど、あの威力の炎を直接くらおうものなら、ただでは済まないだろう。

 

まるで腕の皮膚を剥がされるような痛みであるが、動きを止めている暇などない。

 

炎が飛んできた方向に目をやると、そこには茶色いローブで身を隠している者がこちらに手の平を向けて立っていた。

その手には先ほどと同じ、黒い炎が手に宿っていおり、止めと言わんばかりにそ炎を放とうとしていた。

 

だが、それを見た彼は即座に術師の方へ向かって勢いよく駆け出す。

即座に反撃に出てきた彼に対して術師は僅にたじろぐが、すぐに立て直し、標的へと術を放った。

先ほどは不意打ちで避けきれなかった炎だが、彼は前転にてその術を完全に躱し、

そのままの勢い走り続け、術師への距離を詰めていく。

 

(相手は軽装..右手に火を装備していて、左手には何も持っていない..)

 

(ならば、このまま距離を詰めて..殺す)

 

術師が軽装なのに対して、彼は鎧を身にまとっている。近距離での攻防となれば、優位なのは明らかだろう。

彼は、走りながら右手に意識を集中し、己のソウルより武器を取り出す。すると、右手に光の粒子が集まり、

漆黒の直剣が生成された。

かつてダークレイスが使用していた肉厚で幅の広い刃で切り裂かれれば、軽装の術師は一たまりもないだろう。

 

不意打ちを受けたにも関わらず一瞬で状況を見抜き、距離を詰めてくる判断力、

一度受けた技に対しての高い対応力、これらにより一気に戦況が不利になった術師は動揺を隠せない。

 

しかし、それでも術師は立て直し、さらにもう一度、同じ術を使用しようと右手に炎を貯めている。

 

「させんぞ..」

 

彼は更に加速し、術師との距離を詰める。その速さは鎧を纏っているとは思えないほどであり、

このままであれば術師が術を放つ前に、彼の剣がその身を貫くだろう。

 

そのまま距離を詰め、術師に切りかかろうとしたその瞬間、彼は気づいた。

術師の横にある地面の灰が舞い上がっていたのだ。

 

「これはっ..」

 

そして、今までの経験によって、すぐその正体を見破った。

そしてその正体を暴くべく、瞳にソウルを集中させた。が、遅かった。

 

僅か一瞬で"見えない体"の術を見破ったが、

そこで見えたのは、まさに大剣をこちらに叩き込もうと振り被っている"二人目"の襲撃者の姿であった。

二人目の襲撃者は、影で潜む刺客の装束を身に纏い、フードを被っていて表情は伺えない。

 

もし、彼が万全の状態であれば、もっと早く気づけていたであろう。

だが、今の彼は疲弊していたのに加え、不意打ちをされた状態である。

 

(あと少しで..終わらせるというのに..こんなところで..!!)

 

もはや盾で防ぐ猶予もなく、その大剣は彼の体へと打ち下ろされた。

 

そう、大剣は間違いなく、彼の体へと打ち下ろされたのである。

 

だが、彼は倒れない。

直前に術を見破り、切られる直前に体を反らしたことにより、打ち下ろされた大剣は彼の右肩を鎧ごと切り裂くだけに留まっていた。

 

そして、右肩を大きく切り裂かれた直後にも関わらず、瞬時に左手に意識を集中し、狼騎士の大剣を取り出した。

直後、その大剣を刺客に向けて切り払う。刺客はその攻撃に対して反応が間に合わず、そのまま腹部を切り裂かれた。

 

「馬鹿なッ!?」

 

刺客が初めて言葉を発した。

 

反応が間に合わなかったのも仕方がないことだ。

大剣で体を切き裂かれた直後の相手が、即座に反撃を行ってくるなど、不死人であれ、普通は考えられないことだからだ。

 

彼はそのまま左腕に合わせて体を大きく捻り、二撃目に移る。刺客は辛うじて持っていた大剣で二撃目を防いだ。

だが、彼はその捻りに勢いを乗せ、そのままに体を一回転し、三撃目を放つ。

先ほどの攻撃を防ぐことで精一杯だった刺客はそれを防ぐことができず、そのまま胸部を深く裂かれた。

 

彼の身に大剣が振り下ろされてから反撃するまで、僅かな間のことであった。

 

「ぐ..ぁ..」

 

「終わりだ..」

 

彼は刺客に止めをさすべく、剣を振り上げる。

胸部をもろに切り裂かれた刺客は、息も絶え絶えで武器も持てない状態であった。

しかし、あろうことかそんな状態で体当たりをしてきたのである。

 

しかし、そんな状態での体当たり等、意味がないに等しい。

最後の抵抗は簡単に躱され、彼のもっている狼騎士の大剣をによって胸部を貫かれた。

が、その瞬間、刺客が彼の体を掴んだ。それは僅かな間ではあるが、彼の動きを止めた。

 

そして刺客は最後の力を振り絞り、叫ぶ。

 

「やれぇっ!!」

 

彼が稼いだ時間はほんの僅かな時間であった。

だが、それは呪術師が放つ黒い炎を当てるには十分な時間だった。

 

「自らを囮にするとは..!!」

 

彼に憎悪の籠った大きな黒い炎が向かってくる。

そして彼の右腕はダランと落ち、もはや使い物にならない。

左手に大剣しかなく、防ぐこともままならない。

 

そして、そのまま避けることも叶わず、炎は直撃した。

 

黒い炎による煙が辺りに舞い上がる。

 

茶色いローブを被った呪術師は言った。

 

「不死といえども、これで..」

 

だが、その瞬間、呪術の胸部が大剣で貫かれる。

そこには、右腕が垂れ、片足を引きずりながらも、辛うじて立っている彼がいた。

 

「この..大剣は..かつて深淵歩きの英雄が使っていた武器だ..」

 

「深淵の呪術であるお前の術であれば..この大剣で切り裂ける..」

 

そして、彼は"彼女"に突き刺した剣を引き抜く。

 

「薪の..王であった貴方が..な..ぜ..」

 

彼女は最後にそう言って息絶えた。

 

「何を犠牲にしてでも..火消を成さねばならん..」

 

そう言って彼はを足を引きずったまま、火の炉へと向かっていった。

彼は止まらない。己の使命を果たすまで。

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